130 / 168
決闘5
しおりを挟む「ところで、あの派手な人は誰ですか?」
暖人の側で親しそうにしている、大人の男。
月の光のようなホワイトブロンドに、高級そうな白い服。胸元にはキラキラと輝く宝石。やたらと目に痛い。
「ああ、あの方は、この国の国王だ」
「…………はい?」
「リュエール王国を治める、テオドール・テス・ローズ・リュエール陛下だ。ハルトはお茶友達だと言っているよ」
「お茶? え、何?」
「ハルトが別世界の者だからこそ、王ではない一人の人間として気兼ねなく話せるのだとか」
「暖人はそれに付き合わされてるんですか?」
「いや、ハルトも嬉しそうにしているよ。帰りもお菓子を大量に抱えて、楽しかったうえにお土産まで貰ってしまったと言って」
「……そうですか」
一応納得は見せたものの、涼佑の表情は険しい。
暖人の元へと向かいながら、ウィリアムとオスカーは同時に思う。暖人に求婚している事は伏せておこう。国の為に、と。
……そう、思っているのに。
「リョウスケ、と申したな。私はこの国の王、テオドールだ。先程の戦い、見事であった」
「……ありがとうございます」
観客席に立つテオドールを見上げ、涼佑は一応礼を述べた。
「私はハルトに求婚をしていたのだが、ここで諦めようと思う」
「求婚?」
「ハルトを慕う気持ちは変わらぬが、そなたの力をこの目で見た今、貫き通す事は出来ぬと判断した。この国と民を見捨てる事は出来ぬのでな」
「…………暖人?」
「はいっ、あの、あのね、涼佑……」
「ハルトを責めるでない。私が一方的に想いを寄せておるだけだ」
「陛下、何故そのような面倒、……いえ、自ら争いを生むような発言を」
本音が漏れるウィリアムに、この陛下も面倒な人なんだな、と涼佑は認識した。ウィリアムは思ったよりも苦労性なのでは。
ふと見ると、オスカーも胃が痛そうな顔をしていた。他の騎士二人も同じようなもの。
賢王と聞いていたが、人間的には皇子と良い勝負かもしれない。いや、少し人をからかうのが好きなだけの皇子の方が、まだましだろうか。
「後々知られて誤解されるよりは、今この場ではっきりさせておいた方が良いと思ったのだ」
言っている事はもっともなのだが、タイミングが不味い。皆が冷や汗を流した。
折れているとはいえ、涼佑は剣を持ったまま。そしてここは闘技場。
権力に興味がないという涼佑は、つまり、王だろうと関係なく決闘などと言い出す可能性が……。
だが暖人だけは、涼佑がテオドールに食って掛からない事を知っている。権力に興味がなくとも、礼儀がないわけではないからだ。
先程もテオドールではなく、暖人に説明を求めた。その点は安心だ。
「涼佑。ちょっと」
「はる?」
暖人が手招きすると、涼佑は高さのある観客席へと、ひょいっと登る。驚く面々を置いて、暖人は涼佑の手を引き遠くに離れた。
そして、耳元へとそっと囁く。
「……テオ様とは、猫友なんだ。白猫ちゃんを飼ってて、その子を溺愛してる事を俺としか共有出来ない立場で。俺と同じくらい、猫好きなんだよ」
王の威厳と国を守る為にも絶対誰にも言わないで、絶対、と念を押した。
こんな事態でなければ一生話さないつもりだったが、涼佑なら信じられる。
「ウィルさんたちと違って、本当に何もないから。友情の最大級の愛情表現がプロポーズになっちゃっただけだから。王様だし、そこはちょっとズレてるのかも……?」
密輸事件と流行病の褒美だという話は、また追々しよう。今は説明が追いつかない。
話終え、暖人は涼佑の手をぎゅっと握る。
暖人にズレていると言われるなら相当だろう、と内心で思いながら、涼佑は顎に手を当てた。
お茶友で、猫友。
楽しかったと、ウィリアムにも話している。
帰りには大量のお菓子を……。
「ただの猫友でお茶友なんだね。信じるよ」
暖人が猫に関して嘘をつく筈がない。
それに、暖人と同じくらい猫好きなら、暖人の事も猫と思っている可能性がある。だからこその餌付け。つまりは。
「猫カフェだね」
「っ、そう!」
パッと顔を輝かせる暖人に、猫は暖人だよ、と思いつつなでなでと頭を撫でた。
暖人を許可なく愛でられた事は面白くないが、猫と触れ合う場を提供してくれた事には感謝しよう。
「でもはる、まさか王様とまで仲良しなんて……」
「うん、俺もびっくりだよ……」
「はるの可愛さは国家レベルだと証明されたね。でも王様とお茶友なんて、さすがに僕も耳を疑っちゃった」
「俺もそうだったよ……」
「王様から求婚って、激レア隠しルートじゃない?」
「俺もそう思う……」
もう同意しかない。
「涼佑も主人公で救世主でラスボスでしょ? どこかでルートが分岐するのかな?」
「どうだろう? 僕としては、はると一緒に静かに暮らす街人Aルートがいいけど」
「なさそう。涼佑のスキルで街人はなさそう」
「二回言ったね」
「さっきの涼佑を見たら、さすがにね」
「今から街人Aルートいけないかなぁ」
うーんと唸る涼佑に、暖人はくすくすと笑った。
涼佑は目立つ存在なのに、昔から注目される事を好まない。そんなところ変わらないな、と嬉しくなってしまった。
そこで、涼佑がウィリアムたちの方を振り向いた。
「ラスボスルートを心配されてそうだから、そろそろ戻ろうか?」
「あっ、そうだね」
涼佑はくすりと笑い、暖人の手を引きウィリアムたちの元へと戻った。
そしてテオドールへと真っ直ぐに視線を向ける。
「テオドール陛下。暖人への求婚を諦めていただくという条件で、これからも暖人のお茶友達でいていただけますか?」
「ああ、勿論だ。救世主よ、寛大な処置、心から感謝する」
「救世主ではなく、涼佑と。僕はこれからは、暖人と静かに暮らしたいのです」
「そうであったか。失礼した、リョウスケよ」
テオドールは上機嫌で涼佑に手を差し出す。それを涼佑も取り、固く握手を交わした。
「リョウスケをどうやって説得した?」
「えっと、テオ様とは本当に何もなくて、ただのお茶友達だと説明しました」
「確かに陛下とは、一方的な求婚以外は何もないね」
「そうです。何もないんです」
うんうんと頷く。本当に、求婚以外は。
そこでハッとする。
「あ! テオ様! あのっ、指輪をっ」
「それはそなたが持っていておくれ。台座に刻まれた紋章と名は、私が信頼している者という証にもなる。役に立つ事もあるだろう」
「えっ、そんなますます大事なものを……」
慌てる暖人の手を、そっと握った。
「ハルトよ。私がそなたの為に出来る事は少ない。側にもいてやれぬ。だからせめて、私の力の一部を側に置いておいてくれまいか」
「テオ様……」
「その力も、彼らの力も、使わずに済むに越した事はないがな」
慈しむような瞳で見つめられ、暖人はそっと頷いた。
この指輪は、想いは、突き返してはいけないものだ。心がそう訴えかけてきた。
今この手の中にあるものは、暖人を守りたいと願う、想いそのものだから。友人への、贈り物だから。
「……ありがとうございます。テオ様のお気持ちと一緒に、大切にしますね」
テオドールの想いごとぎゅっと手を握ると、氷河のように凛とした瞳に、暖かなものが滲んだ。
64
お気に入りに追加
1,776
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが
咲
BL
俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。
ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。
「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」
モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?
重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。
※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。
※第三者×兄(弟)描写があります。
※ヤンデレの闇属性でビッチです。
※兄の方が優位です。
※男性向けの表現を含みます。
※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。
お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【R18】【Bl】魔力のない俺は今日もイケメン絶倫幼馴染から魔力をもらいます
ペーパーナイフ
BL
俺は猛勉強の末やっと魔法高校特待生コースに入学することができた。
安心したのもつかの間、魔力検査をしたところ魔力適性なし?!
このままでは学費無料の特待生を降ろされてしまう…。貧乏な俺にこの学校の学費はとても払えない。
そんなときイケメン幼馴染が魔力をくれると言ってきて…
魔力ってこんな方法でしか得られないんですか!!
注意
無理やり フェラ 射精管理 何でもありな人向けです
リバなし 主人公受け 妊娠要素なし
後半ほとんどエロ
ハッピーエンドになるよう努めます
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる