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愛人に子供ができたからと
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「こんなはずではなかった。多田明子の奴め、俺の子を妊娠したと嘘を吐くからだ。」
よくよく考えると、山下康夫は10年前、パイプカットをする代わりに代表権のある専務取締役に就任できたのだ。
他に子供を作らないことを約束し、山下家の婿養子としての地位を確立したにもかかわらず、明子が「できたみたい。遅れているだけかもしれないけど、今まで遅れることがなかったのよ。」ともっともらしいことを言われたら、身に覚えがある康夫は、ドキリとする。
「生まれてくる子供には、社長の子供として、何不自由のない生活をさせたいわ。奥さんと別れてくれるの?いつ?」
康夫は、婿養子だとは言っていない。ただ、妻はリケジョだから社長に選ばれたとしか言っていないのだ。
あの夜、妻を殺すことには成功したのだが、まさか妻の美月が俺たちの会話の一部始終を警察に聞かせていたとは、思ってもみなかったことで寝耳に水だった。
妻を最初は、濡れた和紙で窒息死させるつもりが、あいつ目を覚ましやがった。それで首を絞めて殺したのだが、殺す前、抵抗しながらかおりの事故のことを聞いてきやがったから、ついポロリとあらかじめ電熱を用いて、そのあたり一帯の雪を溶かすように仕組んでいたことまで、言う羽目になったのだ。
その後、近所の医者に1000万円を支払う代わりに嘘の内容の死亡診断書を書かせ、急性心不全だったか?それで埋葬許可証を取り、葬儀屋を頼まず、直葬というのか?直接焼き場に持ち込んで、荼毘にしてもらったのだ。
葬儀屋に頼むと、湯灌の際に首の索条痕から足がつくと思い、念には念を入れたのだ。
医者はギャンブルにのめり込み1000万円近くの借金があったのだ。前にガラの悪い連中が取り立てに来ているところを見て、この計画を思いつく。
オリンポスヤマシタは大企業であるから、経営者が亡くなれば、経営に空白は許されないとばかりに臨時の役員会を招集したのだ。
完全犯罪成立だと思っていたのだ、妻の初七日までは。それが、あの110番通報と役員会で、次期社長が副社長の息子の肇、妻美月の従姉弟に決まってしまうとは、思ってもみなかったことだ。副社長は、先代社長の弟で、妻の叔父にあたる72歳と高齢だから、自分の息子に後を継がせたいと言いやがった。
それに山下肇は東京大学を卒業していることもあり、満場一致で決まってしまうとは。経営陣を刷新したいからという理由で、俺はオリンポスヤマシタから放逐されてしまう。
美月を殺したこと、娘の香りを事故に見せかけ殺してしまったことは事実で、それが明るみに出たら、会社を追い出されるのは当然のことなのだが、いきなり退職金もなしで放り出されるとは……これも誤算だったのだ。
明子には、社長ではないが、生まれてくる子供の父親として、出来る限りのことをすると言ったら、
「遅れてただけで、来ちゃった。」
けろりとして言われ、俺は何のために妻や娘まで殺害したのかわからなくなった。これなら、まだ代表権がある専務取締役のほうがマシと言うもの。
妻は、娘がスキー事故で留守をするときも副社長ではなく、俺を立ててくれて、俺に社長代行の任を与えてくれたというのに。
俺はそのことに感謝もせず、明子とイチャついていたのだ。俺はバカだ。もし、裁判が始まったら国選弁護人は、情状酌量の線を狙うと言ってくれているが、すべて罪を認め、もっとも重い死刑を願うつもりでいる。
娘のかおりはまだ15歳、これから花も実もある人生を送れるはずが、明子に唆されたとはいえ、血を分けた実の娘を手にかけてしまった罪は大きい。それにかおりの同級生たちも一緒に巻き込んで殺してしまったのだから、なおさらだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
はるかの大学の研究室にオリンポスヤマシタのライバル会社のササキングからオリンポスヤマシタで特許を取得済みの件について、もう一度再考できないか依頼があったのだが、それは3年前に美月が考案し、特許を取得している部分に抵触するもので、明らかに特許権侵害に当たる。
山下美月として抗議できない以上、泣き寝入りするしかないのか?と思っていたら、教授がやんわりと、係争に巻き込まれてはかなわないから断ってくれた。他大学に持ち込まれたら、どうなるかは、わからない。
現在のはるかの頭脳では、美月以上のものを作り上げる自信がある。だけど、今は作らない。今は、他の新商品を開発することに優先順位を置いている。
それから数か月後、ササキングはオリンポスヤマシタを、敵対的企業買収を行うと発表したのである。
敵対的企業買収というのは、オリンポスヤマシタの取締役会の同意を得ず、実質的に会社を支配下に入れることを目的としている。やはり、特許侵害で訴えられることを恐れ、特許権そのものを傘下に入れることで買い取ってしまうことが狙いなのだろう。
そのためには議決権のある株主の過半数以上の株を取得しなければならず、相場よりはやや高めに取引されることが一般的である。
ササキング側の主張する企業評価額は、前世美月の目から見ても妥当なところだったのだ。
やはり、美月の父が倒れてから計画されていたものなのだろう。
オリンポスヤマシタは前社長が専務取締役に殺される事件と言う不祥事があったばかりで、そこを狙ってのM&A。
腹立たしいことと唇をかみしめるはるか。残された道は、はるかの父の会社が救済措置を取るかどうかだが、娘のはるかの立場では、取ってくれとは言いづらい。
何より今はアカの他人の会社なのだから、「なぜ?」と聞かれたら、返事に窮す。
よくよく考えると、山下康夫は10年前、パイプカットをする代わりに代表権のある専務取締役に就任できたのだ。
他に子供を作らないことを約束し、山下家の婿養子としての地位を確立したにもかかわらず、明子が「できたみたい。遅れているだけかもしれないけど、今まで遅れることがなかったのよ。」ともっともらしいことを言われたら、身に覚えがある康夫は、ドキリとする。
「生まれてくる子供には、社長の子供として、何不自由のない生活をさせたいわ。奥さんと別れてくれるの?いつ?」
康夫は、婿養子だとは言っていない。ただ、妻はリケジョだから社長に選ばれたとしか言っていないのだ。
あの夜、妻を殺すことには成功したのだが、まさか妻の美月が俺たちの会話の一部始終を警察に聞かせていたとは、思ってもみなかったことで寝耳に水だった。
妻を最初は、濡れた和紙で窒息死させるつもりが、あいつ目を覚ましやがった。それで首を絞めて殺したのだが、殺す前、抵抗しながらかおりの事故のことを聞いてきやがったから、ついポロリとあらかじめ電熱を用いて、そのあたり一帯の雪を溶かすように仕組んでいたことまで、言う羽目になったのだ。
その後、近所の医者に1000万円を支払う代わりに嘘の内容の死亡診断書を書かせ、急性心不全だったか?それで埋葬許可証を取り、葬儀屋を頼まず、直葬というのか?直接焼き場に持ち込んで、荼毘にしてもらったのだ。
葬儀屋に頼むと、湯灌の際に首の索条痕から足がつくと思い、念には念を入れたのだ。
医者はギャンブルにのめり込み1000万円近くの借金があったのだ。前にガラの悪い連中が取り立てに来ているところを見て、この計画を思いつく。
オリンポスヤマシタは大企業であるから、経営者が亡くなれば、経営に空白は許されないとばかりに臨時の役員会を招集したのだ。
完全犯罪成立だと思っていたのだ、妻の初七日までは。それが、あの110番通報と役員会で、次期社長が副社長の息子の肇、妻美月の従姉弟に決まってしまうとは、思ってもみなかったことだ。副社長は、先代社長の弟で、妻の叔父にあたる72歳と高齢だから、自分の息子に後を継がせたいと言いやがった。
それに山下肇は東京大学を卒業していることもあり、満場一致で決まってしまうとは。経営陣を刷新したいからという理由で、俺はオリンポスヤマシタから放逐されてしまう。
美月を殺したこと、娘の香りを事故に見せかけ殺してしまったことは事実で、それが明るみに出たら、会社を追い出されるのは当然のことなのだが、いきなり退職金もなしで放り出されるとは……これも誤算だったのだ。
明子には、社長ではないが、生まれてくる子供の父親として、出来る限りのことをすると言ったら、
「遅れてただけで、来ちゃった。」
けろりとして言われ、俺は何のために妻や娘まで殺害したのかわからなくなった。これなら、まだ代表権がある専務取締役のほうがマシと言うもの。
妻は、娘がスキー事故で留守をするときも副社長ではなく、俺を立ててくれて、俺に社長代行の任を与えてくれたというのに。
俺はそのことに感謝もせず、明子とイチャついていたのだ。俺はバカだ。もし、裁判が始まったら国選弁護人は、情状酌量の線を狙うと言ってくれているが、すべて罪を認め、もっとも重い死刑を願うつもりでいる。
娘のかおりはまだ15歳、これから花も実もある人生を送れるはずが、明子に唆されたとはいえ、血を分けた実の娘を手にかけてしまった罪は大きい。それにかおりの同級生たちも一緒に巻き込んで殺してしまったのだから、なおさらだ。
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はるかの大学の研究室にオリンポスヤマシタのライバル会社のササキングからオリンポスヤマシタで特許を取得済みの件について、もう一度再考できないか依頼があったのだが、それは3年前に美月が考案し、特許を取得している部分に抵触するもので、明らかに特許権侵害に当たる。
山下美月として抗議できない以上、泣き寝入りするしかないのか?と思っていたら、教授がやんわりと、係争に巻き込まれてはかなわないから断ってくれた。他大学に持ち込まれたら、どうなるかは、わからない。
現在のはるかの頭脳では、美月以上のものを作り上げる自信がある。だけど、今は作らない。今は、他の新商品を開発することに優先順位を置いている。
それから数か月後、ササキングはオリンポスヤマシタを、敵対的企業買収を行うと発表したのである。
敵対的企業買収というのは、オリンポスヤマシタの取締役会の同意を得ず、実質的に会社を支配下に入れることを目的としている。やはり、特許侵害で訴えられることを恐れ、特許権そのものを傘下に入れることで買い取ってしまうことが狙いなのだろう。
そのためには議決権のある株主の過半数以上の株を取得しなければならず、相場よりはやや高めに取引されることが一般的である。
ササキング側の主張する企業評価額は、前世美月の目から見ても妥当なところだったのだ。
やはり、美月の父が倒れてから計画されていたものなのだろう。
オリンポスヤマシタは前社長が専務取締役に殺される事件と言う不祥事があったばかりで、そこを狙ってのM&A。
腹立たしいことと唇をかみしめるはるか。残された道は、はるかの父の会社が救済措置を取るかどうかだが、娘のはるかの立場では、取ってくれとは言いづらい。
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