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ハルトの恋人

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 キースのおかげで、丸く収まった。
 暖人はると涼佑りょうすけ

「うん、嫉妬するのは仕方ないよね。はる、やっぱり二人で暮らさない? ここの近くでもいいから」
「えっ、でも、あの、俺、このお屋敷のみんなとも離れたくないし……」
「へぇ。ウィリアムさんは、外堀から固めたってわけですか」
「人聞きの悪い事を言わないでくれ。ハルトが皆に好かれるのは分かるだろう?」

 それを言われては納得するしかない。
 暖人はいつも一生懸命で、控えめで、本当は誰かの役に立つ事が好きな性格だ。
 それに、可愛い。上目遣いで見つめられれば一瞬で落ちる。くるくると動く小動物みたいな姿を見ても落ちる。全生物に好かれるに決まっている。

「だから誰とも接触させたくなかったんですよ」

 はあ、と深い溜め息をついた。

「あちらの世界ではそれを実行していたのか。君は、恐ろしいな」
「どうしてです? 他の人なんていらないでしょ。はるは僕さえいれば幸せになれるんですから」

 さも当然のように言う涼佑に、ウィリアムと、オスカーでさえ恐ろしい奴だと呟く。
 暖人はというと、にこにこと笑っていた。この感じ久しぶりだなあ、と。

(前は分からなかったけど、涼佑はちょっとヤンデレ属性だったんだなあ)

 あちらの世界にいた頃は、それが当然で気付かなかった。ヤンデレな涼佑も好きだな、と思う暖人も大概似た者同士だった。
 涼佑はといえば、にこにこしている暖人が可愛くて、それだけで折れた。

「うーん、仕方ないなぁ。僕もはるの部屋に一緒に住んでもいいなら」

 チラリとウィリアムを見る。

「しばらくの間はそうしよう」

 ウィリアムも折れた。今は。


「待て。その条件だと俺が不利だろ」
「君はここに住む訳にはいかないだろう?」

 主が屋敷を長期に渡り開ける事はさすがに良くない。
 オスカーもそれは理解している。だが、声を上げたのには理由があった。

 今までは仕事帰りや合間に訪ね、たまに泊まるだけでそこそこ満足していた。それは相手がウィリアムだけだったからだ。
 それが二人になり、自分だけが違う屋敷というのはどうにも不利だと訴えたくなる。

 珍しくそんな訴えをするオスカーに、暖人は考えた。

「オスカーさんが駄目なら、俺がオスカーさんのところに泊まりに行ってもいいですか?」

 こてん、と首を傾げる暖人に、オスカーは一瞬で落ち着いた。

「ああ、ハルトだけな。月の半分はいて欲しい」
「あ、確かにその方が平等、…………」
「ハルト?」
「俺……いつの間にこんな自意識過剰に……」

 暖人は頭を抱える。

「平等って、俺にそんな価値あるの……? 何も出来ないのに……滅菌ライトくらいしかないのに……」
「おい、ハルト」
「そもそも男だしっ……胸ないしっ、頬が柔らかいくらいしか取り柄ないのにっ……えっちなことも上手じゃないのに……!」

 一瞬でネガティブモードになる暖人の肩を、涼佑がぽんと叩いた。

「落ち着いて、はる」
「涼佑っ……」
「大丈夫だよ。いつもちゃんと気持ちいいから」
「っ……」

 パッと暖人の頬が染まる。

「気持ち良かったよ」
「っ、涼佑っ」

 耳まで真っ赤にして顔を覆う暖人と、フッと勝ち誇ったようにオスカーを見る涼佑。

「この野郎……」

 オスカーが呟く。暖人の手前、呟いて睨むだけに留めた。


 だがその間にウィリアムが暖人の側に屈み、暖人の髪を撫でていた。

「不安がらなくても大丈夫だよ、ハルト。全部俺がしてあげるからね」

 暖人の頬に手を添え上向かせ、甘く熟れた果実のように甘い声で囁いた。しっかりと、耳元で。

「ひぁっ」

 びくりと跳ね、可愛い悲鳴を上げる。
 慌てて口を両手で押さえる暖人の手に、チュッと音を立てキスまでした。

「リョウスケ。俺もハルトの恋人だからね?」

 それでも、と言いたいが暖人も嫌がっていない様子。ウィリアムを睨むだけに留めた。

「俺もハルトの恋人だが? なぁ?」
「ふぁ……、あっ、オスカーさん、だめっ……」

 首筋を撫でた手が唇に触れ、ぎゅっと口を閉じる。口の中はだめ、と上目遣いに睨んだ。
 その場の全員……そっと外へと逃れたキース以外が、うっかり手を伸ばしそうになった。だが堪えた。さすがに最初から複数人は暖人の負担が大きすぎる。


「赤の人ははるにはまだ早そうだし、青の人はガツガツしそうだな。やっぱりはるには僕がぴったりだね」
「赤青呼ばわりするな」

 暖人の側で睨み合う。そこで暖人がぽつりと呟いた。

「でも涼佑、いつも半分はいじわるだから……」
「はるはいじわるされるの好きでしょ?」
「好きじゃない」
「そう? いつもあんなに乱れて」
「あー! あーー!!」
「焦らされた方が」
「うわーー!!」
「本当ははるの方がえっち」
「うわあーー!!!!」

 涼佑の口を塞ごうとした手を逆に掴まれ、大声で対抗しようとする。

「可愛いな」
「ハルトはこんなに元気な子だったのか。なんて愛らしい……」

 真顔で言うオスカーと、うっと口を押さえその可愛さを目に焼き付けるウィリアム。

「手が駄目なら口で塞いでくれたらいいのに」
「キスじゃん!」

 そう叫んで、項垂れた。
 涼佑は二人といると意地悪が増える。二人は止めるどころか可愛いと言い出して、いじわるが増えただけだ。
 そんな暖人の頭をウィリアムが撫でる。オスカーは頬を撫で、涼佑は抱き締める。あまりにも溺愛、ではあるのだが……。

(三人一緒にいると、俺の負担が大きい……)

 出来れば普通に愛して欲しい。などと贅沢な事を思ってしまう。


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