後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

文字の大きさ
上 下
70 / 168

青天の霹靂

しおりを挟む

 暖人はるとが訪れて二日後の夜。
 籠もっていた暖人の部屋へ、オスカーが突然入ってきた。一応ノックはして。

 まだ寝入り端だった為、もそもそとベッドから体を起こし、ぽやっとした顔でオスカーを見上げる。
 侍女が日替わりで部屋の前に置いている入浴剤代わりの香油を律儀に使用している暖人からは、今日は甘いミルクの香りがした。

「ハルト」
「はい……」
「お前、リョウスケとはキスはしたか?」
「は、…………はい……?」
「したのか? セックスは?」
「は……!?」

 ウトウトして鈍化していた思考が、一気に覚醒する。

(この世界でもセッ……って言うんだ……じゃなくてっ)

「ど、どうしっ、なっ、ぜそんなことをっ?」
「ないのか」
「あっ、ありますし!」
「重要な事だ。嘘はつくなよ」
「…………あります、し」
「そうか」

 何がそうかなのか。
 あまりに真剣な顔をされ、動揺した事が恥ずかしくなる。
 だが。

「んむっ」

 突然顎を掴まれ、唇に暖かいものが触れた。
 暖かいものが、口を……。

「……んっ!? んっ、んーー!!」

 それに、容赦ない。一体どういうこと。
 ぞくぞくと背筋を駆け上がる快感。キスだけで。なんてこと……。

(どういう、どういうこと……これ、なにが起こって……)

「んっ、ふ……ゃ、ぁ……」

 顎を痛いくらいに掴まれ逃れられず、最後の力でバシバシとオスカーを叩くと、漸く解放された。


 突然流れ込んだ酸素に、軽く噎せてしまう。その背をオスカーの手が優しく撫でた。
 ここで気遣いを見せるなら、もう少し手加減を……。荒い呼吸を繰り返しながら、涙目でオスカーを睨んだ。

「……なに、を……」
「キスだが。お前の世界にはなかったか?」
「あります、けどっ……どうして、こんな……」

 はふはふしながら混乱する暖人に、オスカーはふと気付いた顔をした。

「ああ、順序が違ったな」

 順序、とは。
 更に混乱する暖人の頬へと手を添え、真っ直ぐに見据える金の瞳。
 すり、と指先が頬を撫でた。


「ハルト。俺の妻になれ」
「…………………………はい??」
「俺と結婚しろ」
「…………?」
「お前が好きだ」
「……??」
「聞いてるか?」
「……?」
「生きてるか?」

 目を瞬かせてばかりの暖人の頬をぺしぺしと叩く。ついでにもちもちと揉んだ。

「………………す、き……?」
「ああ」

 好き?
 誰か?
 オスカーが?

「いっ……、今までそんな素振りなかったのに!?」
「あっただろ」
「いつです!?」
「密輸を解決した辺りからか?」
「絶対嘘ですよね!? 俺への当たり強かったじゃないですか!」
「ああもう、ギャンギャン騒ぐな」
「んむっ! んんっ!」

 超展開過ぎて頭がついていかない。キスなんて一番してきそうになかったのに。ラスやテオドールの方がよっぽどしそうだったのに。


「す……すきというなら、俺の意思も、尊重してください……」
「意思があったのか、お前」

 それはあまりにも酷い。
 確かに驚きすぎて呆然としていたけれど。意思というより意識がどこかへ飛んで行っていたけれど。そもそもオスカーさんのせい、とむっとする。

 呼吸が整ったところで、見下ろすオスカーを、腕を組んでキッと見上げた。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...