上 下
6 / 62
横恋慕され、ひき逃げ

3

しおりを挟む
 花丸でフランスのコンクールがあるから、それにエントリーしてみないかとの話が来たのは、入社すぐのことであった。普通は、新入社員に絶対に教えてもらえないような話がきたことは。まぎれもなく社長の娘だから。

 でも、あずさはそのチャンスを遠慮なく活用させてもらうことにする。

 最初はデザイン画だけで、エントリーする。その後生地、素材を決めて、実際に洋服を作ってからの勝負となる。

 ビギナーズラックということも手伝い、なんとか1次審査は通過した。あのmiss.azusa hanamaru 効果かもしれない。Lucky girl の顔を拝みたいのだろう。

 そして2次審査御通過し、最終審査は、パリで行われる。パリへの航空チケットを買おうとしていると、父がやたらにうるさい。

 「船で行け。船はめったに沈まない。飛行機は危ない。」

 「ええー!パリまで、船で行ったら、何日かかると思っているの?2回も墜ちないって、ったく心配性なんだからね。」

 「何言っている!一度あることは二度あるというだろう。」

 「それを言うなら、二度あることは三度あるって言うのよ。とにかく飛行機で行きます。この前の宝くじでも当たらなかったでしょ?大丈夫よ。」

 「ううううう……、ダメだ!それなら行かせない!社長命令で行くことを禁ずる。」

 「何よ!娘が巣立つ芽を摘むの?」

 父娘が大げんかしていると、母が来て

 「それでは、わたくしがあずさの代理として、花の都パリへ行きますわ。せっかく新人デザイナーの登竜門と言われるコンクールの最終審査まで残ったのですもの。わたくしが代理で行ったっていいでしょう?」

 「「は?」」

 お母様はスーツケースを出しながら、さっさと荷造りしている。

 お母様が代理で行けるはずもないことは重々承知のうえ、援護射撃してくださっているのだろうと勝手にいいように解釈していると、実は本気でパリに行きたかったらしいわ。

 それでお父様も折れて、自分も一緒に最終審査に付いていくと言い出す。

 あずさは、子供か?子供に違いはないけど、もう成人しているし……。なんで、家族そろって行かなきゃなんないのよ!

 優勝できたら、パリコレに出場できるのだ。ぜひ、優勝したいけど、無理だろうな。世界中から、プロアマ含めて、多数、エントリーしてくる。

 その中で勝ちに行くなど到底、叶わない夢のまた夢の話。だから、落ち込むあずさを見越して、家族で旅行したいのかもしれない。

 まぁ、気楽に行きましょう。どうせダメだとわかっていても、パリを楽しめばいい。

 こうして、家族3人で、ほとんど旅行気分で行くことになったのである。空の旅は快適で、もう二度と墜ちたりしないと思うわ。だって、肉体ブティックの神様が付いているのだもの。天国が満杯になるから、天寿を全うできるまで、行けない。

 あずさが作るデザインは、いわゆる奇を衒うものではない。あくまでもオーソドックスな基本形なのであるが、それがかえってエレガントさを引き立たせている。

 これも神様からのギフトかもしれない。

 コンクールの結果は、見事優勝を勝ち取る。予期しなかった出来事に、家族一同、茫然となるが、これからが大変である。パリコレは実績重視で、いくらコンクールに優勝しても、隅っこに追いやられるのが常識。モデルさんの確保も重要。トップモデルのギャラは高く無名の新人のところへなど来てくれない。

 花丸の父のコネでモデルさんは、日本人を中心になんとかそろえられたのだが、ただ綺麗な衣装を着て、歩くだけがモデルではない。そのスタイルを表現しなければならない。だから、女優さんのほうがいいのだが、身長が足りない。

 まぁ、最初なので、オーディションをして、とりあえず10人のモデルさんを選ぶ。身長180センチなんて背が高いよね。

 どんな形でもいいから、パリコレに出たいという熱意ある人が選ばれることになったのだ。まぁ、ほとんど花丸のコネなんだけど。花丸の名前でなければ、誰も信用してくれないところ。

 パリコレは大盛況のうちに閉幕する。その後、なぜかあずさブランドに注文が殺到したのである。

 なんで、こんな平凡な服が魅力的なのか不思議。平凡すぎるところがいいのかもしれない。だって、他のデザイナーの衣装を見ていると、とてもではないけどそれを着て外出する気にならないもの。恥ずかしいから。

 なぜか、あずさデザインの服に袖を通すと運気が上がると言われている。うーん、やっぱり飛行機事故でただひとり助かったから?よくわからないけど、モデル仲間さんの口コミで、次のコレクションからは、モデル探しに躍起にならなくても、タダでもいいから着させてくれって、依頼が殺到したのである。

 花丸の中にあずさブランドを立ち上げて、市販することにした。日本人は、パリコレという冠に弱い。飛ぶように売れたのだ。

 そして、お母様もミセススタイルとして、あずさブランドを、大手を振って着るようになり、花丸の制服もあずさがデザインしたのに代わる。

 花丸に入社すれば、あずさの制服が着られ、運気が上がるからと、就職希望者が増えたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)

津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ> 世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。 しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。 勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。 <小説の仕様> ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。 短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。 R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。 全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。 プロローグ含め全6話で完結です。 各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。 0.そして勇者は父になる(シリアス) 1.元魔王な兄(コメディ寄り) 2.元勇者な父(シリアス寄り) 3.元賢者な母(シリアス…?) 4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り) 5.勇者な妹(兄への愛のみ)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...