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1退学

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 マーガレット・マリンストーン公爵令嬢は、自室で爪を噛みながら、あっちへうろうろ、こっちへうろうろしている。

 なぜなら前世やりこんでいた乙女ゲームの悪役令嬢に転生し、今日が、断罪劇が行われる日だから。

 すべてのフラグを回避したものの、やっぱり不安は残る。

 乙女ゲームの中にある高飛車な令嬢は鳴りを潜め、穏やかな優しい女性を精一杯演じてきたつもりなのだから。

 どこかで本性がバレないかといつも不安で、ヒヤヒヤし通しだった。公爵令嬢と言うだけで、悪役令嬢は何のとりえもない傲慢な女性で、最後は国外追放処分になり国境付近の衛兵に身ぐるみ剥がれて、おもちゃにされて死ぬ運命だったから。

 あー嫌だ。いやだ。

 マーガレットの前世は、いわゆる非正規雇用の派遣社員。朝から晩まで働いても手取り15万円足らず。昼間は都内の会社でファイリングなどの事務仕事、夜は居酒屋で皿洗いのバイトをしながらで、夜ご飯は居酒屋の賄いが付くので一食助かる。

 朝ごはんは、前夜、居酒屋の残りご飯をもらって帰り、それを昼用の弁当に詰める。派遣は交通費も出ないので、15万円もらっても、ほとんどが家賃と光熱費、交通費で消えてしまう。

 東京へ出て行きさえすれば、何とかなるいう考えが甘かったことを思い知らされる。

 もうあんな生活は二度とごめんだ。

 だからこそ、死んで乙女ゲームの悪役令嬢に転生したことがわかった時は、もうお先真っ暗で。

 でも思い直して、イベントは全部回避できたと思う。だから自信をもって学園に行けばいいのだ。

 その時ノックの音が聞こえ、侍女が

 「バーモンド王子殿下がお迎えに来られました。」

 「わかったわ。すぐ参りますわ。」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 そしていま、断罪劇の真っ最中。

 断罪されているのは、オリヴィア・スカイダウン辺境伯令嬢。乙女ゲームとは、逆の筋書きになっています。

 「オリヴィア・スカイダウン!貴様は我が愛する婚約者のマーガレットをさんざん虐めてくれたそうだな?」

 「いいえ。殿下誤解でございます。わたくしは虐めなどしておりません。」

 「いや、俺もオリヴィアがマーガレットに突っかかっているところを見たぜ。どこまで腐った女だ。観念しろ!」

 「違います。何かの間違いです。」

 「待ってください。オリヴィア様は何か事情があってのことだと思いますわ。せめて、ご事情だけでもお聞きして、それにこんな、つるし上げのようなやり方はいけませんわ。」

 「おお、なんと優しいマーガレットだ。少しはマーガレットの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいものだな。」

 「何を仰っているのか、よくわかりません。わたくし一度だってマーガレット様に虐めなどしておりませんわ。」

 オリヴィアは、勢い余って、マーガレットの腕を掴むと、さも大げさに「キャァッ!」と叫ばれ、オリヴィアは衛兵に捕まってしまう。

 そしてオリヴィアは、国外追放処分を宣告される。

 「お願いです。バーモンド殿下、どうか寛大なご処分を。」

 いずれマーガレットが王妃になった時、使えるスキル持ちは使おうという考えで言っている。

 なぜなら乙女ゲームでは、この後オリヴィアは「祝福」の加護持ちになるのだから。何かの役に立ってもらわないと困る。それにもし、国外追放で他国にその能力が渡れば、政治的に利用されかねない。

 「わかった。マーガレットがそこまで言うのなら、マーガレットに免じて、国外追放処分は取り下げ、学園を強制退学とする。この女を追い出せ!」
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