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三つの箱:ウィリアム4

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「また顔を見てくれなくなったね?」
「すみません、我に返ったらとてもじゃなく……」

 ハッとしてウィリアムの足元で膝を抱える。
 覚悟と気合いで突っ走っていたが、我に返るととんでもなく恥ずかしい。穴があったら入りたい。
 そんな暖人はるとの頭を、頑張ったね、とウィリアムは緩んだ顔で撫でた。


「……でも、ウィルさんが男の俺に反応してくれて、安心しました」
「しないと思っていたのかい?」
「はい、すみません……」
「ハルトは本当に自分の魅力を理解していないね。少し心配になるよ。……それに」
「え? うわっ」

 暖人をベッドの上に引き上げ、背後から抱き締める。

「反応してくれて安堵しているのは、俺も同じだよ」
「あっ。これは、その……」
「気付いてあげられなくてすまなかった」
「いえ、謝られると逆に恥ずかしいというか……」

 もごもごと呟く暖人の服は、腹の辺りに染みが出来ていた。
 ウィリアムは咥えながら自分で触って処理したと思っているが、実は喉の奥に出された時にそれだけで達してしまった。一切触らずになど初めての経験だった。

 もう勃ってはいないものの、まだ多少体が熱っぽい。それは放っておけば収まるだろう。

「……着替えますね」
「そうだね」
「あの、ウィルさん……?」

 ウィリアムは暖人の服の裾をくるくると巻いていく。

「ハルト、万歳して」
「赤ん坊じゃないんですが……」

 と言いつつ腕を上げると、すぽりと服を脱がされる。

(あれ? この世界でも万歳って使うんだ)

 そう思っている間に下着も脱がされていた。何ならべっとりと付いた汚れを服で拭われていた。

「えっ、あのっ」
「綺麗にしてあげるから、少し待っていてくれ」
「いえ、自分でっ」

 と言う前に、ウィリアムは汚れた服を持ってバスルームへと入ってしまった。

 ここまでベトベトになった服を女性に洗わせる訳にもいかず、ウィリアムはそれをゴミ箱へと捨ててしまう。
 暖人には内緒だが、こういう事もあるかもしれないと期待して、同じような服を何枚も用意していたのだ。
 捨てたと知れば暖人は勿体ないと怒るだろうから、気付かれないようにしている。

「早くシーツも捨てられるようになりたいな」

 くすりと笑い、濡れタオルを持って寝室へと戻った。



「自分で拭きます」

 暖人は珍しく、断りもせずにウィリアムの手からタオルを取る。勿論顔は見ずに。そしてくるりと背を向けた。

 確かに“そこ”を拭いているのにこちらから見えないというのも、逆に興奮を覚えてしまう。

 目の前には、ずっと直に触れたいと思っていた、華奢な体。細い腰に、滑らかな肌。
 だが手を伸ばしたい気持ちをグッと堪えた。今触れてしまえば、本当に抑えが利かなくなってしまう。

「着替えを持ってくるよ」

 手の止まった暖人からタオルを受け取り、同じようにバスルームのゴミ箱に放る。
 戻ると、暖人は布団の中にいた。

「そのまま寝るなら、俺も脱ごうかな」
「えっ、あのっ、これは、裸で待ってるのも恥ずかしいなとっ」
「冗談だよ。ハルトは本当に可愛いね」

 ちゅ、と額にキスをする。
 自分で取りに行っても良いのに、言われた通りに待っているところがあまりにも可愛い。

「今肌を合わせるとさすがに我慢が利かなくなるからね」

 そう言ってクローゼットから着替えを取り、暖人の元へと戻る。
 布団を捲り、驚いた声を上げる暖人が身を捩る前に、下着を脚に通した。

「ハルト、腰を上げて」
「今までで一番恥ずかしいんですけど……」

 我慢が利かないと言いながら、何故こんな完全アウトな事を。
 赤ん坊扱いとはいえ、裸……もうダイレクトに下半身を見られながら下着を着せられている。それも素面で。これは恥ずかしい。

「腕を通せるかな?」
「うぷっ。赤ん坊扱いやめてください」

 頭から被せられた服に、もそもそと腕を通す。

「ハルトがあまりに可愛くて、着せ替えをする楽しさを知ってしまったよ」
「知らないままでいて欲しかったです」
「俺にそんな風に怒るハルトは貴重だね」

 いつも遠慮がちだった暖人のこの反応は、嬉しい以外にない。ぎゅっと抱き締め、暖人と一緒にベッドに横になる。

「今日はこのまま寝てしまおうか」
「我慢は大丈夫なんですか?」
「ハルトが煽らなければね」
「それは、……自覚なしにやってるみたいなので、やってしまったらすみません」
「自覚がない事に気付けたのは偉いよ」
「ウィルさんは俺に過保護すぎます」
「それは仕方ないだろうね。俺はハルトを愛しているから、大切にしたいんだ」

 ちゅ、と目元にキスをする。
 二人の間で、チャリ、と小さな金属音が鳴った。


「明日の帰りにオスカーも連れてくるよ。次は彼の番だろう?」
「……すみません」
「謝る必要はないよ。俺たちはそれが可能な世界で育ったのだから。とはいえ、君を独り占め出来たらと思ってしまうのは仕方ないかな」
「……今は、俺とウィルさんだけですよ」

 慣れない事を言い、恥ずかしくなってウィリアムへとぐりぐりと頭を擦り付けた。

 その仕草が、言葉があまりにも愛しい。
 ずっと願っていた愛しい存在が、今この腕の中にある。その温もりを抱き締め、頬を寄せた。

「ハルトの覚悟、確かに受け取ったよ。俺は君を未来永劫愛し抜くと誓う。君を、必ず幸せにするよ」
「……俺も、ウィルさんのこと、幸せにしたいです」

 少しだけ躊躇い、素直な気持ちを紡いだ。


涼佑りょうすけ、ごめん……)

 自分の言葉一つで蕩けるような笑顔を見せるウィリアムを、大切だと言ってくれる彼を、幸せにしたいと心から願う。

 あの店で今までの事を思い出した時、もう駄目だと思った。
 この世界に来てからずっと、どんな時も側にいてくれた。見返りも求めずただ愛してくれた。その気持ちに応えたいと、大切だと思う気持ちを、これ以上誤魔化せない。
 これ以上、この優しい人に嘘をつきたくない。
 だから、覚悟を決めた。

(涼佑……ごめん……でも俺、どうしようもなくこの人が、好きなんだ……)

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