聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。

青の雀

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2.留学先にて

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 15歳になったアマリアは、侍女エレノアと共に隣国へ旅立って行った。

 留学先の学園には、寮があった。
 寮の部屋は、キッチン、食堂、書斎に寝室、侍女用の控えの間まであった。

 「今日から3年間、ヨロシクね。」と部屋に挨拶した。

 アマリアは、新しいところへ行くと必ず挨拶していた。その場所ごとに精霊が住んでいると信じているから、礼儀を通せば、悪いことから逃げられると思っている。

 するとアマリアの周りが一瞬煌めいた。と本人は気づかないが、侍女のエレノアには、見えたらしい。

 「気のせいよ。」アマリアは言うが、確かにエレノアには、見えた。

 それから、入学式までの間、寮の近くの観光をした。

 入学式が行われた。学園長のあいさつなど一通り終わった後、女子生徒だけホールに残された。
 この学園では、年に1度、聖女認定の儀式が行われるそうだ。
 もし、学園内に在学中に、聖女として覚醒したものがいれば、その聖女を囲い込み、他国にとられないように大切に教育するためである。

 アマリアは、自分が聖女のわけがないので、もし、聖女なら前世で殺されるはずがないから。と確信めいたものを秘めて、水晶の前に手をかざした。
 水晶は、七色に輝き、その後白く光り続けた。

 「え?」

 学園のホールは、大騒ぎとなった。約100年ぶりの聖女誕生に沸いた。アマリアの実家に知らせが届き、国王陛下の耳にも入った。

 前世は、アマリアが聖女なのに殺されたわけになる。だから、もう一度、やり直しの人生を歩ませてくれるのかもしれないと神に感謝した。

 アマリアは、エドモンドに知られないように、手を打った。

 10年前のお妃候補選びの時も、勝手に一目惚れされてしまい、無理やり婚約者にさせられてしまった苦い経験がある。
 その後、大事にされるどころか王太子は目も合わせてくれず、避けられた。
 何度、婚約解消を、と願い出てもかなわなかった。

 聖女だと知れたら、あのわがまま王太子のことだから、何が何でも結婚させられてしまう。男爵令嬢の思惑通りに、ならなかったらあのリリカ嬢は、今度は何をするかわからない。刺客を放たれるかもしれないし、両親まで巻き添えになるかもしれない。

 アマリアを聖女と知らないまま、婚約破棄してもらわないと困るのだ。

 それから、アマリアの生活は、一変した。
 ただでさえ豪華な寮の部屋のランクが上がって、侍女も3人つけるようになった。
 元からいたエレノアは、そのままで新たに学園が武道に長けた2人の貴族子女を侍女につけた。

 学園内にある教会へ祈りを捧げるようになった。ただこの国の安寧と繁栄を願うだけでよかったので楽だった。

 帝国主催で「聖女誕生」を祝うパーティが催された。
 ドレスは、帝国からプレゼントされたものを着た。

 学園で知り合ったお友達もでき、皆でキャッキャウフフしながら、パーティを楽しんだ。
 皇太子殿下がダンスの申し込みをされて、1曲踊った後、

 「聖女アマリア様、私と婚約していただけないでしょうか?」と言われました。

 皇太子殿下は、とても落ち着いた雰囲気を持っていらっしゃり、背が高く、とてもハンサムでした。

 エドモンドのことがなければ、喜んで、と言いたいところですが、まだエドモンドと婚約中です。

 返事を躊躇していたら、皇帝陛下が助け船を出してくださいました。
 「聖女アマリア様は、王国では公爵令嬢であらせられ、王国の王太子殿下と婚約中だ。お前の出る幕は、しばらくは来ないであろう。だが、しばらくは、だ。」

 含みを持たせた言い方をされて、去って行かれた。

 「では、まだ期待はある、と思ってよろしいのですね。いつまでも、お待ちします。貴女が私のほうを見てくれるまで、いつまででも、お待ちします。」

 アマリアは顔を真っ赤にしてうつむいている。

 学園のお友達が「ステキ~♡ 熱烈」と言って、騒いでいる。

 


 その頃、王国の王宮では、またエドモンドがいらついていた。

 いつものように手当たり次第、部屋の備品を投げるから、必要なもの以外、部屋に置かなくなったのは、言うまでもないこと。

 「アマリアのやつめ、学園で一度も会えない!学園まで一緒に通学してやろうと申し出ているのに、一度も一緒に行けない!」と怒りまくっていた。

 隣国に留学中のアマリアとどうやったら、一緒に通学できるのかわかっていないようだ。
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