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「で、聖女様は、元の世界に戻られるのですか?」

「そうね。それが一番いいとは思うけど、こちらの世界もなかなか捨てがたくて」

「間違って召喚してしまって申し訳ないと思いますが、この世界のどういうところが気に入ってもらえたのでしょうか?あちらの世界は、ずいぶん殺伐としていましたね」

そうなのだ。異世界ニッポンの捜査本部に魔法陣を設置してもらうため、王弟殿下を捜査本部にご招待してから、ずっと不機嫌のままだ。

「まずは、のんびりしているところかな。私は分析が好きなので、ここの化学元素の割合も興味深いものがあります」

「ふーん。そうですか。この世界は田舎でしかも、文明が進んでいないので、のんびりしているとお感じなのですね?」

「もう、いい加減にしてくださいませ!何を怒ってらっしゃるのか存じ上げませんが、今日はもう時間が遅いので帰ります。失礼しました。さようなら。ごきげんよう」

まりあは、ムシャクシャしていたので、今日はこの世界の屋敷ではなく、ニッポンの自宅へ帰ることにした。

王弟殿下は、不機嫌でも怒っているわけでもない。ただ異世界ニッポンがあまりにも自由で平等だということが羨ましくてたまらない。

自分も最初から、あの世界に生まれてきたかった。王弟なんかではなく、平民でかまわないから自由に好きな職業を選び、自由に好きな女性と恋愛して、自由に世界中どこでも旅がしたい。

同じ人間として生まれ、この差は一体何だ?羨望が嫉妬に代わり、それがどうしようもない怒りに代わる。

聖女様と違い、魔法は使えども異世界間を自由に往来する能力もない。

だからそのうさを思わず聖女様にぶつけてしまった。わが身の愚かさを恥じるとともに、浅はかさにもほとほと嫌気がさす。

聖女様に渡した魔法陣があれば、自由に行き来できれど、言葉はどうにもわからない。言語体系が複雑で、聖女様を介さないと日常生活すら、まともに送ることができない。

情けない!何が高位身分だ。そんなものなくてもいいから、聖女様と同等の力が欲しい。それにあの文明も羨ましい限りだ。馬車を遣わずとも、鉄の箱に乗って自由に行ける。一度に大勢の人間を運ぶ芋虫のように連なった鉄の箱、空を飛ぶことができる鉄の乗り物。どれかひとつでも、この世界に存在すれば、大きく時代は変わる。

だから、あのヤーパン人もどきが命を懸けてまで、この世界に麻薬や食料を持ち込んだのか?

コトの真相は、異世界側が握っていて、なかなか情報を教えてもらえないことにもいら立ちを隠せない。

説明しても、わからないだろうという態度にも腹が立つ。事実、たぶんわからないことだらけだと思う。

それでも説明してほしい。

聖女様はあちら側の捜査関係者だと聞く。あちらの世界では、女性でも騎士団のような仕事があるというところも羨ましい。カラダを鍛えなくても科学を利用した捜査ができるということも、うらやましい。

そのあたりも含めて、聖女様に説明してほしい。そしてできれば、聖女様には、こちらの世界を選んでほしいと思っている。聖女様の知識があれば、すぐにでも文明が発達するというものではないが、少なくとも、聖女様の子供か孫の世代になれば、少しでも文明が発達していて、この世界が住みよい世界となっているだろうと予想することができる。

だから、明日にでもプロポーズをしてみよう。そして、この世界に留まってもらえるように努力しよう。

でも、その前にあのアラミス・クーパーなる男を何とかしなければならない。

アイツも恐らくマリアを狙っている気がする。

でも、排除するにしても、どうやって?この世界で亡き者にすることは簡単にできるが闇の部分を聖女様にお見せするわけにはいかない。

何か手はずがあるはずだ。ここは、じっくり考えることにしよう。

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