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死者の地
しおりを挟むあれから馬酔いもほぼ起こらず、旅は順調だった。
野宿をする事もあったが、二人が野営慣れをしているおかげで暖人は鍋が焦げないよう見守る事しかしていない。というより、二人が暖人に何もさせなかった。
料理くらいは人並みに出来ると言ったのだが、怪我をするといけないから、火傷をするといけないから、と二人共があまりにも過保護。この旅でオスカーまで過保護になってしまった。
夜は地面が固いからとふかふかの毛布の上に寝かされ、上からも掛けられて。
「お二人の毛布を奪ってるんじゃ……」
「そんな事はないよ」
「あの……俺ばかり寝てすみません。お二人の方が疲れてるのに……」
「ハルトはいい子だね。大丈夫だよ、俺たちは慣れているから」
そう言って暖人の髪を撫でる。
ウィリアムは暖人の側に。オスカーは少し離れた場所で周囲を警戒していた。
人家のない場所でも、盗賊や獣に会わないとも限らない。慣れた様子の彼らの顔は騎士らしく凛々しくて、とても格好良かった。
そんな日々が数日続いた。
(結局ファミリールームかツインだったし……)
あれほど訴えたのに、宿では毎日どちらかと同じベッドで寝るはめになってしまった。どうしてこうも過保護になってしまったのだろう。
人買いに狙われやすい外見をしているにしても、宿の中なら大丈夫なのに。年齢を知ったというのに、以前より過保護になっている気がする。
奇跡が起きたという街にも立ち寄った。
だが、“旅人と名乗る男性が流行り病を鎮めた”という情報しか得られなかった。
そんな事がありつつも、目的地はもうすぐそこだ。
これから先は、二人にとっても未開の地。
「未開の地といっても、のどかなところですね」
今通って来た場所には、農場と、家がぽつぽつ。
「そう見えるが、この先には踏み行るなと散々念を押されたぞ」
目の前には、真っ直ぐに伸びた木々が立ち並んでいた。見たところ何の変哲もない林だが。
林に入ると二人は馬を引き、暖人はウィリアムに手を繋がれている。
さすがにそこまで子供では……とお願いをして手を離して貰ったが、そうするとオスカーの視線まで暖人に注意深く向けられるようになってしまった。
ピーピー、チュイチュイ、と可愛らしく鳴く鳥の声。足下を駆け抜けるのは小さなリスに似た真っ白な動物。この森には魔獣もいないようだ。
「何事もなく抜けられそうですね?」
出口はもう目の前だ。
数分歩くと木々が途切れ、燦々と降り注ぐ太陽と開けた土地が視界に広がった。
「待て」
「え?」
オスカーに腕を引かれ、背後からがっちりと抱き締められる。
(どうしたんだろ……)
そう思っていると、暖人が踏み出そうとした地面がボゴッ! と異様な音を立て盛り上がった。
そして……。
「ッ――!!!!」
暖人は声もなく悲鳴を上げた。
土の中からズルリ……と妙な音を立てながら人間が這い出て来たのだ。
「死者の呪いか」
オスカーが忌々しげに吐き捨てる。
死者。
呪い。
暖人は震えた。突然そんな設定ぶつけてこないで欲しい。
「ゾンビっ……お、おれ、ホラー駄目でっ……」
ガクガクと震えながら体を反転させ、オスカーにしがみつく。
「おいこらっ、剣が抜けないだろっ」
「だってぇっ……!」
本物のゾンビを目の当たりにした暖人は、幼い子供と化した。情けない声を上げながら「だって」「やだ」「こわい」と繰り返し、オスカーの胸にぐりぐりと額を押し付ける。
ホラーの中でもスプラッタ系はどうあっても駄目だった。
「オスカーはハルトを守っていて。俺がやる」
言うが早いか、ウィリアムの剣が死者を切り裂いた。鋭い光が数本宙に走った時には、死者たちの胴と首は全て切り離される。だが。
「斬っても意味がないのか」
「まあ、死んでるからな」
悠長に話をする二人。
死者たちは首を拾い胴体に押し付け、再び歩き出した。
「細かく斬ったらどうかな?」
剣を振るう音と、グチャリと細かい“何か”が地面に落ちる音。
「っ......! っ......!!」
涙目どころかもうボロボロと泣いている。怖い。
延々と続く音。耳を塞ぎたいのにオスカーから手を離すのが怖い。
ガクガクと震えていると、オスカーが暖人の両耳を塞いだ。
暫くして、ふと耳から手を離される。
振り向こうとすると、グッと頭を押さえられた。
「見るな。ますます泣くぞ」
「は……はい……」
退治出来たのだろうか。そう思ったのだが、まだ何かを引き擦る音がした。
「オスカー。この方法は手間がかかるし、剣が汚れてしまうよ」
「服には付けるなよ。こいつが泣く」
オスカーは暖人が一旦落ち着いたのを確認し、片手で暖人を抱いたまま剣を抜いた。
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