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戦況と戦略

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 手を貸す事が決まり、まず戦況の確認をした。

 戦況は、圧倒的不利。
 まず兵の数が二桁違う。
 だからこそ相手も侮り、皇帝側から積極的に攻めてくる事はない。エヴァンの言った通りだった。
 先月こちら側から攻め入った際は、一時間足らずで撤退を余儀なくされたという。

 だがつい最近になって、命を受けない兵が勝手にこちらに攻撃を仕掛けてくるようになった。それを追い返すだけでも精一杯。そんな戦力で勝てる見込みなどない。

 客観的に見てそんな状況だった。
 だが、勝手に仕掛けてくるとは、あちらは統率が取れていないようだ。そこを突けば……。


「……というか、僕が戦略を立てていいんですか? 敵側のスパイ……諜報かもしれないのに」
「諜報で君みたいに者は見た事がないよ」
「無駄口って事ですね。それはすみません」

 ツンツンした物言いに、エヴァンは溜め息をついた。

「こらリョウ、大人げないぞ」
「まだ成人前ですから」
「この世界では立派に成人済みだからな? それにな、皇子はリョウより年下だぞ」

 年下。
 スッと冷静になった。
 見た目に反して棘のある皇子に、ついつい言い返してしまった。年下相手に煽られてどうする。

「戦略、まじで立てて欲しいんだよ。色々やってみたんだが、上手くいかなくなってきてさ。リョウにはこの世界の戦略とか兵法とか教え込んでるし、なんか出るかな~って」
「そのくらい軽い方が気も楽ですね」

 国の為に、民の為に、と一人で命を背負わされるなら今すぐ手を引きたくなるが、これならば、まあ。


 今までにエヴァンから聞かされた情報と、戦況を整理する。
 第一皇子は皇帝と共に暴虐の限りを尽くし、第二皇子はそれを止めようとして殺された。それが発端となり第三皇子は自らの兵たちを率いて城を去り、この辺境の地へと立て籠もった。

「第二皇子は国民からの信頼があったんですよね」
「ああ。兄上は立派な人だったからな。臣下からも慕われていたよ」
「あなたは、第二皇子の意志を継いで戦っている、という事になっていますか?」
「いや、兄の敵を討ち、国を救うと」

 涼佑りょうすけは口元に手を当てる。

「傷心のところ申し訳ないですが、それだと駄目ですね」
「っ……、……ははっ、君は本当にはっきりと物を言うな」
「甘い言葉で誤魔化すのは僕の性分じゃないんです。それに、あなたの反応を見たかった」
「どういうことだ?」
「戦争をしているなら、率いる側は常に冷静であるべきです。あなたは今、怒りもしなかった。腹の内はどうでも、それを表情に出さなかった」

 今も薄く笑みを浮かべている皇子に、涼佑は少しだけ目を細めた。

「偉そうな物言いになりますが。僕はあなたを、上に立つ者だと認めます。あなたの命令にも、納得出来るものであれば従いましょう」
「リョウ……。ありがとう、……感謝する」

 ハッとして指揮官らしい口調に戻す皇子に、まだまだ子供だけど、と涼佑は内心で呟いた。
 その側でエヴァンが目が落ちそうな程に驚いている。

「リョウが……? あのリョウが……認めた……?」
「エヴァン、そんなに震える程の事なのか?」
「リョウといえば、ハルト以外は転がる石ころとばかりに冷たく見下ろす男……それが、認める……? 命令に従う、だと……」
「そうか……。それほど光栄な事だったのか……」
「いえ、僕も人の心くらい持ってますから」
「リョウのあんな優しい顔、見たことないぞ……」
「あなたにそんな顔する場面ありました?」

 呆れた顔をすると、皇子はますます神妙に受け止めてしまったらしい。
 つい今し方、冷静だと認めたばかりだというのに。


 涼佑が皇子を認めたのは、今の出来事だけではない。
 その前に、皇子はこう言ったのだ。

『リョウ、と言ったな。巻き込んでしまってすまない。だが、この国と民の為に、力を貸して欲しい。……頼む』

 そう言って深く頭を下げたのだ。周りが慌てる程に。
 この皇子は、民の為に素性も知れない人間に頭を下げる事が出来る。救世主のだけで、少しでも可能性があるならばその力を借りたいと。

 その時は表面上、善処しますとだけ答えたが、今回の事で彼を指揮官だと認めようと思った。勿論、暖人はるとに何かあればすぐに手を引くが。


 ……そうならないよう、と……彼らを見捨てる事に躊躇いが生まれたのは、今思えば早くもこの頃からだった。

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