後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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観察→接触

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 キースが観察を始めた翌日の事。

 赤の副団長を伴い出掛けた暖人はるとの行き先は、まさかの高級ブランド店だった。
 赤と青の騎士団長の次は、赤の副団長か。もしやこちらが本命なのか。
 仲睦まじくショーウィンドウを覗いたかと思うと、店内に入り長いこと出て来なかった。

「まさか、結婚すんのか?」

 リョウの事は忘れたのか、とさすがのキースも眉間に皺を寄せる。

 観察も最初は愉しかった。
 だが段々と、涼佑りょうすけの気も知らず別の男とイチャついている暖人に怒りが沸いてきた。

 涼佑はずっと暖人を探してきた。自ら探しに行くと言うのを、交換条件を出して無理矢理引き留めたのは、リグリッドの人間だ。
 何の義理もない相手の為に留まり、素性も知らない相手に大事な人を探す事を託して。

 見つからなかったのは、こうして貴族の屋敷で大事に匿われていたからではないか。
 暖人を発見した兵から聞いた話では、救世主として街を救った後に数日寝込んでいたという。騎士二人が大層心配をして寝ずに側についていた、と。
 三人で部屋に籠もって……と下世話な想像をしたのだが。


「……まあ、そういう感じには見えねぇか」

 あれから数日後。同じ事を呟いた。

 女性陣に囲まれティータイムを過ごす姿も、たまに玄関まで出て朝のお見送りをする姿も、ふわふわした幼い子供のような雰囲気がある。
 指にキスをされただけで顔を赤くして押し返す。あれは初な深窓の令嬢の反応だろう。

 観察しているうちに、何とも微妙な気持ちになってきた。
 複数交際が当たり前の国で、暖人を責めるのもおかしな気分だ。それも、その文化で育った自分が。どうやらあまりにも一途な涼佑に影響されたらしい。

 涼佑も全くもって一切綺麗に何もなかったわけでもないが、涼佑のそれと暖人は違う気がする。
 周りの騎士二人があまりに押しているせいもあるのだろうが。


 今日は三人で仲良くお庭の散歩か、と眺めていると、三人の首元に光るものが。

「は……? まさか、同じもの?」

 騎士団長二人は普段首元が見えない団服を着ている為、気付かなかった。
 てっきり暖人が貰った側だと思っていたが、まさかあの時に店で買っていたのは……。

「おいおい、アイツが贈ったってのか?」

 暖人の気持ちはもう、彼らにあるのか。それも、二人……いや、副団長もだろうか。
 涼佑の話していた人物像とはあまりに違ってきて、キースは真意を測りかねた。


 仕方ない、もう少し近付こう。
 わざと彼らに見つかるよう、中庭の木の幹に身を隠した。
 後は気配を消すのを……。

「何者だ?」
「っ!?」

 突然気配もなく背後から声を掛けられ、さすがに肝が冷えた。
 まだ気配を消すのをやめていない。それに、青の騎士団長さっきまで遠くにいなかったか? と元いた場所を見る。

「えっ、いや、その……! あの子と話したくて!」
「何だと?」

 うっわ、めっちゃこぇえ!
 青ってこんな感じ? 顔に出まくり! 戦場でも冷静沈着じゃなかったか!?
 あまりの殺気に、内心でギャーギャーと騒ぐ。
 いや、いけない、計画通り、田舎のちょっといいとこの坊ちゃん感を出さねば。

「死んだ恋人に似てるんですっ。あの髪、あの目っ……」

 するとオスカーはピクリと反応し、眉間の皺を深くする。

「その恋人とやらは、どこの国の者だ?」
「ひっ、命だけはっ……」

 一般人らしく怯えたふりをする。
 そこでウィリアムが駆け寄って来た。ついでに暖人も一緒について来た。

「オスカーさん、怯えさせたら駄目ですよっ」
「それよりお前は、少しはおとなしくしてられないのか?」
「無理だから俺も来たんだよ」

 ウィリアムが肩を竦める。ウィリアムに暖人がついて来たのではなく、暖人にウィリアムがついてきた。

「ところで君。こんなところに入り込めるという事は、どこかの密偵かな?」
「ひぇっ」

 ひんやりとした殺気を受け、今度は本気で怯えた声が出た。戦場以外では穏やかだという噂を信じたのが馬鹿だった。
 だがそれがウィリアムたちの警戒を少しだけ解く事になる。

「ち、違うんですっ、柵の隙間からあの子が見えてっ、無我夢中で壁を登って……。……やっぱり、ハルカと同じ色だ……」

 そう言って暖人を見つめた。
 ハルカというのは、最初の頃にぼそりと呟かれた名を聞き間違えた時に涼佑が「ハルカは女に多い名前だ」と呆れたように言ったため覚えている。
 運が良かった。それで暖人は信じたらしい。

「ハルカ、って……その人は、どこから来たんですか?」
「それが……俺が村の近くの森で助けた時には記憶喪失で……。自分の名前と、ニホンという聞き慣れない言葉だけを覚えていて……」

 説明を終えると、暖人は血相を変えた。

「その人はきっと、俺と同じ、……同じ国から来たんです。とても遠くの国から……」

 暖人はグッと拳を握り、視線を伏せる。

「お前の村はどこだ?」
「タッセです」
「タッセ……この国の者ではないのか」
「はい。その、……リグリッドの南の、小さな村で」

 するとオスカーがぴくりと眉を上げる。訝しげな顔をする彼に、キースは慌てた様子で続けた。

「内戦が始まってすぐにみんなで避難して来たんですっ。怪しい者じゃないのでっ」
「他の者は何処にいる?」
「分かりませんっ、独身者は大体俺みたいにあちこち旅してましてっ」
「何故?」
「っ……都会の美女とお近づきになるためです!!!!」

 グッと拳を握り熱く語るキースに、オスカーは眉間に皺を寄せ、ウィリアムは若者らしい理由だな、と頷いた。
 暖人だけが、やっぱり男じゃなく美女がいいんだ、と何とも言えない気持ちになった。

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