転生令嬢は恋愛しま戦 かかって恋、愛てになるわ!

犬宰要

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二年目 恋よ、愛てにとって不足はない

45 目覚めさせたこと

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 アラインから呼び出しがないまま数週間が絶ち、平日の授業後、休日の日中などは図書館に引きこもり勉強する日常を取り戻したユウヴィーだった。しかし、そんな日常にエリーレイドはいつもと違う表情で彼女の前に立っていた。
 
「ご、ごきげんよう?」
 
 いつもならエリーレイドに対して彼女は挨拶し、その後に小言のように貴族として自覚をという時候の挨拶を言うのだがエリーレイドは沈黙したまま、じぃと疲れた目でユウヴィーを見ていた。
 呆然気味な様子は不気味であり、ユウヴィーが彼女を心配するほど、何かショッキングな事があったのだろうかと考えるくらいだった。
 
「どうしたの? だ、大丈夫?」
「え、ええ……」
 
 ユウヴィーは立ち上がり、椅子をすすめ、彼女を座らせる。
 エリーレイドは精気を失ってるかのように反応が鈍く、異常としか思えなかった。彼女の状態をさすがに気にせずに勉強を続ける程の精神を持ち合わせていないユウヴィーは何があったのか聞くことにした。彼女は生死をかけた争いをしているものの、物理的かつ肉体言語なやり取りをしていないため、つい情が先行していた。
 
「最近、私の婚約者がおかしいの、いえ、おかしくはないのだけど……」
 
 彼女の口から説明されたのは、アライン殿下が始めた新しい事業を立ち上げ、軌道に乗って成功をおさめて流行を作りだしているという話だった。それが、ケモミミカフェ、ケモグッズといったものが庶民、貴族問わず人気になり、諸外国に対しても輸出しているとのことで、ユウヴィーは話を詳しく聞いていく内に心臓の鼓動が早まっていったのだった。
 
「原作にはない展開で――ってユウヴィー嬢、アライン殿下に何か言いましたわね?」
 
 ドキリとするものの、それを表情になんとか出さないようにしようとするが相手に察知されてしまうのだった。エリーレイドは席を立つとユウヴィーの両肩を捕まえ前後に揺さぶったのだった。彼女の表情は泣きそうな表情をしているものの、何か言葉にすることが憚れるのか口をつむったままだった。
 
 成すがままにされるユウヴィーはその間なにも言わず、声を出さず、ただ無表情であり続けた。自分がしでかした事で何が起きたのか、責任を放棄したいという思いで頭がいっぱいだったのだ。瘴気問題で生死がかかっているのに、アラインがおこなった新たなケモナー事業に対してのエリーレイドから何か追求され責任を問われても、どうしようもないからだった。
 
 ひとしきり肩を揺さぶった後に、ため息をつき席に座り、またため息をついた。
 
 エリーレイドの瞳に精気が宿り、それが何を意味するのかユウヴィー悟った。
「やめさせるように言ってほしい」
「無理では」
「そう……無理なのよね。わかってるわ、ここまで来ると無理なのはわかってるわ」
「無理でしょ」
 
 このやり取りが何度か続き、エリーレイドの大きなため息によって終了した。
 
「ねぇ、無理なのはわかったのだけど、どうなると思う?」
「どうにもならないと思うわ」
 ユウヴィーは目をつぶり、エリーレイドの血走った眼で訴えかけてくるのを物理的に見ない事にした。
 
「わかりましたわ、ごきげんよう」
「ええ、ごきげんよう」
 
 エリーレイドは去っていき、ユウヴィーは頭を振り、気分を入れ替えようとした。だが、どうにもケモミミカフェやグッズのことがすぐさま気になってしまい、勉強に手が付けられなかった。
 
(いったいどういうものなのか見に行きたいものの、行くのは絶対によした方がいいと理性が言っている……)
 
 自身がしでかした結果を確認したいという好奇心が彼女を蝕んでいた。その好奇心に負けた場合、アラインから君も理解してくれたんだねという追い打ちがやってきて、親密な関係性に発展しやすくなると理性が訴えかけていた。
 
(どんなものが売っているのかだけでも見に行く……のは絶対バレるしなぁ)
 
 エリーレイドの情緒がおかしかった事を深く考えず、アラインの趣味趣向を前面に出した事業のことが気になって仕方ないユウヴィーだった。この世界には娯楽的なものがあるものの、そういったコスプレめいたものがなく、彼女はその刺激に対して好奇心に火がついていたのだった。
 
 勉強に手がつかない状態になっており、その日は悶々とし、気になって気になって仕方がない状態に陥っていた。結局、行かないという答えを出すのに一日かかり、その日の勉強は全く進まず無為に過ごしたような虚無感を得たユウヴィーだった。
 
(ダメだ、まったく勉強が進まなかった)
 
 彼女は前世で攻略対象者たちがケモミミなど装着したイラストが描かれているタペストリーなどを購入していた事から、湧き出ていた好奇心だった。思い出せないままでいるものの、根本にある欲求が好奇心として現れ、それが勉強の妨げになっているとはつゆ知らずだった。

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