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掻い摘んで
しおりを挟む……と、ここまでの内容を掻い摘んで話した。
森で暖人を待っている半年間に、親切でお節介な男にこの世界の事を教えて貰った。身を守る術も。
それが実は元将軍で、頼み込まれて革命勢力に加わった。前線で戦う訳ではなく、ただ伝説の別世界の人間としてそこにいただけ、と。暖人が心配しないよう言葉を選んで。
それでも暖人は悲しげな顔をする。涼佑が危険な国にいた事に。国民が苦しんでいた事に。
「はるの優しいところ、変わってなくて嬉しいよ」
そんな顔させてごめん、と暖人を撫でる。
向かいで見つめる二人は、釈然としない顔をしていた。
リグリッドの将軍には何度か会った事がある。剣術と体術に長け、快活で皆に慕われる男だった。
前皇帝の親友の息子だと言っていた。国を愛し、国の為に生きる男。そんな彼が親切心で涼佑に身を守る術だけを教えるとは思えない。
二人の心中に気付いたのか、涼佑は暖人に見えないよう口元に指を当てた。暖人の為にそれ以上は訊くなと。
「ねぇ、はる、知ってる? この世界ではイノシシは魔獣なんだよ」
「魔獣っ?」
「見た目はそのままイノシシなんだけど、十倍くらい大きいんだ」
「十倍っ……えっ、大きいと、やっぱり大味なのかな……」
「やっぱりそう思うよね? でも意外ときめ細かくて脂の乗った肉で、ぼたん鍋にしたらすごく美味しかったよ」
「ぼたん鍋……」
「今度作ってあげる」
美味しいよ、と言うと暖人は目をキラキラさせる。元の世界では高価で、テレビや本でしか見た事がなかった。
「君は、魔獣を食べたのか……?」
ウィリアムが信じられないものを見る目をする。オスカーも怪訝な顔をしていた。
魔獣を狩れたのかより、そちらに驚いてしまった。
「見た目も匂いもただの肉でしたし、将軍も食べた事があると言っていたので。あの魔獣は栄養価も高いみたいです。普通に食用でいけましたよ」
「そうなのか……?」
「大きくて凶暴なだけで魔獣と呼ばれてるものがいるらしくて、僕が食べたのはその部類でした」
そうでなければ暖人に食べさせようなど思う筈もない。
「安全性は確認したので、それを教会で配られるスープに混ぜて貰って、干し肉もこっそり渡して貰ってました。まずは飢えて亡くなる人を減らすのが先決でしたので」
皇帝といえど、教会には手を出せなかった。神をも恐れぬ所業をしておきながら、神の怒りを恐れるという矛盾。
だがそのおかげで、皇帝側の兵は教会に食材を届けた後は一切関与しなかった。
涼佑が魔獣の存在に気付いたのは、この世界に来て二ヶ月程経った頃。
広大な森の奥には魔獣が溢れ、狩っても狩っても減らない。それをエヴァンと二人でせっせと狩っては干し肉にする作業を続けた。
その他に、倍程の大きさのダチョウも食料にしていた。こちらは噛みごたえのある鶏肉味だった。
封鎖された帝都に残る者は二割程。それでも充分な食料を提供する事は出来なかったが、死亡率は格段に減ったとエヴァンから聞かされた。
暖人以外はどうでも良くても、荒廃した街の光景を忘れられなかった。
この国に義理はなくとも、どうにかしたいと思う気持ちはあった。
「僕は戦争なんてした事なかったけど、それなら僕にも出来ると思ったんだ」
「涼佑……」
「でもこれはリグリッドの人たちには内緒だよ? いくら食べる物がなかったとはいえ、魔獣を食べたなんて知ったら大変だからね」
それに慈善事業など柄ではないし、暖人以外に感謝されても対応に困る。
もし感謝される可能性があるならそれはエヴァンに被って貰おうと思い、自分が関与した事は決して口外しないよう念を押したのだ。
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※続編はこちら。→ 『後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2』
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