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第3章

そして俺たちは強くなる

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「初めてもこさんとこ参加したときのこと覚えてる?」
「うん」
「緊張したよなー」
「たぶん、私はゼロやんの比じゃないくらい緊張してたわよ」
「あ、そうか。あのコンテンツ初だったんだもんな」
「というかギルドっていうものも初めてだったし」
「そういやそうか」
「でも、なんだかんだ楽しかったわね」
「いやぁ、俺はだいの強心臓に驚いたよ」
「う、うるさいわね!」

 既に日付は変わって、7月4日の日曜日になっている。
 だが俺とだいは時間など気にせず、スキル上げをしている。
 ちょっとしかやってないが、いい感じに経験値も入るから、俺の盾はスキル104に、だいの銃は101になった。

 段々と余裕がでてきたのか、殲滅速度も上がっている。
 二人パーティにしては、けっこう稼ぎはいいような気がするね。

 今は俺とだいの二人だが、初めてもこさんとこでドラキュラ伯爵討伐をしたときは安定の7人パーティだった。
 5人以上のパーティとか、だいにとっては初だったんだよな。



〈Moco〉『やこぶ本気出してる?』
Yakobやこぶ〉『本気ですってw』
Kanachanかなちゃん〉『たろさんすごい拾い物しましたねー』
〈Taro〉『だろ?w』
Koppepanこっぺぱん〉『ゼロやんさん、ここまでミスショット何回?』
〈Zero〉『0ですけど』
〈Taro〉『ゼロだけにw』
〈Yakob〉『いやーだいさんもポジション取りうまいっすねー』
〈Yakob〉『ほんとに野良だったんすか?』
〈Daikon〉『そうですけど・・・』

 【Mocomococlub】のメンバーとしてプレイするのは初の俺とだいだったが、正直滑り出しは上々だった。
 いや、上出来過ぎたと言えるだろう。
 特にだいは、神がかってた。

 バルドニア城塞でのドラキュラ伯爵討伐は、俺にとってはある程度慣れたコンテンツでもあり、道中の敵も倒したことのあるモンスターたちばかり。
 だがだいにとっては全てが初めてのはずなのに、もこさんの一言で的確に動き、防御を決め、連撃を決めていた。

 ちなみにこの時武士刀使いのもこさんとサポーターメイス使いのたろさん以外の【Mocomococlub】のメンバーは、ウィザード樫の杖使いの可愛い系黒髪女ヒューム〈Kanachan〉と、ヒーラー錫杖使いのおかっぱ女小人族の〈Koppepan〉、ファイター斧使いの黒髪イケメン男エルフの〈Yakob〉。
 全員使ってる武器スキルはキャップの、たろさんが選抜した安定感あるメンバーだった。

 かなちゃんはたしか2,3年前に引退したけど、こっぺぱんとやこぶはまだ現役だ。やこぶなんかは、俺とフレンド登録してるし、今でも会えば話はしたりするぞ。

 まぁ、そんなメンバーでやっていたにも関わらず、緊張とかそんなん感じさせないくらい、だいは普通だった。
 あいつが普通にプレイするってことは、つまり強いってことだからな。


 そして、ボスのドラキュラ伯爵戦。

〈Yakob〉『だいさんまだ早いって!』
〈Daikon〉『え?』
〈Koppepan〉『もこさんがヘイトあげるのまたないとーw』
〈Daikon〉『でも、もう5回捌いてますよ?』
〈Yakob〉『はい?』

 ドラキュラ伯爵に到達するまでに撃破しなければならない中ボスは3体。
 ここもピラミッドと同じく、入場から伯爵撃破までが45分のコンテンツのため、当時はしっかりと連撃を決めて中ボスを倒していかないと、中ボスたちを倒せてもボスであるドラキュラ伯爵を倒す時間がなくなるのはざらだった。
 今戦えば全部ソロでも倒せそうな強さだが、昔の強敵が今の雑魚ってのは長命MMOのあるあるだよな。
 強さインフレがどこまでも進むのは、MMORPGの宿命だろう。

 話がそれたが、この時の攻略で俺たちの時間が足りなくなる、ということは一切なかった。というか、俺が所属していた【Natureless】の攻略よりも明らかに早い速度でドラキュラ伯爵戦まで進んでいた。
 ここまでもだいがしっかりと活躍していたのは既に話した通りだが、このボス戦でだいが言ってた言葉は、今でもはっきりと覚えている。
 俺も、相当びっくりしたからな。

〈Kanachan〉『どういうこと??』
〈Moco〉『よくきづいたねー』
〈Yakob〉『え?』
〈Moco〉『私が』
〈Moco〉『アタックの』
〈Moco〉『合図だす』
〈Moco〉『タイミング』

 もこさんは攻撃を捌く関係でログが細切れだったが、だいが気づいたことに、俺も気づいていなかった。
 パラディン盾&片手剣使いなしにこのコンテンツに来るのが初だったから、気づけないのもしょうがなかったと言いたい。

 でも、だいは気づいていた。

 3体の中ボスを倒す過程で、もこさんがだいたいどの程度攻撃を捌き、ヘイトを上げてからアタック開始を出すのか、それを見抜いていたのだ。
 モンスターが盾役に対してどれくらいヘイトを持っているかどうかというのは、HPやMPと違って数値で目には見えない。
 パラディンと違って武士やグラップラー格闘使いは攻撃を捌くアクションはあるものの、ヘイトを上昇させるスキルは多くない。今でこそ多少増えたが、当時はコンテンツボスに挑むのにパラディンなしで行くのは普通の考えではなかった。
 この普通の考えを知らなかったから、だいは平然とプレイしてたのかもしれないけど。
 今考えれば、だいが初って知ってたのに、武士が盾役の編成でドラキュラ伯爵討伐につれてったとか、けっこう鬼だったな、もこさん。

 ちなみに俺がだいの発言の意味を理解できなかった理由は他にもある。
 もこさんは中ボスのタイプに応じてヘイトを上げるために使うスキルを変えていたからだ。
 それなのに、だいはもこさんとパーティを組んだのが初めてであるにも関わらず、もこさんのプレイスタイルを自分なりに分析していたのだ。
 しかもそれが正解だという。
 
 いや、これはマジでビビった。

〈Yakob〉『マジすか』
〈Taro〉『やこぶもゼロやんもだいさんにつづけーw』

 たろさんの言葉を受け、俺とやこぶもアタックを開始する。
 中ボス3体の時と同じように、もこさんの合図を待っていた経験者の俺たちは、正直恥ずかしさというか、情けなさでいっぱいだった。
 パーティ解散後に、この時のだいへの驚きトークをしたのが俺とやこぶがフレンドになったきっかけになるくらいにな!



〈Moco〉『いいね』
〈Kanachan〉『いつものアタッカー陣と、遜色ないような・・・』
〈Koppepan〉『アタッカーが一人ガンナーだと回復が楽!w』

 そして苦戦することもなく、俺たちはドラキュラ伯爵を討伐した。
 当時のドラキュラ伯爵は決して雑魚ではない。既に実装から1年は経っていたが、それでもなんたって当時の最難関コンテンツだからな。
 でも、たしかに俺たちは苦戦もなく、8回の連撃を浴びせた末、撃破したのだ。
 ガンナーの俺がノーダメージだったのは言うまでもないが、後半の範囲攻撃に対し防御アクションが遅れ回復魔法をもらったこっぺぱんのお世話になったやこぶに対して、だいは近接アタッカーだというのにほぼノーダメージに近い被ダメだった。
 もこさんのヘイトを理解し、連撃ミスをすることもなく、ボスの攻撃の構えから2秒後くらいに来るガード不可の後方範囲攻撃にもしっかり対応。
 
 その動きはどう見ても経験者のそれのような、洗練された動きとしか言えなかったのだ。

〈Yakob〉『自信なくしました・・・』
〈Kanachan〉『だいさんほんとに初なのー?』
〈Daikon〉『そうですけど・・・』
〈Taro〉『分かってたような動きしてたけどw』
〈Daikon〉『攻略動画は見たことはありますから』
〈koppepan〉『え、見ただけでできる!?』
〈Yakob〉『信じられん・・・』
〈Daikon〉『そうなんですか?』
〈Taro〉『やこぶは初めての時3回は死んだよねw』

 この会話もよく覚えている。
 動画で見たから出来るとか、正直俺には理解できなかったしな!
 やはり“見る”と“やる”は違うと思うし!

 でもだいが褒められたのは、相棒の俺としてもちょっと嬉しかった。

〈Kanachan〉『ゼロさんも結局ミス0ですか?』
〈Zero〉『一応』
〈Koppepan〉『DPSDamege Per Second/1秒あたりのダメージけっこうあった気がするけど!』
〈Kanachan〉『構えてから発射、すごく早かった気がします』
〈Zero〉『何回か戦ってますし、タゲマ位置はなんとなく把握してます』
〈Koppepan〉『え、それでもボスだとタゲマずっと動いてるんじゃないの!?』
〈Yakob〉『こんな削るガンナー組んだことねーっす・・・』

 ちなみに俺も称賛を受けたからな!
 雲の上の存在みたいなギルドメンバーに褒められたのは、やっぱ嬉しかったね。
 
〈Taro〉『ボクの推薦間違ってなかったでしょw』
〈Moco〉『うん、いいね』
〈Moco〉『すごくいい』

 そしてもこさんの称賛は、何より嬉しかった。

〈Moco〉『ゼロくん、だいこんくん』
〈Moco〉『【Mocomococlub】は二人を歓迎するよ』
〈Moco〉『ドロップ装備は二人に全部あげるねー』
〈Moco〉『これからもよろしくねー』

 こうして俺たちは廃ギルドである【Mocomococlub】に加わることとなった。
 ちなみに俺は既にある程度の装備は持っていたので、この時のドロップ品は全部だいに譲ったぞ。
 こうして、当時の水準での強い装備を一気に手にして、だいはさらに強くなった。

 そう、ここから俺とだいは、就職や就職準備で【Mocomococlub】の活動継続に限界を感じる1年半後くらいまで、廃人たちの仲間入りをしたのである。
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