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第6章

人生の先輩

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「綺麗だったね~」
「なー。ほんと、ダンジョン冒険するってこんな感じなんだろなー」

 採掘場内の見学を終えて、再び入口まで戻ってきた俺たちだったが、どうやら先に入ったのに出てきたのは2番目グループだったようで。

 近くのベンチではあーすを挟んでゆめとぴょんが座っているだけだった。

 二人の距離感に慣れたのか、あーすが普通に間に座っている感じに女慣れを感じさせる。
 このイケメンが!

「大和たちはまだ?」
「来てないよ~」
「ゆっきーと一緒に迷子なってたりしてなー」
「いや、あり得そうで怖い」

 ゆきむらの方向音痴はすさまじいからな……。
 いや、でも大和がいるから大丈夫だと思うけど、あいつでも御しきれないとか、ないよな……?

「ただいま~~」
「綺麗な場所だったわね」

 そして続けてだいとジャックが帰還。
 出てきただいはベンチに座る3人を見て少しびっくりした感じだったけど、ささっと俺の方に寄って来てくれて嬉しい。
 ちなみにあーすは、そこまでだいの方を見ていなかったみたいだな。
 ちょっと疲れた感じもあるし、振り回されたんであろうことは想像するに難くない。

「おかえりっ」
「写真とか撮ったかー?」

 戻ってきた二人に声をかけるリダ夫婦。
 あ、ちなみに俺たちも写真は撮ったぞ。嫁キングカメラで。
 後で送ってもらわないとな。

「ばっちり~~。いやぁ、美人とダンジョンは映えますな~~」
「ちょ、や、やめてよっ」
「ゼロやん見てみて~~」

 そう言ってジャックが自分のスマホを俺に見せてくる。
 どれどれ、と。

「おおっ」
「送って欲しい~~?」
「ぜひ」
「……恥ずかしい」

 ジャックのスマホの画面には、ライトアップされた場所で採掘場内を真剣に見つめる姿や、恥ずかしそうにはにかんでいる写真が表示されていた。
 うん、眼福です。
 というか俺も二人での写真撮りたかったな……!
 いつかは二人で来よう。そう決める。

「わたしたちもみた~い」
「いいよ~~」

 そして今度はジャックがゆめたちの方に行く。
 俺の隣に残るだい。

「すっかり懐かれたみたいね」
「ん? ああ、そうだな。後半からずっとぐっすりだったよ」

 言い忘れてたが、今だに仁くんは俺が抱っこしている。
 さすがに腕が疲れてきた感は否めないけど、こうして腕の中で眠る赤ちゃんを見ると、まだまだ大丈夫な気がしてくるから不思議である。

「ゼロやんのおかげで助かっちゃったよっ」
「けっこう子どもに好かれるんだな!」
「小学校の先生向いてるかもっ?」
「いや、免許ねーし」

 まぁ、自慢できるほどではないが俺は子どもに怖がられたりする方ではない。
 俺も子どもは好きだし。小さい子はね、素直に無邪気で可愛いって思うよ。
 一度に40人近く見るとか、それはやだけど。

「可愛いわよね」
「そうだな」

 そっと細い指先で、優しく仁くんのほっぺたをつつくだい。
 ぷにぷにのほっぺが柔らかな弾力でそれを押し返す。
 その姿に俺が癒されてるのは秘密です。

「そういえば、宿ってどこに取ったんだ?」
「あ、俺らは日光の方に」
「おお、明日は日光見学か?」
「ええ。せっかくだしね」
「定番なだけあるもんねっ、栃木の誇りだよっ」

 リダに聞かれた流れで時計を確認すると、もうすぐ16時半くらい。宿は18時チェックインで予約してるけど、まぁまだ大丈夫、だよな。
 これで大和とゆきむらがまだまだ出てこなかったらちょっと焦るけど。

「あーすは、今日はどこに泊まるの~?」

 俺たちの会話が聞こえたのか、ベンチに座ったゆめが隣のあーすに尋ねていた。
 たしかにこれから宿泊費もかかるって言ってたから、どっかしら泊まるんだろうけど、こいつの分の宿は俺ら予約してないぞ。

「あ、まだ決めてないけど、どっかビジネスホテルでも探そうかなって」
「つかさ、そもそもなんだけど、あーすは明日どうするつもりなんだ?」

 ゆめの質問に答えたあーすに、ぴょんが追撃。
 たしかに仰る通り、リダたちは明日は不参加予定だし、元々あーすが来るなんて予定してなかったから、車は7人乗りで定員だ。
 あーすも日光に行くなら、一人公共交通機関か、もう1台車を借りるって流れになるよな……。
 まぁせっかく来てくれたんだから、車もう1台借りるのは別にいいけど。

「あ、東京駅18時発くらいの帰りの新幹線取ってるんだけど……うーん、それまではどうしてようかな……」

 ぴょんの言葉に、急に不安そうになるあーす。
 弱気なイケメンフェイスは、思わず助けてあげたくなるような、そんな子犬オーラを放っていた。
 そんなあーすが、何故か俺に助けを求めるような視線を送ってくる。

 いや、なんで俺やねん!

「……あー、じゃあ観光一緒に行けるように、宇都宮でもう1台車借りて、今日俺らと同じとこ泊まれるか聞いてみるか?」

 小さくため息をつきつつ、だいの顔色を伺ってからそう提案する俺。
 だいの表情も、会った時よりは少し大丈夫そうな気もしたし。
 さすがに昔からの知り合いを見捨てるような奴でもないだろう。

「えっ、いいのっ!?」
「泊まれるかは知らねーぞ?」
「ゼロやんやっさし~。あーすよかったね~」
「お前行き当たりばったりすぎんだろー」
「明日は宇都宮からは一人で帰れよ?」
「ありがとー!」

 流石にだいとあーすを離すために動いてくれたとはいえ、やはりギルドの仲間だし、ゆめもぴょんもここであーすを見捨てることは出来なかった様子。
 喜ぶあーすに笑顔を向けるゆめに、呆れた様子で小突くぴょん。
 しかしぴょんに「行き当たりばったり」って言われるなんてお前それ末期だぞ。

「じゃあ、俺はゼロやんとあーすを乗せて宇都宮駅の方に戻ればいいかな?」
「あっ、私、リダの車に乗っていい?」
「おっ、だい乗ってくっ?」
「うん、リダとあんまり話せてないから、ちょっとだけでも話したいなって」
「おお、嬉しいこと言ってくれるな!」
「じゃ、あーすの荷物は俺が運ぶから、俺とだいの荷物頼むわ」
「おっけ~」
「リダたちと離れてから、二人で変なとこ行くんじゃねーぞー?」
「行かねぇわ!」

 とりあえず、可哀想なあーすを救うための方向性が決定。
 嬉しいことにリダたちと別れたらだいと二人で日光までドライブだし、それはちょっと嬉しい。

 ということでいきなりで泊まれるか分からないけど、だいに仁くんを託し、みんなから少し離れて俺は今日泊まる予定の宿へ電話。
 ずっと抱っこしてた仁くんと離れるのは寂しかったが、だいに託すのはなんかそういう関係っぽくて、ウキウキしたり。
 って、起き抜けにいきなりだいの胸触るとか、やっぱり仁くんも男ってことか!

 そんなことを思いつつ宿の人と交渉し、どうにかこうにか、俺らと一緒に夕食も出してくれることに。なんという神対応だろうか。

「泊まれるってさ」
「おおっ! ゼロやんありがとーっ!」
「はいはい」

 そうしてあーすの今後の見通しが立った頃、ようやく大和とゆきむらが生還、じゃなくて合流した。

「あれ? 皆さんお早いですね」

 相変わらずのゆきむらに対して、大和の表情はぐったり。
 言わなくても分かる。大変だったんだろうな。

「おっかえり~~」
「じっくり見て来たんだなー」
「あー、この部屋あったかくて嬉しいわ……」

 ゆきむらの方向音痴を知るだいは、そんな大和に苦笑いを浮かべていた。
 そんな大和の方へ歩み寄る俺。

「じゃ、そういうことだからよろしく」
「えっ、おいっ、どういうこと!?」

 あえて何も説明せず、俺は大和へ車のキーを渡す。
 また説明とかめんどいから、あとはそっちに乗るメンバーから話を聞いてくれ。

 そして、再び10人が揃ったところで、資料館の人に集合写真を撮ってもらい、その写真をみんなに送り合って確認しながら、俺たちは揃って駐車場へ移動するのだった。



 そして。

「今日は会えて嬉しかったよっ! 私たちが東京行くときは、よろしくねっ」
「おうっ! 宇都宮来るときはいつでも言ってくれよっ」
「また来るぜー!」
「ありがとね~仁くんもばいば~い」
「だ~」
「子育ての話また聞かせてね~~」
「リダたちに会えてよかったよっ」
「ありがとうございました」
「また餃子勝負しような!」
「じゃあまたあとでね」
「先にチェックインよろしくー」

 駐車場のリダの車のそばで、みんながリダと嫁キングと仁くんに別れを告げ、俺とだいはリダの愛車の後部座席に着席した。
 あ、もちろん仁くんはチャイルドシートね。

「ほんと、すごくいい子ね」
「でしょっ? 人見知りしないし、助かるんだよねっ」

 リダが運転を開始する中、仁くんの隣に座るだいが優しそうに仁くんを眺めている。
 その光景に、何となく将来を妄想しちゃう俺。
 だいの子だったら、絶対可愛いよなぁ……。

「仁も今日一日きっと楽しかったろうな!」
「俺もちょっとだけパパ体験させてもらえてよかったよ」
「自分の子だともっと可愛いぞー?」

 リダの言葉を受けて、俺は無意識にだいの方を見ていた。
 奇しくもだいも俺の方を向いていたようで、ぱっと焦ったように目を逸らす俺たち。
 
 たぶん、思ったことは同じだと思うんだけど……。

「でもほんとすごいよねっ。だいってばずっとゼロやんのこと好きだったんでしょっ?」
「えっ、あ、うん……」
「え、いつ聞いたの!?」

 俺とだいの様子を見てなのか、助手席からバックミラー越しに嫁キングが話しかけてきて、俺とだいは二人して慌ててしまった。

「ここ来るとき、あーすから二人が付き合ってるって話聞いたあと、せんかんが話してくれたぞー」
 
 いや、隠すことでもないし、大和はあーすへの牽制的にきっと言ってくれたんだろうけど。

 段々とまた市街地に近づいていく中、恥ずかしさに何も話せなく俺たち。
 ミラーから見えるリダは、何だか少しニヤニヤしてる気がしたけど。

「いいねー、若いって」
「だいって、いまいくつだっけっ?」
「あ、今年で、26だけど、まだ25」
「25かー、じゃあまだ結婚とかは考えてないのかー?」
「え、そ、それは……」

 おいおい、何という質問を!?
 どう答えられても、俺は何も言えないんですけど!?

「ゆっくり、ちゃんと、考えなよっ」
「そうだなー。結婚してからの人生も長いし、子どもできたら、その子の人生も一緒に歩んでいかなきゃいけないからな」
「う、うん」
「付き合ってる頃が、一番気楽で楽しいかもねっ」
「そうだなー。今しかできないこともあるだろうし、付き合ってからの日はまだ浅いわけだろ? しっかりお互いのこと分かっていくべきだな」
「色んなとこ行って、色んなこと話して、色んなことでぶつかって、それを乗り越えて、もっと一緒にいたいなって思えたらいいよねっ」
「そう、だね」

 人生の先輩たちからもらった、大切な言葉。
 俺はまだだいについて知らない部分がたくさんある。
 それはだいも同じだろう。
 それらを一つずつ、理解し合っていく。

 急がなくてもいい、着実に、確実に。

 まずは、あーすのことか。
 だいと二人になったら、ちゃんと聞いてみよう。
 今ならきっと、話してくれるはず。

 宇都宮駅の方へと向かう景色を眺めながら、俺はそう心に決めるのだった。
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