後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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あった

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 翌朝。
 オスカーより先に目覚めるという、レアな状況。ここはしっかり拝んでおこうと、また寝顔を見つめた。

 薄暗い室内。カーテンの隙間から零れる、朝の白い光。
 目元に掛かる、少し固めの髪。普段しっかりとセットされている髪が下りていると、それだけでもドキドキしてしまう。
 通った鼻筋に、切れ長の目元を縁取る黒々とした睫毛。男らしく整った顔立ち。背後からの光と、夜空のような濃紺の髪のコントラストが美しい。
 朝の光の中で見るオスカーもやはり格好良くて、どうあっても見惚れるしかない。


 その時、オスカーの頭上でチカッと何かが光った。
 何だろう、と手を伸ばすと。

「……あ。あった」

 やたらと高級感のある銀色のパッケージに包まれた、未開封の薄くて四角いものだった。まさかこんなところにあったとは。
 さすがに二箱全部使い切りはないと思っていた。きっともう一枚くらいどこかにあるはず。

 だが、これ以上動けばオスカーを起こしてしまう。後にしよう、と四角いそれを握り締めたまま頬を寄せたのだが。


「ん……、ハルト……?」
「すみません、起こしちゃいました?」
「いや……」

 まだぼんやりしたまま、暖人はるとの頬に触れる。感触を確かめるように親指で撫でられ、金の瞳が真っ直ぐに暖人を見据えた。

(う……うわ……、これは……)

 寝起きの気怠さで、更に色気が増している。

(これ、は……、抱かれたい、なんて思っても仕方ない……)

 きゅん、と奥が勝手に疼いた。
 顔が火照る。心臓がドキドキして煩い。

「ハルト」
「っ……」

 寝起きの掠れた声で呼ばれる名は危険だ。きゅっと唇を引き結んだ。
 だが、眠りから覚めたオスカーは、何もせずにジッと暖人の肌を見つめる。


「あの、オスカーさん?」
「凄いな」
「え?」
がアイツ等に愛されてる証ってわけか」

 オスカーの視線は、肌の上に無数に残る痕に向けられていた。
 昨夜は敢えて言わなかったが、前にも後ろにもこれでもかと残る痕にさすがに驚いたものだ。

「前がリョウスケで、後ろがウィルか?」
「な、何故それを……」
「最初がリョウスケなら、まず見えるところに付けるだろ。顔を見てしたがるウィルへの当て付けも兼ねてな」
「……ですか」

 あの二人が所有印を付けたがる事は想定内で、特に対抗心もない。……が、嫉妬しないとは言っていない。

「俺も付けるか」
「えっ」
「安心しろ。俺は一つでいい」

 そう言って体を起こし、暖人に覆い被さる。そしてグッと脚を持ち上げ、大きく開かせた。

「ちょっ……オスカーさんっ?」

 チクリとした感覚は、太腿の内側に。
 本当にそれだけで、脚を下ろして元のように布を掛けた。

「……ギリギリを攻めてきますね」
「アイツ等の悔しがる顔が目に浮かぶな」

 クッ、と意地悪く笑う。
 オスカーが付けたのは、脚の付け根の、陰部ギリギリのところ。きっとそれを二人が見れば、暖人にそこまで許させたのかと悔しがるだろう。
 脚を広げた時にだけ見える、くっきりとした痕。嫌がって脚を閉じればこんなに綺麗な形にはならない。

「リョウスケが帰る前にまた付けてやる」
「俺が付けられたがってるみたいに言わないでください」
「違うのか?」
「……別に、嫌じゃないですけど」

 もごもごと返す暖人にそっと目を細め、柔らかな黒髪をくしゃりと撫でる。そのまままた横になり、暖人を抱き締めた。


「オスカーさんも、こういうの付けるんですね」
「当たり前だろ。アイツ等と同じで所有欲も独占欲もあるからな」
「えっ、独占欲……?」
「あるんだよ」

 目を瞬かせる暖人に、当然とばかりに口の端を上げた。

「だが、納得もしてる。お前を抱くのは最初はリョウスケで、次はお前を先に好きになったウィル、最後が俺だ」
「……でも、俺のこと、ちゃんと欲しがってくれてましたよね」
「当たり前だろ。好きだからな」
「す、……ですか」

 パッと染まった頬を、オスカーの手が優しく撫でる。

「俺のは入らないと拒否された時は、さすがに少し焦ったな」
「その節は……ギャーギャー騒いですみませんでした……」
「いや、むしろ嬉しかったさ」
「え……?」
「お前が一生懸命に俺に抱かれたがってると分かって、嬉しかった。俺の一方的な感情じゃなかったんだな」
「オスカーさん……。そんな健気なこと言われたら、俺……」
「何でもしてくれるんだったか」
「なんだか元気っぽいので、次回ですけど」

 腰を撫でられ、スンと冷静な声を出した。

「冗談だ。さすがにこれ以上無理はさせない」

 くすりと声を立てて笑い、額にキスをする。
 昨夜は男同士らしくさっぱりしていると思ったが、今朝は何だかとても甘い。胸がぎゅうっとなり、オスカーの胸元へと頬を擦り寄せた。

「……本当は俺も、もっとしたいですよ。でも、……さすがにあちこち痛くて」

 特に、挿入部が。
 体液が出ようが腸壁がこちらの世界向きになろうが、であれだけ擦られればさすがにまだ痛む。

「すまない、お前に痛い思いをさせたくはなかったが……」
「これはオスカーさんのせいじゃないですよ。物理的な問題ですし」

 そこでしょんぼりされては、可愛いなと思ってしまう。オスカーのこんな姿は自分しか見られないのだろうと思うと、優越感すら覚えた。

「これだけ俺のこと欲しがってくれたんだと思うと、すごく嬉しいです」
「……そうか」

 こんなに安堵した顔も、嬉しくて。頬を撫でる手に、すり、と擦り寄った。


「オスカーさんって普段はえっちなことなんて全然考えてませんって顔してるのに、結構、男前にガツガツしてましたよね」
「ああ。今までは考えた事もなかったが、お前に対しては常に考えてるな」
「……ですか」
「リョウスケの気持ちも分かる。お前は、泣かせたい」
「いじめっこじゃないですか」
「そうだな」
「え、否定してくださいよ」
「肯定しかない」

 強く主張され、閉口するしかなかった。
 分かっている。オスカーの言う泣かせたいは、痛みではなく、あまりにも悦すぎて泣かされるやつだ。
 今回も暖人的には相当泣いた。生理的な涙だが、今度はどうなってしまうやら。

「そんな顔するな。お前を乱暴には扱わない」
「……分かってます。オスカーさん、すごく優しいですし」
「そんな事を言うのはお前くらいだな」

 くしゃくしゃと髪を撫で、そっと目を細める。
 この手が優しいのも、オスカーが優しいのも、知っている。乱暴にされないことも、分かっている。
 だって、挿れる時にも気の逸らし方が完璧で、言葉通りに痛みはなかったのだ。

(……オスカーさん、絶対注射も上手い)

 小児科医すらも完璧にこなせそうだ。男前すぎる顔と貫禄で子供に泣かれる事が勿体ないくらいだった。

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