74 / 168
弱さと強さ
しおりを挟む「お前がそんなだから、俺は手を出したけどな」
「っ、……何、だと……?」
「アイツに、手を出したが?」
「っ!」
テーブル越しに伸びてきた手に、胸倉を掴まれる。赤は本当に血の気が多いな、と笑った。
この殺気はオスカーでさえ怯みそうになる。だが、その瞳を真っ直ぐに見据えた。
「向き合いもせず逃げたお前に、俺を責める資格があるか?」
ウィリアムの指先がぴくりと震える。すっ、と手を離し、元のようにソファに座ると、すまない、と言ったきり唇を噛み締めた。
オスカーはそっと息を吐く。久々に彼の殺気を正面から浴びたが、彼が敵国の騎士だったらと思うとゾッとする。先程までうじうじと悩んでいたくせに。
「まあ、まだ未遂だ。嫁に来いとも言ったが、拒絶はされなかった」
「まさか、ハルトが……?」
「ああ」
「っ……」
「了承もされなかったけどな。だが警戒心もなく俺に抱かれたまま眠るくらいだ。脈はあるだろ」
実際には一緒に寝てはいないし、脈はあるかないか分からない鈍感具合だったのだが、それはあえて伏せておいた。
今のウィリアムなら、こうして悔しげな顔をすると分かっていた。どこが変われていない、だ。
「そんな顔するなら、さっさと呼び戻して好きだくらいは言っておけ」
と言っても、ウィリアムは悔しさと躊躇いを浮かべた顔をする。
本気で好きになった相手には、いざとなるとこうも臆病になるのか。それでも、今までのようにすぐに手放す気はないくせに。
「良いことを教えてやろう」
「……なんだ」
また煽るのか、とばかりの顔をする。そんなウィリアムに、口の端を上げた。
「一度しか言わないから良く聞け。お前が強くありたいと決心した心も、強くあろうと足掻いた日々も、全てお前の糧になっているはずだ。ウィル。お前は、変われている。俺が保証してやる」
真っ直ぐに見据える瞳。
その強さに、ウィリアムは無意識に姿勢を正した。
幼い頃の気弱な姿を知っているオスカーが、そう言ってくれるなら。普段こんな事は言わない彼が、励ましてくれるなら。きっと、そうだと……。
「オスカー……。……すまない。俺は、ハルトの事が好きなんだ」
「この流れでそれか?」
「いや、突然優しい言葉を貰っても、戸惑うというか、どう返していいか……」
「言った俺の方が恥ずかしいからな」
「そうだな。君がそんな事を言うなんて、……だが、ありがとう」
珍しく照れた顔をして笑うウィリアムに、オスカーも小さく笑いながらも、ますます恥ずかしくなる。慣れない事はするものじゃない。
だが、憑き物が落ちたように清々しい顔をするウィリアムを、たまにはいいかと見つめた。
「そのうえで、俺はハルトを諦める気はないからな?」
「分かっている。俺もハルトに好きだと言って貰えるよう、努力するよ」
「まあ、……頑張れよ」
「余裕だな?」
「いや、まあ、そうだな。アイツに言えば俺の気持ちが分かるだろ」
とんでもない鈍感な上に警戒心が欠片もないのだから。肩を竦めるオスカーを、ウィリアムは不思議そうに見つめていた。
しかし。
暖人の育った国では、重婚は禁止だと言っていた。もし自分たちがそちらへ行っていたらと思うと……。
……ウィリアムを敵に回す事にならなくて良かった。
……オスカーと争っていたら勝てたかどうか。
二人は同時に同じような事を考えた。
そして、思う。
もし暖人が自分たちを見つけて世話をしようとしても、涼佑という最大の敵に阻まれていただろう。それこそ接触すらさせて貰えないはず。
暖人を見ていると、涼佑がどれ程大事にしてきたかが透けて見えるようだった。
二人同時に溜め息をつき、顔を見合わせる。
「……君が味方で良かったよ」
「ああ。俺もだ」
同じ事を考えていたな、と内心でまた同じように呟いたのだった。
77
お気に入りに追加
1,800
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる