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青天の霹靂、再び

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 風邪でした。

 目が覚めて、暖人はるとは目を瞬かせた。

 力を使い過ぎたせいもあるだろうが、頭がぼうっとする感じはただの風邪だったようだ。なんて間抜けな。
 ベッドから下り、カーテンを開けると眩しい太陽。なんて清々しい朝なんだ。


 ……と、暖人は思っているが、実際は力を使った直後は本当に死の間際にいた。
 ごっそり失われた体力と生命力を回復する為に眠り続けていたのだと知らない暖人は、さすがに次からは考えて使おう、と反省はした。一応。
 また無茶をするようなら地下に閉じ込められるかもしれない事も、暖人は知らない。


 昨夜ウィリアムの屋敷に戻り、早々に眠って今に至る。
 オスカーからはウィリアムが廃人になっているから帰れと言われたのだが、そのウィリアムにはまだ会えていない。

 家主不在の中、わざわざ暖人の部屋のベッドまで送ったオスカーは、去り際に髪を撫でたかと思うと、前髪を指で払いあまりにも当然のように額にキスをした。
 更には暖人の手を取り、指先にキスをして。

『悪夢は全て俺が斬り捨ててやる。安心して眠れ』

 そう告げ、最後に頬を撫でて帰って行った。

(あれはとても騎士様だった……)

 淡い灯り一つの部屋で黒のシャツを着ていたものだから、クールでミステリアスな黒騎士のようでますます格好良さに拍車がかかっていた。

 甘やかすように優しく触れても、甘い言葉を紡いでも、オスカーがすると全てが男らしく凛としている。

(……かっこ良すぎるんだよな)

 熱くなる頬をパタパタと手で扇いだ。
 だがオスカーのお陰か、悪夢も見ずにぐっすり眠って清々しい朝を迎えている。今度お礼をしなければ。


 のんびりと着替えを終え、鏡の前に立つ。
 年齢を伝えてからは、クローゼットの中にあった王子様スタイルの服は、足首までのスラックスやラフなシャツに変わった。色も落ち着いたものが多い。
 今日は上を白、下をブルーにしてみた。赤やピンク系は減ったのだが、やはり明るめの色が多かった。


 そこで、ノックの音が響く。

「ハルト、少しいいかい?」
「はい。ウィルさん、おはようございます」
「ああ、おはよう、ハルト」

 ウィリアムの顔を見るなりパッと顔を輝かせて笑う暖人の髪を、少しだけ迷いながらも今まで通りに撫でる。
 すると心地よさそうに目を閉じるものだから、あのキスは気にされていないのかと安堵と共に少し寂しい気持ちになった。

 だが暖人は突然目を開け、しまった、という顔をする。そしてそわそわと視線を逸らした。
 それでも、触れた手を振り払おうとはしない。気にしてはいても拒絶する気はない。そんな暖人に、ウィリアムはそっと目元を綻ばせた。
 そして、ほんのりと赤みを帯びた頬をするりと撫でる。

「今日は顔色がいいみたいだね」
「はい。少し風邪気味だったみたいで……、大変ご迷惑をおかけしました」

 と言うが早いか、ウィリアムの手が額に触れる。
 もう熱はないみたいだね、そんな事なら無理にでも看病の者を付けたのに、と言うウィリアムに、ゆっくり考えたかったのもあったので、と眉を下げて笑った。

「もうすっかり元気です」
「……今度は本当かな」

 ジッと暖人を見つめ、安堵したように息を吐く。そして暖人の手を引き、ソファに座らせた。
 ウィリアムは隣ではなく、暖人の前に膝を付きその手をそっと取る。


「君に、大事な話があるんだ」
「はい。……?」

 なんだろう、と暖人は首を傾げる。
 まさか本当に戦争に行くのでは。そんな心配をしていると。

「ハルト。俺は、君の事が好きだ」
「………………!?」

 真っ直ぐに見上げる澄んだ空色の瞳。
 暖人は何を言われたか理解出来ず首を傾げた後、声もなく固まった。

「君を、愛しているよ。出逢ったあの日から、俺の運命は君と共にあると決まっていたんだ。俺は君を永遠に守り続けると誓う。ハルト。俺と、結婚して欲しい」

 両手で暖人の手を握ったまま、甘い声で紡ぐ。

 こちらはあまりに言葉の分量が多い。混乱した頭は、咄嗟にそんな事を考えてしまった。
 穏やかに見つめる瞳が、柔らかな笑みが、愛していると伝えてくる。

「い……いつ、から……」
「出逢った時から、だよ」

(オスカーさんより早い……じゃなくて……)

「あの、俺っ……」

 慌てて口を開くと、ウィリアムの指先が暖人の唇に触れた。

「返事は、彼を見つけた後にね」

 そう言って、親指で暖人の唇を撫でる。その上からチュッと音だけを立てキスをした。

「それまで俺は、君に好きだと言い続けるよ」

 今度は暖人の指先に、恭しくキスをする。

「もう逃げない。君への想いを偽りはしない。君の側で生涯君を幸せにし続ける栄誉を、俺に与えて欲しい。それまで、俺は君を愛し続けるよ」

 真剣な顔で紡がれる言葉。
 穏やかで甘い笑みよりも、もっと……。

「っ……」

 ぶわっと全身が熱くなり、慌てて片手で顔を覆って隠した。

(ウィルさん、王子様だけど騎士様……)

 こんな顔も持っていたなんて聞いてない。格好良さが振り切れすぎて、危うく頷きそうになった。絶対幸せになれるオーラがすごい。怖い。どうしよう。

(ウィルさんも、どうして……)

 オスカーの前例がある、と思い出す。
 今までの少し距離が近すぎる時のスキンシップが全部そういう、と思うと、ますます顔が熱くなる。そうだとしたら、気付かないなんて自分はどれだけ鈍いのだ。

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