上 下
6 / 21

6.

しおりを挟む
時はさかのぼり、なぜまりあが時空魔法を習得できたのかのお話に戻る。

教会で借りていた魔法書を返却するのを失念してしまい、でも馬車はもう後、5分足らずで到着を目前に控えていると知った時、思い切って、出かける前の様子をイメージしてみた。

すると時間が巻き戻り、出かける前のあわただしい玄関先での場面にいたのだ。そこで書斎から一冊の本を持ってきてもらい、それを持って慌てて馬車に乗り込んだ。

何食わぬ顔をして、馬車の中に戻り、お付きの侍女は、一瞬聖女様の姿を見失って狼狽えていたが、一秒後に元の場所に座っていらしたので、瞬きをしている間に見間違えたのかと思い、取り立てて気にも留めていないようだった。

まりあはというと、すっかりほくそ笑んでいる。まあ、これが異世界ニッポンへ還れるかどうかは、別問題だろうけど、とにかく時間を巻き戻すことができたのは喜ばしいこと。

司祭様からの講義を粛々と受け、帰り際には

「もう、聖女様に何も教えて差し上げることができなくなりました。本日をもって、卒業とさせていただきます。短い間でしたがよくぞここまで修練なさいました。おめでとうございます」

まりあは嬉しいような寂しいような複雑な表情を見せる。

「ありがとう存じます。これもひとえに司祭様のご教授が楽しく、実践的なことばかりでしたので、この日を無事迎えることができた所存でございます」

「いやはや時代が違えば、聖女様の職業はいくらでももてはやされるのですが、今は平和な時代で魔物も滅多に出ません。お気を落とされぬようこれからも精進してくだされ。また、いつでも遊びにいらしてください」

温かく優しいまなざしに励まされ、ここまで頑張ることができたのは、言うまでもなく司祭様のおかげ。卒業認定してもらったけれど、もし、またわからないことがあれば、いつでも門をたたく用意はできている。

司祭様は、卒業記念の品として、聖職者特有のローブを賜ることができた。素直に嬉しい。

今日は、卒業記念のささやかなお祝いをしようと教会の帰りに、あのニッポン食料品店に立ち寄ってみたが、あいにく今日に限ってなぜか休業していたので、今夜は仕方なくタルタルソースを作って、それをかけて少しだけ豪華料理に見せることにした。

タルタルソースは日持ちができないため、作り置きが難しい。それでいつも、食べられる分だけしか作らない貴重な?ソースなのだ。

作り方は簡単で、ゆでたまごをこれでもかというぐらい小さく刻む。それを玉ねぎのみじん切りと合わせ、マヨネーズを加えれば出来上がり。お好みでパセリのみじん切りを混ぜると、より彩が綺麗。

あのヤーさんの店でマヨネーズを買う予定だったけど、今日は休みだったので、マヨネーズを自作することにする。

生卵を割り入れ、酢で思いっきりミキシングするとマヨネーズができる。

結局、タルタルソースは卵、それも新鮮な卵が命で、異世界には冷蔵庫がないから作り置きが難しいというわけ。

美味しくタルタルソースが完成して、適当にソースの代わりにタルタルソースをかけて食べたらなんでも美味しく豪華料理に成ることを発見した。

使用人にも好評でレストランに出すことを勧められるも、あのヤクザ?チンピラ店がオープンしないとメニューに加える気になれない。

マヨネーズを毎回、手作りするには、しんどすぎる。
だいたい腕が痛くてかなわない。混ぜ合わせるぐらいなら、ウチの料理長でも、一応の男だから力はあるかもしれないけど……、レシピを盗まれる心配があるから、そうそう頼めやしない。

マヨネーズができたら画期的なソースになることは、誰よりもわかっている。摘みたての野菜にでも、マヨネーズをかけたら、美味しく食べられるし、パンに塗っても美味しい。

でも、元の材料が生卵でできているから、日持ちが悪い。この世界に冷蔵庫かマヨネーズに防腐剤を入れられれば話は変わってくるが、どちらにしてもあのガラの悪い店主が店を開ける日までできそうにない。

思い悩んでいたまりあの元へ、悪い知らせが飛び込んできたのは、それから数日後のことだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)嘘つき聖女と呼ばれて

青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。 両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。 妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して…… ゆるふわ設定ご都合主義です。

幸せの電子レンジ~本物の聖女様だったことがわかり、今更戻って来いと言われても遅いです

青の雀
ファンタジー
炊飯器レシピ途中で、侵略戦争や植民地化になってしまったので、しきり直して、今度は電子レンジレシピにチャレンジします あらすじは、家電OLが社割で買った電子レンジと炊飯器を持ち、帰路を急いでいるときに、商店街の中で異世界召喚に遭ってしまいます 女子大生と二人きりになった星羅(主人公)は、金ぴか王子から「薄汚い女」呼ばわりされ、城を追い出されてしまうと、先に商店街の中で一緒に召喚されたサラリーマン風の男性や近所のおじさん、少年とともに、電子レンジで調理をしながら異世界漫遊するという話にしたいと思っておりますが、どうなることやら…… 一緒に召喚された女子大生はというと、実は女子大生ではなく……聖女様ではなかったということで、せっかく召喚したのに、本物の聖女様に逃げられてしまった王国は大慌てで、本物の聖女様に戻って来いと促すが…… 筆者の作品の特徴は、転生は、一度死を挟んでいるので元の世界には戻れない。しかし、召喚の場合は、必ず元の世界に戻る

幸せの炊飯器~聖女召喚に巻き込まれた社畜は愛用の炊飯器ひとつで異世界を放浪し満喫する

青の雀
ファンタジー
社畜OL 吉田美波25歳は、大手家電量販店の販売員をしているが、PB(プライベートブランド)の炊飯器の売り込みに余念がなく、性能を調べるために、いくつも社割で炊飯器を買い調べている研究熱心な女の子 ある日のこと、残業で遅くなった美波は急いで、炊飯器のスイッチを入れる。手洗いうがいをしていると、突如、足元が光り出し、咄嗟に炊飯器に手を伸ばしたまま、そのまま異世界に召喚されてしまう お決まりの通り、一緒に召喚された中学生ぐらいの美少女だけが聖女様として崇められ、美波は追い出されてしまう お金もなく、お腹もすいている美波に残されたのは唯一の財産であるPBの炊飯器だけ これでご飯を炊き、デザートを作り、お腹いっぱいになるまで食べる 炊飯器に入れる食材は、イメージしたものがチートスキルからか、無料で入手できたのをよいことに、どんどん作り、それをレストランで提供していくことにしたのだ 美波の作った料理は、病人には病気が治り、けが人には怪我が治り、悩み事には、その悩みそのものが解決するという不思議な効力が宿っていた 美波が真の聖女様だったのでは?との憶測が飛び交い、美波は追われながらも異世界を放浪していくというお話 途中、恋愛もあるかもしれないけど、今のところはレシピものを書く予定 実は、筆者は調理師免許を持っておりまして、リア友からよくレシピの相談を受けます そして、家電量販店の社畜という設定も、実は筆者自身のことで、 最近の炊飯器は、本当に優れモノで、特定の病気の症状を緩和することができるものまで登場しています 炊飯器レシピは、誰でも材料を入れ、炊飯を押すだけで簡単に美味しい料理ができるので、たくさんこれから炊飯器レシピをUPしていきますので、お楽しみにしてくださいね なお、作ってみたいレシピにブックマークしていただけると嬉しいです

愛され系公爵家令嬢に転生したはずなのに、齢8歳にして辺境送りになっちゃった(一発ネタ)

うみ
ファンタジー
妄想と奇行が激しい私だけど、無双しちゃうんだからね! 幸せが約束された公爵令嬢に転生したサエコーヌだったが、何故か辺境に送られることに。 彼女が辺境に送られた知られざる事実とは……?

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

ポイ活聖女様~結婚に慎重になり過ぎて💦今世はやりたいように生きる

青の雀
ファンタジー
前世、喪女ではないけど社畜OLが結婚を間近にして、天に召されたが、生娘のまま死ぬと、異世界聖女様に転生してしまうなんて話、知っていましたか? ただし、成人した女性が、という意味。それほど、生娘でいる確率は低いということから、天界で話し合いがもたれ、ご褒美として、今度は異世界で聖女様として活躍してもらおうということになったのである 幸か不幸か、その第1号者に選ばれたのが、ルミアマリーゼ(前世:若松真理子)一応、公爵令嬢としての肩書を持つ娘だから、何不自由なく育ち、学園の卒業式で王子の最愛の女性をイジメていたと冤罪を着せられ、婚約破棄されたうえに、その王子から突き飛ばされ、大理石の柱に頭をぶつけて他界するところをポイントで死なずに済むという画面が目の前に現れる その第1王子は、聖女様を殺そうとした咎で、廃嫡の上、廃籍され、繰り上がった第2王子様と結婚することになった 結婚式までは、幸せだったが、挙式後、旦那様はすぐに愛人を側室として娶り、名前だけのお飾り聖女様兼王妃陛下となってしまう この世界の決まり事で聖女様になった女性は、その聖力を落とさないようにするため男性とは情交できないと初めて聞く 神様に食って掛かるルミアマリーゼに幸せポイントを結婚に照準を当てていたルミアマリーゼ自身の過失だと言い張られ、転生した時から、そのポイントは貯まりに貯まって10億ポイントになっているという話を聞かされる あの電子音の正体がポイントが増えるときの音だったのだ 幸せだと感じた時に、ポイントを貰えるというポイ活を新しい人生で、もう一度だけチャンスを貰えると聞いたルミアーマリーゼは、今度こそ幸せのためのポイ活をすることになるというお話の予定です

やさぐれ令嬢

龍槍 椀 
ファンタジー
ベルダンディー=ファーリエ=クリストバーグは、グスターボ国の侯爵令嬢 五歳の時から、聖王太子の婚約者と遇され、御妃教育に頑張っていた。 18歳になり、マリューシュ帝国学院の最終学年。そして、最後の舞踏会。 舞踏会の後は、後宮に入り聖王太子の妻としての教育をさらに重ねる事に成っていた。  しかし、彼女は極めて冷めている。 実母が亡くなってから、この国に不満しかなく、やさぐれお嬢様になってしまった。 モチロン表面上(ねこかぶり)は大変お上手。 夢はこの国から出て行くこと。 何もかも投げ捨てて。  ベルダンディーに、望みの明日は来るのでしょうか?

処理中です...