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観察
しおりを挟むキースが王都に辿り着いたのは、暖人たちがモッル食材の店に行く日の早朝だった。
それまでに別の街近くの無人の小屋でリュエールの服に着替え、使い古した旅用のリュックを背負い、リグリッドから着てきた服や麻袋は火にくべて焼いた。
数日近くの街で過ごしてから、王都へと入る。
まずは宿を確保した。それから最初に赤の騎士団長の屋敷を確認、と覗くと、運良く出掛けるところだった。
「一発目から当たりか」
何とも運が良い。
赤の騎士団長の隣にいる人物は、髪は青いが、瞳は黒だ。髪に隠れて見えにくいが首筋に傷痕がある。
「あれが軍師様お気に入りのハルトちゃんか」
キースは木の上から様子を見ていた。
数百メートル先までは余裕で見えるのがキースの能力だ。彼が適任だと言ったのは、この世界で稀に生まれる特殊能力の持ち主だという事もあった。
彼らが向かった先では青の騎士団長まで合流し、仲良く買い物する姿を広場から観察した。
暖人たちが店から戻った頃合いで、キースは再びウィリアムの屋敷を覗く。今度は、最初にいた数百メートル先の林の木の上から。
三人は中庭で呑気にティータイムをしていた。ティータイムの次は中庭の散歩だ。
令嬢だったか? とキースは首を傾げた。だが涼佑は確かに男だと言っていた。
暖人は花を見て嬉しそうに顔を綻ばせている。涼佑が言う通り可愛らしい顔をしているが、キースには綺麗寄りだと思える。それがこの世界の美の基準だった。
「あれ、マジで騎士団長様か?」
そう疑う程に、赤と青が揃いも揃ってあんなに緩んだ顔をして。
しかし、あの二人を連れて呑気に散歩とは、一体ハルトという人物はどんな大物だ。
「ん?」
赤の騎士団長が、暖人の腰に手を回す。
青の騎士団長は、頭を撫でて。
「いや、あれは……リョウに殺されるんじゃね?」
いくら騎士団長とはいえ、涼佑より強いとは思えない。
一方の暖人はと言えば、特に気にしていない。青い花を興味深そうに見つめながら歩き、噴水の側のベンチに座った。二人に挟まれて。
「なんだよ、リョウの事忘れてよろしくやってん……じゃないのか……? なんだ? どっちだ?」
怒りを覚えた矢先、首を傾げる。
赤の騎士団長が髪にキスをしても気にしていないようだったが、青が手を取りキスをすると、顔を真っ赤にして慌てたように二人を押し返した。
すると赤と青は目を細め、二人の口が「すまない」「悪かった」と動く。
赤は遊び人だと聞くからともかく、青はどうした。
二人が一方的に想いを寄せているだけか。
だが暖人も、困ったような顔をしながらも満更でもないようで。
どっちだ。どれだ。恋人なのか、片想いなのか、両片想いなのか。
「てか、早く内戦収めて来ないとやべぇんじゃ?」
三人がどんな関係だろうと、涼佑にとっては良くない。
『二人に言い寄られて満更でもない様子。急げ』
そう書いた紙を追加で送った数日後、涼佑のものではない文字で『こっちは面白いことになってる』と書かれた紙が返ってきた。端には殴り書きで『すぐに行く』と。
「いや、すぐってお前」
無理だろ、と笑ってしまう。
きっと今頃、涼佑が動揺と怒りで大変な事になっているのだろう。
「見たかったなー」
あの冷静な軍師様がどんな取り乱し方をしたのか。
そんな彼に大事にされていたらしい暖人を見つめる。涼佑とは反対に、随分とふわふわした性格のようだ。また二人に髪や頬を撫でられながら、気持ちよさそうにしている。
愛玩動物か……?
ふとそんな事を思ってしまった。
だが、しかし。
もし暖人があの二人を受け入れたとして、涼佑は暖人の為に彼らを許すか、始末してしまうか。
涼佑の苦悩を知っているだけに、後者でも許されるだろうと思う。だが涼佑のあの盲目ぶりなら、三人を許してしまうかもしれない。
「リュエールの至宝とリョウの本気の殺し合いとか、見たすぎるだろ」
どれだけ耐えられるか。
緩んだ顔で暖人を見つめている二人を眺め、キースは愉しげに口の端を上げた。
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