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涼佑との4

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「俺の体、やっぱりおかしいんだ」

 空が白み始める頃に一度眠りにつき、目を覚ました暖人はるとはすっきりした顔でそんな事を言った。

「足腰?」
「そうだけどそうじゃなくて」

 確かにシャワーを浴びようとしたら脚はガクガク、腰はズキズキ、ベッドに座るにも涼佑りょうすけの助けが必要だった。
 涼佑が体を綺麗に拭いて、新しいバスローブを着せてくれた。そこまで甲斐甲斐しくお世話をされて恥ずかしい……と思ったが、思い返せばわりといつもの事だった。

「どうおかしいの?」
「えっと……。……準備してる時、いつもより早く綺麗になったし、なんか……中が、湿ってたっていうか……」

 昨日の事だ。
 何故か自分の部屋のナイトボードの引き出しに入っていたローションを使い、シャワーと併用して準備をした。足りない物もあったが、何とかなるだろうと。
 だが、ローションを足すまでもなく中はずっと湿ったままで、すぐに挿れられても良い状態まであっという間に準備が出来てしまったのだ。


 頬を染めながらも深刻な顔をする暖人に、涼佑も真剣な顔をした。そして。

「もしかしたら、体もこの世界に合うように変わってるのかも……。でも僕の身体強化は救世主の力の影響だと思うけど、はるのは……」
 
 そこで言葉を切り、一度口を閉ざした。
 涼佑が言葉を濁すのは珍しい。暖人はつい背筋を伸ばし、続きを待った。

「……この世界は、男も子供が埋めるじゃない?」
「うん」
「はるはその方法、知ってる?」
「……調べようとは思ったけど、何だか怖くて調べてない」
「そっか。教えてもいい?」

 暖人は一瞬迷い、頷いた。

「まず、中が湿ってた話だけど、元々直腸は摩擦に強く出来てないから、男同士の行為はローションを使うよね」
「うん……」
「でもこの世界は、男性も女性のように体内から潤滑液が出るらしくて。前立腺付近に触れると体が反応して、女性よりもたくさん出るんだよ」
「たくさん……」

 準備がしやすかったのはそのせいか。今までの事を考えるとあまりに一瞬だった。

「実は、さっきもこのローション、殆ど使ってない」
「えっ」
「濡れにくい人用に販売されてるみたいだね。ボトルが小さいから、一晩分かなと思ったよ」
「一晩でそれは多いと思う」
「そう?」
「すぐ乾くわけじゃないし」
「元の世界ではこの二本分くらい使ってたよ」
「うそっ」
「片手じゃ足りないくらいしてたからね」

 良い笑顔をする涼佑。思い出した暖人は、カァ……と耳まで赤くなる。
 そういえば、ホテルでは清掃不要の札を外に出して、一日中していた。それなら一晩換算でそのくらい使うかもしれない。


 そこで、ハッとした。

「……俺、赤ちゃん出来ちゃったりする……?」

 最後は中に出して貰った。駄目だという涼佑に泣きながら強請って。この世界では男も子供が出来ると忘れていたのだ。

 涼佑は、ンッと呻いて口元を押さえる。まさか暖人の口から「赤ちゃんできちゃう」なんて言葉を聞ける日がくるとは。今度行為の最中にも言わせてみよう。
 不純な感情を誤魔化すように、小さく咳払いをした。

「大丈夫、一度で出来たりしないよ。同性間では、少し難しいみたい」

 そういえば、ウィリアムもそう言っていた。

「この世界って、どうやって子供が出来るの?」

 純粋な瞳に、涼佑は笑顔のままで困惑する。結婚もまだなのに、好奇心旺盛な小さなお子さんを持つ世のお父さんお母さんの苦労を知った。

「……コウノトリがね」
「涼佑」
「キャベツ畑、も駄目かな」
「駄目。異性同士の方法は知ってるんだから」

 むっと頬を膨らませる暖人が可愛い。出来る事なら今すぐ実践したい。だが、まだ暖人を取られたくないから子供は欲しくない。欲しいけど欲しくない。スッと冷静になりにっこりと笑った。

「この世界での男同士は、同じ人の精液を七日続けて注がれると、子宮に似た臓器が出来るんだって」
「な、七日……」
「その後、体が戻るまでの二週間以内にもう一度摂取したら、半々くらいの確率で子供が出来るらしいよ」
「合計八日以上……」
「仕事をしながらだと、体力的にもすごく難しいよね」
「そうだね……」

 考えていたのと、難しいの意味合いが違った。確率ではなく体力と精力勝負だった。

「医療器具で精液を入れる方法だと、なかなか上手くいかないらしいんだ。出来ない訳じゃないけど」
「……涼佑、詳しいね」
「人生勉強として学んでおいたよ」

 にっこりと笑い、暖人の頬を撫でる。

「人生勉強……」
「はると一緒に過ごす、人生のね」

 言わんとする事が分かり、暖人は無意識に腹に手を当てた。
 そんな反応をされてはまた押し倒したくなる。耐えたけれど。

「その臓器が出来たら、お腹に模様が浮かぶんだって」
「淫紋かな?」
「だよね。それ聞いた時、この世界って十八禁ゲームかなって思ったよ」
「男性向け……女性向け、かな……」

 困った顔をする暖人に、BLでハーレムだね、とくすりと笑った。


「違和感ないとは聞いたけど……体の中に別の臓器が出来るのって、怖いよね」

 暖人の腹をそっと撫でる。

「今ははるを取られたくないし、まだずっと先になるけど、その時は僕が産もうかな」

 暖人に痛い思いも苦しい思いもさせたくない。ただでさえ受け入れる側で負担を強いているのだ。そこに更に痛い思いをさせるなど……。

「ごめんね、涼佑。俺、抱く側は向いてないみたい」

 暖人はそう言って穏やかに笑った。

「抱きたいより抱かれたいって思うんだよね。その時になってもきっと、そっちを選ぶよ」
「はる……」
「俺もまだ涼佑を取られたくないから、ずっと先になるけどね。涼佑は心配性だし子供に付きっきりになりそう」
「はる以外にそんなこと、……でも、はるの子なら絶対可愛いよね……。絶対お嫁になんて行かせない」
「やっぱり」

 親馬鹿だ、と笑う。
 元の世界ではずっと二人きりで居たいと願っていた。
 生まれる筈もない子供の事を明るく話せる訳もなく。涼佑を、暖人を、奪う子供を望めなかった。

 それなのに、今はこんなにも笑って話せる。
 この世界はまるで楽園のようで、本当はあの崖で死んでいて、ここは天国なのだと言われても納得出来るほどに。


 涼佑を見つめれば、柔らかな笑顔が返る。胸が痛い程にぎゅっとなり、腕を伸ばして抱きついた。

(あちこち痛いけど……これがあるから愛されてるなって実感するんだよね……)

 涼佑が欲しがってくれた証拠だ。
 やはり自分は、抱かれる側が向いているのだ。

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