後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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第四皇子とは

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 栽培方法は幹部づてに他の皆に伝えて貰い、本来の作戦を決行する準備を始めた。

「信用を得るには、姿を隠したままだと難しいな……。僕は皇帝と使用人との子で、隠されていた第四皇子という事にしてもいいですか?」

 度胸のある作戦に、皇子は楽しげに笑った。

「ああ、君の好きにしてくれ。皇帝には幾らでも心当たりがあるだろうからな」
「それは好都合です」

 くすりと笑うと、皇子も薄く笑みを浮かべる。とても、愉しげに。
 度胸が付いたのは嬉しい事だが、涼佑りょうすけとの出会いは皇子にとって良い影響か悪い影響か、とエヴァンだけが皇子の成長に複雑な顔をしていた。


 作戦の為に髪を銀に染めた涼佑は、エヴァンを伴い第三皇子派への攻撃に消極的な騎士たちを訪ねた。そして敵意の有無を確認しては、こちら側へと取り込んでいった。

 その大半は、皇帝に逆らえずにいるものの密かに第三皇子を支持する者だった。
 中にはエヴァンの下で働いていた者もいて、彼は本当に将軍だったのかと涼佑はようやく納得をみせたのだ。


 敵を避けながら、各貴族の屋敷も訪ねた。

「私は、第三皇子のご厚意で保護して頂いておりました、第四皇子です。庶子ですので至らぬ点がございましてもどうぞご容赦下さい。彼が、私が皇子である証拠です」

 元将軍を連れた、第三皇子と同じ銀の髪とエメラルドの瞳をした青年。
 顔立ちが違えど、仕草や表情、纏う雰囲気が似れば信憑性は増す。涼佑はこの数日、四六時中皇子を観察した。
 元々演技は得意だ。暖人はるとの前では、興味のない相手にも穏やかに接したのだから。

 本格的に学んだ演技力でなくとも、皇子を深く知らない者には通じる程度の力はあるだろう。

「なるほど……。確かに第三皇子に……いや、第二皇子にも似ておられるな」

 皆、そう言った。
 第二皇子に良く似ていると言う者もいた。

「こちら側に付いていただきたいとは申しません。戦闘になった際、積極的に攻撃をしないでいただければと」
「それだけで良いのか?」
「貴族の大半は兵だけ置いて、自らは安全な地方へと逃がれました。その間に兵の命は勿論、屋敷や地位を失くすかもしれないというのに。実際命の方が大事ですし、兵を置いていれば反逆者の謗りは受けないでしょう」

 涼佑は第三皇子に似せた、憂いを帯びた笑みを浮かべた。

「ですが、あなたは未だ帝都に残っておられる。皇帝への忠誠の証として。内戦が終わればあなたには多大な褒美が与えられるのでしょう。内戦に乗じて屋敷や地位を奪われる事もない」
「……責めておるのか?」
「いえ、逆です。従業員とその雇用を守るのは、良い雇い主の証拠です。ご自身は残られ、殆どの使用人を奥方と共に地方へと避難させるとは、当主の鑑ですね」

 最後はまだ年若いと思わせるよう、幼さを演じた。
 庶子で剣を握る事もなかっただろう子供が、国の為に殺される覚悟で訪ねて来た。そう思わせれば成功だった。


 作戦は成功。
 元より敵意のない事を確認してはいたが、主要なターゲットは皆こちらの希望を呑んでくれた。


 だがその後すぐに、本物の第四皇子だと名乗る者が現れたのだ。
 庶子で、皇子より四つ年下だった。

 彼は涼佑の訪ねた屋敷の一つに、養子として迎えられた者だった。
 年老いた養父と養母の側で助けになりたいと、内戦の中でも屋敷を離れなかった。
 そしてたまたま養父と涼佑の話を聞き、第三皇子が騙されているのではと心配をして名乗り出たのだと言った。

 涼佑と相談の末、彼は、養父や養母に第三皇子の支えになりたいと告げ、屋敷を出た。
 そんな彼を、皇子は第四皇子として側に置いた。敵意はないという涼佑の言葉を信じて。
 そして彼の、母親譲りの淡い緑混じりの青の瞳と、面影を信じて。

 第四皇子の母は、第三皇子の乳母だった。
 庶民の出だが、第三皇子の母とも仲が良く、とても優しく、美しい人だった。
 彼女が突然城を追われたと聞き、幼心に察していたのだ。


 この本物の第四皇子を、赤の諜報は探り当てた。皇帝派すら得られなかった情報を、だ。
 第四皇子の瞳は緑がかった青。その為、涼佑とは違う可能性が高いとウィリアムに報告をしたのだ。

 ……そうなるよう仕向けたのは、自分だったが。

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