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旦那と無理やり結婚させられ、トラブル体質に愛想を尽かす
1 ピアニスト
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「いらっしゃいませ。ようこそ肉体ブティックへ。」
「え?」
「ご希望のカラダは、ございますか?王族~平民まで揃っています。頭脳系、特技系、才能系は、割増料金がかかります。なお。1週間無料で試着も出来ますから、まずはお試しあれ。」
そこは、三途の川の一歩手前にあるその名は「肉体ブティック」なる店の前をたまたま通りかかり、女主人に呼び止められたのだ。
向かい側の店は、三途の川の渡し船が出ているところ、六文銭がなければ、近くの店で働いて、六文銭を貯めてからでないと、渡れない。
今は、葬儀屋が杖と六文銭を用意しているのだが、それがまだ間に合わない間に来てしまった人は、六文銭を稼がなければ渡れない。
「肉体ブティック」側は、不慮の死で本来は、健康で幸せな人生を送れるはずだった人が、第三者により、運命をゆがめられて不幸な死を遂げた人たちが通る道である。
こちら側の三途の川は、小川程度で、川と言っても深さ10センチメートルほどの浅瀬、川幅は15センチメートルほどで赤ん坊でも渡れるようなもの。だから、店に立ち寄る人はほとんどいなく、そのまま知らない間に三途の川を渡り、成仏するのである。
中絶や流産の場合で死んだ水子の、三途の川はもっと小さい。本人に落ち度がない死ほど、三途の川の大きさが変わるものなのである。
だからといって、自殺者の三途の川が深く激流かといえば、そうでもない。その都度、その都度の判断で川幅や水深が決まる。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
斎藤まゆ香は、困惑している。
大学を卒業してから、就職先に失敗し、すぐに退職したものの失業保険は、6か月働いていないと出ない仕組みとは知らなかったのである。
仕方なく、故郷へ帰ることにしたら、いつの間にか許婚ができていたので、困惑しているということ。
だって、一度も会ったことがない男性。年齢は10歳も年上で初婚だと言われてもね。まだ22歳のまゆ香からすれば、立派なオジン。地元の商店街にある小さな和菓子屋の次男坊で、父と兄が店を継ぎ、共同経営者として名を連ねているものの、本人は、そこの店員で見た目はかっこいいけど、それだけ。高卒だから、ロクな就職先がなく、家で働いているというわけ。
いかにも金持ちの坊ちゃんという感じで、スポーツカータイプの外車を乗っている。イイ年したおっさんが頑張っているというより哀れさえ感じるわ。
それでまゆ香が知らない間に結納まで済んでいて、明日、結婚式があるという。
「だれの結婚式よ。私、知らないわ。」
「何言ってんだ。まゆ香!お前の結婚式に決まっているだろ。相手は、春栄堂の息子だぞ、次男だし、親の面倒を見る必要がないんだぞ。お前前から言ってただろ?結婚するなら次男に限る。」
「前って、それは高校生の頃の話でしょうが!やけにいつ帰ってくると聞いてたと思ったら、そういうことだったのね。また東京へ帰るわ。(もうマンション引き払ったけど、残りの家賃まだ払っているから、住める?たぶん、ダメなら学生時代の友達のところへでも転がり込むしかないか?)」
「明日、お前の結婚式だ!もう結納金だって、もらっているんだぞ!」
「私はもらってないもん。お父さんが使い込んだのなら、お父さんがお嫁に行けば?」
「そんなことできるわけないだろ?向こうのお義母さんが、高校生の頃のお前を気に入って、ぜひにと言ってくださったんだ。」
「本人はどうなのよ。」
「それで高校生の頃の写真と、成人式の頃の写真を相手に見せたら、こんな別嬪さん見たことがない。申し分がないから、ぜひ嫁に。と言ってきたんだ。」
「勝手に決めないでよ。」
「どうせ一度は結婚するんだから、お見合いしようがしまいが関係ないだろ?」
「大ありよ。私は絶対、結婚しませんからね。なんで、四大出たのに、高卒のジジィと結婚しなきゃなんないのよ。」
「ほら、お前のそういうところが可愛げがないんだよ。それをお父さんは心配して……。」
明日、結婚式だとわかったのが東京行の終電が出た後のことで、明朝一番に東京行の電車に乗り、もう二度と帰ってこないつもりでいたのだが、明朝寝過ごしてしまったことは一生の不覚。
仕方なく、結婚してしまったことを今でも後悔している。
旦那は、自分では何一つ決められないアカンタレで、なんでも母親の言いなり男だったのだ。そればかりか自分では何一つ解決できないトラブル体質だったのである。
それは新婚旅行から帰った日から始まる。
朝、起きて自分が何を着たらいいかわからなく、いちいちまゆ香に尋ねてくる。朝はご飯の支度が忙しいというのに。昨夜は、店屋物で済ませたから、いいようなものを。朝はコメを研ぐところから始まる。
新居は、旦那の実家からスープが冷めない距離。
まゆ香は、ジジィの旦那の世話だけでも鬱陶しいのに、そこへもってきて姑がしょっちゅう来ることが不満でたまらない。
姑いわく、旦那は末っ子だから可愛くて仕方がない、とのことで、そう言えば結婚式のとき、旦那の姉さんが3人いたっけ。5人姉弟の末っ子で、高卒で自分のことは何も決められない甘えん坊。
罰ゲームみたいな結婚だとつくづく思う。旦那のこと、何一つ知らずに無理やり結婚させられ、旦那曰く、まゆ香は若さだけが取り柄の女だと旦那の実家に悪口を言っているらしい。
まゆ香には、味方が一人もいなくて孤軍奮闘しているとき、ある夜に旦那が酒を飲み、酔っぱらって女を家に連れ帰ってきたことがある。
その女性は飲み屋を経営していて、ツケが相当貯まっているので、今までは、ひょっとしたら結婚できるかもしれないからと辛抱をしていたのだけど、若い奥さんをもらったのなら、今までのツケは耳をそろえて、全額払ってくれと言ってきたのである。
「げ!」和菓子屋の給料では、とても払いきれないような金額に驚く。
どうやら飲み屋の女将と旦那はいい仲のように見えたが、姑に相談すると姑がツケを全額支払ってくれたので、ホッとする。
ある夜は、今度は麻雀で負けた金を旦那が支払ってくれないと、またまゆ香のところに言って来られる。若い嫁さんが替わりに夜の相手をしてくれるのなら、借金は棒引きにしてやるとも言われ、これも姑に言うと、姑が肩代わりしてくれたのである。
何かトラブルが起きると、とりあえず姑に言うと何とかなったが、その姑も病気でさっさと亡くなってしまい、それからは兄嫁から小言を言われるは、義姉さん3人から難癖付けられることなどあり、精神的に参る。
交通事故の示談まで、まゆ香のところに持ち込んでくる。それはできないと断ると四大出ている癖に何もできない役立たず嫁とバカにされ、次第に旦那からDVを受けるようになったのである。
だいたい弁護士法に違反するんだけどね、そんなことわかっていないのでしょうね。
旦那から殴られたおかげで、左目は失明するも、旦那は悪びれることが一切なく、「能無しのバカ女」呼ばわりされる。
そんな時、子供を妊娠したことがわかったのだが、それでも旦那の暴力は収まらず、ついには流産してしまい、まゆ香自身も命の危険が。
死の淵を彷徨って、はじめて、まゆ香の実家に知らされることになり、まゆ香の父はカンカンに怒る。
斎藤まゆ香、享年25歳。早すぎる死である。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「いらっしゃいませ。ようこそ肉体ブティックへ。」
「え?」
「ご希望のカラダは、ございますか?王族~平民まで揃っています。頭脳系、特技系、才能系は、割増料金がかかります。なお。1週間無料で試着も出来ますから、まずはお試しあれ。」
気が付くと、まゆ香は「肉体ブティック」と看板が上がったお店に来ている。
えーっと、確か死んだはず。左目は失明したはずなのに、なんとなく見えているような?
死ぬ前にあれほど痛かったお腹の痛みも今は消えている。
「はい。そうでございますわよ。このお店は死者が無念を残して死んだ場合、もう一度人生をやり直せるチャンスのお店でございます。お客様の場合、本来はもっと長生きされる寿命があったにもかかわらず、クズの旦那様が当たってしまわれて、早死にされてしまいましたので、当店のお客様として来店できたのでございます。」
クズの旦那、そうだ、まぎれもなくあの旦那はクズ男であった。だから神様がもう一度、人生をやり直せるチャンスをくださった?でも、もう斎藤まゆ香としての人生はコリゴリだ。
小さい時はピアニストを夢見たまゆ香だったのだが、大学受験で音大を失敗し、その後、就職試験でも氷河期というべきか、新型病の影響で、希望する会社に入れなかったのだ。
だから、少々高くても今度はピアニストとして大成できる人生を歩みたい。そこで、おそるおそる
「割増料金というのは、いかほど?」
まゆ香の香典で払える金額であれば、ぜひとも払ってでもピアニストになりたい。
「何をご希望ですか?理由もできたらお教え願いたいですわね。」
それでまゆ香は小さい時からのピアニストになりたいという夢を語ったのだ。
「では、ここにピアノがあります。なんでもいいから一曲弾いてくださいな。」
どこからともなく、グランドピアノが現れる。
まゆ香は深呼吸をして、久しぶりにピアノの前に座る。そして音大試験での課題曲を弾き始めた。なかなかの腕前である。あの日、お腹の調子が悪く、トイレに行きたいと辛抱しながら引いたのがいけなかった。やはり気持ちの焦りが音に影響する。
「ブラボー!素晴らしいですわ。これなら、ピアニストの夢は成功したようなものですわね。まゆ香さんの場合は、ピアニストの才能がおありなのに、果たせなかったということで、割増料金はなし、ということで……どれがいいでしょうかしらね。」
数ある肉体から、選んできたモノは、若い高校生ぐらいの肉体で、家は金持ち、音楽留学ぐらいできる。なかなかのカワイコちゃんである。
「このカラダなんて、どうかしらね?」
「この人は?」
「まゆ香さんと同じように、ピアニストを夢見て亡くなられるのよ。学校でいじめに遭い苦にして飛び降り自殺を図るんだけど、この娘はメンタルが弱すぎるのよ。まゆ香さんがこのカラダに入れば、この女性の記憶もなくなるということよ。この娘は死にたがりなのよ。だから、このまま死なせてあげる。何不自由なく大きくしてもらいながら、自分の才能に気づけず、死にたがっているの。アナタがこのカラダを気に入ってくれれば、心身ともに健康体になることは保証するわ。」
「わかったわ。もし私がこの娘のカラダに入ったら、逆にいじめの仕返しをしてあげればいいのね?お安いご用よ。」
「うーん、ほどほどにね。」
「え?」
「ご希望のカラダは、ございますか?王族~平民まで揃っています。頭脳系、特技系、才能系は、割増料金がかかります。なお。1週間無料で試着も出来ますから、まずはお試しあれ。」
そこは、三途の川の一歩手前にあるその名は「肉体ブティック」なる店の前をたまたま通りかかり、女主人に呼び止められたのだ。
向かい側の店は、三途の川の渡し船が出ているところ、六文銭がなければ、近くの店で働いて、六文銭を貯めてからでないと、渡れない。
今は、葬儀屋が杖と六文銭を用意しているのだが、それがまだ間に合わない間に来てしまった人は、六文銭を稼がなければ渡れない。
「肉体ブティック」側は、不慮の死で本来は、健康で幸せな人生を送れるはずだった人が、第三者により、運命をゆがめられて不幸な死を遂げた人たちが通る道である。
こちら側の三途の川は、小川程度で、川と言っても深さ10センチメートルほどの浅瀬、川幅は15センチメートルほどで赤ん坊でも渡れるようなもの。だから、店に立ち寄る人はほとんどいなく、そのまま知らない間に三途の川を渡り、成仏するのである。
中絶や流産の場合で死んだ水子の、三途の川はもっと小さい。本人に落ち度がない死ほど、三途の川の大きさが変わるものなのである。
だからといって、自殺者の三途の川が深く激流かといえば、そうでもない。その都度、その都度の判断で川幅や水深が決まる。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
斎藤まゆ香は、困惑している。
大学を卒業してから、就職先に失敗し、すぐに退職したものの失業保険は、6か月働いていないと出ない仕組みとは知らなかったのである。
仕方なく、故郷へ帰ることにしたら、いつの間にか許婚ができていたので、困惑しているということ。
だって、一度も会ったことがない男性。年齢は10歳も年上で初婚だと言われてもね。まだ22歳のまゆ香からすれば、立派なオジン。地元の商店街にある小さな和菓子屋の次男坊で、父と兄が店を継ぎ、共同経営者として名を連ねているものの、本人は、そこの店員で見た目はかっこいいけど、それだけ。高卒だから、ロクな就職先がなく、家で働いているというわけ。
いかにも金持ちの坊ちゃんという感じで、スポーツカータイプの外車を乗っている。イイ年したおっさんが頑張っているというより哀れさえ感じるわ。
それでまゆ香が知らない間に結納まで済んでいて、明日、結婚式があるという。
「だれの結婚式よ。私、知らないわ。」
「何言ってんだ。まゆ香!お前の結婚式に決まっているだろ。相手は、春栄堂の息子だぞ、次男だし、親の面倒を見る必要がないんだぞ。お前前から言ってただろ?結婚するなら次男に限る。」
「前って、それは高校生の頃の話でしょうが!やけにいつ帰ってくると聞いてたと思ったら、そういうことだったのね。また東京へ帰るわ。(もうマンション引き払ったけど、残りの家賃まだ払っているから、住める?たぶん、ダメなら学生時代の友達のところへでも転がり込むしかないか?)」
「明日、お前の結婚式だ!もう結納金だって、もらっているんだぞ!」
「私はもらってないもん。お父さんが使い込んだのなら、お父さんがお嫁に行けば?」
「そんなことできるわけないだろ?向こうのお義母さんが、高校生の頃のお前を気に入って、ぜひにと言ってくださったんだ。」
「本人はどうなのよ。」
「それで高校生の頃の写真と、成人式の頃の写真を相手に見せたら、こんな別嬪さん見たことがない。申し分がないから、ぜひ嫁に。と言ってきたんだ。」
「勝手に決めないでよ。」
「どうせ一度は結婚するんだから、お見合いしようがしまいが関係ないだろ?」
「大ありよ。私は絶対、結婚しませんからね。なんで、四大出たのに、高卒のジジィと結婚しなきゃなんないのよ。」
「ほら、お前のそういうところが可愛げがないんだよ。それをお父さんは心配して……。」
明日、結婚式だとわかったのが東京行の終電が出た後のことで、明朝一番に東京行の電車に乗り、もう二度と帰ってこないつもりでいたのだが、明朝寝過ごしてしまったことは一生の不覚。
仕方なく、結婚してしまったことを今でも後悔している。
旦那は、自分では何一つ決められないアカンタレで、なんでも母親の言いなり男だったのだ。そればかりか自分では何一つ解決できないトラブル体質だったのである。
それは新婚旅行から帰った日から始まる。
朝、起きて自分が何を着たらいいかわからなく、いちいちまゆ香に尋ねてくる。朝はご飯の支度が忙しいというのに。昨夜は、店屋物で済ませたから、いいようなものを。朝はコメを研ぐところから始まる。
新居は、旦那の実家からスープが冷めない距離。
まゆ香は、ジジィの旦那の世話だけでも鬱陶しいのに、そこへもってきて姑がしょっちゅう来ることが不満でたまらない。
姑いわく、旦那は末っ子だから可愛くて仕方がない、とのことで、そう言えば結婚式のとき、旦那の姉さんが3人いたっけ。5人姉弟の末っ子で、高卒で自分のことは何も決められない甘えん坊。
罰ゲームみたいな結婚だとつくづく思う。旦那のこと、何一つ知らずに無理やり結婚させられ、旦那曰く、まゆ香は若さだけが取り柄の女だと旦那の実家に悪口を言っているらしい。
まゆ香には、味方が一人もいなくて孤軍奮闘しているとき、ある夜に旦那が酒を飲み、酔っぱらって女を家に連れ帰ってきたことがある。
その女性は飲み屋を経営していて、ツケが相当貯まっているので、今までは、ひょっとしたら結婚できるかもしれないからと辛抱をしていたのだけど、若い奥さんをもらったのなら、今までのツケは耳をそろえて、全額払ってくれと言ってきたのである。
「げ!」和菓子屋の給料では、とても払いきれないような金額に驚く。
どうやら飲み屋の女将と旦那はいい仲のように見えたが、姑に相談すると姑がツケを全額支払ってくれたので、ホッとする。
ある夜は、今度は麻雀で負けた金を旦那が支払ってくれないと、またまゆ香のところに言って来られる。若い嫁さんが替わりに夜の相手をしてくれるのなら、借金は棒引きにしてやるとも言われ、これも姑に言うと、姑が肩代わりしてくれたのである。
何かトラブルが起きると、とりあえず姑に言うと何とかなったが、その姑も病気でさっさと亡くなってしまい、それからは兄嫁から小言を言われるは、義姉さん3人から難癖付けられることなどあり、精神的に参る。
交通事故の示談まで、まゆ香のところに持ち込んでくる。それはできないと断ると四大出ている癖に何もできない役立たず嫁とバカにされ、次第に旦那からDVを受けるようになったのである。
だいたい弁護士法に違反するんだけどね、そんなことわかっていないのでしょうね。
旦那から殴られたおかげで、左目は失明するも、旦那は悪びれることが一切なく、「能無しのバカ女」呼ばわりされる。
そんな時、子供を妊娠したことがわかったのだが、それでも旦那の暴力は収まらず、ついには流産してしまい、まゆ香自身も命の危険が。
死の淵を彷徨って、はじめて、まゆ香の実家に知らされることになり、まゆ香の父はカンカンに怒る。
斎藤まゆ香、享年25歳。早すぎる死である。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「いらっしゃいませ。ようこそ肉体ブティックへ。」
「え?」
「ご希望のカラダは、ございますか?王族~平民まで揃っています。頭脳系、特技系、才能系は、割増料金がかかります。なお。1週間無料で試着も出来ますから、まずはお試しあれ。」
気が付くと、まゆ香は「肉体ブティック」と看板が上がったお店に来ている。
えーっと、確か死んだはず。左目は失明したはずなのに、なんとなく見えているような?
死ぬ前にあれほど痛かったお腹の痛みも今は消えている。
「はい。そうでございますわよ。このお店は死者が無念を残して死んだ場合、もう一度人生をやり直せるチャンスのお店でございます。お客様の場合、本来はもっと長生きされる寿命があったにもかかわらず、クズの旦那様が当たってしまわれて、早死にされてしまいましたので、当店のお客様として来店できたのでございます。」
クズの旦那、そうだ、まぎれもなくあの旦那はクズ男であった。だから神様がもう一度、人生をやり直せるチャンスをくださった?でも、もう斎藤まゆ香としての人生はコリゴリだ。
小さい時はピアニストを夢見たまゆ香だったのだが、大学受験で音大を失敗し、その後、就職試験でも氷河期というべきか、新型病の影響で、希望する会社に入れなかったのだ。
だから、少々高くても今度はピアニストとして大成できる人生を歩みたい。そこで、おそるおそる
「割増料金というのは、いかほど?」
まゆ香の香典で払える金額であれば、ぜひとも払ってでもピアニストになりたい。
「何をご希望ですか?理由もできたらお教え願いたいですわね。」
それでまゆ香は小さい時からのピアニストになりたいという夢を語ったのだ。
「では、ここにピアノがあります。なんでもいいから一曲弾いてくださいな。」
どこからともなく、グランドピアノが現れる。
まゆ香は深呼吸をして、久しぶりにピアノの前に座る。そして音大試験での課題曲を弾き始めた。なかなかの腕前である。あの日、お腹の調子が悪く、トイレに行きたいと辛抱しながら引いたのがいけなかった。やはり気持ちの焦りが音に影響する。
「ブラボー!素晴らしいですわ。これなら、ピアニストの夢は成功したようなものですわね。まゆ香さんの場合は、ピアニストの才能がおありなのに、果たせなかったということで、割増料金はなし、ということで……どれがいいでしょうかしらね。」
数ある肉体から、選んできたモノは、若い高校生ぐらいの肉体で、家は金持ち、音楽留学ぐらいできる。なかなかのカワイコちゃんである。
「このカラダなんて、どうかしらね?」
「この人は?」
「まゆ香さんと同じように、ピアニストを夢見て亡くなられるのよ。学校でいじめに遭い苦にして飛び降り自殺を図るんだけど、この娘はメンタルが弱すぎるのよ。まゆ香さんがこのカラダに入れば、この女性の記憶もなくなるということよ。この娘は死にたがりなのよ。だから、このまま死なせてあげる。何不自由なく大きくしてもらいながら、自分の才能に気づけず、死にたがっているの。アナタがこのカラダを気に入ってくれれば、心身ともに健康体になることは保証するわ。」
「わかったわ。もし私がこの娘のカラダに入ったら、逆にいじめの仕返しをしてあげればいいのね?お安いご用よ。」
「うーん、ほどほどにね。」
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