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*涼佑との
しおりを挟む「お待たせしました……」
「おかえり、はる」
くすりと笑い、扉の側でもじもじしている暖人を抱き締める。そのまま手を伸ばし鍵を掛けると、暖人はびくりと震えた。
「鍵……」
「掛けたよ。誰かに見られたいなら開けるけど」
「掛けててっ」
背後で鍵を開ける音がして、暖人は慌てた声を上げる。
その反応に小さく笑った涼佑は、わざと音を立て鍵を閉めた。
「これで逃げられないね」
「っ……」
カァ……と頬を染める暖人の手を引き、ゆったりとした足取りでベッドへと向かう。
暖人の胸元に、あのネックレスはない。
寝室の側のナイトボードの上に、ハンカチを敷いて置いてきた。もしウィリアムが帰ってきた時に出て行ったと誤解されないよう『涼佑の部屋にいます。ごめんなさい』と書いた紙を添えて。
それをマリアとメアリが見てしまう事になるのだが、今の暖人はそこまで気が回らなかった。これから涼佑に抱かれると思うと、初めての時のように緊張してしまって。
ベッドの中央に正座をした暖人は、カチコチになって視線を伏せる。
あまり使う事のなかったバスローブを着てきたが為に、ますます“今から抱かれる”感が強く出てしまった。
涼佑もバスローブ姿だ。今は一歳年上の、涼佑。
身長だけでなく、筋肉も成長している。しっとりと付いた胸筋へ視線を向け、慌てて伏せた。
「僕、ムキムキにはならないタイプみたい」
「涼佑は元がすらっとしてるから、っわぁ!」
突然腕を掴まれ、手のひらに直に触れる胸筋。肌は滑らかで、その下の筋肉は固く逞しい。
「わぁって、そんなに驚かなくても」
「うぇっ、あ、うんっ、そうだけどっ」
「女の子の胸を触ったみたいな反応だね?」
「だって、俺にとっては涼佑が恋愛対象だから……」
知らない男性相手にはこんな反応はしない。触っても、羨ましいなとか自分も筋肉付けたいなとしか思わないし、ドキドキなんてしない。
ちょっと意地悪をしただけだったのに嬉しい事を言われ、涼佑は笑顔のまま暖人を押し倒した。
「ちょっ、涼佑っ」
「僕もはるが恋愛対象だから、いっぱい触りたくなっちゃった」
「し、心臓……」
「大丈夫、止まらないよ」
ちゅ、と啄むようなキスをして、暖人の頬を撫でる。
「万が一の時は、万能薬があるでしょ?」
「居たたまれない使い道!」
「大丈夫。それは保険として、ね。だから、いっぱいドキドキさせてあげる」
にっこりと笑い、まだ何か言いたそうな暖人の唇を塞いだ。
涼佑とのキスは、ゆったりして気持ちが良い。きちんと酸素も吸える。頭が真っ白になる前に離れて、啄むようなキスに変わる。
(だからといって、心臓への負荷がないわけではない……)
宣言通りドキドキさせられていた。時折視線を合わせ、柔らかに微笑むものだから。
好きだよ、と囁かれればもう本当に心臓が止まってしまいそうだった。
そしてまた舌を絡められ、弱い上顎を舌先で擽られて。
「んぅっ……ぅ、っ……はぁ、んんっ」
それと同時に、涼佑の手が胸元へと滑り込んだ。
肌の感触を楽しむように鎖骨付近を撫で、ゆったりと円を描くように下へと下りてくる。こんな触り方は初めてだ。
一体どこでこんなえっちな触り方を、と思っているうちに、突然胸の尖りを摘まれ背をしならせた。
「ッ……、あっ、んぅっ」
「はる、駄目だよ。ちゃんと声聞かせて」
口を塞いだ両手首を掴まれ、もう片手が肌に触れるか触れないかの刺激を始める。肌が粟立つような感覚に、ぶるっと身を震わせた。
「やっ、やだっ、声恥ずかしっ、あっ……、やっ、やぁ……」
一度尖りを押し潰した指先が、今度は引っ掻いたり摘んだりを繰り返す。片方だけを執拗に弄られ、赤くぷっくりとしたそこに湿った感触が触れた。
「んんっ……、んぁっ、そこばっか、だめっ」
「はる、ここされるの好きでしょ?」
「好きじゃないっ」
「へぇ? 嘘は駄目だよ?」
「いッ……はっ、あっ、んぅっ……」
歯を立てたそこを労るように舌が舐める。ねっとりと押し付けられる熱く滑った感触に、無意識に腰が浮いた。
やっぱりと言うように舌先がつつき、ツンと尖ったそこを吸い上げ、甘噛みする。
今までこんなに痛い程に噛まれた事はなかった。こんなに快楽を呼び起こす程強く吸われた事もなかった。こんなに声が出る事も。
(涼佑、上手くなってるっ……?)
何がどうして、涼佑は最後の記憶の時より上達していた。
両手首は掴まれたまま、ジンジンと熱く疼く程に責められて。
「だめっ、んぁっ、あっ……ッ、んっ、んんッ……」
突然背筋を快感が駆け上がり、ビクンと大きく跳ねる。下肢の濡れる感覚はないまま、小刻みに痙攣を続けた。
漸く暖人の胸元から顔を上げた涼佑は、はふはふと喘ぐ暖人を見下ろし、愛しげに目を細める。
「はる、ここだけでイっちゃった?」
「っ……だめだって、言ったのにっ……」
「はるの駄目は、もっとしてって事でしょ?」
「駄目は駄目だよっ」
わっと両手で顔を覆った。
胸だけで達してしまって恥ずかしい。それに、一つ確信した事がある。
「……やっぱり俺、この世界にきてから体がおかしくて……」
「体調が悪いの?」
「ごめん、心配しないで。そうじゃなくて……、……すごく、感じるようになっちゃって……」
今だけでなく、ウィリアムのキスや、オスカーの指で咥内に触れられただけでも達してしまった。
それを話すと、涼佑は嫉妬を見せながらもすぐに柔らかな笑顔で暖人の髪を撫でた。
「はるは、おかしくないよ」
「でも……」
「今も、ウィリアムさんたちの時もだけど、こうして触れ合うのはいけない事だと思ってないでしょ?」
「……うん」
「この世界だから、だね」
暖人の隣に寝転び、よしよしと頭を撫でた。
「この感情も、行為も、いけない事だ。誰かに知られたらどうしよう。何か痕跡が残ってしまったら。怖い、怖いって、……そう思ったら身体が強張って、気持ちよくなれなくて当然だったよね」
「……うん」
「あの世界では、気持ちいいと思う事も、悪い事だったから」
「涼佑も……?」
「うん。……本当は、ね。はるを抱きたいと思うのも、触れて気持ちがいいと思うのも、良くない事だと思う時があったんだ」
ふとした時に顔を出す、罪悪感と背徳感。暖人の前では見せた事はなかったけれど。
「僕にははるが大切で、この気持ちに後ろめたい事なんてなかった。でも、性的欲求を抱くのはいけない事だと思う時が……ね」
気持ちが良い事は恥ずかしいという国民性のせいもあっただろう。
学生はそんな事は考えてはいけない。純愛ならば、それが異性ならば許される。だが行為に及ぶのは淫らで良くない事、それはいけないと、刷り込まれていた。
「でも、この世界にきてから、心から好きな人を抱きたいと思うのは普通だったんだと思えたよ」
そっと微笑む涼佑に、暖人は瞳を滲ませた。
「普通、だよね……。俺たち、ただお互いに、好きなだけで……」
「そうだよ。どうしようもなく好きで、好きだから触れたくて、体と心が求めて。それは普通の事だよ」
「そう、だよね……」
零れそうな涙を指先で拭い、涼佑は暖人の頬を撫でた。
リグリッドにいる時、情欲も行為の話も、隠すような事ではないと知った。抱きたいだとかキスしたいだとか、それは好きな相手への愛情表現の一つだから。
周りが……主にエヴァンだが、そんな話を大っぴらにするものだから、この国に来てからもウィリアムたちに抱く抱かないと平然と話してしまった。
……人前で暖人を抱く話が出来るのは、想像以上に気持ちよくてたまらなかった。
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