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第6章

それぞれの事情

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「あたしはまだストックあるんだけどな~~」
「いや、もういいから!」

 缶ビールを片手にケタケタ笑うジャックに、割とマジトーンでぴょんが静止をかける。
 うん、ああ見えて怖がりなんだな、メモメモ。

「ぴょんが言い出したくせに、いやぁ、まさか怖がって抱き着いてくるとは驚いたぜ」
「うるせー!」

 そんなぴょんに、ここぞとばかりに大和が攻勢をかける。
 すごいな大和、絶対倍返しで……って、ほら。
 すでにぴょんの連打が大和へ炸裂し出していた。

 それを必死にガードしようとする大和。ほんと、どっちが格闘使いグラップラーかわかったもんじゃねえな。
 だが、見ようによってはイチャイチャしてるようにも見えなくはない……か?
 でもあれかな、大和はゆめ派だから、何気なくぴょんをいじれるのか……?

 そんな風に大和とぴょんの様子を眺めていると。

「そういえば、ずっと聞きたかったんですけど」
「なになにー?」
「あーすさんは、何でLA内だと女の子なんですか?」

 いつも通りの調子で、ゆきむらがあーすをロックオン。
 実は俺もそれ聞きたかったんだよな。

 ゆきむらの視線に慌てることないあーすだけど、ほんとなんというか、何でも顔にでるあーすと、表情が乏しいゆきむらは対極だなー。

「あ、それわたしも聞きたかった~。あんな露骨なネカマの理由は~?」
「えっ、男ってバレてたのっ!?」
「いや、あれでバレてないつもりかよ……」
「わざとらしいというか、なんというか……」

 ニコニコした顔でゆきむらの質問を受け止めていたあーすだったが、ゆめの辛辣な言葉に少々ショックを受けたようで。
 そもそもお前が来た時みんな「えっ!? 男だったの!?」みたいな反応一人もしてなかっただろうが。
 その様子に俺とだいは苦笑い。

 しかしだい、顔。こんなのが初恋の相手なんて、って顔なってるぞ。

「んー。だってさ、キャラ動かす時って、基本後ろ姿見るわけじゃん?」
「そだね~~」
「最初は普通に自分の分身みたいに男キャラでキャラメイクしたんだけど、いざ動かし始めて、他のキャラを見て、5分くらいで思ったんだよね」
「何を~?」
「男の後ろ姿見てても、楽しくないなー、って。ずっと一緒にいるなら、可愛い女の子の方がいいなって」
「そう、ですか?」
「思ったことないわね」
「同じく~~」
「あたしのぴょんきちは可愛いけど」

 あーすの言葉に、ネナベ軍団の女性陣がはてなを浮かべる。

 んー、俺はあーすの気持ち分からなくはないけどな。
 まぁ今さら新しいキャラ作る気もないし、もちろん〈Zero〉にはかなりの愛着があるんだけどさ。

 ここでマッチョな男キャラにしなかったあたり、あーすが完全にそっち系ってわけじゃないのも伝わった。

「それでさ、女の子のキャラ作ったらさ、いやぁ、我ながらうまく出来たというか、すごく可愛いじゃん?」
「まぁ、あーすのキャラはたしかに可愛いな」

 あーすのキャラクターは年齢的には中高生アイドルくらいの、緑色の髪をポニーテールにした、色白でおめめぱっちりのザ・可愛い系フェイスをしている。笑うモーションをするときなんかによく見ると見える八重歯とか、ほんとよく考えてキャラメイクしたんだなと称賛に値する出来栄えではあるだろう。
 だがあーすの言葉に同意した大和へ、女性陣の刺さるような視線が飛んだので、同意しかけた俺はすんでの所で言葉をつぐんだ。
 あ、あぶなかった……。

 いや、だってうちのギルド、リアル男女比4:6だけど、6人中5人は男キャラだし。唯一の女性キャラを使うゆめの〈Yume〉は女エルフで美人系だからな。
 可愛い、って観点だと、どう考えても〈Earth〉だろう。あ、本人ではないからな、キャラの見た目だけな。あしからず。

「だからさー、これはみんなを笑顔にするLA内のアイドルだっ、って思ってねっ」
「いや、それはでかくですぎだろー」
「ましてうちのサバにはセシルがいるもんね~~」

 おおおおおおおう!!!??
 え、今その名前出す!?!?

 話の流れでセシルの名を出したジャックに悪意はないのだろうが、その名の登場に俺の心拍数が跳ね上がる。

「……顔」
「え、あ、あはは……」

 今度は俺が顔にでていたか!!
 そんな俺の様子に気づいたか、ぼそっと呟いただいの声に俺は誤魔化し笑いを試みるも……うん、だいさん完全に苦笑いですね。
 ごめんなさい。

「せめて別サーバーならまだしもね~」
「いや、それでもあれはネカマすぎだろー」

 ありがたいことに俺のことはスルーしてくれたゆめとぴょんだったけど、これはあれか? 優しさか……?

「あ、僕昔は01サーバーじゃなかったんだよー」
「ほお。移転組か」
「あたしと一緒だなー」
「あ、ぴょんもそうだったんだっ」
「おう。あたしは元々は17サーバーだったからなー」

 そんな俺の安堵を差し置いて、あーすに続いてぴょんも移転組だとカミングアウト。ぴょんとは知り合って2年以上経つけど、知らなかったな。

「みんなは元々01サーバーだったのー?」
「俺はそうだな」
「俺も」
「私も」
「あたしも~~」
「わたしもそだよ~」
「私もです」

 サービス初期頃に始めた俺とだい、ジャックと大和はまぁそうだとして、ゆめとゆきむらもそうだったのか。後発組だと、ランダムスタートの中01サーバーになるのはけっこうラッキーなんじゃないかな?
 全48サーバーある中で、01サーバーは特に人気が高い。さっきも名前が出たけど、亜衣菜……じゃなくて〈Cecil〉がいるし、【Vinchitore】の本家もあるサーバーだしな。
 移転希望掲示板でも、たしか常に移転希望者が多いとか、誰かから聞いたことある気がするな。

「僕は47サーバーだったんだよー」
「えっ」
「わ~~お~~」
「それは……」
「え、47サーバーって何かあるの~?」

 出身サーバートークで出たあーすの言葉に、長く続ける俺とジャック、だいが反応。

 ゆめが不思議そうに聞いてくるけど、いやぁ、47ったら、一番行きたくないとこだよな。

「47はね~~、けっこう柄が悪いというかね~~」
「ネット掲示板で、今でもプレイヤー同士の晒しとか中傷が盛んなんだよな」
「ほー。そんな掲示板あんのかー」
「なんだか怖そうですね」

 俺とジャックがみんなに47サーバーについて説明するや、この話を知らなかったか、ぴょんとゆきむらが反応。ゆきむらの口調だと、全然怖そうに感じないけどね!

 ちなみに俺も昔LA47サーバーについての掲示板を覗いたことがあるけど、ほんとなんというか、野良募集のコンテンツで1ミスしただけでキャラ名を上げて「クズ」だの「無能」だのと罵り合う、そんな柄の悪いコメントが多い印象だった。
 もちろん柄の悪いというか、マナーのないプレイヤーはどのサーバーにもいるのだろうが、何年か前に一人のプレイヤーがネット掲示板で声をかけたことにより、47サーバーにはそういった柄の悪いプレイヤーたちが集まってしまったのだ。

「あそこは【Vinchitore】もギルドメンバーをおいてないからね~~」
「え、全サーバーにあるんじゃないの~?」
「元々いたんだけどさ~~、所属してたメンバーがみんな晒されたり嫌がらせ的なメッセージ送られたり、活動中のエリアに大挙で押し寄せられたりとか、色々ひどいことがあってね~~、みんな辞めちゃったり『もう無理です』って他のサーバーに移転しちゃったんだよね~~」
「そりゃひでーな」

 そう、これがあるプレイヤーの呼びかけで発生した、47サーバーを悪名高いサーバーにしてしまった事件、一部のプレイヤーから《ギルド潰し》と呼ばれる出来事だ。
 現在の全48サーバーまでサーバー数が増えたのは、サービス開始から何年か経ってからのことだったため、47サーバーが作られた時既に【Vinchitore】はプレイヤー内で知らぬ者はいないほどの有名ギルドになっていた。
 当然新設サーバーができれば、そのサーバーにも【Vinchitore】のメンバーが移転し活動をするはずだったのだが、移転した【Vinchitore】に所属するプレイヤーたちは皆、今ジャックが話したような嫌がらせを受けたとかなんとか。
 あの【Vinchitore】が撤退したという噂は、俺たち一般プレイヤーたちからすれば、衝撃だったなぁ。

 もちろん運営側も相当に悪質と判断したプレイヤーのアカウントを凍結したりと対処はしたようだが、それも氷山の一角に過ぎず、今だに当時ほど露骨ではないにせよ、ネット掲示板では日々晒しや誹謗中傷が溢れているのだ。

 しかしそこの出身とは、よくあーすは脱出できたな……。
 もちろん普通のプレイヤーもいるんだろうけど、あんなとこ、よほどの変わり者じゃないと行きたがらないんじゃないか?

「僕も昔晒されたことあるよ~」
「え、マジ?」
「うん。みんなを笑顔にするため、あーちゃんの可愛さを振りまいてたら、キモいとかウザいとか、書かれてたなー」
「ひどいわね……」
「だからどこでもいいから移転希望ずっと出してたんだけど、01サーバーの人からもう引退するからよければって連絡が来てね、ほんとラッキーだったよー」
「脱出できてよかったな!」

 昔を思い出したのか、苦笑いを浮かべながら話すあーすだけど、ネットで晒されるとか、正直考えただけでやりきれないよな。
 あーすだってただゲームを楽しもうとしてただけのはずなのに。

「01サーバーに来れたからみんなにも会えたし、ほんとよかったよー」
「しかし、そんな目にあったのによくまだあのネカマ続けたなー」
「えー、だってあーちゃん可愛いからね、あの可愛さでみんなをハッピーにしたいしさっ」
「あーすはメンタル強いね~~」

 まさかあーすにそんな過去があったとはなぁ……。
 でも、あのキャラはな、正直ネカマ以外の何者でもないから、正直どうかと思うぞ?

「あーちゃんと遊ぶ時は自然とああなっちゃうし、これからもあーちゃんをよろしくねっ」

 だがあーすは辛かったであろう過去を微塵にも感じさせず、そのイケメンフェイスを存分に発揮したスマイルをみんなに振りまく。
 いや、うん。ほんとメンタル強いなこいつ。
 伊達にだいに「どっちもいける」ってカミングアウトしただけあるな。

「でもほんと、オフ会やるまではどんな奴かも知らなかった奴らと今こうして同じ旅館に泊まってるって、すげーよなー」

 しみじみと言いつつ缶ビールを開けたぴょんが、本日5缶目に突入。明らかに一人だけ飲んでる量が多いのは、間違いないだろう。
 
「そだね~。性別もちゃんと分かってなかった人もいたみたいだしね~」
「い、いじるなよ……」

 そして完全に油断していた俺に向かって、ゆめが悪戯っぽい笑みを浮かべてくる。
 苦笑いの俺に、ジャックも笑っていた。

「むしろみんな何で男キャラにしたのー?」
「ん? あたしはゲームのパッケージ見た時にビビっときたから」
「小人族可愛いよね~」
「あたしはほら、基本男キャラ使ってる人は男だと思ってもらえそうだし、その方が楽だと思ったからね~~。色々あったけど~~」

 シンプルに答えたぴょんに続き、ジャックが男キャラにした理由を教えてくれる。
 でもジャックの色々はね、初めてジャックと会ったオフ会で聞いたけど、オフ会もいいものだけではないってことだな。
 ほんと、うちのギルドは平和でよかった。
 ……いや、平和かどうかはたまに分かんないけど。

「私は、名前の通りですが、赤い鎧があるかわからなかったので、髪の毛だけは赤くしてみました。見た目は、強そうな感じをイメージしてます」
「たしかにゆっきーのキャラはワイルドな顔してるよな」
「せんかんもジャックもだいも、クール系イケメンの男キャラだけど、ゆっきーだけ野性味あるもんね~」
「中の人とのギャップはんぱねーけどなー」

 ほうほう。たしかに真田幸村ったら、鎧は赤のイメージだけど、そういうことだったのか。
 でもほんと、赤い髪のワイルド系イケメンキャラの〈Yukimura〉を操作するのがこのぽーっとした感情の薄そうなゆきむらというのは、ぴょんの言う通りギャップだな。

「だいは~?」
「私もジャックと同じよ。見た目は、好きなゲームのキャラクターをイメージしたけど」
「あ、もしかしてあれ~~?」
「あれか~」
「たしかにあれはカッコいい」
「なるほど、言われればたしかにってなるな!」
「え、何々ー?」
「どなたでしょうか?」
「誰か画像検索よろ!」

 だいの言葉に理解を示したのがジャック、ゆめ、俺、大和。パッと浮かばなかったのがあーす、ゆきむら、ぴょん。
 これはきっとLAを始める前からのゲーマー具合だな。

 大和がスマホで検索したキャラクターを回し見し、分からなかった3人も要領を得たようだ。

 でもたしかに金髪ツンツンヘアーのクール系イケメンな〈Daikon〉だけど、名前をもじることもなければ、使う武器も全然違うから、ほんと見た目だけ意識ってことか。
 ちゃんと意識するなら武器は大剣にすべきだと思うけど、ロールプレイってわけじゃないもんな。
 昔のだいの、寡黙な感じはある意味似てたかもしれないけど。

 まぁ、だいが女キャラだったら俺とだいは今みたいな関係になってないかもしれないし、結果論で考えれば、ありがたかったなぁ。

「でもほんと、中の人もわかるとより楽しくなる気がするねっ」
「うむ。それは間違いない」
「僕また絶対オフ会来るからねっ」
「まだ明日もあるだろーが」

 無邪気な笑顔を浮かべるあーすに、あーすを挟んで座っている大和と俺が答える。
 何だかんだ、あーすは良くも悪くも〈Earth〉のままだったなー。

 悪意を感じさせないあーすの笑顔は、みんなにのほほんとした空気を感染させていく。
 何だかんだだいも普通になったし、明日はみんなで楽しめそうだな。

 そんな予感を覚えつつ、俺たちは1時近くまで仕事の話やギルドでの思い出話、くだらない話で盛り上がったりしながら、買ってきた酒が尽きるまで宴会を続けるのだった。
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