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愛人に子供ができたからと

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 杉本はるかの父は、ササキングのオリンポスヤマシタを敵対的企業買収すると発表したことに対して、ホワイトナイトとして名乗りを上げる。

 オリンポスヤマシタ側から接触があり助けを求められたのである、はるかの父はそれに応じて、ホワイトナイトになる決意をする。

 うまくいけば、オリンポスヤマシタを傘下にできるかもしれないから、前社長の山下美月は、業界では名だたるエンジニアで、その特許資産だけでもホワイトナイトと名乗るだけで充分採算が取れるというものだったから。

 でも、父社長は、「ウチの娘はいずれ、山下美月を超える存在になる。」と信じている。

 ただササキングよりも高い買い付け価格を提示しなければならないことが痛手と言えば、痛手である。予定外のM&Aになるから、臨時の役員会を招集することになり、当然、将来の社長候補のはるかも呼ばれる。

 「オリンポスヤマシタに新株を発行してもらい、その株式すべてをウチに付与してもらいましょう。発行株式数を2倍にしてもらって、すべてをもらえれば、ウチの保有株式数は50%となり、後1%取得すれば、議決権の過半数を得られます。ササキングが現在保有している株式の割合が半分となるメリットがあります。その場合でも新株を引き受ける現金が必要となりますが、今メインバンクと調整中です。」

 はるかが説明すると、役員たちの間にどよめきが起こる。

 「あと考えられる方法は、山下美月の特許資産部分だけを独立させて、わが社が買い取る方法です。おそらくササキングは、特許資産目当てにオリンポスヤマシタをTOBしている者と思われることから、その部分をわが社が買い取れば、TOBを諦めるのではないかと思います。」

 結局、最初の案の新株引受権が採用されることになり、メインバンクから融資を受ける。増資をすることで、既存の株主に対しての配慮も必要となる。

 オリンポスヤマシタ側との交渉は、なぜかはるかが引き受けることになって、懐かしい山下家を訪れる。

 肇ちゃんの好物のメロンと苺をもって、あいさつがてら行く。

 玄関チャイムを鳴らして、引き戸を開くと懐かしい山下家のニオイ、小学生ぐらいの女の子が飛び出してきた、肇ちゃんは10年前に結婚して、友理奈ちゃんだったか?娘が一人いたんだっけ。ずいぶん大きくなったものね。と目を細めながら見ていると、その娘がいきなり

 「ママ!美月ママでしょ?わたし、かおりなの。ママだって、すぐわかったわ。」

 「かおり!スキーの時は、大変だったわね。寒かった?苦しかった?大丈夫?お友達と一緒にここに戻ったの?」

 「いきなり、ドドってきたからビックリしたわ。でももう大丈夫、みんなと一緒に転生したけど年齢はバラバラになっちゃったわ。5歳ぐらいから15歳ぐらいまで、だからいろんな年齢の子とお友達よ。肇パパは、わたしがかおりだと知っているのよ。だから、きっとママのことも信じてくれるわ。」

 その言葉通り、はるかは何も言わなくても、肇ちゃんは会った時からそわそわしている。

 「あのぉ、大変失礼だとは思いますが、山下美月さんですか?」

 やっぱりバレている。なぜわかったのかしらね。かおりといい、肇ちゃんといい。はるかは、黙って頷く。

 「やっぱり、ニオイと雰囲気が一緒だったから。今は杉本はるかさんで、スギベンコーポレーションの杉本社長のお嬢さんですね。あのぉ……はるかさんは好きな人いますか?」

 「いるわけないでしょ。前世旦那に殺されたのよ。」

 「だったら、俺と結婚してください。TOBのことは、すべてお任せしますから。」

 「それとこの話は、別物です。絶対、肇ちゃんと結婚する気なんてなれないわ!結婚話を持ち込んでくるのなら、このホワイトナイトの話は降りるわ。」

 肇ちゃんの妻の智子さんは、ノイローゼで飲酒運転して外壁に激突死したのだが、その車に同乗していたのが友理奈ちゃん。かおりがスキー合宿に行く前日のことだったわ。

 友理奈ちゃんは、助手席ではなく後部座席で寝ていたから、奇跡的に助かったと思っていたのだが、それにまさかかおりが乗り移ったことなんて、夢にも思っていなかったのだ。

 肇ちゃんは、慌てて

 「ごめん。ごめん。冗談だよ。ただ、友理奈がこれから難しい年頃になってくるから、いろいろ相談に乗ってほしいなぁと思っただけだよ。」

 「それは、まぁ……、今日はビジネスの話しだからね。公私混同はダメです。」

 「そういえば、康夫さんのカノジョ多田明子が、ササキングの重役秘書に収まったという噂がある。」

 「それって、競業避止規定違反じゃない?どうするの?訴えるの?」

 「あいつがべらべら会社内部のことを喋ったに違いない、あいつが就職してからのTOBだからな。今、弁護士と協議中だ。TOBが業務妨害になるか微妙なところだ。ただ会社の機密情報を売ったことは間違いないから、その線で告訴する方向で調整中。」

 バカな女ね、康夫を誑し込んだばかりか、会社の機密情報まで売るなんて、あの女には、社会的に葬り去られなければ、気がつかないのだろう。

 しばらくして、多田明子は、告訴され、逮捕されたのだが、山下康夫からレイプされ、ササキングの重役からセクハラやレイプをされたと訴え出るが、その訴えはことごとく退けられ、嘘つき毒婦という二つ名がつく、そしてもう二度とどこも就職先がなくなったのである。

 結局、多額な賠償命令に、支払えるはずもなく命で支払ったのである。

 ちょっと若くて、見目がいいだけで秘書になるから。秘書の仕事は労働基準法の対象外で、大変なのよ。玉の輿狙いで、秘書になるぐらいなら、お水のほうがよっぽど堅実なのである。

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