後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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三つの箱:オスカー4

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「待ってろ」

 オスカーはそう言ってベッドから下り、必要な物を揃えて戻ってきた。
 桶に張った湯で暖人はるとの手を綺麗に洗い、クローゼットから出した新しい服を着せられる。
 下着まで淡々と着替えさせられ、この世界での恋人同士はこれが普通なのかもしれないと暖人は思ったのだが、実際はそんな事はない。オスカーのこれは、過保護の延長だった。


 全て片付けて戻ってきたオスカーは、自分の手で綺麗になった暖人を見て満足そうな顔をする。

「オスカーさんって、けっこう世話焼きです……?」
「お前にだけな」
「そ、ですか……」
「それだけ特別なんだと自覚してくれ」
「特別……」

 言葉でもグイグイ来られて、思わず俯いてしまう。
 それに今まさにあんな事をしたばかり。一気に顔が熱くなり、オスカーに見えない程に顔を伏せた。

 だが、そうだ。オスカーの屋敷では、暖人の頭を撫でただけで執事が倒れそうな程に驚いていた。
 そのオスカーが甲斐甲斐しく世話を焼き、着替えまでさせるなんて。

「……俺、思ってるよりオスカーさんに好かれてる……のでしょうか」
「そう言ってるだろ。自信を持て」
「……そうですよね。最初の頃からしたら、今のオスカーさん、俺のこと大好きすぎるくらいですよね」

 真顔で納得する。
 出逢ったあの頃には、こんな関係になるとは露ほども思わなかった。人生何が起こるか分からない。

「でも前みたいに、俺の駄目なところをはっきり言ってくれても助かります。何故かみなさん俺に過保護過ぎますし」
「それはお前が世話焼きたくなる顔してるからだろ」
「どんな顔ですか」
「こんな顔だな」

 と言って、俯いているというのに、頬を両手でむにむにと揉まれる。

「顔関係ないりゃないれすか」
「突然飛び出して行って無理をするからというのもあるな。それと、成人前の子供に見えるから、ぼんやりしていそうに見えるから、か」
「それただの子供じゃないですか……」

 完全にただの子供。過保護になって当たり前な気がしてくる。いやいや、流されては駄目だ。

 拗ねた声を出す暖人を、オスカーはそっと目を細め見つめた。

「後は、そうだな。お前は周りへの気遣いも出来て、何も求めずに与えられても遠慮をするから、余計に与えてやりたくなるんだろうな」

 突然口調が変わり、褒めるように髪を撫でられる。
 もう充分すぎるほど貰ってるからです、と言うと、そういうところが与えたくなるんだとオスカーは小さく笑った。


「さて、と。後はウィルを呼んで、殴られる前に誤解だと説明するだけか」
「さすがに殴られは……」
「この状況を見てもか?」

 示されたベッドはシーツが乱れた形跡が消しきれず、バスルームには濡れたタオル、暖人は新しい服に着替えている。

 過保護代表のウィリアムなら、オスカーが最後までしないと信じていても、咄嗟に誤解して殴らないとも限らない。怒らせたくない相手だとオスカーは苦笑した。

「俺がウィルさんにしたのと同じことをしたって言います」
「それなら怒るに怒れないな。頼むぞ」
「はい」

 素直に頷く暖人の頭を、また褒めるように撫でた。

「ウィルに服も借りたいしな」
「服? ……あっ、すみませんっ」

 俯けていた顔を上げると、オスカーの白いシャツには暖人の出したものが染みを作っていた。

「脱いでくださいっ」
「拭いたからいい。脱いだらますます顔を見なくなるだろ、お前」
「っ……、そうですね」

 脱がそうと手を掛けてしまい、シャツの胸元から見える筋肉にハッとして手を離す。

(オスカーさんの裸は、俺にはまだ早い……)

 男の色気が溢れすぎている今は、特に。


「そのくらいで赤くなるくせに、ウィルとは何故そんな事になった?」
「そんな事……。あの、お話した通りで……。あと、人種というか世界の違いを感じてつい気になったのもあり……」

 そんな気持ちがほんの少しあった事を否定出来ない。
 もごもご言う暖人を、呆れたように見つめた。

「世界も何も、男についてるモノは同じだろうが。お前はこれからは、その場で襲われる事を前提に行動しろ」
「うっ、当たりが強い」
「はっきり言って貰いたいんだろ?」
「そうでした」
「理解が早いな」
「貴重なご意見ありがとうございます。言い訳すると、同じ男としてそうされる方がいいのかなって思ったのもあるんです」
「だとしても、手でもいいだろ」
「え?」

 キョトンとする暖人に、オスカーは頭を抱えた。
 暖人の無茶や突飛な言動には大体慣れたと思っていたが、なんだこれは。未知の生物か。

「恋人になった途端に一人で抜いてきてって言われるの、俺なら悲しいから、咄嗟にしてしまいました」
「なるほど、それなら理解出来る」
「口の方が嬉しいかなと思いましたし、そういうことです」

 そう纏めようとするが、それで真っ先に口でするという思考になるのはやはり理解出来ない。それも、オスカーにまで。

「これからはウィルにしたからといって、俺にも同じ事をする必要はないからな。お前がしたい事だけをしろ」

 したいと思ってしたんですけど、と言い掛けて、口を噤んだ。これも煽るなと言われるのだろうか。
 それに、オスカーの気遣いを感じ、おとなしく従う事にする。煽らないような事をと思案して。

「したいことというか、して貰いたいことなんですが」

 オスカーの手を取り、頭に乗せる。

「いっぱい撫でて欲しいです。……駄目ですか?」

 子供っぽくて恥ずかしいがこれなら、と窺うように見上げると、オスカーはぴたりと動きを止めてから「煽るな……」と呟いた。

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