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偽聖女様を虐めたと成敗される

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 女神様がリチャード様の兄上様を解毒に成功し、日に日に兄上様が元気になられる。

 キャサリンとリチャード様は気づかずにいたのだが、その頃ブルーフォード王国では大騒ぎになっていたらしい。

 第2王子のリチャード様がルビンスタイン国へ聖女様とのお見合いに出かけている最中に、第1王子のロバート様が突如として、失踪してしまわれたからである。

 ロバート様の寝室では、争った形跡もなく突如としていなくなられたことは不可解としか言いようがない。

 いくら弱っている王子様とはいえ、大の男にかわりはない。侍医の話によれば、かなり衰弱されていて歩けるような体力も残っておらず、どこに行かれたかは謎に包まれたままである。

 憚りに探しに行っても、城の中の庭園に探しに行っても、どこにも見当たらない。

 当初は第2王子派の一派が疑われ、拷問されても皆知らないと首を横に振る。

 第2王子のリチャード様が留守の間に何かしかけることは考えにくく、事態は闇の中へ。
















 あの集団見合いが終わってから3か月が過ぎる。その間、リチャード様も兄上様も一度もブルーフォード国に帰ろうとなさらない。

 リチャード様はキャサリンと婚約したからで、王配となるべく教育があるからなのだが、兄上様はどういうわけかルビンスタイン国を甚く気に入り、帰国を促しても帰ろうとなさらない。

 リチャードもキャサリンもブルーフォード国で、ロバート王子失踪事件なんてことになっていることなど知る由もない。

 今日も今日とてキャサリンとリチャードは結婚前だというのに、イチャイチャ、ちゅっちゅしている。それをうらやましそうな顔で見ているのがロバート様。

 「兄上!そんなに見ないでください。キャサリンが恥ずかしそうにします。」

 「リチャード、お前はいいよな。愛する人といつも一緒にいられて、俺の愛する女性は死ななければ会えない女性なのだから。」

 「え?それはどういう意味ですか?兄上の婚約者は祖国ブルーフォードに公爵令嬢がいらっしゃるでしょう?」

 「誰があんなブスとなんて、冗談じゃない!俺はあんなブスと結婚するのが嫌で、それで仮病のフリをしていたら、本当に病にかかってしまっただけなんだ。」

 「ええ?」

 「お前はいいよな。俺は先に生まれたというだけで、あんなブス令嬢を押し付けられたんだぜ。誰があんなブスで年増の女と結婚したいものか!俺はカラダに悪いようなものばかりを選んで食べていたら、運よく病気になれた。これで婚約解消が実現できると期待したのだが、あのブスはお見舞いに来たがり、来ては俺を押し倒そうとしたんだぜ。信じられるか?」

 「では、どなたのことが愛する女性なのですか?死ななければ会えないなどと……?」

 「よくぞ聞いてくれた!俺の愛する女性は、あの時の命の恩人たる女神様だ。」

 「えーっ!」

 女神様は公爵令嬢の婚約者様よりもはるかに年増、いや年上なのだがそれに気づいていない様子。

 「あんなにも美しく、聡明な女性を見たことがない。連絡先を交換する前にあの世へ行ってしまわれて。聖女様なら女神様の連絡先をご存知だろう?教えてほしい。」

 「わたくしもよく存じませんのよ。でも聖女の魔法があれば、女神様のところへ行けはしますが……、お忙しい女神様ですから会えるとは限りませんわ。」

 「そうか、会えるなら会いたい。一度、ブルーフォード国に帰り、あのドブスと決着を付けてからのほうがよかろう。明日にでも帰るから、女神様とアポイントを取っておいてくれ。」

 そう言えば、女神様の名前を知らない。いつも「店長」か「女神様」としか呼んでいないから。

 早速、キャサリンは転移魔法で女神様のところへ行くと、ちょうどお客様が見えていた。赤い国との侵略戦争で、前線で戦っていた兵士らしき男性、味方の裏切りに遭い貶められた命らしい。

 女神様はその男性にあれやこれやと勧めているが、気に入った肉体がないらしい。

 キャサリンは店内に置いてある椅子に腰かけ両足をぶらぶらさせている。その男性は復讐心で燃えている。誰が何のために裏切ったのか?だからどうしても戻って戦いたいらしい。

 でもキャサリンから見ても男性の肉体は損傷が激しい。いくら女神様が修復しようとも、あの肉体では無理。

 だから男性に次々と肉体を勧めている。

 「これなんか、よくお似合いだと思いますよ。」

 「こんなヒョロヒョロの痩せっぽっちでは、戦場で体力がもたない。」

 「それでは太めのこれなどは?」

 「そんなデブ、動きが俊敏にできない!俺はいいから、あの娘からしてやれ。」

 その男性はキャサリンを指さし、諦めたようにつぶやく。

 「ああ、あの娘は聖女様ですよ。あの娘はお客さんではありません。前にこの店を利用した娘ですから。」

 「なに?聖女様と言うことは魔法が使えるのか?おい、娘。俺に魔法を教えろ!」

 その兵士は前世読んだラノベを思い出し、キャサリンに無理難題を吹っかける。

 キャサリンは巻き込まれてはかなわないとばかりに、

 「なんか取り込んでいるみたいだから、後で来るね。」

 そそくさと帰ったフリをして、自身に隠蔽魔法をかけ様子を見る。

 「チっ。逃げやがったか。」

 仕方なく元兵士は、女神様が強く勧めるイジメで自殺に追い込まれた高校生のカラダを買うことにしたのである。

 弱っちい体つきだったが、なんせ若いから鍛えれば、そこそこのカラダになるかも?という伸び代を買ったのだ。

 そして、さっさと転生していく。

 女神様はキャサリンが隠蔽で潜んでいることはお見通しなのだ。

 「ごめんね。お待たせしちゃって。今日は何の御用かしら?」

 キャサリンは隠蔽魔法を解き、

 「実はリチャード様の兄上様ロバート様と言うのだけど、女神様のことを愛する女性と言っています。あんなに聡明で美しい女性は見たことがない。できれば結婚したいらしいです。」

 「うん。それは事実なんだけど、女神は人間の男性とは結婚できない決まりがあるのよ。まぁ、わたくしが人間界へ転生して、そこで恋に落ちて結婚することはできるけど、女神の身分のままでは、無理な話なのよ。」

 「でも前に異世界の神と聖女様がご結婚されたという話を聞き及びました。」

 「ああ、木偶の坊と聖女様ね。聖女様は神と同格なので、聖女様は神と結婚できるけど、ロバート王子は聖人でもないから、普通の人間と女神は結婚できないのよ。」

 そういうものなのか。それであればロバート王子の失恋は決まったようなもので、それをどう本人に伝えるかが問題となる。

 ついでに女神様の名前がわかったのだが、ステファニーであることをロバート様に伝えるべきかどうか悩む。

 とりあえずリチャード様にステファニー女神様とロバート様は結婚できないことを伝えると、

 「兄貴、がっかりするだろうな。その件は俺から伝えておくよ。」

 リチャード様にお任せすることにして、キャサリンはお茶の用意をする。女神様のところで変わったお菓子を頂いてきたから、前に行きたいと願っていた平べったい顔の民族のお菓子、かわった包装紙で色とりどりが綺麗。一つ味見をすると、これがなかなかに美味しい。

 聖女様がこの製菓会社の娘として、転生したらしいという話は聞いたが、毎日こんな美味しいものが食べられるのなら次は、絶対平べったい顔に生まれ変わりたいものだと思う。

 そしてあの前線で戦っていた兵士の男性も平べったい顔に転生していった。ということから、ますます平べったい顔に興味を持ち始める。

 翌日、結婚のご挨拶も兼ねて、ロバート様とリチャード様とともに一度ブルーフォード国へ行くことになった。

ブルーフォード国では、お見合いから久しぶりに戻られたリチャード様を見て、歓喜に震えていらっしゃるご様子でした。

 しかも聖女様の御婚約者を携えての帰国は、まさに王者の風格があったのだ。

 それに対して、第1王子のロバート様はと言うと、誰もロバート様の顔を覚えていらっしゃらない。

 いつも病床にいらっしゃったから、元気なころのロバート様のお姿がわからないでいる。

 出迎えた宰相も

 「リチャード様、よくお戻りになられました。この度はご婚約おめでとうございます。して、ご一緒にいらっしゃるお方はどなたでございましょうか?お会いしたことがあるような気はいたしますが……?」

 「兄上の第1王子のロバート殿下でございますよ。」

 「ええー!ロバート殿下と言えば、行方不明になられて、お亡くなりになられたと伺っておりましたが……?」

 なんと!失踪したまま死んだことになっていたとは……。

 「失礼ながら犬や猫などは、死ぬ前に人の前から姿を消すと聞いておりますゆえ、それと同じで死期が近づいたことを察しられて、失踪されたものだとばかり思っておりました。それがこんなにお元気な姿になられて、そうそう御婚約者様のロザリア公爵令嬢様は、しばらくの間、喪に服されていたと聞き及んでおります。お元気な姿をロザリア様に見せて差し上げてください。きっと、お喜びになられるでしょう。」

 「げ!アイツまだ独り身なのか?それならば、俺は死んだことになっておこう。そのほうがいい。アイツと結婚するぐらいなら、死んだほうがマシだ。いや、待てよ?婚約破棄すればいいだけの話ではないか?せっかく女神様に助けていただいた命、無駄にするのは惜しい。」

 父のブルーフォード王に帰国の挨拶を済ませ、リチャードは両親とともにキャサリン聖女様との婚儀の打ち合わせをする。その間、ロザリア公爵令嬢を呼び出し、見事、婚約破棄を果たすのであるが……。

 「なぜでございますか?わたくしはロバート殿下のお帰りをずっと待ち望んでおりました。それなのに……まさか、あの聖女様のせいでございますか?」

 「はぁ?聖女様は弟の婚約者である。聖女様とは何の関係もない!」

 「そんなはず、ございませんわ。あの病弱なロバート殿下がここまでお元気になられたのは、聖女様のせいなのでございましょう?」

 「いやいや待て待て、確かに聖女様も命の恩人の一人ではあるが、最後に俺の命を救ってくださったのは、美しい心を持った愛する女性……、だがもう彼女とは会えない。ふられたんだ。だからこの話はこれでおしまいだ。長きに渡る妃教育、大儀であった。」

 ロザリア公爵令嬢は、その場で悔し涙を流し続ける。

 許せない!他人の男を奪っておきながら、何が聖女様よ。まさしく逆恨みと言うしかないということに気づかない。
 
 心に深い闇を持ったまま、ロザリアは機会をうかがう。意外にもその機会が早く訪れることに天が味方をしてくれていると信じている。

 ブルーフォード国ではキャサリン聖女様とリチャード第2王子の婚約披露パーティが催されることになる。

 明日の夜と言う急な話だが、大勢の人がお祝いに駆けつけてくれることになったのだ。
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