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*三つの箱:ウィリアム2
しおりを挟むウィリアムはテーブルの上の箱を取り、雪のように静かに光るネックレスをそっと手に取った。
「ハルトの手で着けてくれるかい」
差し出したそれを暖人が受け取ると、ウィリアムは暖人を引き寄せ膝に乗せる。
ウィリアムの膝を跨ぐようにして向かい合う形。
「……この体勢、ちょっと恥ずかしいです」
「この方が着けやすいだろう?」
「そうかもですけど……」
すっかり元のウィリアムだ。
余裕顔で微笑む彼に少しだけ拗ねてみせながら、暖人はそっと首に腕を回した。
チャリ、と小さな音がして、白銀のプレートが白い肌に触れる。
襟元の開いたシャツの間から見えるウィリアムの男らしくも美しい体に映えて、ますます綺麗だ。暖人はそっと目を細めた。
「ありがとう、ハルト」
ちゅ、と目元にキスをして、暖人の分のネックレスを手に取り同じように首に掛ける。
服の上で輝く銀のプレートを指先で裏返し、そっと唇を寄せた。
「ウィルさん、っ……」
そこから首筋へ、耳元へと唇が触れる。そして窺うように口の端に触れて、そっと唇へと重なった。
「っ……」
軽く触れるだけのそれが、少しだけ強く押し付けられる。様子を窺うように何度か触れて、そっと舌先が唇をなぞった。
こんな時でも気持ちを尊重してくれる、その優しさに胸が暖かくなる。
もう拒絶するつもりはない。もっと、触れたい。薄く唇を開き、少しだけ舌を差し出した。
「んっ、ぅ……」
ぬるりとした熱いものが舌を擦り、ぞくぞくとした感覚が襲う。表面を撫でたそれが絡められ、軽く吸われて、身を震わせた。
「んぁ、っ……は、ぅ……」
無意識に声が漏れる。それに安堵したのか、頬に触れていた手が後頭部に回って。
「んぅっ、んっ、んぁっ……」
もうキスで上げる声ではない。ガクガクと膝が震え、ペタリとウィリアムの膝に座ってしまった。
(あ、あまりにも、上手すぎる……)
もう何がどうなっているのか分からない。口の中全部が性感帯になったように、背筋を駆け上がる快感と、脳が痺れるような感覚。
酸素は流れ込むのにずっと快感が続いて、ねっとりと絡みつくような甘い痺れに勝手に背が撓った。
後頭部を押さえる手が動き、指先が耳を擽る。もう片手は腰を撫でて。
「っは……、ぁ、ぁっ、んゃっ……」
びくりと体が震える。そこで漸く唇が離れ、ちゅ、と音を立て目元にキスをされた。
「ハルト……」
ぎゅうっと抱き締められ、熱い吐息と共に囁かれる声。
(ウィルさん、嬉しそう……良かった、けど……)
はふはふと荒い呼吸をしながら、キスだけでこれは怖い、と暖人は震える。キスだけでイ……ってない、と信じたい。
膝にも体にも力が入らず、今手を離されたら倒れそうだ。
「夢じゃないんだな……」
髪を、背を撫でる手のひら。あんなキスをしたとは思えない程に優しくて、慣れてしまったその手つきに、すり……と肩に頬を擦り寄せた。
「今すぐ君を俺のものにしたいが……、それは俺が君の恋人だとリョウスケに認めて貰えるまで、我慢するよ」
髪に、額に、キスが落ちる。
「これでも、彼に対して罪悪感があるからね。ハルトの世界では、ただ一人と一生添い遂げるのだろう?」
「ウィルさん……」
元の世界の事も、涼佑の事も、きちんと考えて尊重してくれる。そんなウィリアムが、心から好きだと思った。
「……でも」
「っ、頼むから煽らないでくれ。これは仕方がないと思うのだが」
ウィリアムが珍しく慌てた声を出す。
膝の上に乗っているものだから、気付いてしまった。ウィリアムの、……股間に。
(ウィルさん、俺でも勃つんだ……)
この良い雰囲気で、と自分でも思ったのだが、純粋に感動してつい確認する為にも触ってしまった。
視線を下へ向けると、服の上からでも分かる立派なものが。
「無自覚なのも困ってしまうな……」
性的欲求に関しては我慢が必要ない生活をしてきたウィリアムにとって、煽られれば理性がぷつりといってしまう可能性も否定は出来ない。
今までは暖人に拒絶されないよう、嫌われて出て行かれないようにと恐怖で抑えていた部分もあるが、この状況ではその抑えがないも同然。
溜め息をつきながらも暖人を離さないウィリアム。
「……口でしましょうか?」
「……ハルト。こんな時に言う事ではないが、俺は君に会うまで我慢をした事がなかったんだ」
「そんなウィルさんが俺のために我慢してくれるのが、ますます嬉しいです」
「我慢出来る事が前提なのかな」
「我慢ばかりさせるのも申し訳ないですし、俺も男なのでつらいのは分かります。なのでせめて口で」
あまりにも平然と言う。慣れているという事だろうか、と思うと嫉妬をしてしまうのは仕方がない事で。
「…………手でもいいんだよ?」
「ウィルさんはどっちが好きです?」
「……口、かな」
暖人がしてくれる事でどちらか好きに選べるとしたら迷わずそちらだ。だが。
「……やはり、君にそれをさせるのは」
「ここだと狭いので、ベッドに座って貰えたら助かります」
「ハルト。俺は君を大切にしたいんだが」
「充分されてますし、これは俺がする方なので問題ないかと」
暖人の視線は下に向けられたまま。同じ男として、この状態がつらい事は良く分かる。何とかしてあげたい、その一心なのだろう。
「……そうだった。君は一度決めたら驚く程に男らしくなるんだったね」
死者の時も、流行病の街の時も、男らしさと行動力がありすぎて困ってしまう。
そんな暖人はソファから下り、ウィリアムの手を取り引っ張っていく。
本当に、行動力がありすぎて羞恥心は何処かへ行ってしまったようだ。
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