9ライブズナイフ

犬宰要

文字の大きさ
上 下
30 / 82

30

しおりを挟む
 アカネとムッツーと一緒にマナチたちがいる場所に戻り、ムッツーから、一晩ここでゆっくりしてから戻る事になったと伝えられた。ジュリとツバサは不安げな顔をし、身を寄せ合いながら震えていた。大丈夫だよ。
 タッツーとハルミンはムッツーの決定に従うのか、不安な表情をしているものの不満を言う事はなかった。ムッツーが言ってるし、大丈夫。
 マナチは、僕が何か辛そうだったので、休んだ方がいいと言ってくれた。マナチかわいい。
 
 僕たちはアカネに、空き家となっているネズミ返しがある建物へと案内された。
 
 他の建物と作りは一緒で、建物の中に入るために柱状の階段があり、足元に注意しないといけない。中は雨風をしのげるような囲いと屋根がついただけの建物で、僕たちが中に入るとアカネは用事があるからと言い、どこかに行ってしまった。周りはベェスチティがいる建物に囲まれているものの、飛び移れるような距離ではなく、離れている場所だった。窓のようなものはあるものの、どれも天井付近にあり、外の状況を見ることができない作りになっていた。プライバシーが配慮されて、とてもいい。
 
 ジュリとツバサは二人して、ボソボソと会話をしていた。どうしてこうなってしまったのか、どうすればいいのか、考えがまとまらず成り行きに任せるしかない様子を見ようと言っていた。もしかしたら、友好的な生物かもしれないし、嫌な予感や想像は勘違いかもしれないと二人で話していた。きっと二人にもわかってくれると思った。
 
「ヨーちゃん、大丈夫? 何かあったの?」
 
「うん、大丈夫だよ。リーダーに会ってきたんだ、まだ頭痛はするけれど、休めば大丈夫だよ」
 
 手で頭を押さえながら、僕はマナチと話をした。ジュリやツバサや他の人たちも聞いていた。
 
「ね、ねぇ……ヨーちゃん、リーダーってどんな感じだったの?」
 
 マナチは僕に聞いてきた。僕の中でどう言ったらいいものか悩んだ。リーダーはリーダーだし、見た目はちょっと最初は驚くだろうけれど、なんで驚くのかわからなかった。じゃあ、普通に伝えればいいか。
 
「車くらい大きな臓器の塊だったよ、こう血管とか浮き出てて赤黒くテカテカしててヌメヌメしてた」
「え」
 マナチが顔面蒼白になっていた。なんでだ?
「そ、そそ、そ、それってなんですか?」
 ツバサが噛みながら聞いてきた。
「それって?」
 僕は質問の意味がわからなかった。リーダーはリーダーだ。
 
 ジュリが質問をしてきた。
「し、正体がよくわからない」
「正体? ベェスチティたちのリーダーだろ。それ以外に何かあるのか?」
 ムッツーが代わりに答えてくれた。そうだ、その通りだ。
 だけど、何か周りの様子がおかしい。なんでだろう?
 
 僕は視界端に映っている生存確率が5%になっている事に気づいた。なんでだ? 仲間になってるし、問題ないはずだ。
 するとツバサとジュリは僕の様子を見て、二人は互いに頷き、話しかけた。
「あ、あの……ヨーちゃん」
「ん、なんだ?」
 僕は頭痛のもどかしさから、不機嫌な表情のまま話しかけてきたツバサに対して、不機嫌な表情で返事してしまったのだった。
「ひ、ひぅ……すみ、すみません」
「あ、違うんだ。すまない……ちょっと頭痛がひどくて」
 僕の視界隅には「検疫されました。」という文字が流れ続けていた。それが何を意味するのか、もしかしたら二人ならわかるのかもしれないと思った。
 
「ちょっと聞きたいんだが、検疫されましたってどういう意味だ? 頭痛がする度に表示されるんだけど……いつっ」
 
「ヨーちゃんも頭痛した時に、そのメッセージが出るの?」
 マナチも同じ症状だったことを述べるとツバサとジュリは不思議なアーミーナイフを取り出して手に持ち、何かを探すようにアビリティ・スキルを見始めたのだった。
 
「え、なに……なんなの……?」
 ハルミンは状況がわからず、ただ不安な気持ちがあふれ出ていた。その言葉を聞いたタッツーは彼女をさすりながら、子どもをあやすように言った。
「大丈夫、大丈夫よ……」
 ハルミン、心配しなくて大丈夫だよ。大丈夫。
 
「ツバサ、さっき言いかけた事はなんだったんだ?」
 ハルミンとタッツーは大丈夫だし、僕はツバサに問いかけた。ツバサは器用にアビリティ・スキルなどを調べながら僕に対して返答してくれた。
 
「もしかしたら、何らかの方法で洗脳されたのかなと思います」
 ツバサは悲痛な表情で答えてくれた。
「せ、洗脳? ってなんだ?」
 僕はピンときていなかった。日常生活を送ってる中で洗脳という言葉は使わないし、そんな状況を知る由もない。
「あの、その、なんていうか他人に自分を操られていたり、正常な判断ができなくなり、言いなりになったり、自分が自分でなくなるってことです」
 ツバサはまるで僕がそうなってるかのような言い方をしていた。僕は洗脳という意味を知り、マナチもツバサの横で心配そうに僕を見ていた。ハルミンもタッツーに頭を撫でながら僕の方を見て聞いていた。その瞬間、僕の頭痛は止み、今までの痛みはなんだったのかという風に感じていた。
 
「まさか、洗脳されそうになっていた……ということか?」
 僕はさっきまでの奇妙な状態に全身の血の気が引いた。そして、その後に脱力感と疲労感に襲われた。くそ、いつやられたんだ?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

処理中です...