97 / 168
観察→接触
しおりを挟むキースが観察を始めた翌日の事。
赤の副団長を伴い出掛けた暖人の行き先は、まさかの高級ブランド店だった。
赤と青の騎士団長の次は、赤の副団長か。もしやこちらが本命なのか。
仲睦まじくショーウィンドウを覗いたかと思うと、店内に入り長いこと出て来なかった。
「まさか、結婚すんのか?」
リョウの事は忘れたのか、とさすがのキースも眉間に皺を寄せる。
観察も最初は愉しかった。
だが段々と、涼佑の気も知らず別の男とイチャついている暖人に怒りが沸いてきた。
涼佑はずっと暖人を探してきた。自ら探しに行くと言うのを、交換条件を出して無理矢理引き留めたのは、リグリッドの人間だ。
何の義理もない相手の為に留まり、素性も知らない相手に大事な人を探す事を託して。
見つからなかったのは、こうして貴族の屋敷で大事に匿われていたからではないか。
暖人を発見した兵から聞いた話では、救世主として街を救った後に数日寝込んでいたという。騎士二人が大層心配をして寝ずに側についていた、と。
三人で部屋に籠もって……と下世話な想像をしたのだが。
「……まあ、そういう感じには見えねぇか」
あれから数日後。同じ事を呟いた。
女性陣に囲まれティータイムを過ごす姿も、たまに玄関まで出て朝のお見送りをする姿も、ふわふわした幼い子供のような雰囲気がある。
指にキスをされただけで顔を赤くして押し返す。あれは初な深窓の令嬢の反応だろう。
観察しているうちに、何とも微妙な気持ちになってきた。
複数交際が当たり前の国で、暖人を責めるのもおかしな気分だ。それも、その文化で育った自分が。どうやらあまりにも一途な涼佑に影響されたらしい。
涼佑も全くもって一切綺麗に何もなかったわけでもないが、涼佑のそれと暖人は違う気がする。
周りの騎士二人があまりに押しているせいもあるのだろうが。
今日は三人で仲良くお庭の散歩か、と眺めていると、三人の首元に光るものが。
「は……? まさか、同じもの?」
騎士団長二人は普段首元が見えない団服を着ている為、気付かなかった。
てっきり暖人が貰った側だと思っていたが、まさかあの時に店で買っていたのは……。
「おいおい、アイツが贈ったってのか?」
暖人の気持ちはもう、彼らにあるのか。それも、二人……いや、副団長もだろうか。
涼佑の話していた人物像とはあまりに違ってきて、キースは真意を測りかねた。
仕方ない、もう少し近付こう。
わざと彼らに見つかるよう、中庭の木の幹に身を隠した。
後は気配を消すのを……。
「何者だ?」
「っ!?」
突然気配もなく背後から声を掛けられ、さすがに肝が冷えた。
まだ気配を消すのをやめていない。それに、青の騎士団長さっきまで遠くにいなかったか? と元いた場所を見る。
「えっ、いや、その……! あの子と話したくて!」
「何だと?」
うっわ、めっちゃこぇえ!
青ってこんな感じ? 顔に出まくり! 戦場でも冷静沈着じゃなかったか!?
あまりの殺気に、内心でギャーギャーと騒ぐ。
いや、いけない、計画通り、田舎のちょっといいとこの坊ちゃん感を出さねば。
「死んだ恋人に似てるんですっ。あの髪、あの目っ……」
するとオスカーはピクリと反応し、眉間の皺を深くする。
「その恋人とやらは、どこの国の者だ?」
「ひっ、命だけはっ……」
一般人らしく怯えたふりをする。
そこでウィリアムが駆け寄って来た。ついでに暖人も一緒について来た。
「オスカーさん、怯えさせたら駄目ですよっ」
「それよりお前は、少しはおとなしくしてられないのか?」
「無理だから俺も来たんだよ」
ウィリアムが肩を竦める。ウィリアムに暖人がついて来たのではなく、暖人にウィリアムがついてきた。
「ところで君。こんなところに入り込めるという事は、どこかの密偵かな?」
「ひぇっ」
ひんやりとした殺気を受け、今度は本気で怯えた声が出た。戦場以外では穏やかだという噂を信じたのが馬鹿だった。
だがそれがウィリアムたちの警戒を少しだけ解く事になる。
「ち、違うんですっ、柵の隙間からあの子が見えてっ、無我夢中で壁を登って……。……やっぱり、ハルカと同じ色だ……」
そう言って暖人を見つめた。
ハルカというのは、最初の頃にぼそりと呟かれた名を聞き間違えた時に涼佑が「ハルカは女に多い名前だ」と呆れたように言ったため覚えている。
運が良かった。それで暖人は信じたらしい。
「ハルカ、って……その人は、どこから来たんですか?」
「それが……俺が村の近くの森で助けた時には記憶喪失で……。自分の名前と、ニホンという聞き慣れない言葉だけを覚えていて……」
説明を終えると、暖人は血相を変えた。
「その人はきっと、俺と同じ、……同じ国から来たんです。とても遠くの国から……」
暖人はグッと拳を握り、視線を伏せる。
「お前の村はどこだ?」
「タッセです」
「タッセ……この国の者ではないのか」
「はい。その、……リグリッドの南の、小さな村で」
するとオスカーがぴくりと眉を上げる。訝しげな顔をする彼に、キースは慌てた様子で続けた。
「内戦が始まってすぐにみんなで避難して来たんですっ。怪しい者じゃないのでっ」
「他の者は何処にいる?」
「分かりませんっ、独身者は大体俺みたいにあちこち旅してましてっ」
「何故?」
「っ……都会の美女とお近づきになるためです!!!!」
グッと拳を握り熱く語るキースに、オスカーは眉間に皺を寄せ、ウィリアムは若者らしい理由だな、と頷いた。
暖人だけが、やっぱり男じゃなく美女がいいんだ、と何とも言えない気持ちになった。
77
お気に入りに追加
1,812
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる