ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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3度目の正直

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 のぞみは娘のカラダかなえの中に入った。

 同級生は皆、倒壊した校舎の中にいて、全員が死亡したのにかなえだけは、その時たまたまお手洗いの個室の中にいて助かったのだが、水洗の水タンクが頭にぶつかり意識を失っていたのだ。

 その日はどういうわけかお腹がゆるく、朝から何度もトイレに行っていたことで助かったのだ。トイレは柱が建て込んでいて、特に個室にいる場合は、助かる可能性が高い。

 赤薔薇女子大学付属赤薔薇女子学園高校は、赤薔薇女子学園の創設者の別荘を校舎にしていたため老朽化していたことから、あっさり倒壊してしまったのだ。

 かなえがいたトイレは、新築の鉄筋コンクリート造の建物の中にあるトイレで、かねてからウオッシュレットが気に入って、わざわざここまでトイレに来ていたのである。

 この新築校舎は職員室や会議室として使われている建物だから、授業中はほとんどの人が旧校舎の中にいて、被災した。

 「大丈夫か?パパを一人にしないでおくれ。」

 心配そうな顔で、恒夫がベッドで寝ているかなえの手を握っている。

 「パパ……、でも何も覚えていないのよ。ママは?」

 ママ……、のぞみがどうなったかかなえはもちろん知っている。

 恒夫はかなえの問いに言い淀んでいる。

 「ママは妹と一緒に虹を渡って行ったよ。」

 え?それ、人間の場合でも使うの?まぁ意味は分かるけど……。

 それからは恒夫とかなえは寄り添うように生きる。

 恒夫は外で飲んで帰ることもなく、仕事が終わればまっすぐ帰宅するようになった。

 家政婦さんの家も被災し、ご家族が亡くなられたため、仕事を辞められたので、かなえは自分でできる範囲の家事をこなすようになったのだ。

 なんといっても前々世と前世の間にカトレーヌ聖女様のところへ修行に行ったわけで、それなりにできる。

 そして恒夫には内緒だが、一度食べた食事を再現する聖女魔法を使っているから、外食した次の日に必ず再現メニューを出すと驚かれている。

 「かなえはお料理が得意なんだね。将来は、そっちの道へ進む?」

 「いいえ、ママと同じように手芸がしたいです。」

 そう言って、作りかけの作品を持ってくる。

 「ここまでがママが作って、ここから先は私が作っているところよ。」

 その作品は、テーブルクロスで総レース編み、売ればいったいいくらの値段がつくかと思えるほど精巧にできている。

 そして、説明されても、手がどこで変わったか見分けがつかない。

 作っている人の中身は同じだから、そらぁ見分けがつかなくて当然のこと。

 「すごい!これ売れば1000万円はくだらないよ。」

 「またぁ、パパお金のことばっかり言うのね。」

 「いや、それぐらい芸術性が高いと言っているんだ。赤薔薇など進学せずに、芸術大学を目指せばどうだ?」

 「ええー!バカだから無理よ。」

 「そんなことないよ。パパの娘だから、今から勉強すれば間に合う。なんならパパが家庭教師するよ。」

 恒夫ってこんな人だっけ?のぞみが生きているときの恒夫は、子煩悩のかけらもなく自分の出世にしか興味がない男だったのだ。

 二言目には必ず、「俺が出世しているから、お前は気楽に手芸などに興じていられるのだ。」「いったい誰のおかげで食わせてやっていると思っている。さっさと脱いで俺にサービスしろ!」としか言わなかった男が、同じ人間とは思えない。

 恒夫も転生して誰かのカラダが入っているのかもしれない?

 翌朝、学校へ行く前に女神様のところへ行き、聞くと

 「そんなわけないじゃない?きっと、のぞみちゃんが死んで心を入れ替えたのよ。きっとそうよ。」

 今、赤薔薇女子学園は、大学の一部を間借りして、残った先生と大学教授だけで授業を再開している。

 確かに赤薔薇はお嬢様大学ではあるが、アカデミックなところが何一つない。花嫁修業をするための大学と言うべきか、いい男を漁るための大学と言うべきか、はわからないがもっと専門性が高い大学を選んだ方がいいのかもしれない。

 それからは少し勉強してみようと思う。聖女の魔法があるからスーパー速読なんてお手の物である。

 パラパラとページをめくっただけで、すべて本の内容が頭に入る魔法もある。

 最初は、喜んで恒夫も勉強に協力的だったが、あまりにもかなえの理解が早すぎて、追いつけないほどである。

 恒夫は、こんな優秀な娘はやっぱり自分の血を引いているからで、勉強に関して言えば、少しものぞみに似ているところがなくホッとしている。

 容姿と手芸の腕前は、のぞみに似ているが、あとはすべて自分に似たと思い込んでいるところがおかしい。
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