19 / 80
19ならず者
しおりを挟む
さすがに、今日はお城の舞踏会の日、誰一人見知った顔はいない。
そのうち、商店街の店主がやってきて、我々のテーブルに合流する。
「いやぁ、旦那。悪いっすね。ゴチになりにきました。」
「遠慮せず、飲んでくれ。」
「そちらの坊ちゃんは、旦那の弟さんですか?」
「いや。主である。」
「御見それしました。それでは、今夜はそちらの坊ちゃんのおごりと言うことで、ありがたく頂戴します。」
オリヴィアは、何気にメニューを見ていると、タイのあら炊きの文字が目に飛び込んでくる。
前世、医者仲間で飲みするとき、このアラをほじくって、よく食べたものだ。こういうものは、箸で食べるに限る。だが、この世界で、箸は存在しないから、さっき食べた串揚げの串を二本取っておく。
「はい、お待ち。お客さん、通だね。このアラを頼むってとこがさ。おまけしておくよ。」
お酒を頼んでないのに、2本追加でくれた。
「旦那様、それはいかようなものでございますか?」
店主がおずおずと聞いてくる。取り皿にアラの身をほぐして、出してやる。
さっきから、騎士も食べたそうにしていたので、騎士の分も取り分けて前へ出す。
「よいのですか?私の分までいただいても?」
オリヴィアがコクリと頷くと、騎士は嬉しそうに食べる。
「見た目と違い、あっさりしていますね。」
「本当だ。うまいわ。これ。」
騎士と店主、二人そろって、アラ炊きを注文している。でも、ナイフとフォークでは、食べにくそう。
仕方なく、オリヴィアが二人分のアラから身をほじくり出して、それぞれの取り皿に出していく。
どちらが従者かわからない。
そうこうしていると、昼間のチンピラが店に入ってきて、我々のテーブルを見つけ合流してきた。
「いやぁ、旦那、昼間は相すみませんでした。おかげで生まれて初めて働いて、酒が飲めるようになりました。」
「そうか。働いた後の酒は格別美味いだろ?」
「へぇ。それもこれも、みんな旦那のおかげです。」
それからしばらくの間、和やかに世間話をしながら飲んでいた。
その時、店の入り口付近で、怒声が聞こえたと思ったら、何人かの酔っ払いが倒れ込んできた。ガチャンと皿が割れる音が響く。
せっかく楽しく酒を飲んでいるのに、オリヴィアはちょっとムっとする。
居酒屋の店主はオロオロして、最奥のオリヴィアたちに助けを求めてきた。
強そうな騎士が大型犬を連れているから。
それに先ほど、2本の酒をサービスしてくれたのは、いざという時の賄賂だったらしい。
チンピラたちは、小声で
「あれは、ならず者で。金を持ってそうな酔っ払いに絡み、有り金を巻き上げるんでさ。店の中でやられたら、店も多大な被害をこうむり、迷惑料として店からも金をふんだくる輩です。」
店が迷惑をかけられているのに、かけたほうに迷惑料を支払わなければならないのは、理不尽な話。
「そこの奥!さっきから、何コソコソやってやがる。さっさと金を出せ!」
入り口付近のならず者がどんどん奥に来ながら、周りの客から金品を巻き上げている。
ならず者が最奥のテーブル近くまで来たとき、ならず者の一人が怯んだ。
「なんで?ここにフェンリルが!」
「どうした?あの白い犬が?」
「この店はダメだ。引き上げよう。俺の第6感が!」
ライオンちゃんは、カラダを膨らませ、みるみるうちにバッファローぐらいの大きさになり、威嚇している。
「わっ!ほら、ヤバイんだってば。フェンリルがいるということは、近くにもっと厄介なものがいるってことさ。早く引き上げようぜ。」
オリヴィアは、おもむろに立ち上がり、帽子を取り
「逃がさない!」
今日、初めて言葉を発した。
その場にいたものは、全員呆気にとられる。
ならず者は、呪縛の魔法にかかったようで、その場から足が床にくっついたまま動けずにいる。
それを騎士が一人残らず、縛り上げていく。奪ったお金はすべて持ち主に返させる。
「おったまげた。聖女様だったとは……。」
「舞踏会よりも、居酒屋でアラをつつく方が好きなもので。」
ならず者は、ヤーパン国の騎士団に引き渡しをせず、全員、聖なる森へ連れ帰り、森の木に逆さ吊りして1週間、生きていれば解放する罰に処すことに決めた。
ならず者は、泣き叫びながら、許しを乞うも許さない。
居酒屋店主に聞けば、ならず者のせいで、廃業に追い込まれた同業者が何軒もいるらしい。
その居酒屋店主は、いくらオリヴィアが代金を払うと言っても、受け取らず
「またのお越しをお待ちしております。」
そして居酒屋看板「ドン」に「聖女様お立ち寄りの店」が掲げられることになったのである。
そのうち、商店街の店主がやってきて、我々のテーブルに合流する。
「いやぁ、旦那。悪いっすね。ゴチになりにきました。」
「遠慮せず、飲んでくれ。」
「そちらの坊ちゃんは、旦那の弟さんですか?」
「いや。主である。」
「御見それしました。それでは、今夜はそちらの坊ちゃんのおごりと言うことで、ありがたく頂戴します。」
オリヴィアは、何気にメニューを見ていると、タイのあら炊きの文字が目に飛び込んでくる。
前世、医者仲間で飲みするとき、このアラをほじくって、よく食べたものだ。こういうものは、箸で食べるに限る。だが、この世界で、箸は存在しないから、さっき食べた串揚げの串を二本取っておく。
「はい、お待ち。お客さん、通だね。このアラを頼むってとこがさ。おまけしておくよ。」
お酒を頼んでないのに、2本追加でくれた。
「旦那様、それはいかようなものでございますか?」
店主がおずおずと聞いてくる。取り皿にアラの身をほぐして、出してやる。
さっきから、騎士も食べたそうにしていたので、騎士の分も取り分けて前へ出す。
「よいのですか?私の分までいただいても?」
オリヴィアがコクリと頷くと、騎士は嬉しそうに食べる。
「見た目と違い、あっさりしていますね。」
「本当だ。うまいわ。これ。」
騎士と店主、二人そろって、アラ炊きを注文している。でも、ナイフとフォークでは、食べにくそう。
仕方なく、オリヴィアが二人分のアラから身をほじくり出して、それぞれの取り皿に出していく。
どちらが従者かわからない。
そうこうしていると、昼間のチンピラが店に入ってきて、我々のテーブルを見つけ合流してきた。
「いやぁ、旦那、昼間は相すみませんでした。おかげで生まれて初めて働いて、酒が飲めるようになりました。」
「そうか。働いた後の酒は格別美味いだろ?」
「へぇ。それもこれも、みんな旦那のおかげです。」
それからしばらくの間、和やかに世間話をしながら飲んでいた。
その時、店の入り口付近で、怒声が聞こえたと思ったら、何人かの酔っ払いが倒れ込んできた。ガチャンと皿が割れる音が響く。
せっかく楽しく酒を飲んでいるのに、オリヴィアはちょっとムっとする。
居酒屋の店主はオロオロして、最奥のオリヴィアたちに助けを求めてきた。
強そうな騎士が大型犬を連れているから。
それに先ほど、2本の酒をサービスしてくれたのは、いざという時の賄賂だったらしい。
チンピラたちは、小声で
「あれは、ならず者で。金を持ってそうな酔っ払いに絡み、有り金を巻き上げるんでさ。店の中でやられたら、店も多大な被害をこうむり、迷惑料として店からも金をふんだくる輩です。」
店が迷惑をかけられているのに、かけたほうに迷惑料を支払わなければならないのは、理不尽な話。
「そこの奥!さっきから、何コソコソやってやがる。さっさと金を出せ!」
入り口付近のならず者がどんどん奥に来ながら、周りの客から金品を巻き上げている。
ならず者が最奥のテーブル近くまで来たとき、ならず者の一人が怯んだ。
「なんで?ここにフェンリルが!」
「どうした?あの白い犬が?」
「この店はダメだ。引き上げよう。俺の第6感が!」
ライオンちゃんは、カラダを膨らませ、みるみるうちにバッファローぐらいの大きさになり、威嚇している。
「わっ!ほら、ヤバイんだってば。フェンリルがいるということは、近くにもっと厄介なものがいるってことさ。早く引き上げようぜ。」
オリヴィアは、おもむろに立ち上がり、帽子を取り
「逃がさない!」
今日、初めて言葉を発した。
その場にいたものは、全員呆気にとられる。
ならず者は、呪縛の魔法にかかったようで、その場から足が床にくっついたまま動けずにいる。
それを騎士が一人残らず、縛り上げていく。奪ったお金はすべて持ち主に返させる。
「おったまげた。聖女様だったとは……。」
「舞踏会よりも、居酒屋でアラをつつく方が好きなもので。」
ならず者は、ヤーパン国の騎士団に引き渡しをせず、全員、聖なる森へ連れ帰り、森の木に逆さ吊りして1週間、生きていれば解放する罰に処すことに決めた。
ならず者は、泣き叫びながら、許しを乞うも許さない。
居酒屋店主に聞けば、ならず者のせいで、廃業に追い込まれた同業者が何軒もいるらしい。
その居酒屋店主は、いくらオリヴィアが代金を払うと言っても、受け取らず
「またのお越しをお待ちしております。」
そして居酒屋看板「ドン」に「聖女様お立ち寄りの店」が掲げられることになったのである。
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる