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青天の霹靂
しおりを挟む暖人が訪れて二日後の夜。
籠もっていた暖人の部屋へ、オスカーが突然入ってきた。一応ノックはして。
まだ寝入り端だった為、もそもそとベッドから体を起こし、ぽやっとした顔でオスカーを見上げる。
侍女が日替わりで部屋の前に置いている入浴剤代わりの香油を律儀に使用している暖人からは、今日は甘いミルクの香りがした。
「ハルト」
「はい……」
「お前、リョウスケとはキスはしたか?」
「は、…………はい……?」
「したのか? セックスは?」
「は……!?」
ウトウトして鈍化していた思考が、一気に覚醒する。
(この世界でもセッ……って言うんだ……じゃなくてっ)
「ど、どうしっ、なっ、ぜそんなことをっ?」
「ないのか」
「あっ、ありますし!」
「重要な事だ。嘘はつくなよ」
「…………あります、し」
「そうか」
何がそうかなのか。
あまりに真剣な顔をされ、動揺した事が恥ずかしくなる。
だが。
「んむっ」
突然顎を掴まれ、唇に暖かいものが触れた。
暖かいものが、口を……。
「……んっ!? んっ、んーー!!」
それに、容赦ない。一体どういうこと。
ぞくぞくと背筋を駆け上がる快感。キスだけで。なんてこと……。
(どういう、どういうこと……これ、なにが起こって……)
「んっ、ふ……ゃ、ぁ……」
顎を痛いくらいに掴まれ逃れられず、最後の力でバシバシとオスカーを叩くと、漸く解放された。
突然流れ込んだ酸素に、軽く噎せてしまう。その背をオスカーの手が優しく撫でた。
ここで気遣いを見せるなら、もう少し手加減を……。荒い呼吸を繰り返しながら、涙目でオスカーを睨んだ。
「……なに、を……」
「キスだが。お前の世界にはなかったか?」
「あります、けどっ……どうして、こんな……」
はふはふしながら混乱する暖人に、オスカーはふと気付いた顔をした。
「ああ、順序が違ったな」
順序、とは。
更に混乱する暖人の頬へと手を添え、真っ直ぐに見据える金の瞳。
すり、と指先が頬を撫でた。
「ハルト。俺の妻になれ」
「…………………………はい??」
「俺と結婚しろ」
「…………?」
「お前が好きだ」
「……??」
「聞いてるか?」
「……?」
「生きてるか?」
目を瞬かせてばかりの暖人の頬をぺしぺしと叩く。ついでにもちもちと揉んだ。
「………………す、き……?」
「ああ」
好き?
誰か?
オスカーが?
「いっ……、今までそんな素振りなかったのに!?」
「あっただろ」
「いつです!?」
「密輸を解決した辺りからか?」
「絶対嘘ですよね!? 俺への当たり強かったじゃないですか!」
「ああもう、ギャンギャン騒ぐな」
「んむっ! んんっ!」
超展開過ぎて頭がついていかない。キスなんて一番してきそうになかったのに。ラスやテオドールの方がよっぽどしそうだったのに。
「す……すきというなら、俺の意思も、尊重してください……」
「意思があったのか、お前」
それはあまりにも酷い。
確かに驚きすぎて呆然としていたけれど。意思というより意識がどこかへ飛んで行っていたけれど。そもそもオスカーさんのせい、とむっとする。
呼吸が整ったところで、見下ろすオスカーを、腕を組んでキッと見上げた。
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