後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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聞いてない

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「ハルトさん。お兄さまからプロポーズされまして?」
「っ……!」
「妹のわたくしから見ても、お兄さまはとてもすてきな方ですのよ? 少しいくじなしなところもあるけれど、それもハルトさんを想うがゆえだわ」

 ティアはにこにこと笑う。

 ウィリアムから想いを告げられた数時間後。元気になった暖人はるとに喜んだ使用人たちが、勢い余ってティアのところまで報告に行ったのだ。
 するとすぐにティアが訪れて、今は優雅にアフタヌーンティーの最中だった。

「このお屋敷にも、もう二度と女の方をお招きすることもないと思いますわ」
「そう、だね……」

 何とか声を出し、笑ってみせる。
 何故かティアは、ウィリアムにプロポーズされた事を知っている。前々からウィリアムの様子に気付いていたのだろうか。それで彼の事を応援していたのか。大事な兄の……。


「……ティアさん、俺、どうすれば……」
「オスカーさまとも何かありまして?」
「!?」
「あのオスカーさまが、狙った獲物を逃すとは思えませんわ」
「知ってたの!? どうしてそんなところに俺を放り込んだの!?」
「気分転換は、ショック療法と相性が良いのよ?」
「そんなの聞いたことない……」

 ガクリと項垂れた。
 ティアは知っていながら、いや、知っているからこそ、進展のない二人纏めて、勢い良すぎる程に一気に背中を押したのだ。

(まだ成人前の小さくて可憐な女の子なのに……)

 にっこりと優雅に微笑むティアに、一番敵に回してはいけないのは彼女だ、と悟った。

「ハルトさん。この国は重婚が認められていますわ。人数までは厳密には決められていませんから、ご安心くださいな」
「人数……」
「あら? 言っていなかったかしら?」
「……聞いてない」
「あのおふたりとのご結婚は少し大変でしょうけれど。ハルトさんならきっと大丈夫よ」
「大丈夫じゃないよ……あの二人、どれだけ美形か分かってる……?」
「あらあら。悩んでいるのはそんなことだったのね」
「そんなことじゃないよ。顔は大事だよ」
「ハルトさんは、美形に弱いのかしら?」
「弱いよ。すごく。俺みたいな平凡顔からしたら眩しくて、そんな人たちから……って、ううっ……」

 顔を覆い項垂れる。
 思い出してしまった。あの二人から本気でプロポーズをされたのは、現実だった。


「ハルトさんってば、本当にご自分の魅力を分かっていないのね。とても魅力的で綺麗なかわいらしいお顔をしているのに」
「ティアさんもキラキラした美少女だから俺の顔が珍しいだけだと思う……」
「あら、ありがとう、嬉しいわ。ハルトさんのそんな謙虚なところも魅力ね。お兄さまたちが好きになるのも当然だわ」
「そんなこと……。そもそも俺には、あの二人はもったいないし……」
「おふたりはハルトさんのことを溺愛しているのだから、ハルトさんに価値をつけるなら相当なものよ?」
「そんなことは……」

 呟く暖人に、ティアはクスリと笑った。

「わたくしには、ハルトさんはもう、おふたりのこと受け入れているように見えるわ」
「っ……」
「ご自分を否定しても、おふたりを否定していないでしょ? あれこれと理由をつけないといけないのなら、それはただの言い訳よ」

 穏やかな笑みを浮かべるティア。
 暖人はゆっくりと目を瞬かせて。

「……俺、話しすぎた?」
「ふふ、ハルトさんって本当に純粋な方なのね」

 誘導尋問、と暖人はハッとする。話しやすくて、つい。
 ティアが徐々に口調を崩していたのもその為だった。


「……でも、俺は」
「すぐに決めなくても良いのです。心から愛する人への気持ちはそう簡単には変わりませんもの」
「ティアさん……」
「一番が何人いても、そこに気持ちがあれば、それはみんな一番ですわ」

 ティアはそう言ってにっこりと笑った。
 年下なのに、姉のようで。暖人は困ったように笑い、無意識に入っていた肩の力を抜いた。

「ティアさんと話してると、本当にそうかもって思ってしまうよ」

 まだそれを受け入れる事は出来なくとも、彼女の前では許される気がして。じわりと滲む視界に、慌てて袖で目元を拭った。

「まあ、それは光栄だわ。わたくしは、ハルトさんが心から笑っていられる未来へのお手伝いをしたいの。だから……」

 一度視線を落とし、そっと上げて。

「もしおふたりにをされたらおっしゃってね? わたくしが手を下しますわ」

(ウィルさんどころかオスカーさんまで信用ゼロになってしまった……)

 にこにこと笑うティア。
 もしもの事があっても、ティアにだけは言ってはいけない。涙も引っ込んでしまい、暖人はきゅっと唇を引き結んだ。

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