上 下
8 / 11

8.

しおりを挟む
 エリーゼとゴードン殿下が駆け落ちして、1か月、いつまで経っても、登校してこない二人の席には、なぜだか、花瓶にお花が活けられている。

 駆け落ち話が、どういうわけか無理心中話にすり替わっていて、実らぬ恋心が殺意に代わってしまったという王太子殿下の悲恋を面白おかしく吹聴した奴がいる。

 クロード・ハイドン。クロードは、ゴードンの実母の兄の子で、ゴードンとは従兄弟の関係になる。

 当然、クロードには、王位継承権なるものがない。小さい頃は、何もわからず、一緒に木登りなどして、遊んだものだが、長じるにつれ、ゴードンは、王子としての教育が課され何事も特別扱いをされていることに、ムカつく。

 それに婚約者に選ばれた令嬢は、前からクロードも狙っていたエリーゼだと聞いてから、余計敵愾心をむき出しにするようになったのだ。

 「許せない!アイツだけ、いつもいい思いをしやがって。」

 逆恨みだけで、死んだことにされては、かなわない。学園内の噂がついに、王家やルビンシュタイン公爵の耳に入ることになり、王妃は、実家に帰されることになったのだ。

 そして、クロード・ハイドンは、廃嫡の上、貴族籍を廃籍になり、学園も自主退学していく。

 残すところ、後半年で卒業だというのに。

 王妃を実家に帰してからというもの、メルセデス国王陛下は、公務が回らず、苦悩している。ゴードンがおれば、王太子の仕事として、王太子に振ることができるが、王太子不在の今、その仕事のすべてを国王が引き受けねばならない。

 王妃とて同じで、王妃不在ならば、国王が婦人会などの公務をすべて引き受けざるを得なくなり、とても手が回らない。王妃などいなくても、若いエリーゼがいれば、王妃の仕事をエリーゼに触れるのだが、そのエリーゼをゴードンが連れまわしているのだから、エリーゼに振ることはできない。

 もとはと言えば、隣国の王女との縁談を本人の意思をロクに確認せず強行してしまったからなのだが、自身の日を認めざるを得ない。

 それでも、国家の体面を保つことの方が先決で、愛だの恋だのは、二の次でいいと思っていた。国王自身の結婚も、親から押し付けられた政略によるもので、王妃に対して、愛しいという感情を持ったこともない。

 王妃とは、離縁するつもりでいる。

 此度のことは、クロードの横恋慕を発端としていることは明らかだが、幼い時、ゴードンとクロードを一緒に養育してきた王妃の責任は重い。

 クロードをゴードンの臣下として、育てなかったことへの贖罪の意味を込めて離縁するのだ。

 次は、ゴードンのように恋愛結婚してみるのも悪くはないが、恋愛って、どうやってするのか?見当もつかない。

 この際だから、次の王妃となる女性は、生娘を選ぼうと思っているぐらい、まだまだ気持ちもカラダも若い。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 その頃、モントリール領では、クスクスと笑い声を出しながら、夢中でお互いのカラダをまさぐることに耽っている二人がいる。

 もちろん、納屋の中でのこと。

 学園で死んだという噂がなされていることなど、何も知らない。まあ、もっとも社会的には葬られたも同然なのだが、ただ今、絶賛発情中で、そんなことは気にもしていない。

 人間ぐらいが、一年中、発情しっぱなしになる生き物で、他の生き物は、だいたい春が多いか?一年に一度だけ、恋の季節を迎える。

 あらかた、服を脱ぎ捨てると、二人でお互いのカラダを観察する。どこもけがをしていないか、触って、触って、観察していくと、次第にそれが愛撫へと変わっていく。

 クスクスとした笑い声が、だんだんくぐもった声に変化していく。

 そして、お互いに相手のカラダにキスをし合って、気分が上昇していく。

 今日は、このまますぐに抱き合うのかと思えば、おもむろにゴードンが「お仕置き」をすると言い出す。困惑した表情を浮かべるエリーゼ。

 「お仕置きとは、わたくし、何かやらかしましたか?」

 「エリーが美しすぎるからだ。」

 「は?それでは、わたくしもゴードン様をお仕置きしなければなりませんね。」

 「なぜだ?」

 「だってぇ。ゴードン様は素敵すぎるのですもの。その逞しい胸があらわになっただけで、わたくしをこんな淫らな女にしてしまいますもの。」

 「そ、それは、違う。エリーの前だけでしか、俺は発情しない。エリーは俺の前だけ淫らな女になってくれたらいいのだよ。」

 何のことはない。お互いに惚気あっているだけのこと。

 ゴードンは、椅子に浅く腰かけ、エリーゼを跪かせ、エリーゼの顎を片手で、クイと持ち上げ、ねちっこいキスをする。

 エリーゼの後頭部を抱えながら、深く浅く、角度を変えながら、貪るように囀るように、その気にさせていく。

 二人の口の間には、銀色の糸が引き、月光に反射して、より艶めかしい。

 エリーゼは、ゴードンを手に取り、上下にこすり始める。

 半年間、愛の交歓をしているうちに、ゴードンが「お仕置き」という言葉を口にするときは、手コキをしてほしいという合図だとわかってきたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。 「悪役令嬢は溺愛されて幸せになる」というテーマで描かれるラブロマンスです。 主人公は平民出身で、貴族社会に疎いヒロインが、皇帝陛下との恋愛を通じて成長していく姿を描きます。 また、悪役令嬢として成長した彼女が、婚約破棄された後にどのような運命を辿るのかも見どころのひとつです。 なお、後宮で繰り広げられる様々な事件や駆け引きが描かれていますので、シリアスな展開も楽しめます。 以上のようなストーリーになっていますので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。

あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?

待鳥園子
恋愛
幼馴染みで従兄弟の王太子から、女避けのための婚約者になって欲しいと頼まれていた令嬢。いよいよ自分の婚期を逃してしまうと焦り、そろそろ婚約解消したいと申し込む。 女避け要員だったはずなのにつれない王太子をずっと一途に好きな伯爵令嬢と、色々と我慢しすぎて良くわからなくなっている王太子のもだもだした恋愛事情。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

離縁希望の側室と王の寵愛

イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。 国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。 いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──? ※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。 シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...