乙女ゲームのヒロインに転生してしまったおっさん~転生悪役令嬢に筋書きを変えられたみたいだけど、元のstoryを知らないから自由に生きます

青の雀

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19ならず者

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 さすがに、今日はお城の舞踏会の日、誰一人見知った顔はいない。

 そのうち、商店街の店主がやってきて、我々のテーブルに合流する。

 「いやぁ、旦那。悪いっすね。ゴチになりにきました。」

 「遠慮せず、飲んでくれ。」

 「そちらの坊ちゃんは、旦那の弟さんですか?」

 「いや。主である。」

 「御見それしました。それでは、今夜はそちらの坊ちゃんのおごりと言うことで、ありがたく頂戴します。」

 オリヴィアは、何気にメニューを見ていると、タイのあら炊きの文字が目に飛び込んでくる。

 前世、医者仲間で飲みするとき、このアラをほじくって、よく食べたものだ。こういうものは、箸で食べるに限る。だが、この世界で、箸は存在しないから、さっき食べた串揚げの串を二本取っておく。

 「はい、お待ち。お客さん、通だね。このアラを頼むってとこがさ。おまけしておくよ。」

お酒を頼んでないのに、2本追加でくれた。

 「旦那様、それはいかようなものでございますか?」

 店主がおずおずと聞いてくる。取り皿にアラの身をほぐして、出してやる。

 さっきから、騎士も食べたそうにしていたので、騎士の分も取り分けて前へ出す。

 「よいのですか?私の分までいただいても?」

 オリヴィアがコクリと頷くと、騎士は嬉しそうに食べる。

 「見た目と違い、あっさりしていますね。」

 「本当だ。うまいわ。これ。」

 騎士と店主、二人そろって、アラ炊きを注文している。でも、ナイフとフォークでは、食べにくそう。

 仕方なく、オリヴィアが二人分のアラから身をほじくり出して、それぞれの取り皿に出していく。

 どちらが従者かわからない。

 そうこうしていると、昼間のチンピラが店に入ってきて、我々のテーブルを見つけ合流してきた。

 「いやぁ、旦那、昼間は相すみませんでした。おかげで生まれて初めて働いて、酒が飲めるようになりました。」

 「そうか。働いた後の酒は格別美味いだろ?」

 「へぇ。それもこれも、みんな旦那のおかげです。」

 それからしばらくの間、和やかに世間話をしながら飲んでいた。

 その時、店の入り口付近で、怒声が聞こえたと思ったら、何人かの酔っ払いが倒れ込んできた。ガチャンと皿が割れる音が響く。

 せっかく楽しく酒を飲んでいるのに、オリヴィアはちょっとムっとする。

 居酒屋の店主はオロオロして、最奥のオリヴィアたちに助けを求めてきた。

 強そうな騎士が大型犬を連れているから。

 それに先ほど、2本の酒をサービスしてくれたのは、いざという時の賄賂だったらしい。

 チンピラたちは、小声で

 「あれは、ならず者で。金を持ってそうな酔っ払いに絡み、有り金を巻き上げるんでさ。店の中でやられたら、店も多大な被害をこうむり、迷惑料として店からも金をふんだくる輩です。」

 店が迷惑をかけられているのに、かけたほうに迷惑料を支払わなければならないのは、理不尽な話。

 「そこの奥!さっきから、何コソコソやってやがる。さっさと金を出せ!」

 入り口付近のならず者がどんどん奥に来ながら、周りの客から金品を巻き上げている。

 ならず者が最奥のテーブル近くまで来たとき、ならず者の一人が怯んだ。

 「なんで?ここにフェンリルが!」

 「どうした?あの白い犬が?」

 「この店はダメだ。引き上げよう。俺の第6感が!」

 ライオンちゃんは、カラダを膨らませ、みるみるうちにバッファローぐらいの大きさになり、威嚇している。

 「わっ!ほら、ヤバイんだってば。フェンリルがいるということは、近くにもっと厄介なものがいるってことさ。早く引き上げようぜ。」

 オリヴィアは、おもむろに立ち上がり、帽子を取り

 「逃がさない!」

 今日、初めて言葉を発した。

 その場にいたものは、全員呆気にとられる。

 ならず者は、呪縛の魔法にかかったようで、その場から足が床にくっついたまま動けずにいる。

 それを騎士が一人残らず、縛り上げていく。奪ったお金はすべて持ち主に返させる。

 「おったまげた。聖女様だったとは……。」

 「舞踏会よりも、居酒屋でアラをつつく方が好きなもので。」

 ならず者は、ヤーパン国の騎士団に引き渡しをせず、全員、聖なる森へ連れ帰り、森の木に逆さ吊りして1週間、生きていれば解放する罰に処すことに決めた。

 ならず者は、泣き叫びながら、許しを乞うも許さない。

 居酒屋店主に聞けば、ならず者のせいで、廃業に追い込まれた同業者が何軒もいるらしい。

 その居酒屋店主は、いくらオリヴィアが代金を払うと言っても、受け取らず

 「またのお越しをお待ちしております。」

 そして居酒屋看板「ドン」に「聖女様お立ち寄りの店」が掲げられることになったのである。
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