後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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「オスカー、ずるいよ」

 王宮内のオスカーの執務室を訪れるなり、ウィリアムは子供のような事を言った。

 暖人はるとを迎えに来る前に仕事が一日押したのは、休みを四日間に延長する為だったのだ。
 たっぷり四日間、オスカーは暖人と二人きりの恋人生活を楽しんだ。暖人に言わせればさっぱりしているらしいが、だからこそ暖人もわりと運動感覚でオスカーを受け入れた。

 きっとウィリアムの前では「もう、仕方ないですね」「俺もシたいと思ってました」など言わないだろう。
 どうだ羨ましいだろ、と言ってやりたいが、暫く暖人と二人だけの秘密にしておきたい。

 代わりにフッと勝ち誇った笑みを向けた。

「二週間はこっちにいる事を了承しただろ」
「それはそうだが、その二週間に休みを集中させるとは聞いていないよ」
「言ってないからな」
「……教えなければ良かったかな」

 ウィリアムは拗ねたような顔をした。
 涼佑りょうすけが許したという手紙を受け取ってから、オスカーは直ちに休みの調整をした。この二週間は、休日と半休をかき集めている。それでも毎日という訳にはいかないが。

 メルヴィルには渋い顔をされたが、暖人と過ごしたいから頼むと率直に伝えれば「色恋に屈するなど滑稽ですね!」と言って了承してくれた。オスカーに上から目線でなく頼み事をされて、上機嫌だった。

 この二週間が終われば暫く休みはない。それでも良かった。


「今までこれがお前が日常だったんだろ。俺に言わせればそっちが狡い」
「それはそうだが……」
「どうせ毎日送り出して貰って、夜は添い寝して、唇以外ならとか言ってあちこちにキスして人肌がなければアイツが眠れないようにしてたんだろ」
「……誰から聞いた?」
「聞かなくても分かる」
「そうか……」

 淡々と言葉にされると少し恥ずかしい。
 暖人がそうなれば嬉しいと思っての事だった。だがオスカーの口から聞くと、暖人を調教しているように聞こえる。……あながち間違いではないのだが。

「これからは俺も遠慮しないからな」
「ああ、分かってはいるが、困ったな……、強敵が現れてしまった」
「せいぜい頑張れ」
「オスカー。ハルトと何があったんだ?」

 この余裕。一体何が、と思ってもオスカーは意味深に笑うだけ。
 ……以前の自分なら、不安でたまらなかっただろう。だが今は違う。相手がオスカーでも、暖人の気持ちを信じている。

「それなら俺も、手加減なしでいかせて貰うよ」
「ああ。アイツが怯えない程度にな」
「言われなくても」

 暖人を大切に想う気持ちは誰にも負けないつもりだ。
 大切で、だからこそ、欲しくてたまらない。出来る事ならひと時も離れずに傍にいたい。


「俺も君も、ハルトと毎日一緒にいたいと思っている。それならこれからはどちらかの屋敷に通って、三人で一緒にするしかないだろうか」
「三人?」
「リョウスケからは、ハルトが望むならと了承されているよ」
「いや、望まないだろ」

 一人ずつでも精一杯といった様子。三人一緒になど絶対に嫌だと拒否されるに決まっている。

「条件を付ければ、どうかな」
「ウィル。必死か」
「必死だよ」

 真顔で答えた。これは相当だ。暖人に会えなくて相当きている。
 だが、オスカーも思案した。
 今回は初めてだった為、暖人も頑張ったのだろう。だがそれを今後も続けられるとは限らない。暖人の為を思えば、今後は週に一、二度に控えた方が良い。

 単純計算で、一人ずつなら涼佑も合わせて週三日。ウィリアムとオスカーが一緒なら週二日に出来る。

 抱く事前提かと言われれば、そうだとしか言えない。好きな相手を抱きたいのは当然の感情だろう。


「条件は」
「三人一緒の時は、挿入は一人一回まで、ハルトが本当に嫌だと言えばそこで中止、どちらかが止まれない場合は、もう一方が殴ってでも止める、というのはどうだろうか」
「そうだな。気絶させるのは得意だ」
「俺がされる前提はやめてくれ」
「どう考えても先に理性飛ばすのはお前だろ」
「オスカー。もう昔の俺ではないんだよ。ハルトに鋼のように鍛えられたからね」

 格好良い事を言っているつもりだろうが、オスカーは哀れなものを見る目をした。

 本当に鋼になったなら、三人一緒にしても、ウィリアムが嫉妬して暖人を責め過ぎる心配もないかもしれない。


「帰ったら話してみるか」
「いや、ハルトが俺の屋敷に戻った時に、君も泊まってくれ」
「……そうだな。事前に言うと、気が気じゃないだろうしな」

 了承するにしても、拒否するにしても、意識して距離を取られそうだ。滞在中にそれは悲しい。
 今後二人きりでする機会が少なくなるなら、残りの期間は徹底的に甘やかす方向にシフトしよう。

「まあ、三人で、というのも悪くはないな」
「ハルトをもっとたくさん愛してあげられるね」

 全身を一度に、と暗に告げ、笑みを浮かべる。
 それはそれで悪くない。オスカーも口の端を上げた。

 勿論、暖人の嫌がる事はしない。体だけが欲しい訳ではないのだ。
 ただ暖人を愛したい。可愛い姿を見たい。愛し尽くしたい。とろとろに蕩けるまで、たっぷりと……。





「っ……、なんか寒気が……」

 窓際で本を読んでいた暖人は、ブルッと震えた。もう夕方だ。そろそろ冷えてきたのだろう。
 窓を閉めながら、夕焼け綺麗だな、オスカーさん早く帰って来ないかな、とのんびり考えている暖人は知らない。
 知らないところで、暖人にはまだ早い話が着々と進んでいたのだった。





―――――――





 こちらまでお読みいただきありがとうございました!
 少しお休みして、また続きを書きたいと思います。
 まだ書きたい事も、フラグ回収していない事もたくさんありますので……。別の国にも行っていない。

 再開の際はまたお知らせいたします。
 今後ともよろしくお願いいたします。
 一段落のこちらまでのお話、少しでもお楽しみいただけていましたら幸いです。

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