7 / 21
7.
しおりを挟む
それはいつもの穏やかな昼下がり、レストラン事業も順調に滑り出しデザートメニューを開発すれば、手待ち時間なく稼働できるのではないかと思いつき、シュークリームにエクレア、プリン、クッキー、ホールケーキを順番に作って、使用人相手の試食会を開いているときだった。
「聖女様どれもこれも大変、美味しゅうございます。ぜひ、これを一般に販売されればカフェだけでなく持ち帰りたいという貴族の皆さまからの注文が増えることでしょう」
「えっ!?テイクアウトもするの?そうね……。カフェタイムにさばききれないかもしれないから、売れ残り対策としてテイクアウトも考えた方がいいかもしれないわね」
分析オタクのリケジョは鳴りを潜め、もうすっかり聖女様として、板についたまりあは、小首をかしげながら、持ち帰りメニューを限定するべきだと思いを馳せる。
そこへ王宮から豪華な馬車とともに、騎士団、たぶん近衛騎士団だと思われる人たちが玄関前の庭先に勢ぞろいしているところが見えた。
ん?いつもは遠慮なしにガラガラ?ギギギー?ズカズカ?と入ってくるところをなぜか入るのを躊躇っているような?
一生、そこにいろっ!と叫びたくなるような衝動に駆られるが、気づかないふりを決め込み、知らんぷりすることにした。
試食に夢中になっていた執事がさすがに気づいたようで、ナフキンで口元を拭いながら、慌てて玄関扉を開ける。
「聖女様はおられるか?」
それを皮切りにお調子者の王弟殿下が入ってこられる。いつものおどけた様子と異なり、今日は沈痛な表情をしていらっしゃる。
何か悪いものでも、食べた?
聞きたくなる言葉をグっと堪え、王弟殿下が口を開かれるまで待つことにする。
「隣国ヤーパンの出店の食材店の主人が死んだ」
「へ?いつ……?」
「死後、1週間は経っていないという見立てだ」
発覚したのは、今朝で昨夜、小麦粉が品薄になったということで注文票を店の扉の隙間に差し込んだものの、今朝になっても注文品が届いていないことに不信を持った王宮料理人の一人が店舗を訪ねたところ、玄関扉も裏口も締まっていたが、騎士数人を同行して、中を検分したところ遺体を発見したというもの。
「事故?事件?自殺?」
「自殺ではないと思う。酔って階段から足を滑らせたようだ」
「転倒死?他に外傷は?」
「ないこともないのだが……、階段から落ちるときにできた傷かもしれないが、カラダ中の骨という骨が折れていた」
「それに……、ヤーパン国に問い合わせを行ったのだが、貴国に出店はしているが、それは王都ではない。というのだ。それで店主の身元もわからない」
元・科捜研の女は、とにかく遺体を診せてくれと頼む。
「いや、とても聖女様がご覧になるような綺麗な遺体ではない。それに腐乱も進んでいる」
「かまわないわ!」
この世界に召喚された時に持っていたリュックサックの中に、ゴム手袋とペンライトは常に入れている。
クローゼットの中から通勤セットが入ったリュックサックごと引っ張り出し、それを持ちながら遺体が安置されている場所まで行く。
初めて倭食材の店を訪れた日のことを思い出す。あの店主はどうみてもニッポン人そのもの。それもその筋の人間だということは明らかで、それにあの店にあったカップラーメンの容器の下に表示されていたニッポン語。
ヤーパン国から輸入したものではないとわかるのは、まりあだけ。
でも、どうやって、あの男が異世界へ来られたのかがまだわかっていない。そのうち聞こうと思っていただけに、今回のおそらく殺人事件は、まりあの元にいた世界に戻るきっかけが掴めそうで掴めなかった現実を突きつけられて、目の前真っ暗状態になっている。
あの時、勇気を出して聞けばよかったのかもしれない。そうしたら、もっと早く、それこそ有給申請を出せていたかもしれないというのに。
とにかく遺体と現場を見せてもらうことが先決だと、王弟殿下に交渉してみる。
「聖女様どれもこれも大変、美味しゅうございます。ぜひ、これを一般に販売されればカフェだけでなく持ち帰りたいという貴族の皆さまからの注文が増えることでしょう」
「えっ!?テイクアウトもするの?そうね……。カフェタイムにさばききれないかもしれないから、売れ残り対策としてテイクアウトも考えた方がいいかもしれないわね」
分析オタクのリケジョは鳴りを潜め、もうすっかり聖女様として、板についたまりあは、小首をかしげながら、持ち帰りメニューを限定するべきだと思いを馳せる。
そこへ王宮から豪華な馬車とともに、騎士団、たぶん近衛騎士団だと思われる人たちが玄関前の庭先に勢ぞろいしているところが見えた。
ん?いつもは遠慮なしにガラガラ?ギギギー?ズカズカ?と入ってくるところをなぜか入るのを躊躇っているような?
一生、そこにいろっ!と叫びたくなるような衝動に駆られるが、気づかないふりを決め込み、知らんぷりすることにした。
試食に夢中になっていた執事がさすがに気づいたようで、ナフキンで口元を拭いながら、慌てて玄関扉を開ける。
「聖女様はおられるか?」
それを皮切りにお調子者の王弟殿下が入ってこられる。いつものおどけた様子と異なり、今日は沈痛な表情をしていらっしゃる。
何か悪いものでも、食べた?
聞きたくなる言葉をグっと堪え、王弟殿下が口を開かれるまで待つことにする。
「隣国ヤーパンの出店の食材店の主人が死んだ」
「へ?いつ……?」
「死後、1週間は経っていないという見立てだ」
発覚したのは、今朝で昨夜、小麦粉が品薄になったということで注文票を店の扉の隙間に差し込んだものの、今朝になっても注文品が届いていないことに不信を持った王宮料理人の一人が店舗を訪ねたところ、玄関扉も裏口も締まっていたが、騎士数人を同行して、中を検分したところ遺体を発見したというもの。
「事故?事件?自殺?」
「自殺ではないと思う。酔って階段から足を滑らせたようだ」
「転倒死?他に外傷は?」
「ないこともないのだが……、階段から落ちるときにできた傷かもしれないが、カラダ中の骨という骨が折れていた」
「それに……、ヤーパン国に問い合わせを行ったのだが、貴国に出店はしているが、それは王都ではない。というのだ。それで店主の身元もわからない」
元・科捜研の女は、とにかく遺体を診せてくれと頼む。
「いや、とても聖女様がご覧になるような綺麗な遺体ではない。それに腐乱も進んでいる」
「かまわないわ!」
この世界に召喚された時に持っていたリュックサックの中に、ゴム手袋とペンライトは常に入れている。
クローゼットの中から通勤セットが入ったリュックサックごと引っ張り出し、それを持ちながら遺体が安置されている場所まで行く。
初めて倭食材の店を訪れた日のことを思い出す。あの店主はどうみてもニッポン人そのもの。それもその筋の人間だということは明らかで、それにあの店にあったカップラーメンの容器の下に表示されていたニッポン語。
ヤーパン国から輸入したものではないとわかるのは、まりあだけ。
でも、どうやって、あの男が異世界へ来られたのかがまだわかっていない。そのうち聞こうと思っていただけに、今回のおそらく殺人事件は、まりあの元にいた世界に戻るきっかけが掴めそうで掴めなかった現実を突きつけられて、目の前真っ暗状態になっている。
あの時、勇気を出して聞けばよかったのかもしれない。そうしたら、もっと早く、それこそ有給申請を出せていたかもしれないというのに。
とにかく遺体と現場を見せてもらうことが先決だと、王弟殿下に交渉してみる。
85
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
魔法少女と呼ばないで
青の雀
ファンタジー
俺は定年間際になり、ようやく今までの己の人生を振り返り、つくづくと思うところがある。学校を卒業するまでは、いかに成績を優秀のままで保つかということに尽力をし、社会に出てからは、いかに人より早く出世をし、お金儲けに邁進することができるかという競争人生を送ってきた。
人生において、定年という大きな節目を目前にして、これからどう生きるかを真剣に考えているとき、異変が起こる。
定年後は、生まれ故郷の京都へ帰り、趣味のための勉強に励むつもりでいる。少年の頃は、受験のための勉強しかしてこなかったので、定年後は、足しげく図書館へ通い、勉強するつもりでいる。
それなのに、出張先で異世界から来た魔物を退治する魔法少女に突如変身してしまった。
驚きと困惑の中、地球侵略を狙う異世界の魔王を相手に戦う美少女の姿のTV中継や配信に、全世界が熱狂するが、その正体は普通のオッサンだったという事実が隠されている。
果たしてリーチは、地球を守ることができるのかいなや!?
死なずに転生したオッサン魔法少女の恋と青春と冒険のお話にするつもりです。
やさぐれ令嬢
龍槍 椀
ファンタジー
ベルダンディー=ファーリエ=クリストバーグは、グスターボ国の侯爵令嬢 五歳の時から、聖王太子の婚約者と遇され、御妃教育に頑張っていた。 18歳になり、マリューシュ帝国学院の最終学年。そして、最後の舞踏会。 舞踏会の後は、後宮に入り聖王太子の妻としての教育をさらに重ねる事に成っていた。
しかし、彼女は極めて冷めている。 実母が亡くなってから、この国に不満しかなく、やさぐれお嬢様になってしまった。 モチロン表面上(ねこかぶり)は大変お上手。 夢はこの国から出て行くこと。 何もかも投げ捨てて。
ベルダンディーに、望みの明日は来るのでしょうか?
幸せの電子レンジ~本物の聖女様だったことがわかり、今更戻って来いと言われても遅いです
青の雀
ファンタジー
炊飯器レシピ途中で、侵略戦争や植民地化になってしまったので、しきり直して、今度は電子レンジレシピにチャレンジします
あらすじは、家電OLが社割で買った電子レンジと炊飯器を持ち、帰路を急いでいるときに、商店街の中で異世界召喚に遭ってしまいます
女子大生と二人きりになった星羅(主人公)は、金ぴか王子から「薄汚い女」呼ばわりされ、城を追い出されてしまうと、先に商店街の中で一緒に召喚されたサラリーマン風の男性や近所のおじさん、少年とともに、電子レンジで調理をしながら異世界漫遊するという話にしたいと思っておりますが、どうなることやら……
一緒に召喚された女子大生はというと、実は女子大生ではなく……聖女様ではなかったということで、せっかく召喚したのに、本物の聖女様に逃げられてしまった王国は大慌てで、本物の聖女様に戻って来いと促すが……
筆者の作品の特徴は、転生は、一度死を挟んでいるので元の世界には戻れない。しかし、召喚の場合は、必ず元の世界に戻る
(完結)嘘つき聖女と呼ばれて
青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。
両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。
妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して……
ゆるふわ設定ご都合主義です。
幸せの炊飯器~聖女召喚に巻き込まれた社畜は愛用の炊飯器ひとつで異世界を放浪し満喫する
青の雀
ファンタジー
社畜OL 吉田美波25歳は、大手家電量販店の販売員をしているが、PB(プライベートブランド)の炊飯器の売り込みに余念がなく、性能を調べるために、いくつも社割で炊飯器を買い調べている研究熱心な女の子
ある日のこと、残業で遅くなった美波は急いで、炊飯器のスイッチを入れる。手洗いうがいをしていると、突如、足元が光り出し、咄嗟に炊飯器に手を伸ばしたまま、そのまま異世界に召喚されてしまう
お決まりの通り、一緒に召喚された中学生ぐらいの美少女だけが聖女様として崇められ、美波は追い出されてしまう
お金もなく、お腹もすいている美波に残されたのは唯一の財産であるPBの炊飯器だけ
これでご飯を炊き、デザートを作り、お腹いっぱいになるまで食べる
炊飯器に入れる食材は、イメージしたものがチートスキルからか、無料で入手できたのをよいことに、どんどん作り、それをレストランで提供していくことにしたのだ
美波の作った料理は、病人には病気が治り、けが人には怪我が治り、悩み事には、その悩みそのものが解決するという不思議な効力が宿っていた
美波が真の聖女様だったのでは?との憶測が飛び交い、美波は追われながらも異世界を放浪していくというお話
途中、恋愛もあるかもしれないけど、今のところはレシピものを書く予定
実は、筆者は調理師免許を持っておりまして、リア友からよくレシピの相談を受けます
そして、家電量販店の社畜という設定も、実は筆者自身のことで、
最近の炊飯器は、本当に優れモノで、特定の病気の症状を緩和することができるものまで登場しています
炊飯器レシピは、誰でも材料を入れ、炊飯を押すだけで簡単に美味しい料理ができるので、たくさんこれから炊飯器レシピをUPしていきますので、お楽しみにしてくださいね
なお、作ってみたいレシピにブックマークしていただけると嬉しいです
孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。
水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました!
死んだら私も異世界転生できるかな。
転生してもやっぱり腐女子でいたい。
それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい……
天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生!
最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。
父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!?
※BL要素ありますが、全年齢対象です。
ポイ活聖女様~結婚に慎重になり過ぎて💦今世はやりたいように生きる
青の雀
ファンタジー
前世、喪女ではないけど社畜OLが結婚を間近にして、天に召されたが、生娘のまま死ぬと、異世界聖女様に転生してしまうなんて話、知っていましたか?
ただし、成人した女性が、という意味。それほど、生娘でいる確率は低いということから、天界で話し合いがもたれ、ご褒美として、今度は異世界で聖女様として活躍してもらおうということになったのである
幸か不幸か、その第1号者に選ばれたのが、ルミアマリーゼ(前世:若松真理子)一応、公爵令嬢としての肩書を持つ娘だから、何不自由なく育ち、学園の卒業式で王子の最愛の女性をイジメていたと冤罪を着せられ、婚約破棄されたうえに、その王子から突き飛ばされ、大理石の柱に頭をぶつけて他界するところをポイントで死なずに済むという画面が目の前に現れる
その第1王子は、聖女様を殺そうとした咎で、廃嫡の上、廃籍され、繰り上がった第2王子様と結婚することになった
結婚式までは、幸せだったが、挙式後、旦那様はすぐに愛人を側室として娶り、名前だけのお飾り聖女様兼王妃陛下となってしまう
この世界の決まり事で聖女様になった女性は、その聖力を落とさないようにするため男性とは情交できないと初めて聞く
神様に食って掛かるルミアマリーゼに幸せポイントを結婚に照準を当てていたルミアマリーゼ自身の過失だと言い張られ、転生した時から、そのポイントは貯まりに貯まって10億ポイントになっているという話を聞かされる
あの電子音の正体がポイントが増えるときの音だったのだ
幸せだと感じた時に、ポイントを貰えるというポイ活を新しい人生で、もう一度だけチャンスを貰えると聞いたルミアーマリーゼは、今度こそ幸せのためのポイ活をすることになるというお話の予定です
少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!
菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる