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そんな理由

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「まさか、革命軍の救世主とは、君の事か?」

 ウィリアムの言葉に、涼佑りょうすけは一瞬動きを止めた。

「救世主というと、軍師ながら最後は自ら戦場に出て、鬼神の如く敵を壊滅させたという奴か」

 オスカーはわざと説明的に付け加える。

 情報を巧みに操り勝利に導いた軍師は、戦闘能力にも長けた革命軍の救世主だと、先程王宮で知らせを受けた。
 だがまさか涼佑がそうだとは思っていなかった。
 涼佑だと思っていた第四皇子は、その時は第三皇子の側に控えていたと報告を受けている。

 それに赤の諜報員が鳥に付けた暗号文には、救世主は戦いを終えた後、皇帝派の兵たちを一ヶ所に集め取り調べをしていると書かれていた。

 それが、数日前。
 それからリュエールに向かったにしては、到着が早すぎる。
 ウィリアムとオスカーは、普通に考えれば不可能だと知りながら鎌を掛けたのだ。


「涼佑?」

 暖人はるとにもにっこりとした笑みで問い詰められ、涼佑は深く溜め息をついた。
 この暖人の顔は、本当の事を言うまで納得して貰えないやつだ。

「そうだよ。そう呼ばれてたし、早く終わらせたくて僕も戦いに出た」

 異世界人だという事は多分今も側近以外には隠せているが、どうしても救世主扱いになってしまった。

「それまでは、皇子と一緒に後方の司令部にいたよ?」
「本当に?」
「本当だって」
「戦いに出た時は、ちゃんと身も守ってたんだよね?」
「もちろん」
「……」
「……」
「……」
「…………ちょっとだけ、攻撃に集中してたかもしれないけど」

 根負けした涼佑がぼそりと呟いた。

「俺が聞いた話だと、コイツは竜に乗って城の真っ直中に下り、味方と敵意のない者を全て下がらせた後に、最前線で鬼神の如く暴れ回ったそうだ」
「涼佑!!」
「わっ、はる、ごめん。僕が悪かったよ。本当のことを知ったらはるが心配すると思って」
「知らない方が嫌だったよ!」

 無茶をした事を怒って、心配もして。
 涼佑の事なら何でも知っていたいのと、そんな事があったとは知らずに自分は安全な場所でぬくぬくと過ごしていた事と、これからも知らないままでいたかもしれない事と……。
 様々な感情が混ざり合い、言葉にならない。無言で涼佑の肩口にぐりぐりと額を擦り付けた。

「はるに余計な事を……」

 低い声で呟き、オスカーを睨む。
 だがオスカーは、……ウィリアムも、そっと口元に笑みを浮かべた。

「双剣を操る救世主、だったな」
「……その方が効率が良かっただけです」
「竜と救世主が暴れて、城は瓦礫になったらしいね」
「……許可は得てました。皇子が即位したら皇子所有の城を居城にするからと」

 歴史的価値のある物や国宝を納めた宝物庫は、言われた通りにきちんと避けた。

「確かにそんな惨劇のあった場所は壊してしまった方が良かったかもしれないね」
「あの堅牢な城が崩壊するとは、さすがだな?」
「それまでは知略に優れた戦法を取っていたと聞いたが。そのままでも勝てたのでは?」
「頭使うのも限界があったか」

 二人は涼佑を煽りつつ、情報を引き出す。涼佑の事なら全部知っていたいという暖人の為に。


 煽りに煽られ、ついに涼佑も限界を迎えた。

「っ……あなたたちが暖人に手を出すからっ、さっさと終わらせたかったんですよ!!」

 びりびりと空気が震える。二人でさえ一瞬息を呑んだ程のそれは、彼が戦場を駆けた救世主という証だった。

 だが、すぐに二人は目を丸くする。
 一気にカタを付けたのは、そんな理由。

「僕には暖人が全てです。世界なんです。本当は暖人を見つけた時に駆けつけたかったのにっ」

 一緒に戦ってしまったから、情が移ってしまった。彼らが死ぬところは見たくないと思ってしまった。
 それなら、さっさと終わらせるしかない。その方法が力業だったというだけ。

 本当は、自分の存在が目立たないよう皇子を中心に立てて、手駒を動かしつつ彼らの功績として勝利に漕ぎ着けようと思っていたのに。

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