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前世:断罪

16.クリストファー視点

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クリストファー殿下からアンジェリーヌ・マキャベリの情報を得た聖女リリアーヌは、その日からターゲットをアンジェリーヌに絞る。

昨夜の閨事でのこと

「クリスの横にいた女性、ずいぶん綺麗な人だったわね?」

「ああ、あれは政略での婚約者です。彼女は公爵家の一人娘で、箱入りなのです」

「ふーん。他に御兄弟は?」

「兄が一人います。確か名前はシャーロックと言い、彼女の学園の友人エリーゼと結婚し、男児が一人います」

「じゃあ、後は王子様と結婚すれば、幸せ全開というところね」

「あの女とは結婚しま……せん?いつも俺を見下してきて、今は聖女様のモノです。愛しています」

「まあ、嬉しい。だったらお嫁さんにしてくれる?」

「ぜひ、私と結婚してください。でも、父王がなんというか……」

「それには心配及ばないわ。クリスが愛してくれるのなら、もう1回しよ?」

クリストファーは、内心、愛してやまないのはアンジェリーヌただ一人なはずなのに、なぜかこの聖女様を前にすると本当のことが言えない。妙に強制力がある。

本当に抱きしめたいのは、アンジェリーヌ。でも、快楽に溺れていく自分は、もう愛しい彼女の名前も顔もわからなくなってしまう。

気が付けば、リリアーヌの男妾のようになっている自分に吐き気がするが、そういえば、あの謁見の日以来、父王の姿は見ていない。誰かをひどく傷つけたという自覚はあるが、それが誰のことかは思い出せない。

ここのところ、リリアーヌの寝室には自分だけしかいない。城内には時折、若い女性の悲痛な叫び声が聞こえるようになった。それが誰の声なのか思い出させそうで思い出せないもどかしさを感じる。思い出そうとすると、なぜか頭が割れるように痛い。

「あの女、処女だったなんて、いい年をして笑っちゃうわ」

あの女……誰のことか、よくわからないが、先ほどの悲痛な叫び声の持ち主だということはわかる。

クリストファーの常識では、貴族令嬢なら、結婚するまでは純潔を守るのが当たり前なので、おそらく声の持ち主は貴族令嬢ということになるだろう。

可愛そうだとは思うが、今のクリストファーにリリアーヌに逆らう力はどこにもない。

リリアーヌを前にすると、なぜだか愛の言葉しか囁けない。どんなに口惜しくても、それは声にはなることはない。

まるで操り人形のように、ただ、己のカラダを差し出すだけの存在に成り下がっていた。

今日は、午後から聖女様はお出かけの模様。その同行を昼食中に急に求められた。いったい、どこへ行かれるのか?聞いても、たぶん教えてくれないはずだが、気になる。

王宮から馬車で1分。ずいぶん、立派な屋敷に到着する。これなら歩いていけばいいと思うのだが、王家の威信を見せつけるためか、門を通り長い庭を通り抜けると、その家の主人夫婦らしい人物が出迎えてくれる。

「おかえりなさい。リリアーヌ」
「殿下もようこそ。お待ち申し上げておりました」

「ただいま」

家族でもないのに、当然のような挨拶に違和感を覚える。

夫妻に案内されるまま、屋敷の中を進み、中庭に出る。そうだ。昔、ここに来たことがある。何の用事で来たかは覚えていないが、少なくともリリアーヌ絡みではなかったように思える。

懐かしいような、そしてどこか嬉しいような記憶があったような気がする。思い出そうとすると、ここでも頭が割れるように痛くなる。

「結婚式を速めるって聞いたけど、本当?」

「ええ。陛下のお加減が悪いらしいのよ。それでクリスとの結婚を早めにしないと、戴冠式の用意もあるから、すべて前倒しにすることになってね」

「そう。ウエディングドレスはもう出来上がっているから。でも、リリアーヌ、少し瘦せたのではない?アナタ一人のカラダではないのだから、気を付けてね」

「ええ。大丈夫よ。マリッジブルーになっているだけだから」

一見、他愛ない話だが、どこかおかしい??

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