転生令嬢は恋愛しま戦 かかって恋、愛てになるわ!

犬宰要

文字の大きさ
上 下
19 / 46
入学~一年目 さぁ恋、なぐり愛

18_昔から対策していたのに?

しおりを挟む
「ねぇ。何か味、変じゃない?」
 同僚の黒髪ロング、サッパリお姉さん系メイドのダルバはパイを大胆に口に放り込み、ゆっくりと咀嚼しながら私、マリン・ハーランドを見た。

 シャクッ。
 私も一口、パイをかじる。
 
 最初はサクサク、後で口の中でジュワ~っととろけるシェフご自慢の生地の歯触りはいつもとなんら変わりはない。
 
 ん~。

 言われてみると、少しレモン風味が強いような……?後味もいつもよりも、しつこく口の中に残っているような気がする。
 
「えー、何が?」
「モニカ! あんた、もう食べちゃったの?」
 モニカの皿は既に空っぽだった。

「おかわりいいかなぁ?」
「良いけど、後で夕飯入らなくなっても知らないよ」
「これぐらい大丈夫だって」
 私も嫌いではないが、カフェ巡りが趣味のモニカは特にスイーツに目がない。

 既に二皿目ももう完食。
 いや、ほっといたら一人で全部食べちゃうかも……。

「気のせいかもしれないけど、レモンがいつもより濃くて、なんか薬品臭い気がしない……?」
 ダルバの言葉に私はフォークをカラン、と取り落とした。

 「えっ……薬品!?」
 イヤな予感が、一瞬走り抜ける。

 ……この展開って、いつものパロマのパターンじゃ……?

「さっき、これ。パロマが運ぼうとしていたって執事長、言ってたわよね?」
 ダルバも皿を置いて私を見た。
「まさか……」
 ……薬物混入未遂じゃなくて、事後だったとしたら?

 言おうとして、私は愕然と気がついた。
 なんか……顔が熱い。

 いや、顔だけじゃない。
 身体の中心から、モヤモヤとした熱が広がってきていた。
「うぇっ……!」
 
 これ、絶対変だ!

 パロマの奴!

 自分の身体を思わず抱きしめた私の耳に、トロンとしたモニカの甘ったるい声が……。

「ダルバぁ~」
 目の前に座っていたモニカが背後からガバッとダルバに抱きついていた。

「ちょっ……やめ! モニカっ!!」
 イケイケメイド、モニカは実はこの邸一番の怪力メイドである。

 ダルバにもそれなりに体術の心得はあるが、物凄い力で背後から押さえ込まれ、身動きがとれない。

「ダルバもマリンも良いわよねぇ……」
 いきなり、低い声でモニカが呟いた。

「……何が?」
「こんなに! こんなに二人ともデカい胸があって!」
 モニカの目がすわっている。
  
「ちょ、あんた何して……、うわぁぁぁっ!」
 両手で掴んでも溢れるほどのダルバの巨乳をメイド服の上から、モニカはもニュッと鷲掴んだ。
「あたしなんか! あたしなんか何枚パットいれてもバレちゃうのにぃぃぃ!!」
 
「……」
 それはパットを詰めすぎて日頃からズレてるからだよ、とツッコミたかったが、あえて沈黙する私とダルバ。
 
 彼女のAカップに対するコンプレックスは根深い。明らかに様子がおかしい彼女を刺激するのは得策ではないだろう。
 
 静寂の中、無言で胸を揉むメイド。
 ……何なの?この空間は。


「あたしにも、あたしにもコレ、ちょーだいよぉぉぉ!」
 ダルバのメイド服の胸元からグイッと強引に手を突っ込むモニカ。
「わっ、バカ! 痛っ、マリンっ、助けっ」 

「正気に戻りなさい! モニカ!!」
 私の渾身の回し蹴りが、モニカの側頭部にヒット!

「うぎゃぁっ!!」
 ガードも出来ず、まともにくらったモニカは悲鳴をあげて床に昏倒した。

 ……白目剥いて転がってるけど、モニカは身体が丈夫なのが取り柄!大丈夫でしょ……。

「……ゲホっ。サンキュー、マリン」
 胸だけでなく、肋骨ごと押し潰されていたダルバが激しく咳きこんだ。
「大丈夫?ダルバ」
「あぁ、骨は無事だよ。ったく、相変わらずのバカ力なんだから。あ~あ、痣になっちゃってるじゃないの……」
 ダルバは自分の胸をのぞき込み、ため息をついた。バッチリ、モニカに掴まれた五本指の痕が白い胸についてしまっている。

「マリン。あんたは大丈夫?」
「えっと……、半分ぐらい食べちゃった、かな」
 以前、パロマに媚薬を盛られた時と似た感覚が沸き上がってくる感じはあるが、あの時ほどの激しい衝動性はない。 

 なんか、モヤっとしたものが奥からジワジワとクる感じだ。他事をしていれば紛れる程度の、ムラムラ感。 

 ……本当に何してくれてんだか、パロマは。 
 私、これから出かける予定があるのに。

「あたしは食べたの一口だけど、それでも何かちょっとモヤモヤするわ~。今回は何が入ってたのかしらね?」
「う~ん。こないだみたいな自白剤でもないし。いつもの催淫剤にしては即効性が薄い気がする。……あえていうなら、怪しい発情系?」
「絶対、あの子。どっかで隠れてあたしらを観察してると思わない?」
 ダルバはキッとした表情で部屋中を見回した。

「間違いないわ……」
「とりあえず、片付けよっか」
 私たちは深い溜め息をつくと無言で皿に残ったパイを片付けはじめた。

 ……本来は美味しいレモンパイなのに。
 あぁ、もったいない。覚えてなさいよ、パロマ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...