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決闘5
しおりを挟む「ところで、あの派手な人は誰ですか?」
暖人の側で親しそうにしている、大人の男。
月の光のようなホワイトブロンドに、高級そうな白い服。胸元にはキラキラと輝く宝石。やたらと目に痛い。
「ああ、あの方は、この国の国王だ」
「…………はい?」
「リュエール王国を治める、テオドール・テス・ローズ・リュエール陛下だ。ハルトはお茶友達だと言っているよ」
「お茶? え、何?」
「ハルトが別世界の者だからこそ、王ではない一人の人間として気兼ねなく話せるのだとか」
「暖人はそれに付き合わされてるんですか?」
「いや、ハルトも嬉しそうにしているよ。帰りもお菓子を大量に抱えて、楽しかったうえにお土産まで貰ってしまったと言って」
「……そうですか」
一応納得は見せたものの、涼佑の表情は険しい。
暖人の元へと向かいながら、ウィリアムとオスカーは同時に思う。暖人に求婚している事は伏せておこう。国の為に、と。
……そう、思っているのに。
「リョウスケ、と申したな。私はこの国の王、テオドールだ。先程の戦い、見事であった」
「……ありがとうございます」
観客席に立つテオドールを見上げ、涼佑は一応礼を述べた。
「私はハルトに求婚をしていたのだが、ここで諦めようと思う」
「求婚?」
「ハルトを慕う気持ちは変わらぬが、そなたの力をこの目で見た今、貫き通す事は出来ぬと判断した。この国と民を見捨てる事は出来ぬのでな」
「…………暖人?」
「はいっ、あの、あのね、涼佑……」
「ハルトを責めるでない。私が一方的に想いを寄せておるだけだ」
「陛下、何故そのような面倒、……いえ、自ら争いを生むような発言を」
本音が漏れるウィリアムに、この陛下も面倒な人なんだな、と涼佑は認識した。ウィリアムは思ったよりも苦労性なのでは。
ふと見ると、オスカーも胃が痛そうな顔をしていた。他の騎士二人も同じようなもの。
賢王と聞いていたが、人間的には皇子と良い勝負かもしれない。いや、少し人をからかうのが好きなだけの皇子の方が、まだましだろうか。
「後々知られて誤解されるよりは、今この場ではっきりさせておいた方が良いと思ったのだ」
言っている事はもっともなのだが、タイミングが不味い。皆が冷や汗を流した。
折れているとはいえ、涼佑は剣を持ったまま。そしてここは闘技場。
権力に興味がないという涼佑は、つまり、王だろうと関係なく決闘などと言い出す可能性が……。
だが暖人だけは、涼佑がテオドールに食って掛からない事を知っている。権力に興味がなくとも、礼儀がないわけではないからだ。
先程もテオドールではなく、暖人に説明を求めた。その点は安心だ。
「涼佑。ちょっと」
「はる?」
暖人が手招きすると、涼佑は高さのある観客席へと、ひょいっと登る。驚く面々を置いて、暖人は涼佑の手を引き遠くに離れた。
そして、耳元へとそっと囁く。
「……テオ様とは、猫友なんだ。白猫ちゃんを飼ってて、その子を溺愛してる事を俺としか共有出来ない立場で。俺と同じくらい、猫好きなんだよ」
王の威厳と国を守る為にも絶対誰にも言わないで、絶対、と念を押した。
こんな事態でなければ一生話さないつもりだったが、涼佑なら信じられる。
「ウィルさんたちと違って、本当に何もないから。友情の最大級の愛情表現がプロポーズになっちゃっただけだから。王様だし、そこはちょっとズレてるのかも……?」
密輸事件と流行病の褒美だという話は、また追々しよう。今は説明が追いつかない。
話終え、暖人は涼佑の手をぎゅっと握る。
暖人にズレていると言われるなら相当だろう、と内心で思いながら、涼佑は顎に手を当てた。
お茶友で、猫友。
楽しかったと、ウィリアムにも話している。
帰りには大量のお菓子を……。
「ただの猫友でお茶友なんだね。信じるよ」
暖人が猫に関して嘘をつく筈がない。
それに、暖人と同じくらい猫好きなら、暖人の事も猫と思っている可能性がある。だからこその餌付け。つまりは。
「猫カフェだね」
「っ、そう!」
パッと顔を輝かせる暖人に、猫は暖人だよ、と思いつつなでなでと頭を撫でた。
暖人を許可なく愛でられた事は面白くないが、猫と触れ合う場を提供してくれた事には感謝しよう。
「でもはる、まさか王様とまで仲良しなんて……」
「うん、俺もびっくりだよ……」
「はるの可愛さは国家レベルだと証明されたね。でも王様とお茶友なんて、さすがに僕も耳を疑っちゃった」
「俺もそうだったよ……」
「王様から求婚って、激レア隠しルートじゃない?」
「俺もそう思う……」
もう同意しかない。
「涼佑も主人公で救世主でラスボスでしょ? どこかでルートが分岐するのかな?」
「どうだろう? 僕としては、はると一緒に静かに暮らす街人Aルートがいいけど」
「なさそう。涼佑のスキルで街人はなさそう」
「二回言ったね」
「さっきの涼佑を見たら、さすがにね」
「今から街人Aルートいけないかなぁ」
うーんと唸る涼佑に、暖人はくすくすと笑った。
涼佑は目立つ存在なのに、昔から注目される事を好まない。そんなところ変わらないな、と嬉しくなってしまった。
そこで、涼佑がウィリアムたちの方を振り向いた。
「ラスボスルートを心配されてそうだから、そろそろ戻ろうか?」
「あっ、そうだね」
涼佑はくすりと笑い、暖人の手を引きウィリアムたちの元へと戻った。
そしてテオドールへと真っ直ぐに視線を向ける。
「テオドール陛下。暖人への求婚を諦めていただくという条件で、これからも暖人のお茶友達でいていただけますか?」
「ああ、勿論だ。救世主よ、寛大な処置、心から感謝する」
「救世主ではなく、涼佑と。僕はこれからは、暖人と静かに暮らしたいのです」
「そうであったか。失礼した、リョウスケよ」
テオドールは上機嫌で涼佑に手を差し出す。それを涼佑も取り、固く握手を交わした。
「リョウスケをどうやって説得した?」
「えっと、テオ様とは本当に何もなくて、ただのお茶友達だと説明しました」
「確かに陛下とは、一方的な求婚以外は何もないね」
「そうです。何もないんです」
うんうんと頷く。本当に、求婚以外は。
そこでハッとする。
「あ! テオ様! あのっ、指輪をっ」
「それはそなたが持っていておくれ。台座に刻まれた紋章と名は、私が信頼している者という証にもなる。役に立つ事もあるだろう」
「えっ、そんなますます大事なものを……」
慌てる暖人の手を、そっと握った。
「ハルトよ。私がそなたの為に出来る事は少ない。側にもいてやれぬ。だからせめて、私の力の一部を側に置いておいてくれまいか」
「テオ様……」
「その力も、彼らの力も、使わずに済むに越した事はないがな」
慈しむような瞳で見つめられ、暖人はそっと頷いた。
この指輪は、想いは、突き返してはいけないものだ。心がそう訴えかけてきた。
今この手の中にあるものは、暖人を守りたいと願う、想いそのものだから。友人への、贈り物だから。
「……ありがとうございます。テオ様のお気持ちと一緒に、大切にしますね」
テオドールの想いごとぎゅっと手を握ると、氷河のように凛とした瞳に、暖かなものが滲んだ。
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