後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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*一人でできます

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 その後しばらくして、オスカーはベッドから下りた。
 大きな窓に掛かるカーテンを開けると、朝の眩しい光が室内を照らす。

(どうあってもイケメン……)

 窓際に立つ姿も様になっている。上半身裸で逞しい筋肉を晒し、気怠げに佇むその姿。
 そのまま髪を掻き上げて欲しい。元の世界なら雑誌の表紙と特集記事、即完売で重版決定……と心の中で呟いた。

 そして、ベッドの天蓋を支える支柱に結ばれた紐を外し、窓側以外のカーテンを閉める。

「朝食を頼んでくる」

 そう言って暖人はるとの髪をくしゃりと撫でた。
 このカーテンは、事後の暖人の姿を誰にも見られないようにだ。前回滞在した部屋と違うと思ったら、こんなところまで配慮してくれていたのだ。
 窓の方だけ閉めなかったのは、暖人が外を見られるように。こんな気遣い、どうあってもますます惚れてしまう。


 オスカーが上半身裸で「食べやすいものと喉に良い温かい茶を」と使用人に伝えると、驚愕して震える男性の声が聞こえた。……その声は、きっとしばらく忘れられない。

(オスカーさんが成人前の子供を抱いたと思われてるんだろうな……)

 今まで色恋には興味も示さなかった、国に忠誠と命を捧げる青の騎士団長様が。

 この屋敷の人々には“主人の大切な人らしい”と認識されているようだが、実際に情事の名残を見れば更に驚愕するだろう。
 オスカーの背には引っ掻き傷が、鎖骨付近にはキスマークが付いているのだ。

 この屋敷の人たちに申し訳ない、と思ってしまう。自分は内外共にオスカーに釣り合うとは思えなかった。
 だが、誰に何を言われても離れるつもりはない。オスカーに嫌われるまでは。それがまた、申し訳なかった。



 ベッドの上で朝食をとった後、オスカーはシャワーを浴びに行った。

「さっぱりしてるのもいいかも」

 暖人はぽそりと呟き、枕をクッション代わりにしてベッドヘッドに凭れ掛かる。
 ずっとお世話をされるのも大切にされていると感じて嬉しいが、さっぱりしているのも大人の恋人同士という感じでとても良い。大人扱いされている事が嬉しかった。

 カーテン越しに微かに聞こえる、シャワーの音。

(……オスカーさんと、シたんだよね……)

 改めて思うと、嬉しいような、くすぐったいような。じわじわと込み上げる暖かなものに、自然と頬が緩んだ。
 一人で感慨に耽る時間があるのも良いなとくすりと笑った。


 だが、それも今だけだった。
 シャワーを浴びたオスカーは、髪を拭きながら鏡に映る己の姿を見つめた。そこで、鎖骨付近に残る控えめな痕を見つけたのだ。
 そこからは早かった。

「っ……、え、あの、オスカーさん、せめて下は穿いてからっ、うわっ!」

 勢い良くバスルームの扉を開けたオスカーは、堂々と暖人の元へと向かうとバッとカーテンを開けた。
 そして突然暖人を横抱きに抱え上げ、そのままバスルームへと向かう。

「オスカーさんっ、大丈夫ですからっ、一人で入れますからっ」

 オスカーの意図に気付いた暖人は慌てた。
 少し休めば立てるようになります、と言っても無視をされ、シャワールームへと連れ込まれてしまった。


 背後から暖人の腰に腕を回ししっかりと支え、適温の湯で暖人の軽く体を流す。そして片手で器用にシャワージェルのポンプを押した。

「あのっ、一人で出来ますからっ」

 ジタバタと暴れても離して貰えず、駄目だ、と言われ宥めるように耳元にキスをされた。

「こんな物を付けられたら、離したくなくなるだろ」

 ほら、と示された先には、鏡越しに映るオスカーの姿。視線の先には、こっそりと付けた赤い痕が……。

(予想以上に、嬉しそうだった……)

 どんな顔をするだろうと思っていたら、こんなに純粋に嬉しそうにしてくれるとは。
 まるでウィリアムのように髪や頬にチュッチュと何度もキスをしてくる。

「お前の所有物になるのも、悪くないな」

 悪くないどころの顔ではない。喜びがダダ漏れで、こちらまで嬉しくなるほどだった。
 出来れば今は離して欲しいけれど……。

「……オスカーさんさえ良ければ、また付けますね」
「ああ、次は起きてる時に頼む」

 こんなに喜ばれるなら、悪くない。暖人は内心で呟く。今度はもっとたくさん付けよう、と。


「ひゃっ、っ……」

 突然腕にぬるりとしたものが触れ、声を上げてしまった。その正体は、オスカーの手だ。シャワージェルを肌に直塗りされている。

「洗うだけだ」
「ちょっ……、自分で洗えますからっ」
「そうか」
「え?」

 突然手を繋がれ、ぬるりとしたものが触れる。追加されたジェルも暖人の手に。

「……あの、タオルは」
「忘れたな」
「そうですか……」

 直行だったもんな、と暖人は一応納得して両手で泡立てる。それを腕や腹に乗せ、まず腕から、そして胸元へ。

「って、どんなプレイですかっ」

 視線を感じると思えば、鏡越しにオスカーが見つめていた。
 その中で自ら体を撫でているように見える。本当にどんなプレイだこれは。

「正直、そんなつもりはなかった」
「嘘ですよね」
「本当だが。お前がシャワーを浴びる間も離したくないと思っただけだ」

 あまりに真っ直ぐな瞳を向けられては、認めざるをえなかった。……のだが。

「恥ずかしいなら、俺が洗ってやる」
「えっ、っ……、ま、って……ぁ、っオスカーさんの手っ、だめっ……」

 泡の滑りを借りするすると滑る手に、腕を撫でられるだけでゾクゾクと震える。

「やっ……、これ以上しないって言っ、ひゃんっ! ~~っ」

 遠慮も何もなく胸を擦られて、甲高い声を上げてしまった。
 室内に声が反響し、恥ずかしさのあまりぷるぷると震える。

「洗うだけだ。挿れないから安心しろ」
「安心出来ませんよっ、オスカーさんの手は危険なんですからっ」
「早めに終わらせる」

 そう言ってもう片手も洗われ、次は首から背中へ。
 本当に泡の伸ばすだけの動きに、感じている自分がおかしいような気分になってくる。

(洗ってるだけ、ただ洗ってくれてるだけ……)

 自己暗示を掛け、無になろうと視線を落とした。……が。

「ひゃぅっ、ぁ、あっ、だめっ……そこ、ひゃ……」

 ただ洗うだけが終わってしまった。
 ぬるりとした手で胸を摘まれ、擽られるような感覚が襲う。強めに摘んでもぬるぬると滑るだけ。それが絶妙な刺激になり、摘まれる度に腰をくねらせた。

「ぁ、ぁんっ……んっ、オスカーさんっ、ぁ……だめぇっ」

 ふるふると頭を振ると、胸から手が離れる。そしてそのまま暖人自身を掴み、ゆるゆると扱き始めた。
 片手は腰を支えている為、胸への刺激はない。だがまだ擽られているような感覚に身を捩り、胸を突き出してしまった。


 ……そこで何気なく、ふと、視線を上げる。
 目の前には、こちらを真っ直ぐに見据える金の瞳と……鏡に映る、己の姿。

(っ、俺、こんな顔っ……)

 ぎゅっと目を閉じ視界から消しても、消えない。
 だらしなく口を開き、頬を染め、蕩けた瞳でこちらを見つめる男の姿。感じ入った顔でオスカーの腕に手を添え、誘うように身をくねらせて。

「やっ……、鏡っ、やだぁっ……」

 掴まれた下肢の先端から、泡とも湯とも違うテラテラとした液を溢れさせていた。それをオスカーが掴み、上下に扱いて……その姿を、全て見られている。

「やぁっ……、みない、でっ……」

 あれだけしておいて今更でも、自分で見てしまうと恥ずかしくてたまらなかった。それならもう、さっさと達して終わらせて貰うしかない。

「んんっ、あっ、オスカーさ、ん、っ……も、イかせてぇっ……」
「っ……」

 鏡越しに視線を送ると、オスカーの眉間に皺が寄る。その瞬間、手の動きが速まり、絶頂へと追い上げる動きに変わった。
 泡の滑りのせいで、普段とは違う快感。背筋をゾクゾクとしたものが駆け上がり、軽く達した感覚が襲う。
 だがオスカーの手は止まらず、緩急を付け扱かれ、親指で強めに裏筋を擦られて、あっという間に追い上げられてしまった。

「やぁっ、んッ、ぁっ……あぁッ」

 室内に響き渡る甘えた声。震える唇では声も抑えられないまま、あまりにもあっさりと絶頂を迎えてしまった。



 荒い呼吸が収まった頃、達する瞬間に反射的に閉じてしまった瞼をそっと持ち上げた。

「もう何もしないって言ったのに……」
「洗うだけのつもりだったが、反応してたからな。まさか俺の手にここまで感じるとは思わなかった」
「だから、ずっと言ってるじゃないですか」
「悪かったから、そんなに拗ねるな」
「拗ねてません」

 むっとして拗ねる可愛い顔も、オスカーからは鏡越しに見えている。思わず頬を緩めた。
 この部屋やバスルームは元々女性客を想定して造られている。侍女のいる者には必要ないが、念のために付けたものだ。
 その鏡がまさか、こんなところで役立つとは。

「にやけないでください」

 その分、背後にいるオスカーの顔もしっかりと見られているのだが。

「そんな可愛い顔されたら無理だろ。許せ」
「可愛くはないんですけど」
「それが可愛いんだよ」

 そう言ってシャワーの湯で泡を流す。暖人はハッとして、オスカーに触られる前に自らの手で肌に残る泡を落とした。

「っ、ぁっ……、っ……」

 下肢に湯が当たったのは数秒だった。だが達したばかりのそこに、シャワーの水圧は充分な刺激だった。
 次の時はこれを使ってみよう、とオスカーが反射的に思った事を暖人は知る由もない。

 シャワーブースやバスタブでのあれこれを想像してしまい、オスカーは一瞬で妄想を消した。これ以上は、抱きたくなってしまう。

 暖人が達するまで無言だったのは、挿れてしまいたい衝動を必死に抑えていたからだ。
 いくら優しいと言われても、据え膳を前に待てをするのは普通につらい。暖人が思っているよりもずっと、暖人の事を欲しがっているのだから。

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