72 / 168
青天の霹靂3
しおりを挟む「……あれ? オスカーさん、男嫌いです? この世界って男同士も結婚出来るんですよね?」
「婚姻を結べるというだけで、皆がどちらも好きという訳じゃない」
「そうなんですか。じゃあ元々は女性が好きなんですね」
「まあ、そうだな」
「……」
「……」
「……どうして俺なんです??」
「……またイチから説明しろと?」
「あっ」
振り出しに戻る、と書かれそうな事を言ってしまった。
「お前は賢いはずだろ?」
「いえ、ただ少し推理小説が好きだっただけですし」
「証拠があれだけあっても、自分の事には適用されなかったわけか」
ツンツンと頬をつついてくるオスカーに、むすっとして言い返す。
「そもそもオスカーさんみたいな異世界級イケメンなうえにすごい権力とチート並みの強さを持ってる騎士団長といういかにも主人公の攻略対象な人から好かれるなんて、モブには想像も出来ないんです」
「……どういう意味だ?」
「分からなくていいです」
不機嫌に言いながらも、オスカーの肩にぐりぐりと額を擦り付ける。それでも離れないのか、とつい小さく笑ってしまった。
「少しは警戒するかと思ったんだがな」
すると漸くハッとした様子でオスカーから離れる。
「まあ、襲いはしないが」
と言うと、本当に? と疑いの眼差しを向けた。その様子が愛らしく見えて、オスカーは無意識に口元に笑みを浮かべる。
手を伸ばすとビクリと警戒するが、頭を撫でるとホッとした顔をした。そのまま撫でながら引き寄せると、心配になる程にあっさりと倒れ込んでくる。
襲っても受け入れてしまうのでは……?
すっかり普通に抱き締める形で背と頭を撫でながら、オスカーはさすがに本気で心配になった。
本当は気付いていないだけで、暖人もオスカーの事が好き。と、状況はそうでも暖人は違うかもしれない。どうやら世界で一、二を争う程に鈍感のようだから。
思わせぶりとも少し違う。本当にただの幼い子供のようだ。
暖人は、子供のように純粋で、真っ直ぐで……。
オスカーはそっと目を細める。
ただ一度立ち寄っただけの街の人々の為に、躊躇いもせずに危険に飛び込み、無茶をしてまで助けようとした。
その勇気を、優しさを目にした時、自分が命を賭しても守らなければと思った。失う事を想像した時、あれ程までに恐怖を感じたのは初めてで……。
お前が思っている以上に本気なのだと伝えても、上手く伝わらないだろう。この鈍感な子供に、これからどう伝えていこうか。
想像するだけで楽しくなるなど初めてで、どうしたものかと小さく笑った。
撫でているうちに、暖人は本格的にウトウトとし始める。
「もう寝るか?」
「ん、はい……」
「やはり体調が悪いんじゃないのか?」
「いえ、少しぼーっとするのと、ただ眠いだけで……」
暖人自身は、涼佑の事で気力がないからだと思っていた。勿論それもあるのだが。
「……もしかしたら、浄化の力の影響がまだ残ってるのかもしれません……」
「命を削ってはいないか?」
「それは、多分大丈夫です。ただ……」
そこで言葉を切る。
何度か躊躇いながら、ぽつりと言葉を零した。
「街の外に、放牧する人用の小屋があったじゃないですか」
「ああ」
「あのおじさん元気そうでしたけど、ついでにそこまで浄化しておこうと思って……ちょっとやりすぎたかなって……」
その言葉に、オスカーは顔を覆い、深く溜め息をついた。
講堂からあの小屋まで一体どれだけ距離があったと……。そう言いたいがもう言葉も出ない。本当に命は削っていないのか。
「あの……、できれば、怒らずに褒めて貰えると……」
おず……と声を出す暖人に、オスカーは抱き締めたままで目の前の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ああ、良くやった。そうだな、お前は褒められこそすれ、怒られる事はしていない」
「! ありがとうございますっ」
突然元気になり嬉しそうな声を出す暖人を撫でながら、今度無茶をしそうだったら地下に閉じ込めようか、とわりと本気で思う。
きっとウィリアムも同じ事を思っているだろう。窓があると逃亡するだろうから、と。
そんな事とは露知らず、暖人は褒められて満足したのか、そのまますやすやと眠ってしまった。
・
・
・
夜中にふと目を覚まし、天井を見つめる。
側には誰もいない。オスカーも自室へ戻ったのだろう。
あの後で部屋にいては、目を覚ました時に慌てさせると思ったのだろうか。
ぼんやりと考えているうちに、突然オスカーにプロポーズをされた事を思い出す。
ごろんと寝返りを打ち、体を丸めた。
(……意識してしまう)
思い起こせば、出るわ出るわ。
特に旅に出た後。オスカーが意図的に触れていた事も、好きだと言わんばかりの顔をしていた事も、思い当たる事が溢れんばかりに。
そうだ。好きでもなければ、あのオスカーが他人を背後から抱いて寝る訳がない。特に寒い時期でもないのに。
……そうだ。死者から守られている時も、以前のオスカーならウィリアムに暖人を押し付けて自分が戦っていたはず。
いくら暖人が離れなかったとしても、力ずくで剥がす事など造作もないはずだ。
ふと唇へと触れ、初めてにしてはあまりに強引で容赦ないキスだったな、と妙に冷静になる。……わけもなく、カァ、と顔どころか全身が熱くなった。
普段そんな事に興味ないです、と言わんばかりの顔をしていながら、あのキスか。いや、繊細で優しいキスよりは彼らしいが。
(どうしよう……、嫌じゃなかった……)
ウィリアムのように触れるだけではない。わりとしっかりと舌も入っていた。何なら噛まれたし吸われた。
それでも嫌だと思わなかった。それどころか、普通に好きだと思ってしまった。
「……もしかして俺、気持ちいいことに弱いんじゃ……」
ハッとして声が出た。まさかそんな、えっちな人みたいな。
今まで涼佑以外とはした事がなかった。涼佑以外の誰にも興味がなかった。キスが好きかと聞かれても、涼佑にされる事なら全部好きだとしか思っていなかった。
親しい人なら受け入れられる?
それなら老若男女オッケーなラスにして貰えば、……いや、それだとウィリアムの手によって騎士として生きられなくされてしまう。
(涼佑、ごめん……)
酷い罪悪感も、こんな気持ちはいけないと思うのも以前と変わらない。それなのに、二人を拒絶する事が出来ない。
二人を……。
(……ウィルさんは違うか)
ごろんと寝返りを打つ。好きだと言われたのはオスカーだけだった。
ウィリアムには、帰ったらちゃんと話をしなければ。気にしてないです、と言わなければ。
彼に避けられると、胸がチクチクして寂しい気持ちになる。また前みたいに笑って欲しい。撫でて欲しい。そう願う事は許されるだろうか。
やはり荷物の中に紛れ込んでいた猫のぬいぐるみを抱き締め、ウンウン悩んでいる間にまた瞼は重くなっていった。
66
お気に入りに追加
1,783
あなたにおすすめの小説
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる