後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

文字の大きさ
上 下
98 / 168

ブライス

しおりを挟む

「ハルカのことまだ忘れられませんけど、俺がうじうじしてたらきっと彼女も怒るから……」

 そう言いながらチラチラと窺う素振りをするキースに、暖人はるとはズイッと詰め寄った。

「あの、俺は暖人と言います」
「あっ、ブライスと言いますっ」

 ブライスというのは勿論偽名だ。リグリッド南部に多い一般的な名前だった。

「ブライスさん。出来たらもう少し、お話をさせて貰えませんか?」
「えっ、いいんですかっ? こちらこそお願いしますっ」

 手を差し出すと、暖人はその手を取ろうとする。だがオスカーに阻まれた。

「えっ、俺、怪しい者じゃ……もしかしてお二人は、ハルト君の恋人で……?」
「それを知ってどうする?」
「えっ」
「まさか、ハルトを狙っているのか?」
「違います違います!」
「オスカーさん、怖がらせたら駄目ですって」

 睨むオスカーを制して、暖人がキースに謝る。

 ……チョロい。
 日本の名を出しただけで、警戒心もなく受け入れた。これがあの涼佑りょうすけが溺愛する相手。あまりにも頭が悪すぎないか。
 キースには、暖人が涼佑に想われる価値のある人間だとは思えなかった。


「ハルト。それより、知らない人と話したら駄目だろう?」
「他の奴に気を許すなと言った筈だ」
「すみません。でも、話をしたいんです。お願いします」

 何度咎められても、暖人は聞かない。
 そのうちに、キースは悟った。

 ……分かった。ハルトちゃんは、赤ん坊だ。

 馬鹿だとか天然だとかではなく、駄々をこねる姿とそれをあやす二人の姿が、あまりにも親子。

 赤ん坊だと思えば怒りも収まる。
 良く考えればそうだ。あの涼佑が大事にしまっておいたなら、俗世を知らない無垢な赤子にもなるだろう。
 もしかしたら、暖人がそうだから涼佑が守っていたのではなく、涼佑がそうなるように育てたのでは……。あの軍師様ならやりかねない。

 そう考えれば不憫に思えると同時に、もう子供が駄々を捏ねているようにしか見えなくなってしまった。

 ……実際の暖人はそう赤子でもないのだが、ゆるふわなところが前面に出ている今の暖人を見たキースは、そう納得したのだった。


「あのっ、無理言ってすいませんっ。今日は帰ります。また……明日とか、来てもいいですか?」
「駄目だ」
「オスカーさんっ」

 ウィリアムは暖人を制し、オスカーは暖人とキースの間に立つ。あまりにも鉄壁。

「あのー……ハルカに似てても男ですし、そういうのじゃないんで……」
「ほらっ、やっぱり! 俺がそんなにモテるはずないんですからっ」
「ハルトが好かれない筈ないだろう?」

 真顔で言う赤のトップに、この国の護りは大丈夫か? と他国の事情ながら心配になる。この溺愛っぷり、何気に重大な秘密では。

「ええっと、すいません、俺、ハルカ以外なら巨乳美女じゃないとちょっと……」
「なるほど。ウィル、希望に合う女を紹介してやれ」
「そうか、それならハルトに手を出す暇もなくなるな」

 この二人、この国の剣と盾のそっくりさんか? キースは内心で本気で訝った。
 リュエールの至宝だとか言われている人物が、この緩さ。一体どうした。

「出来たら黒に近い髪と目で、ロングヘアで肌が白くて身長ちょっと高めで、気が強くて意外と一途で真面目なのに少しえっちなスレンダーめの巨乳美女でお願いします……!」

 事前に考えていた“ハルカ似の美女像”を語ると、二人は揃って、身長高めならハルトとは違うな、とそこに反応した。

(美少女ゲームの優等生キャラみたいな人が好きなのかな……)

 暖人はたまに見かけた動画を思い出し、根強い人気があったもんな、と少し懐かしく思ったのだった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑) 本編完結しました! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びに来る、舞踏会編はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました! おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。 心から、ありがとうございます!

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...