ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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偽聖女様を虐めたと成敗される

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 今日は、王立学園の卒業式、朝からの卒業式だというのに婚約者からエスコートもされず式に出席後、卒業記念祝賀パーティのためいったん帰宅して、盛装してから出かけるが、それも婚約者は迎えに来てくれない。

 ひとり寂しく会場の扉を開けると、やはり注目されてしまう。

 婚約者であるロビンソン王太子殿下は、学園の2年生の時に転校してきた聖女様に夢中だから、今日、婚約破棄されることは眼に見えている。

 5歳の頃から長きに渡るお妃教育はいったい何だったんだろうとつくづく思う。

 本来なら、昨年、お妃教育は免除されるはずで、でも教育係の担当者が今終わってしまうのは、あまりにも残念過ぎる?などと言われ、継続することになったのである。

 どうして?ロビンソン王太子殿下の御心はもうとっくに離れ、聖女様のものになっているというのに。

 なぜ継続させられたのか、いまだに謎である。

 学園長の挨拶が終わり、国王陛下の挨拶が始まる。いつ婚約破棄を言い渡されるのか、気が気でない。それともパーティが終わってから呼び出しでもあるのだろうか?

 多くの同級生は、パーティ後そのままチャペルで結婚式を挙げるので、女生徒はほとんどがウエディングドレス姿である。

 聖女様のほうを見ると、やはりウエディングドレス姿であったので、このまま殿下とご結婚されるおつもりのようだ。殿下は、聖女様にべったりとくっついていらっしゃる。

 というわたくしも今日の結婚式はないとわかっていても、ウエディングドレス姿である。侍女にいくら言っても聞いてもらえなかったから。

 「お嬢様、大丈夫ですよ。ロビンソン殿下は、きっとお嬢様とご結婚されますとも。だから今の今まで、婚約破棄のお話をされなかったのでございましょう?結婚式の当日に婚約破棄など聞いたことがございませんわ。そんな非常識なこと、王家が許されるはずはございません。」

 言われてみれば確かにその通り。王家は常に国民の模範となる存在だから。当日の婚約破棄などあり得ない話なのである。だから侍女の言う通り、ウエディングドレス姿で来たのだが、不安は過る。

 国王陛下の挨拶も終わり、歓談タイムになった時、わたくしの周りをふと見ると、いつの間にか殿下の護衛の騎士に囲まれている。

 「?」

 そこへ聖女様を伴って、殿下がやってきたのである。

 「キャロライン・ルビンスタイン公爵令嬢、貴様との婚約は今をもって破棄させてもらうことにしよう!」

 予想通り、やっぱりと言うべきか、高らかに宣言されてしまったのである。その途端、周りにいた護衛の騎士から刃を向けられたことには驚く。

 今にも切り殺されそうな状況がわからない。婚約破棄だけでいいではないか?予想通りではない展開に妙に落ち着いているキャロライン。

 「貴様は俺と聖女様の仲を邪推し、聖女様を学園内で虐めぬいた咎により、成敗させてもらう。」

 「は?なぜわたくしが聖女様を虐めなければならないのでございますか?」

 「それは貴様が俺と聖女様の仲を邪推し、嫉妬したからであろう。」

 「わたくし、嫉妬など致しておりません。殿下が聖女様といい仲になっておいでだということは周知の事実でございますれば、それでお妃教育の免除、修了を願い出たのでございます。」

 「うむ。確かに妃教育係から、キャロラインが妃教育の中断を申し出たと聞いておる。聖女様、これはいったい?」

 「殿下、こんな女の戯言を真に受けていらっしゃるのでございますか?私は確かにキャロライン様から教科書を破り捨てられたり、階段から突き落とされそうになったり致しました。聖女である私の言葉に嘘があるとお思いで?」

 「う、う、うむ。確かにそうだな。聖女様が嘘を吐かれるはずがない。キャロラインを成敗いたせ!早くやれ!」

 何が何だかわからないまま、裁判も受けずにこの場で処刑されるみたい?咄嗟に、キャロラインは、跪き、剣の下に入る。

 剣が振り下ろされた瞬間、キャロラインのカラダからキラキラと光があふれ出て……、場内は騒然となる。

 「聖女様だ!」

 声がかかるも、その時はすでに遅し、キャロラインは絶命した後のこと。

 突如、地響きとともに会場の明かりが消え、真っ暗になる。

 「誰が、聖女様を殺した?お前か?お前か?……誰も返事をせぬか?ならば、この場にいるものは全員、同罪とみなす。」

 突如現れた巨人?神様の手により、その場にいた人間全員がゴリラに変身させられる。

 「これから1万年の間、お前たちは、その姿のまま生きろ。死んでも人間には、戻れない。めったに現れない聖女様を手にかけてしまったのだからな。この国は、亡ぶ。」

 「そ、そんな……。悪いのはバカ息子と偽聖女でございます。我々は何も悪いことをしておりません。」

 王冠をかぶったゴリラ、元国王陛下は、跪き神に許しを乞うも

 「だが聖女様が殺されるところを黙認していただろう。」

 壁と言う壁は鏡に代えられ、己の姿を嫌でも見るようになった。元人々は、己の醜い姿に発狂している。

 「やっぱりキャロラインは聖女様だったんだ!それにしても、聖女様は?」

 ロビンソンは、さっきまで隣にいたはずの聖女様を探しているが、どこにも見当たらない。偽聖女様は、ゴリラではなくゴキブリに姿を変えさせられていたのだ。着ていたウエディングドレスは、その場で脱ぎ捨てられたままになっていて、その中でゴキブリ姿になった偽聖女様は、早く、この場からの脱出を試みているのだが、踏みつぶされそうになりながら、出口へ向かっているところ。

 誰かが、ゴキブリを見つけて、そのまま食べた。

 「うわっ!まずい!」

 吐き出したら、それが聖女を名乗っていた偽物の聖女様だということがわかる。

 そこからは、偽聖女様の逃走劇が始まる。

 「だれか、そのゴキブリをつかまえろ!殺してかまわない!」

 「きゃぁっ!やめてぇ!だって、聖女様が実在するなんて、嘘だと思っていたんだもん。だから私が聖女を名乗ったところで……、ギャ!」

 何度、殺されても、手足をもぎ取られバラバラになっても、再びゴキブリとして生まれ変わる姿に今さらながら神様の言ったことが現実味を帯びてくる。1万年間、死んでも狂っても、この姿に変わりがない、ということを思い知らされるのだ。

 ゴキブリは夜行性だから、夜目が利くはずなのに、元人間の偽聖女様だから、まったく暗いところが見えない。だから、すぐ捕まるし、踏みつぶされるのだが。踏みつぶされた己のカラダの横で、再びゴキブリとして生まれるものだから。

 「もう、いい加減にしてよ~。」叫べば叫ぶほど、自らの所在を示しているも同然で、また狙われ、踏み殺されてしまう。

 もう百回は踏まれただろうか?こうなりゃ、ゴキブリとして天寿を全うしてやる!心に決めるもすぐに見つかり、また殺される。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 「ようこそ!肉体ブティックへ。」

 「?」

 ここは三途の川の一歩手前にあるその名も「肉体ブティック」女神様直営の店である。

 「あなたのことは異世界の神様から聞いているわ。まったくバカな偽聖女にひっかかった王子様もいたもんね。あなたが本物の聖女様なのに、それを気づかず、成敗してしまうなんて、あんな国滅んで当然よ。」

 「あの……、わたくしやっぱり死んでしまったのですか?」

 「そうよ、なんて名前だったかしらね。ロビンソンだっけ?あのバカ王太子に、よ。あなたの仇は、異世界の神が取ってくれて、ちょっと大笑いなことになっているわよ?」

 「え?それはどういう?」

 「ええっとね、あの偽聖女様、ゴキブリの姿に変えられて、何度踏みつぶされてもまたゴキブリに転生しちゃう刑よ。他の人たちは人間以外のゴリラみたいな姿に変えられてしまっているのよ。それもむこう1万年間、その姿になるっていう刑よ。」

 「え?では、両親も?」

 「いえいえ、あの会場にいた人たちだけで、国の大半の人たちまではお咎めはないらしいわ。でも、国王と王太子はゴリラ、その他の貴族もあの場にいたならゴリラになっていると思うわ。」

 それを聞いてほっとしている。キャロライン付きの侍女は、もうすぐ結婚を控えているから。ゴリラの姿に変えられてしまったら、結婚どころではなくなるだろう。

 両親は、領地に帰っているから無事だったのだ。本来なら、キャロラインの結婚式があるから、王都にいるはずなのだが、キャロラインが「結婚式などあり得ない!」と頑なに申し出て、母の体調がすぐれないから、父とともに領地で静養してもらっているところだったのだ。
 
 「それでここは?」

 「ああ、ここは肉体ブティックよ。前世非業の死を遂げた人が来る神様直営のお店なのよ。あなたのように、あの偽聖女様さえ現れなかったら、ロビンソンと二人で立派な跡取りを産んで、王妃様になれたものを、あの偽聖女のせいで命を落としてしまったから、もう一度、誰かほかの人の肉体を着てもらって、別の人生をリアルタイムで送ってもらうことができるお店です。」

 「はぁ……。」

 「それにあなたは死ぬ間際、聖女様に覚醒したのだから、今度の転生は、聖女様として転生できるのよ。どう?すごいでしょ?」

 「もう王太子と結婚したくないです。誰とも婚約などしたくない!でも、また聖女様として転生したら、誰か王族と婚約させられてしまうことがツライ。」

 「そうね、ツライわよね。聖女様であることを隠して転生するって言うのはどう?でもいずれ時がくれば、バレることは時間の問題か。」

 「あの……それでは、女神様のお力で生き返るということはできないですか?わたくしの魂を持ったまま、わたくしのカラダに入ってはいけないですか?」

 「え?あのカラダを修復しろと?最近、そういう申し出が多いわね。双子がいたという設定で……?うーん、どうかな?カラダを修復することはできるけど……。」

 「母が病気なんです。もし、わたくしが死んだことがわかれば、後を追うような気がするの。だから、お願いします。母を安心させてやりたいから。」

 「ちょっと、待ってて。異世界の神と相談しなきゃなんないから。」

 そう言ったきり、女神様はどこかへ出かけられた。その間、ヒマなので店内に吊るされている肉体を見て回ることにする。異世界人のものだろうか?平べったい顔に黒髪、抜けるような白い肌に碧眼の女性の肉体もある。

 キャロラインの瞳の色はエメラルドグリーンで、髪の毛と一緒である。

 あれはロビンソン様が5歳のお誕生日を迎えられた日。父に諭され、朝から磨き上げられ綺麗なドレスを着せてもらえたから、ご機嫌だったのに、急に王子様と婚約だなんて、話になり、翌日から妃教育なるものが始まったのだ。

 それ以来、ずっと公爵邸とお城を行き来する毎日、たまには外で遊びたいところを我慢してずっと妃教育のため時間を割いてきた。

 こうして、よその店へ行くことも王都の街へお買い物に行くことさえできない日々をひたすら送ったのだ。

 今、死ねてよかったのかもしれない。あのままロビンソンと結婚していたら、下々の暮らしぶりも知らず、一生王城に留め置かれる籠の鳥のようなもの。

 女神様には、待っててと言われたけど、どうしても気になり、領地の母のところへ様子を見にだけ行こうとしたら、急にカラダがふわりと浮く感じがしたと思ったら、もう領地の公爵邸の前にいた。

 急に現れたキャロラインに領民や公爵邸の使用人は驚くが、暖かく迎えてくれるものの、死んだときのカラダのままに行ったものだから、ひどく心配される。

 「キャロラインちゃん、どうしたの?血が出ているではないの!どこか痛い?これ、キャロラインちゃんの血?それにしては元気?」

 「あのね。お母様、わたくし聖女様に覚醒してしまったのよ。だからお母様の病気を治せるわ。でも、覚醒してすぐ死んじゃったから、今、女神様のところにいるのよ。少し女神様が席を離された隙に、お母様のことを心配していたらここに来てしまったのよ。」

 嘘は言っていないが、到底信じられない話に母は黙って頷く。

 「とにかくわたくしは大丈夫よ。これからのこと女神様がここの神様と相談してくださるから、まずはお母様の病気を治すことが先決よ。」

 「ああいたいた。やっぱり、ここにいたんだ。」

 女神様ともう一人、神様が治療中のキャロラインの傍に来る

 「あなたね、そんなカラダでウロチョロされたら困るわぁ。ちょっと待っててと言ったでしょ?戻ったらいないから、異世界の神とともに探し回ったわ。」

 言いながら、キャロラインのカラダを修復していく女神様、仕事が早い。

 「ついでに、お母様の病気も治しといたげる。もう決して病に倒れない立派な丈夫なカラダにしてあげるわ。」

 母は、ビックリして平伏している。キャロラインが母の耳元で「女神様よ。」と言ったからである。

 「お母様にご挨拶を済ませたら、行くわよ。」

 「それではお母様、永遠の別れです。お元気で、さようなら。わたくしは女神様と共に参ります。」

 「女神様、娘を、キャロラインを何卒よろしくお導きいただきますようにお願い申し上げます。」

 「ええ、ルビンスタイン公爵夫人、あなたの願い聞き届けました。あとはよろしく。御機嫌よう。」

 挨拶を済ませ、肉体ブティックへ戻ってきた。

 「女神様、ありがとう存じます。これで安心して死ねます。」

 「いやいや、ダメよ。ここで肉体を選んでもらうか、その肉体のまま、もう一度人生をやり直すかしてもらわないと。確か、さっきまでその肉体を選ぶって言ってなかった?」

 「もう母が健康になったので、できれば別の肉体がいいです。だって、ゴリラの王子様のお守りなんて、まっぴらごめんですわ。」

 「それはそうだけど……。なら、どうする?どの肉体がいい?」

 「あの……、男性でもいいですか?」

 「うん、まぁいいけど。でも男性で聖女様って?新興宗教の教祖様にでもなりたいの?」

 「やっぱりやめます。」

 「そうよね、辞めたほうがいいわよ。教祖様に祀り上げられサブウエイに変なもの撒き散らして、死刑にでもされても、もうここへは戻ってこれないから」

 「?」

 結局、キャロラインは、再び異世界で聖女様として生きることになるが、ゴリラの国ではない別の世界で。
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