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じゅるっ。ぱちゅん。じゅるっ。ぱちゅん。じゅるっ。ぱちゅん。じゅるっ。
「あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。」
あれから懸命の努力の末、やっとの思いで懐妊が分かったのは、都市の暮れになってからのこと。
それと同時に、懐妊したことが分かったので住まいが納屋から離れに昇格したことも嬉しい。
やっと、まともな家具がそろっている。思えば、馬小屋の藁の上から始まり納屋の板敷のラグ、そして離れのベッドとこれで安心して、子供が産める環境がそろったというもの。
王都にいる父のもとへは、叔母を通して、知らされることになり、これからは乳母探しが目下の目標となる。
ルビンシュタイン公爵は、次の休みの日に早馬で、エリーゼの様子を見に来たのだ。
「エリーゼ!」
父は、離れまで、叫びながら走ってくる。
部屋の中にいたエリーゼは、懐かしい声に扉を開けると、見覚えのある大きな体に抱きすくめられる。
「よかった。元気そうでよかった。愛しているよ。エリー。」
父は、エリーの髪の毛がぐちゃぐちゃになることも気にせず、わしゃわしゃと頭を撫でまわす。
「お父様……。」
「もうエリーだけのカラダではないのだから、大事にするがよい。」
「ルビンシュタイン公爵閣下、ご無沙汰しております。」
「ああ。国王陛下はとっくに、お許しされておるよ。だが、モーガン殿下の従兄弟のクロード・ハイドンが学園を退学していって、母上の王妃殿下が離縁されてしまわれたよ。」
「えっえー!また、どうして?そんなことが……。」
「モントリール家の馬車を借りて、隠密裏に王都へ帰る。そこで、学園に行き、実際何があったのか見てくるべきだと思うのだがね。」
しばらく考え込むモーガン様
「わかりました。では、俺一人で、馬で帰ります。エリーゼは身重なので、ここに残れ。いいな?」
「はい。旦那様のお帰りをお待ちしております。」
このやり取りにルビンシュタイン公爵は、焦る。駆け落ち婚は、結婚と同等ということを失念していたから。てっきり、王太子を揺さぶれば、エリーゼと共に王都へ帰り、ルビンシュタイン家で、エリーゼが出産という運びになると信じていたからこそ、ハイドンのことを言ったまでに過ぎない。
嫁しては夫に従え である。
もう自分の娘であって、自分の娘でない。そのことに焦るとともに、ずいぶん頼もしくなった婿殿を見上げている。
「それでは、エリーゼもルビンシュタイン家で出産すればいいとして、馬車で一緒に王都へ向かい、しばらくはタウンハウスでごゆるりとされたら、いかがでしょうか?エリーのことをよく知っている使用人もたくさんおりますし、何かと安心なのではございませんか?」
遠慮がちにルビンシュタイン公爵は、婿殿を見上げる。
「ええでは、最初は馬小屋でかまいませんから、藁のベッドをご用意していただけますか?」
「は?」
「納屋で板敷の上にラグを敷いていただいても構いません。3か月間は、それで十分でございます。」
モーガンが言っている待遇は、モントリール公爵夫人への当てつけなのだ。仮にも王太子殿下とその妃殿下を粗末な馬小屋や納屋の中で新婚生活を送らせたとあっては、いくら夫人の命で会ったとしても不敬罪で許されるべきものではない。
追手の眼をくらますためというより、意地悪で粗末な住まいしか与えられなかったと考えた方が自然で、いずれ王太子が、王城に戻った時のことを思案しなかったのかと疑う。
「俺が王城へ戻るということは、そういうことを意味しているのです。それをエリーゼが孕んだ途端に、このような豪華な離れに住まいを移していただいたのですからね。二心があるとしか、疑いの余地はない。」
モントリール夫人は、急にガタガタと震えはじめ、その場にへたり込んでしまったのだ。
「どういうことだ?メイプル?殿下の言われている意味がよくわからないのだが、説明してくれないか?」
「わたくしも、おっしゃっている意味がよくわかりませんわ。殿下を追手から目の届かないところへとばかり案じて行動しておりましたから。」
「ということは?殿下を馬小屋に泊めたということを認めるのか?まさか……!3か月間も?」
ルビンシュタイン公爵までもが青ざめガタガタ震え出した。そして、モーガンに向かい、
「知らぬこととはいえ、王太子殿下に飛んだご無礼を働いてしまっていて、まことに申し訳ございません。それならば、わが領地の方なら、十分なもてなしをさせていただきましたことを付け加えさせていただきます。」
「ルビンシュタインよ。それだけではないのだ。公爵夫人は、我々をもてなすことをせず、百姓として、この家に置いていたのだ。使用人としての評価が上がった時だけ、馬小屋から納屋に行けたのだ。馬小屋は1か月間おったわ。納屋では2か月以上、暮らしたぞ。」
「「大バカ者が!!」」
一瞬、ルビンシュタイン公爵の声がハモったのかと思ったら、モントリール公爵まで、王都から早馬で駆けつけていて。ルビンシュタインが、出かけにモントリール公爵に連絡を入れておいたので、領地に戻ってこられたというわけ。そして、その直後。
パシーン!パシーン!パシーン!
公爵夫人は、旦那から殴られ、その場に倒れこんでしまっている。
「あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。」
あれから懸命の努力の末、やっとの思いで懐妊が分かったのは、都市の暮れになってからのこと。
それと同時に、懐妊したことが分かったので住まいが納屋から離れに昇格したことも嬉しい。
やっと、まともな家具がそろっている。思えば、馬小屋の藁の上から始まり納屋の板敷のラグ、そして離れのベッドとこれで安心して、子供が産める環境がそろったというもの。
王都にいる父のもとへは、叔母を通して、知らされることになり、これからは乳母探しが目下の目標となる。
ルビンシュタイン公爵は、次の休みの日に早馬で、エリーゼの様子を見に来たのだ。
「エリーゼ!」
父は、離れまで、叫びながら走ってくる。
部屋の中にいたエリーゼは、懐かしい声に扉を開けると、見覚えのある大きな体に抱きすくめられる。
「よかった。元気そうでよかった。愛しているよ。エリー。」
父は、エリーの髪の毛がぐちゃぐちゃになることも気にせず、わしゃわしゃと頭を撫でまわす。
「お父様……。」
「もうエリーだけのカラダではないのだから、大事にするがよい。」
「ルビンシュタイン公爵閣下、ご無沙汰しております。」
「ああ。国王陛下はとっくに、お許しされておるよ。だが、モーガン殿下の従兄弟のクロード・ハイドンが学園を退学していって、母上の王妃殿下が離縁されてしまわれたよ。」
「えっえー!また、どうして?そんなことが……。」
「モントリール家の馬車を借りて、隠密裏に王都へ帰る。そこで、学園に行き、実際何があったのか見てくるべきだと思うのだがね。」
しばらく考え込むモーガン様
「わかりました。では、俺一人で、馬で帰ります。エリーゼは身重なので、ここに残れ。いいな?」
「はい。旦那様のお帰りをお待ちしております。」
このやり取りにルビンシュタイン公爵は、焦る。駆け落ち婚は、結婚と同等ということを失念していたから。てっきり、王太子を揺さぶれば、エリーゼと共に王都へ帰り、ルビンシュタイン家で、エリーゼが出産という運びになると信じていたからこそ、ハイドンのことを言ったまでに過ぎない。
嫁しては夫に従え である。
もう自分の娘であって、自分の娘でない。そのことに焦るとともに、ずいぶん頼もしくなった婿殿を見上げている。
「それでは、エリーゼもルビンシュタイン家で出産すればいいとして、馬車で一緒に王都へ向かい、しばらくはタウンハウスでごゆるりとされたら、いかがでしょうか?エリーのことをよく知っている使用人もたくさんおりますし、何かと安心なのではございませんか?」
遠慮がちにルビンシュタイン公爵は、婿殿を見上げる。
「ええでは、最初は馬小屋でかまいませんから、藁のベッドをご用意していただけますか?」
「は?」
「納屋で板敷の上にラグを敷いていただいても構いません。3か月間は、それで十分でございます。」
モーガンが言っている待遇は、モントリール公爵夫人への当てつけなのだ。仮にも王太子殿下とその妃殿下を粗末な馬小屋や納屋の中で新婚生活を送らせたとあっては、いくら夫人の命で会ったとしても不敬罪で許されるべきものではない。
追手の眼をくらますためというより、意地悪で粗末な住まいしか与えられなかったと考えた方が自然で、いずれ王太子が、王城に戻った時のことを思案しなかったのかと疑う。
「俺が王城へ戻るということは、そういうことを意味しているのです。それをエリーゼが孕んだ途端に、このような豪華な離れに住まいを移していただいたのですからね。二心があるとしか、疑いの余地はない。」
モントリール夫人は、急にガタガタと震えはじめ、その場にへたり込んでしまったのだ。
「どういうことだ?メイプル?殿下の言われている意味がよくわからないのだが、説明してくれないか?」
「わたくしも、おっしゃっている意味がよくわかりませんわ。殿下を追手から目の届かないところへとばかり案じて行動しておりましたから。」
「ということは?殿下を馬小屋に泊めたということを認めるのか?まさか……!3か月間も?」
ルビンシュタイン公爵までもが青ざめガタガタ震え出した。そして、モーガンに向かい、
「知らぬこととはいえ、王太子殿下に飛んだご無礼を働いてしまっていて、まことに申し訳ございません。それならば、わが領地の方なら、十分なもてなしをさせていただきましたことを付け加えさせていただきます。」
「ルビンシュタインよ。それだけではないのだ。公爵夫人は、我々をもてなすことをせず、百姓として、この家に置いていたのだ。使用人としての評価が上がった時だけ、馬小屋から納屋に行けたのだ。馬小屋は1か月間おったわ。納屋では2か月以上、暮らしたぞ。」
「「大バカ者が!!」」
一瞬、ルビンシュタイン公爵の声がハモったのかと思ったら、モントリール公爵まで、王都から早馬で駆けつけていて。ルビンシュタインが、出かけにモントリール公爵に連絡を入れておいたので、領地に戻ってこられたというわけ。そして、その直後。
パシーン!パシーン!パシーン!
公爵夫人は、旦那から殴られ、その場に倒れこんでしまっている。
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