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13脱出

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 オリヴィアが辺境領へ戻ってから、一度も雪が降らない。冬なのに、春のような温かさである。

 今年は暖冬か……?エルニーニョ現象だろう。

 それに例年、冬になると流行り出す病気も今年は患者数がめっきり少なく、商売あがったりの状態。

 オリヴィアは、辺境領へ戻ってからと言うもの領内で診療所を開設したのだ。前世の医学知識を最大限生かしての開業だから、最初は領民に喜ばれたのだが、ここのところ持病がある人しか誰も来ない。

 医者がヒマなのはいいことなのだろうが、ちょっとね。来る患者さんはと言えば、水虫にハゲにギックリ腰、たまに貧血、更年期障害に高血圧といったところ。

 マリリンちゃんが言うように、やっぱり隣国に行くべきかしらね。

 家に帰ってきても、お父様からは何も言われないから、つい居心地が良くて、いつまでもずるずると領地にいる。

 実はお父様は、王家からと教会からオリヴィアが聖女様であると聞いている。「帰宅したら必ず連絡するように。」と仰せつかったが、本人の口から聖女様であると告げられたわけではないから、黙っている。

 だいたい本物の聖女様であるなら、王家や教会から出向き、礼を尽くすことが当然のことなのに、聞けば学園を誤って追い出されたという。そんな失礼な話はないと憤慨しているのだ。

 我が家からの人質は意味がないと言われているも同然のことに、怒っている。

だからオリヴィアが言い出すまで、ひたすら待つ。もしオリヴィアが他国に行きたいと申せば、他国まで護衛を付け見送ってやるつもりでいる。

 それなのに、オリヴィアは帰ってから診療所を開きたいと言った。少し驚いたが、医学知識が聖女様と間違われたのかもしれないと思う。

 もし、偽聖女様の汚名を着せられるようなことがあれば、不憫だ。だから隠密裏に他国へ逃がすことも考えている。

 それにしても不思議なことがある。辺境領では冬になってから一度も雪が降らず、春のような温かさが続いているのに、王都から辺境領へと続く道は猛吹雪だと聞くことがある。

 そう考えると、やはりオリヴィアが聖女様だからと言う気さえする。

 このままオリヴィアを領内に留め置くことがいいか、それともさっさと自由になれるところへにがすべきか、を迷っている。

 今、冬の間に出奔させることのほうがいいに決まっているが、いつまでも娘を手元に置いておきたい父親のエゴがなかなかそうさせてくれない。

 もしも出奔させるとしたら、どこへ?が問題になる。誰にも分らないように出奔させるには、北へ向かうしかないだろう。さらに北へとなるといろいろと心配だ。北の隣国はクランベール国になるわけだが、国境線付近に昔から化け物が出るという噂がある。

 その国境を超えたものは生きては帰れないという伝説もある。

 さりとてマルベールへ逃がすとなると、他の領地を通らなければならない。そうなると王家にバレる恐れがある。すぐに追っ手を差し向けられ、我が家はクーデターを起こしたという疑いを向けられる。

 オリヴィアは国教会の籠の鳥にさせられ、もし聖女様でなかったら、処刑されるだろう。

 勝手にそちらが解釈したとしてもだ。

 やっぱりオリヴィアのことは自分の命に代えても守り抜かなければ、という思いからクランベールの国境超えを決意する。
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