ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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母親が恋敵

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 「ようこそ、肉体ブティックへ。あら、アナタ確か、復讐に燃えている人だったわね。なーに?今頃?復讐は遂げられた?」

 「わたくしが手を下す前に復讐は終わっているも同然でしたわ。それよりも、わたくしがいた世界と少し異なっているところへ転生してしまったみたいなので、返品させていただこうと思いましたの。」

 「ええ?ダメよ。お試しの1週間は過ぎちゃったじゃないの?」

 「あら、でも元にいた世界ではないようなので……。旧知の友も最初から存在していませんでしたし、それに隣国の名前が変わっておりましたわ。」

 「変ね……。」

 パラレルワールドのほうへ送ってしまったのかしら。そんなはずはない。でも、この娘は嘘を吐いているようには見えない。

 異世界の神に聞いてみようかしらね。

 「ちょっとここで待っててね、あ、そうだ正木さんとこでもらったお菓子があるから、これでも食べてて。」

 セレンティーヌの元のカラダの持ち主が転生したところの父親が経営しているニッポンの製菓会社のお菓子をいくつか出す。

 女神様が出て行かれた後、残されたのは色とりどりの積み木の山に見えるが、木製ではなさそう軽いが中に何か入っている模様。

 興味津々でその中の一つを開けようとするも薄い透明の包装紙?で包まれているため、なかなか開けられない。爪で引っ掻くも、爪の後がつくだけで破れない。1か所大きく傷がつくと、そこからは簡単にめくれる。

 箱の部分の紙は簡単に破れたのだが、中から銀色の紙で包まれた棒状?細長い袋がさらに入っていて、コレ本当にお菓子なの?と思う形状をしている。

 異世界のお菓子って、ずいぶん頑丈にできているのね。

 そこへ女神様が険しい顔をしながら、戻ってこられた。まだ異世界のお菓子を一口も味わっていないセレンティーヌは少々残念に思い、目の前にあるお菓子をいくつか異空間の中に隠す。

 女神様はそんなこと気にも留めていないご様子。

 「魔王が魔界から這い出てきたみたいなのよ。聖女様に冤罪をかけ処刑し、聖女様に嫉妬して殺してしまった人間の悪しき心が招いた結果なんだけど、魔王に元の魔界に戻っていただくには、聖女様の力が必要なのよ。こうしちゃいられないわよね。聖女様を招集しなければ……。」

 女神様は今まで肉体ブティックを経由した元聖女様と現在の聖女様を招集する。

 すぐに駆け付けたのが深尾妙子ことカトレーヌ・ベンジャミン、前世使っていたマンションのバルコニーと女神様の物置小屋を異空間でつなげたから。

 次に来てくれたのが、今お菓子を頬張っている聖女様のセレンティーヌの元のカラダの持ち主でパティシエになっているサロン・デュ・オールのオーナーsayako・masaki・shorn

 最後に来てくれた冤罪で処刑されたビクトリア聖女様で元タカラジェンヌの某国の王太子妃殿下苺いちえことichie妃殿下

 他にも何人かいたはずだけど、特に印象的だったこの3人で、いや前世エリザベスも含めて4人で魔王退治に乗り出すことにしたのだ。

 「詳細は先に話した通りです。まずは異世界へ行って、祈りを捧げてください。」

 「たったこれだけの人数では、無理ではございませんか?」

 「あなた方は1000年に一度しか誕生しない聖女様なのです。もっと敬われて、しかるべきところを勝手に嫉妬され、殺されてしまったのですよ。異世界の神も、あまりにも頻繁に聖女殺しが行われるから、いちいち復讐に懲らしめにいけないとこぼしていたわ。」

 「聖女様出現のバランスが壊れてきたということですね。」

 「そうなのですか?それで現代ニッポンでは聖女様が存在しないわけなのですね。」

 「それでは、わたくしなどはニッポンから行って、よくまぁ無事に過ごせている方ですわね。でも、聖女様と言うだけで、王子様に追いかけまわされることがあったような記憶があります。」

 「聖女様なら、もっと大事にされるべきですわよね。わたくしなんか、前世王女だったときのほうが格段に大事にされておりましたわ。今は、自分に結界を張り、襲われても事なきを得ていますもの。」

 「「「えええ!ご自分に結界を張られているの?どうやって?」」」

 「え?普通のことだと思っていましたわ。前世では、毒殺されましたから、病気やけがになっては困るので、自分にこういう風に……。」

 エリザベスことセレンティーヌは、両手を頭のところへ持っていき、両掌を合わせるようにすると、セレンティーヌのカラダが一瞬光った。

 「「「考えてもみなかったわ。こんな方法があったなんて。」」」

 他の元聖女様も、みなこぞって自分に結界を張る。この結界を張れることをもっと早くに知っていれば、死ぬことはなかったのだ。そう思うと悔しい。

 今が幸せだから、かえってそう思ってしまう。だいたい王族の男は、聖女様を蔑ろにしすぎ、ちょっと見た目エロイ女が現れるとフラフラとその女のほうへ行き、最後は捨てられる。

 そのエロイ女が真実の愛の相手だとか、ほざいて結局自分が廃嫡されるか、妃教育が大変すぎて、そのエロイ女に逃げられてからでないと気がつかない。

 エロイ女と結婚したいという理由だけで、聖女様を邪魔者扱いにする。婚約破棄だけではすまされない。必ず、虐めたとか冤罪をかぶせられ、処刑されるか国外追放になる。

 あとから聖女様だということがわかった場合、追いかけてこられるのだが、それは自分の廃嫡を恐れてのためであって、聖女様を愛しているからではない。

 考えると、前世エリザベスの言う通り、聖女様のお仕事は割に合わない。

 聖女様から一般人になったものは、まだいいが、一般人が聖女様なんてなるものではないと、つくづく思う。

 カトレーヌ・ベンジャミンはその最たるものなのだが、本人はそれなりに幸せなので、持ち前のバイタリティとお酒好きが高じて、聖女リキュールで大儲けしているのだ。

 だけど異世界から異世界の聖女様になったエリザベスとはわけが違う。前世、王女殿下で今世が聖女様だから。

 「おしゃべりは、そこまでにして頂戴、とにかく今から異世界へ行って、祈りを捧げてもらうのだけど、どこか拠点になる場所が必要ね。」

 そこで女神様は、カトレーヌのほうへ視線を向ける。

 え?また、前世のマンションを出せって言うんじゃないでしょうね。あの狭さで4人の共同生活は、どう考えても無理よ。

 え?リビングのソファを異空間の中に片付ければ、ベッドの2つぐらい入れられる?ダメダメ、そんなことをすれば、ゆっくり休められない。癒しの空間は必要よ。え?お風呂?お風呂は別物、バスタイムは、リラックスだけが目的ではない。

 カトレーヌは、女神様相手に負けることができない攻防を繰り広げている。

 でも結局負けた。というより、折衷案が取り入れられたのである。

 メモリード国内の教会が表向きの拠点で、教会内に異空間でマンションを繋げることになったのである。もちろん玄関側は、ベンジャミン商会の家と通じていて、バルコニー側は女神様の物置小屋の扉とくっついている。

 リビングの飾り棚を動かすとメモリード国に通じるようにしたのである。もし、魔王から攻撃を受けてもダメージがあるのは、教会だけで異空間内にあるマンションはビクともしないという話だったので、その折衷案を飲んだのだ。

 以前のように、マンションの書斎だった部屋をパティシエになったセレンティーヌが使い、リビングのソファをどけ、ベッドを二つ出し、そこにタカラジェンヌと前世エリザベスのロイヤルコンビで使ってもらうことにしたのである。

 「懐かしいわ。もう、あれから10年は経つかしら?」

 前世セレンティーヌ聖女様こと正木彩也子は、書斎の中で我が家のように寛いでいる。

 でも祈りが済むと、異空間を通り?転移魔法を使って、自宅へ戻っていくのである。

 だって、ご主人が心配しちゃうもの。昼間は何かと理由を付けて、外出もアリだけど、夜に寝室にいないと旦那が心配するという理由で、帰って行く。

 結局、マンションの中で暮らすのは、前世エリザベスの聖女様だけとなる。

 エリザベスは、女神様がくれたお菓子と言い、このマンションの部屋を興味深く観察する。バストイレにキッチンまで備わっていて、このマンションの中にさえいれば、雨露をしのげ快適に暮らせることを知る。

 リビングにある大きな板のようなものを触っていると、急に音声と映像が聞こえてきたときには、さすがのエリザベスもビックリしたのだ。

 なに?これ?明日、カトレーヌ様がご出勤なさったら、聞いてみよう。でも、音楽と音声、映像は必ずセットで現れるから、見ていて厭きない。むしろ楽しい。エリザベスは聖女様になったおかげか、言語理解魔法が備わっている。

 翌朝、出勤してきたカトレーヌに質問攻めにする現聖女様にやれやれと言った感じで、テレビにエアコン、電子レンジ、換気扇、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機の使い方まで教える。本来エリザベスは、異世界人だから知らなくてもよいものなんだけど、ひょっとしたら異世界にいることが嫌になって、ニッポンへ転生したいと思うかもしれないので、あらかじめ教えておくことにしたのだ。

 説明しているうちに、パティシエやタカラジェンヌがやってくる。

 「そうよね、わたくしも初めてこの部屋へ来たときはビックリの連続でしたわ。特にこのテレビには、ずいぶん助けられたものですわ。」

 「どういうことなのでしょうか?」

 「わたくしは異世界から、ニッポンへ行くのにニッポンの事情が分からなくて、テレビは様々な情報を発信しているから、勉強になりましたわ。」

 「ねぇ!今、思いついたんだけど、魔王の様子、このテレビで映らないかしらね?」

 「ええ?どういうこと?」

 「遠見の魔法ってあるでしょ。それをテレビのモニターに映すのよ。」

 「うーん、やってやれないことはないかもしれない。テレビが壊れたら、元も子もないから、新しい液晶パネルを買って……。」

 カトレーヌが何やら宙を睨んで、いろいろ買い物をしているみたい?

 水晶玉の代わりに液晶パネルに映し出す。アンテナはいるのだろうか?魔石があれば事足りるか?

 試行錯誤すること1時間余り、ついに魔王の姿が映し出される。異世界の魔法と現代ニッポンの粋を融合させたら、出来ちゃったというところか。

 女神様に早速報告して、見てもらうことになった。

 「アナタたち、凄いわね!こんなものを考え出すなんて、さすがニッポンから来た聖女様は違うわね。」

 異世界の神もぞろぞろ魔王の姿を液晶パネル越しに見に来る。そして、同じものを何台も発注していくのだ。これさえあれば、敵の動きが筒抜けで、恐れるに足りない。

 遠見魔法と液晶パネルを組み合わせ、受注台数をあらかたこなしていくと、なんかもう、お役御免になったような気がする。

 さらに、教会の屋根に太陽光パネルを仕込み、太陽の光を利用して、四六時中聖なる光を灯台のように照らし続けることも、エリザベスが思いつく。テレビで見たおかげらしい。

 たとえ聖女様がいなくても、聖なる光がいつも人々を守り照らし、導いてくれるという発案に女神様、大絶賛の発想である。この灯台を異世界のあちらこちらに建設していくと魔界の魔王はみるみるうちに力を衰えさせていく。そしてすごすごと魔界に戻って行ったのである。

 そろそろ解散か?と思っていたところ、何やら異世界の神様とエリザベスがいい雰囲気なのだ。これには、女神様もビックリしていらっしゃる。瓢箪から駒と言うのだろうか。

 だって、年齢があまりにも違い過ぎる。若干15歳のエリザベスと1000倍は年齢が離れているかと思えるほどなのである。

 「うふ。だってラジャード様ったら、カッコイイですもの。それにお優しいし、年齢なんて、関係ございませんわ。」

 「エリザベスたんも可愛いよ。愛している。チュッ!」

 デレデレとした顔をしている異世界の神様、マンション内の温度が一気に上がる。あほらしくて誰も見ていられない。

 二人はそのまま、マンション内で結婚式を挙げることにしたのである。女神様に聖女様と立会人には、事欠かない。どうせなら異空間でつながっているメモリードの教会内でやればいいものを。すべてがそろっているマンション内だからこそできる。

 カトレーヌは乗り掛かった舟だから、仕方なく異世界通販でエリザベスのサイズに合いそうなウエディングドレスとブーケを買う。

 元聖女様のパティシエも二人のためにウエディングケーキを作る。元聖女様だったタカラジェンヌの王太子妃殿下も二人のために愛の歌を歌う。

 女神様はと言うと、二人のためではないが、前世エリザベスのために始末をしておかないといけないことがある。

 魔王が去った後。時代は、さかのぼり、エリザベスがなくなった直後になっている。

 そこで、ダイアナ女王陛下の元へ赴き、エリザベスを殺したことへの反省を促しに行ったのだが、

 「わたくしがわたくしの産んだ娘を殺してどこが悪いので、ございますか?わたくしが産んだのですものわたくしのものではございませんか?」

 「それは違います。旦那様の替わりはいくらでもございます。されど、あなたの娘の替えはどこにもいないのです。あなたが産んだから、ご自分のものと思っていらっしゃるようですが、実はひとりずつ神様が手ずから選んであなたのお腹の中に入れているのです。だから今後、いくら何人子供を産んだとしても、エリザベスの替わりはいないのです。それにエリザベスは聖女様です。聖女様の替わりは何処にもいないのです。あなたにそのことをわかってほしくて、今日ここに参りましたが、無駄のようでしたね。」

 「ええ?エリザベスが聖女様⁉ だったら、次に生まれてくる子も聖女様かもしれない。」

 「その子は長く生きられないのです。あなたはご自分が聖女様を殺したという大罪への自覚が足りないようですわね。いずれ、旦那様であるジョージアに殺されてしまう運命なのです。そのジョージアもまた……。」

 「なんですって?あなた女神様なら、エリザベスを生き返してごらんなさいよ。さっきから聞いていれば、えらそうなことばっかり言って、女神様なら聖女様を生き返らせることぐらいできるでしょうがっ!」

 「エリザベスは、天界へ昇り神と同格になられましたわ。仕方ございませんわね。」

 女神様は、ダイアナの目の前で指をパチンとはじく。

 気が付けば、ダイアナは見たこともない風景の中にいる。目の前に深く大きな川が横たわっている。

 「ここで、あなたは亡者の靴磨きをしなさい。50年間休まず靴を磨き続けたら、あの川を渡ることができます。あとは三途の川の管理官へ引き渡すから、わたくしはこれで。……そうそうエリザベスは天の神と結婚します。これから、結婚式だから着替えて急がないと。」

 「待って。エリザベスに逢ったら、おめでとうって伝えて。」

 「それを聞いて素直に喜ぶかどうかは、わからないわよ。なんせあなたのことを恨んで死んでいったからね。それじゃあ、靴磨きしっかりね。」

 ダイアナは、女神様が言ったエリザベスが「あなたのことを恨んで死んでいった」という事実にショックを受け、それからは毎日泣きながら靴を磨く日々を送る。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 そして、いよいよ結婚式が始まる。マンションの玄関前からリビングまでの長い廊下をヴァージンロードに見立てて、歩く。父親役は、天界の最高神アマテラスが務める超豪華な顔ぶれ。

 式は滞りなく、無事終わる。

 それぞれ聖女様、女神様、その他の神様は自分の居場所へ戻っていく。

 いつまで経っても、新郎新婦が帰ろうとしないのである。何気に嫌な予感?カトレーヌは、二人に構わず掃除を始める。

 「あの……、カトレーヌ様、このマンションを譲っていただくわけには……、わたくし達このマンションを大変気に入りまして、できれば新居にと望んでいます。」

 「何、言っているのよ。ここは約25年前に35年ローンを組んでやっと手に入れたマイホームなのよ。まぁ、ローンは5年しか支払っていないうちに赤い国からの爆撃を受けて肉体ブティックの店長様のおかげで、転生できたんだけどね。だから絶対だめ。売らない。」

 「あの……そうではなくて、似たようなものを買っていただけないかしら。お支払いは、ダーリンがしてくれるって、言っているので。」

 異世界通販でマンションなど買えるものか?

 家具付きのモデルルームのようなものがいいのだろうか?

 「あなたも聖女様なんだから、異世界通販できるんじゃないの?」

 「わたくし、異世界ニッポンへ行ったことがございませんのでイメージできないのでございます。」

 ああ、そうか。行ったことないところへは転移できないのと同じか。聖女様の魔法は何でもイメージが頼りだから。

 「他に異世界ニッポンをイメージできるものってある?」

 「こんなものぐらいしか……。」

 異空間の中から、以前女神様のところで、いただいたニッポンの正木製菓のお菓子をいくつか出す。」

 「へー!正木製菓のお菓子じゃないの!珍しいもの、持ってるわね。エリザベスの元のカラダの持ち主が転生して正木製菓の経営者の娘として、転生したのよ。ほら、あのウエディングケーキを作った聖女様ね。」

 カトレーヌは、そう言いながら、エリザベスが開けることさえ苦労したお菓子の包み紙をいとも簡単に開け、口の中に放り込んでいく。

 「うん。美味しいわ。久しぶりにこういった駄菓子を食べたわ。これ、ウチの店でも売ろうかしら。」

 カトレーヌは、そう言いながら異世界通販で、いろいろお菓子を買っていく。そのついでにマンションの部屋のカタログのようなツルツルに光った冊子をいくつか出していく。

 「これは金貨5000枚程度の中古のマンションで、家具は別に買わなきゃなんないけど、ああ地面が必要だけど、あるね?こっちは、新築だから誰も使っていない未使用のもので、金貨10000枚は必要ってとこね。家具付きのモデルルームとして使用されていたものがあるけど、それでもいいなら、割安だけど?タワーマンション1棟が売りにも出ているけど……?部屋数など、広さは何平米ぐらいのが欲しい?」

 エリザベスは、カトレーヌが言っていることの半分も理解できない。

 それは、旦那さんの神様も同じようで、二人とも首をかしげている。

 「ああ、だめだ。うまく説明できない。正木彩也子ちゃんなら……。」

 カトレーヌは、正木彩也子を呼び、二人に代わって物件探しに協力してもらうことにする。

 「百聞は一見に如かず。だから、これから異世界ニッポンのモデルルームにご案内するわ。Let’s Go !」

 正木彩也子ちゃんが二人とともに、カトレーヌもなぜか行くことになって、4人でニッポンへ行く。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 久しぶりのニッポンは、すっかり復興していた。

 と言うよりは、別のニッポンなのだろう。いわゆるパラレルワールドといったところか?誰も赤い国のことを口に出さないし、平和そのものなのだ。ちょうど、爆撃を受ける前日のような感じであったのだ。

 エリザベスと神様は、最初に見学したモデルルームを大層、お気に召したご様子でこれを買いたいと言われるが……ガスや水回り、電気系統が完備されていないのだ。モデルルームだから。

 となるとマンション内にある1戸をモデルルームとしてopenしているところがいい。

 彩也子は、そういう物件を探し、4人で行くことになったのである。

 中古物件であって、まだ人が入居しているところもあって、なかなかいい物件がない。新築でモデルルームにしているところは、日当たりがあまりよくない真ん中の部屋などが多い。

 日当たりなど考えなくてもいいのかもしれないから、間取りさえ気に入ったものがあれば、それを買えばいいだけだから。

 だいたいエリザベスは、お料理の経験なんてないくせに、キッチンを欲しがるってどういうことよ?

 あまりにも、あちこちの物件を探しているうちに、不動産業者が上得意と勘違いして寄ってくる。世界のパティシエの正木彩也子が一緒にいるからである。

 「どういったものをお探しで?価格帯は?」

 「新婚さんが住まれるから、できればエアコンと電化製品、家具付きがいいわ。お値段はおいといなしよ。」

 彩也子がそう言うと、不動産屋はさらに揉み手ニコニコ愛想が良くなる。

 「それでしたら、少々お高いですが、3億円ほどで、床暖房とお風呂の暖房乾燥機カワクまでセットになっているものがございます。」

 「スラブ厚は?爆裂現象は大丈夫でしょうね?」

 カトレーヌは、前世、マイホームを買う時の知識をつい、ひけらかしてしまう。

 急に変な外人のオバサン?が割り込んで話しかけてこられたから、業者は外人のブローカーか?と怪しむ。

 ついでにカトレーヌは、秋葉でスマホを3台買い、1代は自分用で、あと2台はエリザベスと旦那さんに渡す。

 異世界通販するためである。今まで見てきた物件で気に入るものがなかったから、これで探すように。と渡したのである。

 自分用のスマホはあるけど、SIMカードを差し込めば、昔の友人で生きている人がいれば、連絡が取れるかもしれないからとの思いから、買ってしまう。でも、たぶん無駄になるだろう。この世界に妙子の知り合いなどいるはずがない。

 ふと、実家があった場所に立ち寄ると、妙子の母は年老いて、まだ生きていたのである。妙子の目の前で、手押し車を押しながら歩き、家に入ろうと手提げ袋の中からカギを探しているところだったのだ。

 妙子の母は、カギが見つからないらしく、袋の中身をひっくり返して探しているが、玄関は開いているように見える。

 カトレーヌは、そのまま通り過ぎようとしたら玄関引き戸が開いて、そこには懐かしい父の姿があった。ずいぶん年老いているが、それは間違いなく父である。

 「なんだ。ばあさん、家の中に鍵を忘れていったよ。儂がいたからいいようなもんだが、いなかったら締め出しになっているところだわい。」

 「じいさん、ただいま。駅前のスーパーで苺を買ってきたよ。妙子が好きだったろ?」

 「儂らの一人娘は、別嬪さんだったからな。早く仏壇にあげておやり。」

 やっぱり、妙子は死んでいるということになっているみたいだったけど、一人娘?兄がいたはずだけど……?パラレルワールドだから仕方ないか。

 そのまま、カトレーヌは転移魔法で帰り、彩也子の実家でエリザベスと旦那さんの神様は、寛ぐことになったのである。

 彩也子の旦那さんは、フランス人だから実家に外国人を連れ帰っても、家人は何とも思わない。もう慣れてしまっている。まさか、異世界人の神様夫妻だと思っていない。

 しばらく寛いだら、カトレーヌのマンションと違い、けた違いに広いから、すっかり田園調布の彩也子の実家を気に入ってしまう。

 それで今度は、マンションではなく一戸建ての豪邸を新居にしたいと言い出す始末。

 彩也子も最後にさじを投げ、モンマルトルへ帰って行く。

 「カトレーヌ様からいただいたスマートフォンがあるでしょ。どんなものが欲しいか、これで調べて適当に買ってください。」

 これで異世界人のニッポン見物は終わりとなり、エリザベスは、旦那さんと仲睦まじく、いつまでも幸せに暮らします。

 実は神界では、田園調布の豪邸よりもデカイ神殿が建っていたのです。王女殿下として育ったエリザベスは、お料理なんてしなくても、料理神官が作ってくれる食事を召し上がるだけの生活にキッチンは必要ない。

 だけど、二人っきりでイチャイチャする空間が欲しかったので、マンションや豪邸を望んだということ。

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