上 下
10 / 80

10お土産

しおりを挟む
 ステファニーおばあさんの手紙で、また聖女様を呼び出す。

 オリヴィアとライオンちゃんに結界を張ってもらい、取り囲んでいる兵士を無視して進むと、バーモンドは護衛が止めるのも聞かず

 「なんだ?なんの騒ぎだ?……!……オリヴィアではないか?会いたかったぞ。」

 「ええっ!聖女様ぁっ⁉」

 今までさんざん威嚇して、取り囲んでいた兵士たちが一斉に跪く。

 「わたくしに無体なことをしておきながら、よくもおめおめとそのようなことをおっしゃいますわね。」

 「まぁ過ぎた話はよせ。オリヴィアに話があって来たのだ。」

 「わたくしにはないです。お引き取りを。」

 「どうも話が見えておらぬようだな?人の話は最後まで聞く。これは基本だぞ?」

 「アンタに言われたくないわよ。」

 わざと怒らせようとして、「アンタ」呼ばわりしたと言うのになぜかバーモンドはニコニコしている。

 「まぁ、そうカッカするな。話と言うのは、オリヴィアが聖女様と聞く。どうか私の妻になってほしい。」

 護衛に「例のものを」と言い、濃い紫色のビロードの布に包まれた宝石箱のようなものを差し出してきた。

 「は?殿下には素晴らしい女性がいらっしゃるではありませんか?」

 「ああ、あの女は穢れてしまったので、処分した。」

 「穢れた?そうですか?……。わたくしは聖女様ではございません。」

 マリリンちゃんの話では、今この段階ではわたくしはまだ聖女様になる前のことらしいから、嘘ではないだろう。

 「はて?国教会の調べによると、オリヴィアが聖女様で間違いないという話だが?」

 「では、バーモンド殿下に特別にいいことを教えて差し上げましょう。真の聖女様は別にいらっしゃるということです。」

 「それは誰かを教えてくれるのか?」

 「はい。お人払いをお願いします。それともクリストファー殿下にお教えしてもよろしいでしょうか?」

 「よかろう。皆のもの下がれっ!」

 あんなに大勢に囲まれていたのに、殿下の号令ひとつで蜘蛛の子を散らすように、どこかへ去っていく。

 「さぁ、みんな下がったぞ。約束通り言ってもらおうか?」

 「はい。王都の学園近くに一軒家の元はブティックを経営していらっしゃった垢ぬけたステファニー様と言う方が住んでいらっしゃいます。その方が聖女様だと思います。わたくしとペットに結界を張ってくださいましたのも、そのステファニー様でございます。」

 「ステファニー嬢が聖女様か。聖女様にふさわしい美しい名前だ。大儀である。」

 それってどういう意味よ?と言いたいところをグッと堪える。

 殿下は殿下で、さっき差し出した宝石箱をもう引っ込めている。きっとステファニー様に差し上げるつもりでいる。

 「では、わたくしはこれにて。」

 一礼して、バーモンド殿下の前を立ち去る。

 たぶん、ステファニー様が真の聖女様だとは思うが、殿下には若い女性ではないということは言っていない。勝手に勘違いしている。でも聖女様であれば、誰でもいいのなら、お年寄りでも構わないのでは?と思ってのこと。

 それにマーガレット様が穢れたとはどういう意味だろう?あんなに慈悲深い方が浮気するとも思えない。ただ、オリヴィアに冤罪をかぶせたことは許しがたいが。それ以外は完璧な淑女様だったというのに。

 どうでもいいや。

 先を急ごう。冬になる前に帰らなければ、雪で閉ざされる。

 振り返ると大急ぎで支度をして、王都へ引き返す準備をしているのが見える。

 こんなにうまくいくのなら、クリストファー殿下にも、この話を教えてあげればよかったと思う。

 あともう一つ山を越せば、いよいよ辺境領だ。今さらながら、お土産を買って帰ることを忘れていたことに気づくが、しいていえば、ライオンちゃんがお土産かな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

オルブライト公爵家の女たち~フェロモン女王を溺愛するためなら、えんやこら

青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿 112話スピンオフ 本編では3女スカーレットの話からでしたが、長女、次女もストーリー展開します。  我がオルブライト公爵家は、代々顔だけ美人を輩出する家である。高位貴族は、とにかく美人を嫁にしたい。ブス・ブサイクな子供ができてほしくないからである。それで、生まれてすぐ女の子なら、即刻、縁談が決まってしまうのである。ちょうど血統書付きの愛玩動物のようなものである。もし生まれてきたのが男児である場合は、長男を除いて次男は、スペア価値があるが、三男以降は、皆、どこかの貴族の養子としてもらわれていく。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

僕は聖なる乙女のために竜騎士を目指す

鈴元 香奈
恋愛
ジョエルとレアナはともに父親が竜騎士であり、家族ぐるみで仲良く育った。 そんな幸せな日々が続くと思っていたが、レアナは聖なる力を持っていることがわかり、神殿へと連れていかれることになる。 「聖なる乙女は竜騎士を選んだ」のスピンオフですが、単体でも楽しんでいただけるように書きたいと思います。 表紙イラストは水蓮ふち様(イラストAC)よりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...