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浮気され婚約破棄された公爵令嬢は、王女殿下となる

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 それから瞬く間に2年が過ぎ、いよいよ学園の卒業式シーズン到来である。

 セレスティーヌは、スーザンの兄とのことをサンドラの両親に話していない。反対されるかも?との思いからである。反対してほしいとは、思っていない。

 兄のリチャードは、リリアーヌに引っかかったせいで、廃嫡され王籍を抜かれたうえで国外追放処分となってしまい、行方がわからない。

 だから、サンドラ国は、王位継承権第1位のセレスティーヌが継ぎ、女王となり婿養子を王配にする選択しかない。

 普通の貴族令嬢のように一人娘だからと言って、子供を二人産み、どちらかに王位を継がせる手もないわけではないが、そうなると継げなかった方に遺恨がある。

 要らぬ家督争いは、国を割るだけである。

 1人が王位で、もう一人が公爵ではあまりに差がありすぎるから。

 そして卒業式が始まる。セレスティーヌがやはり、首席で卒業することになったのである。

 「セレン、さすがね。入学した時からずっとトップで、卒業まで行くなんてね。」

 セレスティーヌからすれば、二回同じ勉強をしているのだから、二回目は成績優秀で当たり前のことなんだけどね。それに前世ではお妃教育も終了しているものだから、成績優秀で当然なのだ。

 首席合格者には、ゴールドバッヂが送られ、モントオール国でそれを見せたら、お買い物でもなんでも特別なサービス、割引が受けられるという便利なものだが、もうセレスティーヌには、必要がないものだから、親友のスーザンにそれを渡す。

 「え?いいの?こんないいものもらっちゃって、これがあれば、一生楽できるのよ。」

 「いいわよ。わたくしは帰国しなければならないからね。使っているヒマないわよ。」

 「一人娘だって、言ってたものね。わたくしなんか、ただ、いい殿方見つけてお嫁に行けばいいけど、一人娘って家督を継がなきゃなんないし、……あ!お兄様!」

 学園の門のところで立ち話をしていると、スティーヴとプリメリアのご両親が馬車を仕立てて、向かってきたのが見える。

 スーザンは、手を振り自分の存在をアピールしている。

 これから、サンドラへ行く気だろうか?

 モントオールの借家の解約は、まだしていないが、もう引っ越しの準備は済んでいる。いったん、セレスティーヌは、借家に戻り使用人と騎士を連れて、サンドラへ戻る。

 スーザンもなぜかご両親とスティーヴとともに、サンドラへセレスティーヌの実家を見に行くつもりでいるみたいだ。

 サンドラとモントオールは日帰りで行って帰ってこられる距離にあるから、卒業式の帰りでも十分、セレンのご両親に会って、美味しいもの食べて帰れる距離にある。という判断があるみたいだけど、ビックリするよ。セレスティーヌの実家は何といっても王城だからね。

 ということで、セレスティーヌ側の人間とプリメリア側の人間が国境を超える。

 国境警備兵は、セレスティーヌの姿が見えると前へ整列して、敬礼をしている。

 それを見て、プリメリア家では

 「セレンのお父様って、騎士団の偉いさんなのかもしれないね。」

 「そうかもしれないね、あの使用人なんて、ウチの執事と違って権威ありそうな顔をしている。」

 プリメリア家では、まだ余裕があり笑いながら国境を通る。

 そして、王都に近づくと、さすがに緊張したのか、皆無口になっていく。

 「そう言えば、スーザン、セレンの苗字って何だったか知ってる?」

 「ええ?そういえば、聞いたことがないわ。なんて、名前だったかしら?お兄様は聞いてらっしゃらないの?」

 「立ち居振る舞い、物腰から見て高位貴族だとは、思うがそういえば、爵位も聞いていない。」

 「なんだ、嫁さんにするつもり、……いや婿養子に行くつもりにしても、呑気な奴だな。」

 王城に着き、当然のように中へ入っていくセレンに慌てるプリメリア家の人々。

 王城の係の者が控室に案内するが、落ち着かない様子。

 「ま、まさかだとは思うが、セレンは王女様ってことないよな?」

 「そ、そんなこと一度だって聞いたことがないわ。」

 「以下同文。」

 しばらくオドオドして待っていると、セレン付きの使用人が来て、どうぞこちらへと案内してくれたお部屋は金の彫刻が至る所に施された謁見の間らしく、厳かなお部屋へ通される。

 ドラの音とラッパ?の音がしたと思えば、高らかに

 「サンドラ国王陛下並びに王妃様、王女殿下御成でございます。」

 その場にいた兵士らしきものたちが一同に平伏しているので、それに従う。こんなところで頭が高いなどと難癖をつけられたら、たまったもんじゃないから。

 「モントオール家のプリメリア公爵家、ようこそ我がサンドラ王家を訪ねてくださった。ささ、表をあげ、ゆるりといたせ。」

 「ははーっ。」

 おそるおそる顔を上げ、周囲を見渡すと王様の隣に、セレンの姿が……ああ、やっぱり王女殿下だったのか?

 ほとんど諦めかけた時、再び国王陛下が

 「プリメリア公爵令息スティーヴ、前へ。」

 「はっ!」

 スティーヴは覚悟を決めて、御前へ進む。

 「その方、我が娘セレスティーヌとの婚約を望んでいるとは、真か?」

 「はい、王女殿下とはつゆ知らず数々のご無礼失礼仕りましたでございます。されど、王女殿下の立ち居振る舞い、気品がある物腰に惚れ、これ以上の女性は何処を探してもいないと思い、結婚を願いましたことは事実でございます。」

 「うむ。あいわかった。して、我が王家に婿養子に来てもよいと申すのだな?」

 「はい、左様でございます。」

 「よかろう。では、セレスティーヌとスティーヴ・プリメリアとの婚儀を認める。帥には今日からこの王城へ泊まり込み、我がサンドラ王家のしきたりを覚えるがよかろう。」

 「はっ。ありがたき幸せに存じます。」

 思いがけない展開に、スーザンとプリメリア公爵夫妻は驚くものの祝福をする。

 その日は、スーザンとプリメリア公爵夫妻は客間に泊ることになり、非公式なささやかな晩餐会が催されることになったのである。

 「モントオールで、ご長男に家督を譲られ、我がサンドラ家に公爵として来ないか?領地も用意するぞ。」

 父サンドラの申し出に、プリメリア公爵は目を丸くするも、「ありがたい」と喜ぶ。

 「スーザン嬢も娘と仲良くしてくれたそうで、礼を申す。サンドラ国の男は嫌か?モントオールで好きな男がいれば、そちらで結婚するのもよかろう。」

 スーザンといえば、別にモントオールで好きな男性がいるわけではないし、セレン改めセレスティーヌが、結婚するまでの間、兄とともにこのサンドラ国に留まっても異存はない。

 ということで、スーザンもその日から王城で寝泊まりすることになったのである。当面は、学園の時みたいに、セレスティーヌの部屋のルームメイトとして、また学園の時みたいに楽しくおしゃべりができると喜んでいる二人の若い女性。

 次の日、プリメリア公爵夫妻は帰国し、すぐさままたサンドラに来て、とりあえず領地の経営から入るために領地へ引っ込んでいく。

 それに伴いスーザンとも、しばしお別れになる。寂しい。でもすぐにいつでも会えるからと、別れを惜しみながらスーザンも領地へ行くことになったのである。

 スティーヴはというと、偶然先代の王太子と同い年だったことから、王太子の部屋をあてがわられ、そこで王配となるための教育を受けることになったのである。

 朝から晩まで厳しい教育は続くが、音を上げるわけにはいかない。大事な嫁さんがかかっているのだから、それに今さら結婚が駄目になっても帰るところがない。長兄に家督を取られ、両親はサンドラに来ているが、ダメになった場合、領地を召し上げられるかもしれないから。

 妹スーザンは、サンドラで王女殿下のご学友としての地位が出来上がりつつある。次々に縁談も舞い込んでいるようだ。

 妹のためにも両親のためにもここで頑張るしかないのである。

 これがもしサンドラ国立学園であれば、卒業式のすぐ後に結婚式ができるのであるが、モントオールの学園に留学したがために、結婚式が先延ばしされることになったのだ。

 でも、セレスティーヌは結婚式が先延ばしされることになっても幸せである。政略で好きでもない嫌いな人と無理やり結婚させられる前世のことを思えば、十分すぎるほど幸せをかみしめている。

 そして純白のウエディングドレスの仮縫いも終わり、いよいよと言う所まで来たある日のこと、兄のリチャードが戻ってきたのである。

 「セレン、結婚するんだってな、おめでとう。」

 「今さら、何しに帰ってきたのよ?」

 「また、王太子の仕事をさせてもらおうと思ってな。」

 「お前も親父も、お前の結婚相手の婿養子に王太子の仕事をさせるつもりでいるようだが、俺のほうが先輩なのだ。付け焼刃でできるような仕事ではないからさ。俺が手伝ってやろうと思って、帰ってきたのだ。」

 「いらないわよ。そんなの、出て行ってよ。」

 「ほぉ……、十分上等な口を利くようになったんだな?クリスティーヌ嬢よ。お前がセレンのカラダに入って、いいようにやっていることはネタが上がっているんだぜ?」

 「どういうことよ?わたくしがクリスティーヌ義姉様のわけないでしょ。バカバカしい。お兄様のせいよっ!お兄様が男爵令嬢などにうつつを抜かしてクリス義姉様を蔑ろにしなければ、クリス義姉様は死ぬことなどなかったのにぃ。返してよ!わたくしのクリス義姉様を返して!」

 セレスティーヌは、内心冷や汗ものだが、ここで認めてしまうわけにはいかない。途中から、本来のセレスも加わってきて、リチャード兄に文句を言うほどに激昂する。

 リチャードもセレスティーヌの剣幕にタジタジで、あの婆さんに一杯食わされたと後悔する。旅の途中でふとしたことから、知り合いになった婆さんの話では、人は死ぬと黄泉の国で、銅貨6枚(日本円換算で60円ほど)で、まったく違う人間のカラダに入り込む秘術を施されるらしい。

 「アンタの婚約者だった令嬢は、貴族のお姫様なら、豪華なドレスに宝石がちりばめられていただろう。銅貨6枚がなくても、その宝石で十分、黄泉の秘術が受けられたはずさ。」

 「なんと!クリスティーヌがどこかで、生きているということか?」

 「そうさね。これは魂の水晶玉さ。遠見もできるから、ちょいとこれを覗いてごらん。」

 そこには、サンドラ王家の様子が映し出される。

 ちょうど卒業式後の謁見の間でのやり取りが映し出されたのである。

 「魂を見たいと思う人間のカラダを水晶玉越しに撫でると、あ!これは普通の人間、あ!こ奴も普通の人間、うーん、この中には転生者はいなさそう……、おや、この娘は光り輝いているから、転生者の可能性が高いか、もしくは聖女様の可能性が高い。」

 婆さんが撫でている娘のオーラは確かに光り輝いていて、よく見るとそれは妹のセレスティーヌだったのだ。セレンが聖女様であるわけがないので、セレンのカラダにクリスティーヌが入り込んだものと思い込んでしまう。

 婆さんを殺し、水晶玉を取り上げたリチャードは、そのまま急いで、サンドラ国へ帰国し、スティーヴ・プリメリアの代わりに自分が王配になれば、万々歳ではないか!

 セレスティーヌが実の妹であるということを、すっかり失念している。実の血のつながった妹とは結婚できない。

 にらみ合いを続けていると、そこへサンドラ王がやってきて

 「衛兵!こ奴をつまみ出せ!ニセ・リチャードだ!抵抗するなら、切り捨てても構わん!」

 「親父……。」

 「どこのどなたかは存ぜぬが、儂には息子などおらん。強いて言えば、セレンの婿殿が息子のようなものだ。それ以外は、息子などおらぬ。」

 「この魂の水晶玉が証拠だ!」

 「何をする!それは俺のものだ返せ!」

 衛兵はその場で、リチャードの持つ水晶玉を取り上げ、リチャードの両手を後ろ手に拘束し、城から引きずり出す。

 「親父、おぼえてろよ!一生祟ってやるからな!」

 何度も申し上げますが、女神様がそのようなことお許しになるはずがなく、またもやリチャードも無間地獄へと落とされる。

 その水晶玉を通して、セレスティーヌを見ると確かに、セレスティーヌが光り輝いているかのように見える。

 「まさか……!」

 サンドラ王は、教会から司祭様を呼び寄せ、セレスティーヌの聖女判定を行わせたところ、教会から持ってこられた水晶玉も、キラキラと見事に光り輝き、セレスティーヌが聖女様で間違いないと判定されることになったのだ。

 お城から、セレスティーヌ王女殿下が聖女覚醒されたとの知らせがもたらされると、王国民は喜びにあふれかえり、小躍りしている。

 それをリチャードは苦々しく思う。なんだ。やっぱり俺のおかげで、聖女様だということがわかったではないか?それなのに、俺をこんな目に遭わせやがって、クソ、すべてはリリアーヌのせいだ。

 それに婆さんを殺して取り上げた水晶玉のことも、悪いともなんとも思っていない。

 違うでしょ⁉ すべてはリチャードから始まったこと。そのことを理解して反省しない限り、永遠に無間地獄からは出られない。
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