147 / 168
涼佑との4
しおりを挟む「俺の体、やっぱりおかしいんだ」
空が白み始める頃に一度眠りにつき、目を覚ました暖人はすっきりした顔でそんな事を言った。
「足腰?」
「そうだけどそうじゃなくて」
確かにシャワーを浴びようとしたら脚はガクガク、腰はズキズキ、ベッドに座るにも涼佑の助けが必要だった。
涼佑が体を綺麗に拭いて、新しいバスローブを着せてくれた。そこまで甲斐甲斐しくお世話をされて恥ずかしい……と思ったが、思い返せばわりといつもの事だった。
「どうおかしいの?」
「えっと……。……準備してる時、いつもより早く綺麗になったし、なんか……中が、湿ってたっていうか……」
昨日の事だ。
何故か自分の部屋のナイトボードの引き出しに入っていたローションを使い、シャワーと併用して準備をした。足りない物もあったが、何とかなるだろうと。
だが、ローションを足すまでもなく中はずっと湿ったままで、すぐに挿れられても良い状態まであっという間に準備が出来てしまったのだ。
頬を染めながらも深刻な顔をする暖人に、涼佑も真剣な顔をした。そして。
「もしかしたら、体もこの世界に合うように変わってるのかも……。でも僕の身体強化は救世主の力の影響だと思うけど、はるのは……」
そこで言葉を切り、一度口を閉ざした。
涼佑が言葉を濁すのは珍しい。暖人はつい背筋を伸ばし、続きを待った。
「……この世界は、男も子供が埋めるじゃない?」
「うん」
「はるはその方法、知ってる?」
「……調べようとは思ったけど、何だか怖くて調べてない」
「そっか。教えてもいい?」
暖人は一瞬迷い、頷いた。
「まず、中が湿ってた話だけど、元々直腸は摩擦に強く出来てないから、男同士の行為はローションを使うよね」
「うん……」
「でもこの世界は、男性も女性のように体内から潤滑液が出るらしくて。前立腺付近に触れると体が反応して、女性よりもたくさん出るんだよ」
「たくさん……」
準備がしやすかったのはそのせいか。今までの事を考えるとあまりに一瞬だった。
「実は、さっきもこのローション、殆ど使ってない」
「えっ」
「濡れにくい人用に販売されてるみたいだね。ボトルが小さいから、一晩分かなと思ったよ」
「一晩でそれは多いと思う」
「そう?」
「すぐ乾くわけじゃないし」
「元の世界ではこの二本分くらい使ってたよ」
「うそっ」
「片手じゃ足りないくらいしてたからね」
良い笑顔をする涼佑。思い出した暖人は、カァ……と耳まで赤くなる。
そういえば、ホテルでは清掃不要の札を外に出して、一日中していた。それなら一晩換算でそのくらい使うかもしれない。
そこで、ハッとした。
「……俺、赤ちゃん出来ちゃったりする……?」
最後は中に出して貰った。駄目だという涼佑に泣きながら強請って。この世界では男も子供が出来ると忘れていたのだ。
涼佑は、ンッと呻いて口元を押さえる。まさか暖人の口から「赤ちゃんできちゃう」なんて言葉を聞ける日がくるとは。今度行為の最中にも言わせてみよう。
不純な感情を誤魔化すように、小さく咳払いをした。
「大丈夫、一度で出来たりしないよ。同性間では、少し難しいみたい」
そういえば、ウィリアムもそう言っていた。
「この世界って、どうやって子供が出来るの?」
純粋な瞳に、涼佑は笑顔のままで困惑する。結婚もまだなのに、好奇心旺盛な小さなお子さんを持つ世のお父さんお母さんの苦労を知った。
「……コウノトリがね」
「涼佑」
「キャベツ畑、も駄目かな」
「駄目。異性同士の方法は知ってるんだから」
むっと頬を膨らませる暖人が可愛い。出来る事なら今すぐ実践したい。だが、まだ暖人を取られたくないから子供は欲しくない。欲しいけど欲しくない。スッと冷静になりにっこりと笑った。
「この世界での男同士は、同じ人の精液を七日続けて注がれると、子宮に似た臓器が出来るんだって」
「な、七日……」
「その後、体が戻るまでの二週間以内にもう一度摂取したら、半々くらいの確率で子供が出来るらしいよ」
「合計八日以上……」
「仕事をしながらだと、体力的にもすごく難しいよね」
「そうだね……」
考えていたのと、難しいの意味合いが違った。確率ではなく体力と精力勝負だった。
「医療器具で精液を入れる方法だと、なかなか上手くいかないらしいんだ。出来ない訳じゃないけど」
「……涼佑、詳しいね」
「人生勉強として学んでおいたよ」
にっこりと笑い、暖人の頬を撫でる。
「人生勉強……」
「はると一緒に過ごす、人生のね」
言わんとする事が分かり、暖人は無意識に腹に手を当てた。
そんな反応をされてはまた押し倒したくなる。耐えたけれど。
「その臓器が出来たら、お腹に模様が浮かぶんだって」
「淫紋かな?」
「だよね。それ聞いた時、この世界って十八禁ゲームかなって思ったよ」
「男性向け……女性向け、かな……」
困った顔をする暖人に、BLでハーレムだね、とくすりと笑った。
「違和感ないとは聞いたけど……体の中に別の臓器が出来るのって、怖いよね」
暖人の腹をそっと撫でる。
「今ははるを取られたくないし、まだずっと先になるけど、その時は僕が産もうかな」
暖人に痛い思いも苦しい思いもさせたくない。ただでさえ受け入れる側で負担を強いているのだ。そこに更に痛い思いをさせるなど……。
「ごめんね、涼佑。俺、抱く側は向いてないみたい」
暖人はそう言って穏やかに笑った。
「抱きたいより抱かれたいって思うんだよね。その時になってもきっと、そっちを選ぶよ」
「はる……」
「俺もまだ涼佑を取られたくないから、ずっと先になるけどね。涼佑は心配性だし子供に付きっきりになりそう」
「はる以外にそんなこと、……でも、はるの子なら絶対可愛いよね……。絶対お嫁になんて行かせない」
「やっぱり」
親馬鹿だ、と笑う。
元の世界ではずっと二人きりで居たいと願っていた。
生まれる筈もない子供の事を明るく話せる訳もなく。涼佑を、暖人を、奪う子供を望めなかった。
それなのに、今はこんなにも笑って話せる。
この世界はまるで楽園のようで、本当はあの崖で死んでいて、ここは天国なのだと言われても納得出来るほどに。
涼佑を見つめれば、柔らかな笑顔が返る。胸が痛い程にぎゅっとなり、腕を伸ばして抱きついた。
(あちこち痛いけど……これがあるから愛されてるなって実感するんだよね……)
涼佑が欲しがってくれた証拠だ。
やはり自分は、抱かれる側が向いているのだ。
77
お気に入りに追加
1,800
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる