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第4章
いざ大会初戦へ!
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「1番ピッチャー柴田」
「え?」
「返事ははいだろー」
「あ、はい」
「2番ライト市原」
「はーい」
「3番ショート真田」
「はい!」
「4番キャッチャー赤城」
「はいっ!」
「5番サード黒澤」
「はい」
「6番ファースト飯田」
「はい!」
「7番センター木本」
「はーい」
「8番レフト萩原」
「はいはーい」
「はいは1回でいいからな」
「はーい」
「9番セカンド佐々岡」
「はいっ」
ピッチャー柴田と言った時、柴田はかなり驚いていた。でも市原は平然としていたから、たぶん着替えてる時にだいが伝えといたんだろうな。
どうせだったら柴田にも言ってやってやれよとは思うけど。
ちなみにオーダー発表は普段はさん付けする月見ヶ丘の子たちも呼び捨てにするので、全員一律に名字呼びだ。
この方がしっくりくるし。
「1試合目のオーダーはこれでいく。分かってると思うけど、今日勝たないと明日はない。でも、今日勝てば明日もある。明日も勝ち進めば都大会が待ってる。しかしこの暑さだ。気持ちは大丈夫でも、必ず体力は消耗する。だから今日は市原を温存しつつ、出来る限りコールド勝ちしたい」
贅沢な要望だとは思うが、俺の言葉に選手たちは力強く頷いてくれた。
彼女たちも分かっているのだ。
勝利の先にしか、3年たちともっと部活をする時間はないのだと。
「里見先生からは何かありますか?」
俺のフリに、だいが一歩前に出る。
ちなみにやっぱり名前呼びは恥ずかしいので、お互いの呼び方は先生呼びで部員たちにも定着させた。
「どのチームも負けたくない思いで今日はぶつかってくるわ。でも、それは私たちも同じ。私たちがやることは今まで通り。今日は公式戦っていう特別な試合ではあるけれど、普段通りの練習の成果を見せるだけ。それができれば大丈夫。頑張りましょうね」
「「「はいっ!」」」
あれ、俺の話には返事なかったやんけ。
まぁ、いいけどさ……。
「よし、じゃあまずは10時まで試合見て、そっから選手はアップ開始だ」
「おっしゃ! いくぞみんなぁ!」
合同チームキャプテンは赤城に任せている。
彼女の言葉と共に、部員たちが移動を開始する。
その姿は、頼もしかった。
「いいチームになったわね」
部員たちの背中を目で追っていた俺に、くすくす笑っただいがそう告げてくる。
「お父さんみたいな顔してたわよ?」
「まじか」
「うん。でも、勝たせたいね」
「ああ。勝とうな」
「うん」
短く言葉を交わし、俺とだいもグラウンドの方へ移動する。
遠くから聞こえる他校の選手からして、どうやら第1試合が始まったようだ。
ここまできたらやるだけだ。
帽子をかぶり直し、俺は気持ちのギアを一つ上げるのだった。
そして、11時2分。
「双方礼っ!」
「「「おねがいしまーっす!」」」
「「「おねがいしまーっす!」」」
ついに俺たちの初戦が始まる。
この試合の前、墨田&板橋北の合同チームは神田との試合に12対2の4回コールドで敗れていた。
だから相手校はもう背水の陣。試合の運びとかを見る感じ100回やったら99回勝つと言えるくらいのレベルだったから、勝てるとは思うけど……それでもやっぱり公式戦は緊張する。
「夏美! リラックスしていけよ!」
自分にもリラックスしろと言い聞かせるように、俺は声を出す。
俺たちは後攻を取ったので、1回の表のマウンドに立つのは柴田。
自信家のこいつだけど、やっぱりまだ1年生だし、3年最後の大会初戦で先発に指名されたせいか、表情は強張っていた。
俺の声も、届いてる感じがあんまりしない。
だが投球練習は淡々と進み。
「初回! しまっていくぞっ!」
赤城の声が響き渡り、試合が開始する。
その初球だった。
カキィン!
甘く入ったボールを見逃さず、相手の先頭バッターの子が打った打球は鋭く一二塁間を抜いていく。
「そら!」
「おっけぇい!!」
鮮やかに内野を抜いていった打球に対し、予想以上に機敏に反応した市原が捕球。素早く一塁の飯田さんへ送球し――
「アウッ!」
「ナイスライトー!」
塁審の拳が握られ、ほっと胸を撫で下ろす宣言が叫ばれる。
打球の行方を見守っていた味方たちからも、称賛の声。
それに市原はにこにこして手を振っていた。
綺麗に打たれた打球だっただけに、ライトゴロに抑えることができた。野球じゃありえないけど、高校の女子ソフトにはこれがあるのだ。
ライトが7人目の内野手と呼ばれる所以だな。
外野のポジションって言ったって、高校野球の深めの内野くらいの位置なんだし。
「市原さん、やっぱりいい肩ね」
「足は速くないから、正面の打球でよかったわ」
いきなりひやっとした場面だったが、まずは一安心。
しかし、相手の1番バッターは経験者っぽいから警戒って言ったのに柴田のやつめ。
マウンドで露骨にほっとした表情を浮かべる柴田に俺は苦笑い。
「タイムお願いします」
「ターイムッ!」
先頭バッターを打ち取り、赤城が2番バッターへのサインを柴田に出しているとき、急に赤城がタイムを要求した。
時間制限のある関係で守備の時のタイムは1試合に2回までと貴重なんだが、思い切ったことするな、あいつ。
ちなみに赤城には常々自分で何かよくない空気を感じたらタイムは使っていいとは言っている。だいが俺に何か言いたげだったが、これが俺のやり方だ。
マウンドに集まる内野手たち。
さすがに何を言ってるかは聞こえないが、終始赤城は汗いっぱいの笑顔で、柴田に話しかけていた。
そして。
「何してんだ……?」
ちょっとだけ応援席もざわついた。
相手ベンチも視線を送る中、赤城が取った行動はなんとびっくり。
柴田へのハグ。
こんな光景見たことないんだけど……。
でも俺が焦ってもカッコ悪いからな。
なんとか、冷静なふりを続ける。
「よっしゃ! ワンナウトー!」
数秒のハグのあと、赤城が元気よく定位置に戻り、審判に一礼してから構え直す。
「効果ありみたいよ」
「え?」
「ほら、いい顔になった」
「うわ、ほんとだ」
2番バッターと対峙する柴田に、先ほどまでの緊張はなかった。
いつも通りの自信に満ちたような、生意気そうな顔がそこにはある。
そして。
「バッターアウツッ!」
2番三振。
「バッターアウツッ!」
3番三振。
無事チェンジ。
「夏美ナイスピッチング!」
本来の球威を取り戻した柴田は、まるで別人。
そして攻守交替で戻ってきた選手たちはみな笑顔で柴田を褒め散らかす。
もちろん俺とだいも柴田を褒める。
しかしみんなの声よりも、帽子の上からではあるが、赤城に頭を撫でてもらったのが、柴田は嬉しそうなような。
いやぁ、すげえな。これがキャプテンの求心力か。
あれ? これもう俺座ってるだけでいいんじゃね?
「いい流れだぞー! 守備は短く攻撃長く! かましてこい!」
超シンプルにそれだけ言って、今度は俺たちが攻撃を開始。
流れは完全にうち。
そして自信満々な顔をした柴田が綺麗にレフト前にヒットを放ってからは、ちょっと相手が可哀想なくらいの展開になるのだった。
「ゲームッ!」
「「「ありがとうございました!!」」」
「「「ありがとうございました!!」」」
現在11時57分。
3回裏に15点目を奪った俺たちは、見事に予定通りの3回サヨナラコールド勝ちで初戦をものにした。
「ありがとうございましたっ……!」
「「「ありがとうございましたっ……」」」
うちのメンバーが相手校のベンチに礼をしに行き、代わって墨田&板橋北の選手たちが俺たちのベンチ前に来て、礼をする。
指示を出すキャプテンの子は、泣いていた。
それでも最後まで大きな声で礼を言うんだから、大したもんだ。
後輩の子たちもちらほらと泣いている子がいる。
きっと、いい先輩だったんだろうな。
これで墨田と板橋北は2敗。彼女たちの涙が示す通り、早くも予選敗退決定。
つまり、3年生の高校部活は終わり。
引退だ。
俺たちが勝ったからなんだが、その涙はやっぱり、来るものがあった。
「ナイスゲーム!」
相手選手たちに拍手を送りながら、俺は戦った相手を称える。
俺たちが勝ったから、相手校の3年が引退になったことはこれまでもあった。
そして逆もまた然り。
でもこの光景は、何度経験しても慣れるものではない。
あの子たちも、もっと部活をしてたかったんだろうなって思いは、拭えない。
隣にいるだいは、普段通りの真顔なんだけど。
こいつは強いなぁ。
「っしゃ! ベンチ空けるぞー!」
だが、戻ってきた選手たちの笑顔に俺は勝利の実感に引き戻される。
負けた相手には悪いが、俺たちも負けられない試合だったのだ。
試合をするからには、勝ち負けがある。
3年間やってきた彼女たちも、それは分かっていただろう。
「夏美ナイスピッチング。道具はみんなで移動するから、鈴奈とダウンいっていいぞ」
「はーい」
「おっけい!」
バッテリーの二人だけファールゾーンでキャッチボールをさせつつ、俺たちは手当たり次第に荷物を持って移動する。
「最後チェック任せていいか?」
「うん、わかった」
俺たちと入れ替わるように次の試合の学校がベンチに道具を置いていく。
そっちの道具とこっちの道具が混ざらないようにのチェックはだいに任せつつ、俺は先頭を切って移動する黒澤と市原に並んだ。
「これで寿命が延びたな」
「そだねー。まぁさすがに勝てる相手だったし」
「倫ちゃん、次は私先発?」
「いや、次も夏美でいく」
「あ、そうなんだ。いつでもいけるからね!」
「ああ。明日のために継投はするから、頼むぞ」
「まっかせろー!」
1試合終わったばかりというのに、市原は元気いっぱい。
これなら、大丈夫そうだな。
次も勝てる。なんとなく、そんな気がした。
「え?」
「返事ははいだろー」
「あ、はい」
「2番ライト市原」
「はーい」
「3番ショート真田」
「はい!」
「4番キャッチャー赤城」
「はいっ!」
「5番サード黒澤」
「はい」
「6番ファースト飯田」
「はい!」
「7番センター木本」
「はーい」
「8番レフト萩原」
「はいはーい」
「はいは1回でいいからな」
「はーい」
「9番セカンド佐々岡」
「はいっ」
ピッチャー柴田と言った時、柴田はかなり驚いていた。でも市原は平然としていたから、たぶん着替えてる時にだいが伝えといたんだろうな。
どうせだったら柴田にも言ってやってやれよとは思うけど。
ちなみにオーダー発表は普段はさん付けする月見ヶ丘の子たちも呼び捨てにするので、全員一律に名字呼びだ。
この方がしっくりくるし。
「1試合目のオーダーはこれでいく。分かってると思うけど、今日勝たないと明日はない。でも、今日勝てば明日もある。明日も勝ち進めば都大会が待ってる。しかしこの暑さだ。気持ちは大丈夫でも、必ず体力は消耗する。だから今日は市原を温存しつつ、出来る限りコールド勝ちしたい」
贅沢な要望だとは思うが、俺の言葉に選手たちは力強く頷いてくれた。
彼女たちも分かっているのだ。
勝利の先にしか、3年たちともっと部活をする時間はないのだと。
「里見先生からは何かありますか?」
俺のフリに、だいが一歩前に出る。
ちなみにやっぱり名前呼びは恥ずかしいので、お互いの呼び方は先生呼びで部員たちにも定着させた。
「どのチームも負けたくない思いで今日はぶつかってくるわ。でも、それは私たちも同じ。私たちがやることは今まで通り。今日は公式戦っていう特別な試合ではあるけれど、普段通りの練習の成果を見せるだけ。それができれば大丈夫。頑張りましょうね」
「「「はいっ!」」」
あれ、俺の話には返事なかったやんけ。
まぁ、いいけどさ……。
「よし、じゃあまずは10時まで試合見て、そっから選手はアップ開始だ」
「おっしゃ! いくぞみんなぁ!」
合同チームキャプテンは赤城に任せている。
彼女の言葉と共に、部員たちが移動を開始する。
その姿は、頼もしかった。
「いいチームになったわね」
部員たちの背中を目で追っていた俺に、くすくす笑っただいがそう告げてくる。
「お父さんみたいな顔してたわよ?」
「まじか」
「うん。でも、勝たせたいね」
「ああ。勝とうな」
「うん」
短く言葉を交わし、俺とだいもグラウンドの方へ移動する。
遠くから聞こえる他校の選手からして、どうやら第1試合が始まったようだ。
ここまできたらやるだけだ。
帽子をかぶり直し、俺は気持ちのギアを一つ上げるのだった。
そして、11時2分。
「双方礼っ!」
「「「おねがいしまーっす!」」」
「「「おねがいしまーっす!」」」
ついに俺たちの初戦が始まる。
この試合の前、墨田&板橋北の合同チームは神田との試合に12対2の4回コールドで敗れていた。
だから相手校はもう背水の陣。試合の運びとかを見る感じ100回やったら99回勝つと言えるくらいのレベルだったから、勝てるとは思うけど……それでもやっぱり公式戦は緊張する。
「夏美! リラックスしていけよ!」
自分にもリラックスしろと言い聞かせるように、俺は声を出す。
俺たちは後攻を取ったので、1回の表のマウンドに立つのは柴田。
自信家のこいつだけど、やっぱりまだ1年生だし、3年最後の大会初戦で先発に指名されたせいか、表情は強張っていた。
俺の声も、届いてる感じがあんまりしない。
だが投球練習は淡々と進み。
「初回! しまっていくぞっ!」
赤城の声が響き渡り、試合が開始する。
その初球だった。
カキィン!
甘く入ったボールを見逃さず、相手の先頭バッターの子が打った打球は鋭く一二塁間を抜いていく。
「そら!」
「おっけぇい!!」
鮮やかに内野を抜いていった打球に対し、予想以上に機敏に反応した市原が捕球。素早く一塁の飯田さんへ送球し――
「アウッ!」
「ナイスライトー!」
塁審の拳が握られ、ほっと胸を撫で下ろす宣言が叫ばれる。
打球の行方を見守っていた味方たちからも、称賛の声。
それに市原はにこにこして手を振っていた。
綺麗に打たれた打球だっただけに、ライトゴロに抑えることができた。野球じゃありえないけど、高校の女子ソフトにはこれがあるのだ。
ライトが7人目の内野手と呼ばれる所以だな。
外野のポジションって言ったって、高校野球の深めの内野くらいの位置なんだし。
「市原さん、やっぱりいい肩ね」
「足は速くないから、正面の打球でよかったわ」
いきなりひやっとした場面だったが、まずは一安心。
しかし、相手の1番バッターは経験者っぽいから警戒って言ったのに柴田のやつめ。
マウンドで露骨にほっとした表情を浮かべる柴田に俺は苦笑い。
「タイムお願いします」
「ターイムッ!」
先頭バッターを打ち取り、赤城が2番バッターへのサインを柴田に出しているとき、急に赤城がタイムを要求した。
時間制限のある関係で守備の時のタイムは1試合に2回までと貴重なんだが、思い切ったことするな、あいつ。
ちなみに赤城には常々自分で何かよくない空気を感じたらタイムは使っていいとは言っている。だいが俺に何か言いたげだったが、これが俺のやり方だ。
マウンドに集まる内野手たち。
さすがに何を言ってるかは聞こえないが、終始赤城は汗いっぱいの笑顔で、柴田に話しかけていた。
そして。
「何してんだ……?」
ちょっとだけ応援席もざわついた。
相手ベンチも視線を送る中、赤城が取った行動はなんとびっくり。
柴田へのハグ。
こんな光景見たことないんだけど……。
でも俺が焦ってもカッコ悪いからな。
なんとか、冷静なふりを続ける。
「よっしゃ! ワンナウトー!」
数秒のハグのあと、赤城が元気よく定位置に戻り、審判に一礼してから構え直す。
「効果ありみたいよ」
「え?」
「ほら、いい顔になった」
「うわ、ほんとだ」
2番バッターと対峙する柴田に、先ほどまでの緊張はなかった。
いつも通りの自信に満ちたような、生意気そうな顔がそこにはある。
そして。
「バッターアウツッ!」
2番三振。
「バッターアウツッ!」
3番三振。
無事チェンジ。
「夏美ナイスピッチング!」
本来の球威を取り戻した柴田は、まるで別人。
そして攻守交替で戻ってきた選手たちはみな笑顔で柴田を褒め散らかす。
もちろん俺とだいも柴田を褒める。
しかしみんなの声よりも、帽子の上からではあるが、赤城に頭を撫でてもらったのが、柴田は嬉しそうなような。
いやぁ、すげえな。これがキャプテンの求心力か。
あれ? これもう俺座ってるだけでいいんじゃね?
「いい流れだぞー! 守備は短く攻撃長く! かましてこい!」
超シンプルにそれだけ言って、今度は俺たちが攻撃を開始。
流れは完全にうち。
そして自信満々な顔をした柴田が綺麗にレフト前にヒットを放ってからは、ちょっと相手が可哀想なくらいの展開になるのだった。
「ゲームッ!」
「「「ありがとうございました!!」」」
「「「ありがとうございました!!」」」
現在11時57分。
3回裏に15点目を奪った俺たちは、見事に予定通りの3回サヨナラコールド勝ちで初戦をものにした。
「ありがとうございましたっ……!」
「「「ありがとうございましたっ……」」」
うちのメンバーが相手校のベンチに礼をしに行き、代わって墨田&板橋北の選手たちが俺たちのベンチ前に来て、礼をする。
指示を出すキャプテンの子は、泣いていた。
それでも最後まで大きな声で礼を言うんだから、大したもんだ。
後輩の子たちもちらほらと泣いている子がいる。
きっと、いい先輩だったんだろうな。
これで墨田と板橋北は2敗。彼女たちの涙が示す通り、早くも予選敗退決定。
つまり、3年生の高校部活は終わり。
引退だ。
俺たちが勝ったからなんだが、その涙はやっぱり、来るものがあった。
「ナイスゲーム!」
相手選手たちに拍手を送りながら、俺は戦った相手を称える。
俺たちが勝ったから、相手校の3年が引退になったことはこれまでもあった。
そして逆もまた然り。
でもこの光景は、何度経験しても慣れるものではない。
あの子たちも、もっと部活をしてたかったんだろうなって思いは、拭えない。
隣にいるだいは、普段通りの真顔なんだけど。
こいつは強いなぁ。
「っしゃ! ベンチ空けるぞー!」
だが、戻ってきた選手たちの笑顔に俺は勝利の実感に引き戻される。
負けた相手には悪いが、俺たちも負けられない試合だったのだ。
試合をするからには、勝ち負けがある。
3年間やってきた彼女たちも、それは分かっていただろう。
「夏美ナイスピッチング。道具はみんなで移動するから、鈴奈とダウンいっていいぞ」
「はーい」
「おっけい!」
バッテリーの二人だけファールゾーンでキャッチボールをさせつつ、俺たちは手当たり次第に荷物を持って移動する。
「最後チェック任せていいか?」
「うん、わかった」
俺たちと入れ替わるように次の試合の学校がベンチに道具を置いていく。
そっちの道具とこっちの道具が混ざらないようにのチェックはだいに任せつつ、俺は先頭を切って移動する黒澤と市原に並んだ。
「これで寿命が延びたな」
「そだねー。まぁさすがに勝てる相手だったし」
「倫ちゃん、次は私先発?」
「いや、次も夏美でいく」
「あ、そうなんだ。いつでもいけるからね!」
「ああ。明日のために継投はするから、頼むぞ」
「まっかせろー!」
1試合終わったばかりというのに、市原は元気いっぱい。
これなら、大丈夫そうだな。
次も勝てる。なんとなく、そんな気がした。
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