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時はさかのぼり、なぜまりあが時空魔法を習得できたのかのお話に戻る。
教会で借りていた魔法書を返却するのを失念してしまい、でも馬車はもう後、5分足らずで到着を目前に控えていると知った時、思い切って、出かける前の様子をイメージしてみた。
すると時間が巻き戻り、出かける前のあわただしい玄関先での場面にいたのだ。そこで書斎から一冊の本を持ってきてもらい、それを持って慌てて馬車に乗り込んだ。
何食わぬ顔をして、馬車の中に戻り、お付きの侍女は、一瞬聖女様の姿を見失って狼狽えていたが、一秒後に元の場所に座っていらしたので、瞬きをしている間に見間違えたのかと思い、取り立てて気にも留めていないようだった。
まりあはというと、すっかりほくそ笑んでいる。まあ、これが異世界ニッポンへ還れるかどうかは、別問題だろうけど、とにかく時間を巻き戻すことができたのは喜ばしいこと。
司祭様からの講義を粛々と受け、帰り際には
「もう、聖女様に何も教えて差し上げることができなくなりました。本日をもって、卒業とさせていただきます。短い間でしたがよくぞここまで修練なさいました。おめでとうございます」
まりあは嬉しいような寂しいような複雑な表情を見せる。
「ありがとう存じます。これもひとえに司祭様のご教授が楽しく、実践的なことばかりでしたので、この日を無事迎えることができた所存でございます」
「いやはや時代が違えば、聖女様の職業はいくらでももてはやされるのですが、今は平和な時代で魔物も滅多に出ません。お気を落とされぬようこれからも精進してくだされ。また、いつでも遊びにいらしてください」
温かく優しいまなざしに励まされ、ここまで頑張ることができたのは、言うまでもなく司祭様のおかげ。卒業認定してもらったけれど、もし、またわからないことがあれば、いつでも門をたたく用意はできている。
司祭様は、卒業記念の品として、聖職者特有のローブを賜ることができた。素直に嬉しい。
今日は、卒業記念のささやかなお祝いをしようと教会の帰りに、あのニッポン食料品店に立ち寄ってみたが、あいにく今日に限ってなぜか休業していたので、今夜は仕方なくタルタルソースを作って、それをかけて少しだけ豪華料理に見せることにした。
タルタルソースは日持ちができないため、作り置きが難しい。それでいつも、食べられる分だけしか作らない貴重な?ソースなのだ。
作り方は簡単で、ゆでたまごをこれでもかというぐらい小さく刻む。それを玉ねぎのみじん切りと合わせ、マヨネーズを加えれば出来上がり。お好みでパセリのみじん切りを混ぜると、より彩が綺麗。
あのヤーさんの店でマヨネーズを買う予定だったけど、今日は休みだったので、マヨネーズを自作することにする。
生卵を割り入れ、酢で思いっきりミキシングするとマヨネーズができる。
結局、タルタルソースは卵、それも新鮮な卵が命で、異世界には冷蔵庫がないから作り置きが難しいというわけ。
美味しくタルタルソースが完成して、適当にソースの代わりにタルタルソースをかけて食べたらなんでも美味しく豪華料理に成ることを発見した。
使用人にも好評でレストランに出すことを勧められるも、あのヤクザ?チンピラ店がオープンしないとメニューに加える気になれない。
マヨネーズを毎回、手作りするには、しんどすぎる。
だいたい腕が痛くてかなわない。混ぜ合わせるぐらいなら、ウチの料理長でも、一応の男だから力はあるかもしれないけど……、レシピを盗まれる心配があるから、そうそう頼めやしない。
マヨネーズができたら画期的なソースになることは、誰よりもわかっている。摘みたての野菜にでも、マヨネーズをかけたら、美味しく食べられるし、パンに塗っても美味しい。
でも、元の材料が生卵でできているから、日持ちが悪い。この世界に冷蔵庫かマヨネーズに防腐剤を入れられれば話は変わってくるが、どちらにしてもあのガラの悪い店主が店を開ける日までできそうにない。
思い悩んでいたまりあの元へ、悪い知らせが飛び込んできたのは、それから数日後のことだった。
教会で借りていた魔法書を返却するのを失念してしまい、でも馬車はもう後、5分足らずで到着を目前に控えていると知った時、思い切って、出かける前の様子をイメージしてみた。
すると時間が巻き戻り、出かける前のあわただしい玄関先での場面にいたのだ。そこで書斎から一冊の本を持ってきてもらい、それを持って慌てて馬車に乗り込んだ。
何食わぬ顔をして、馬車の中に戻り、お付きの侍女は、一瞬聖女様の姿を見失って狼狽えていたが、一秒後に元の場所に座っていらしたので、瞬きをしている間に見間違えたのかと思い、取り立てて気にも留めていないようだった。
まりあはというと、すっかりほくそ笑んでいる。まあ、これが異世界ニッポンへ還れるかどうかは、別問題だろうけど、とにかく時間を巻き戻すことができたのは喜ばしいこと。
司祭様からの講義を粛々と受け、帰り際には
「もう、聖女様に何も教えて差し上げることができなくなりました。本日をもって、卒業とさせていただきます。短い間でしたがよくぞここまで修練なさいました。おめでとうございます」
まりあは嬉しいような寂しいような複雑な表情を見せる。
「ありがとう存じます。これもひとえに司祭様のご教授が楽しく、実践的なことばかりでしたので、この日を無事迎えることができた所存でございます」
「いやはや時代が違えば、聖女様の職業はいくらでももてはやされるのですが、今は平和な時代で魔物も滅多に出ません。お気を落とされぬようこれからも精進してくだされ。また、いつでも遊びにいらしてください」
温かく優しいまなざしに励まされ、ここまで頑張ることができたのは、言うまでもなく司祭様のおかげ。卒業認定してもらったけれど、もし、またわからないことがあれば、いつでも門をたたく用意はできている。
司祭様は、卒業記念の品として、聖職者特有のローブを賜ることができた。素直に嬉しい。
今日は、卒業記念のささやかなお祝いをしようと教会の帰りに、あのニッポン食料品店に立ち寄ってみたが、あいにく今日に限ってなぜか休業していたので、今夜は仕方なくタルタルソースを作って、それをかけて少しだけ豪華料理に見せることにした。
タルタルソースは日持ちができないため、作り置きが難しい。それでいつも、食べられる分だけしか作らない貴重な?ソースなのだ。
作り方は簡単で、ゆでたまごをこれでもかというぐらい小さく刻む。それを玉ねぎのみじん切りと合わせ、マヨネーズを加えれば出来上がり。お好みでパセリのみじん切りを混ぜると、より彩が綺麗。
あのヤーさんの店でマヨネーズを買う予定だったけど、今日は休みだったので、マヨネーズを自作することにする。
生卵を割り入れ、酢で思いっきりミキシングするとマヨネーズができる。
結局、タルタルソースは卵、それも新鮮な卵が命で、異世界には冷蔵庫がないから作り置きが難しいというわけ。
美味しくタルタルソースが完成して、適当にソースの代わりにタルタルソースをかけて食べたらなんでも美味しく豪華料理に成ることを発見した。
使用人にも好評でレストランに出すことを勧められるも、あのヤクザ?チンピラ店がオープンしないとメニューに加える気になれない。
マヨネーズを毎回、手作りするには、しんどすぎる。
だいたい腕が痛くてかなわない。混ぜ合わせるぐらいなら、ウチの料理長でも、一応の男だから力はあるかもしれないけど……、レシピを盗まれる心配があるから、そうそう頼めやしない。
マヨネーズができたら画期的なソースになることは、誰よりもわかっている。摘みたての野菜にでも、マヨネーズをかけたら、美味しく食べられるし、パンに塗っても美味しい。
でも、元の材料が生卵でできているから、日持ちが悪い。この世界に冷蔵庫かマヨネーズに防腐剤を入れられれば話は変わってくるが、どちらにしてもあのガラの悪い店主が店を開ける日までできそうにない。
思い悩んでいたまりあの元へ、悪い知らせが飛び込んできたのは、それから数日後のことだった。
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